隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
64話 中層域と魔道具作り
僕が三人集まって手をつないでもその大木の幹の太さには届かないだろう。そんな大木がナイトラットの群れのど真ん中に上から降ってきた。
辺りに凄まじい轟音が響く。
そして砂煙が巻き上げられ、僕の左目は何も見えなくなった。右目に関しては砂には魔力は無いので眼帯の[魔力源探知]のおかげで周囲の様子は大雑把にだが分かる。
飛んできた大木に潰されるのを逃れたナイトラット達は蜘蛛の子を散らすように一斉に様々な方向に逃げ出した。そしてそのナイトラット達の後ろを走っていたブラックウルフ達はお得意の連携でこれまた一斉に森の外に向かって駆け出していった。
あ、ブラックウルフは一匹だけ仕留めておこう。
「[風撃]」
「キャウン!?」
ナイスショット。
見事に頭に命中した。
他のブラックウルフ達は急に仲間が殺られたことに一瞬の動揺を見せたが、再び前に向き直り、すぐさま森の外に駆け出して行った。その立て直しの速さはさすが[念話]を得意とするだけはあるなと思わせるほどに早かった。
「[ゾーン]、[ブースト]、[神足]」
僕はブラックウルフ達が森の外のほうへ行ったのを確認してから、先ほど仕留めたブラックウルフを素早く[ストレージ]に回収する。
その際、ナイトラットとブラックウルフが走って来た方向をチラリと見たのだが、人型の何かが猛スピードでこちらに向かって走ってきているのが確認できた。
「やば!」
あれは危険だ。
僕はそれを片目ゴーグル型眼帯を通して見てそう判断した。
なぜなら[魔力源探知]で見たそれの魔力量が余りにも多かったからだ。魔力量が多いこと、つまり魔物で考えればそれは強者を意味する。
恐らくあれはシンリョクの森の深層に生息する魔物だろう。これまで出会ってきたどの魔物よりも危ない気がする。あ、ただし魔人は除く。あれと比べたら重圧がない分まだマシな部類だ。
「まぁそれでも危険なことには変わりはないんだけど! [風撃]!」
僕はすぐさま[風撃]を使って空に逃げる。
そうして少しの間その場で留まっていると、ドシドシという足音と共にその魔物の姿が木々の間からチラリと見えた。だが本当に一瞬しか見えなかったのでそれが何という名前の魔物かは分からない。
でもこれでシンリョクの森の深層に住み着いている魔物の強さがだいたい分かった気がする。
あの強そうな魔物が通り過ぎ、だいたい十分くらいしてから、僕は再びシンリョクの森に降り立った。
辺りはあの魔物が通ったばかりだからか、虫や動物、魔物の声は一切聞こえない。そんな中を僕は、シンリョクの森の中層を目指して歩く。今日狙っている魔物はシンリョクの森の中層に生息しているのだ。
どれくらい歩いただろうか。木々の色は既に外縁部と違い、より深い緑色になっている。
この色からしてもう中層に入ったと言っても良いはずなのだが、なぜか魔物が見つからない。やはり魔人や先ほどの魔物が跋扈しているせいだからだろうか。
そんなことを考えていると、僕の背後から何かが音もなく飛来してくるのが魔力探知で分かった。僕は後ろを振り向かずにそれに手のひらを向けて攻撃する。
「[風撃]」
すると、それは音もなく地面に落ちた。振り返ってそれを確認すると、それはまん丸とした巨大な体にナイトオウルよりもさらに鋭い嘴がついている。ミッドナイトオウルだ。
昨日魔人に食われていた奴と同じ種類の奴だな。
ナイトオウルの素材で[音響減衰]の靴はもう作ったんだけど……まぁいいか。これも回収していこう。
それと解体は……後ですることにしよう。ここはまだ森の中だからね。
そして再び僕は中層の探索を始める。
しかしやはり魔物は殆どいない。いるのはせいぜい虫くらいだ。先程と違い鳴き声が聞こえてくるからそれくらいはわかった。
さらに二時間程僕はその中層を歩き回った。道中で色々な魔物を見つけたが、これといってめぼしい特徴のある魔物では無かったので回収だけして後は売り払うつもりだ。……もちろん冒険者ランクが上がってからね。さすがに最低辺の黒ランクである今売ったら怪しまれる。
そうして歩いているとついに僕が目を付けていた魔物を発見した。発見といっても目で見える訳じゃないんだけどね。それは魔力探知と眼帯の[魔力源探知]によって見つけることができた。
その魔物の名はスルーカメレオン。体全体を透明にすることができる最強の擬態能力を持つ。まぁ、魔力がだだ漏れだから見えなくてもわかるのだが。魔力探知が使えない相手ならば確実に勝つことが出来るだろう。
「[風撃]」
右手をスルーカメレオンの方に伸ばして僕の得意魔法である[風撃]を放つ。
するとすぐに討伐することができた。スルーカメレオンは強力な擬態能力こそ持つものの、魔力探知などで見破ってしまえばそれほど強い相手ではない。そのため比較的楽に狩ることができる相手なのだ。
スルーカメレオンの死体を[ストレージ]にしまい込んで僕は辺りを見回す。
……やはり魔物の数が少ないな。
そう思った時、あの禍々しい叫び声がシンリョクの森中に轟いた。
「ガアアアアアア!」
……だいぶ近いな。
どうやらこの近くに魔人がいるみたいだ。
周囲を警戒しながら声が聞こえた方に向かって慎重に歩いていく。するとグチャグチャという恐ろしい咀嚼音が聞こえてきた。
[聴覚強化]と[視覚強化]を使い、さらに靴の[音響減衰]の効果を発動させて足音を極限まで消して周囲を警戒する。
するとその音の正体を見つけた。
それはさっきの人型の魔物よりも多量の魔力を体中から溢れさせ、もはや原形など殆どないなにかを食べている。
魔人だ。
やはり魔人はこの森に生息している魔物を食べて力を蓄えているんだ。
僕は急いでそばにあった木の幹に体全体を隠し、その魔人の様子を観察する。魔人の弱点や生態を詳しく知るためになるからだ。もちろんすぐに[風撃]を放てる準備もしている。……ただし倒すための[風撃]ではなくて逃げるための[風撃]だが。
そうして僕はしばらくの間魔人がその何かを食べているのを最後まで見た。そして魔人が立ち上がってその場を去り、他の魔物を探し出しにどこかへ歩いていくと、ホッと息を吐き出した。残念ながら特にこれといったことを知ることはできなかったが、見つかってやられる事はなかったのでこれでよしとする。
それから数分後、魔人の姿が完全に見えなくなったので僕は[風撃]を使って帰ることにした。あ、途中外壁の上で解体してから宿に戻ろう。
外壁の上でブラックウルフとミッドナイトオウル、そしてスルーカメレオンの解体を終わらせ、僕は宿の部屋に戻った。ちなみに時刻はまだ夜明け前。正門が開いてなかったので外壁から直接王都の中に入らせてもらった。
「ただいまー……」
まだネイが寝ている可能性もあるので小声でそう言いながらドアを開ける。すると予想通りネイはスヤスヤと寝息をたてて寝ていた。
彼女を起こさないようにゆっくりとドアを閉め、鍵を静かにかける。そしてソロリソロリと足音をたてずにいつも僕が魔道具を作る際に使う机に向かう。
「ん……」
すると何かに気付いたのか、ネイがそんな声を出した。そちらを見るとどうやら寝返りをうっただけだったようである。起こしたわけではないと内心ホッとし、再びソロリソロリと机に向かう。
そうして机についた僕は[ストレージ]からトレーを三枚出し、さらにブラックウルフとミッドナイトオウル、そしてスルーカメレオンの血液を取り出す。
恒例の親和性が高い魔法探しである。とは言ってもこれらの親和性が高い魔法は既に検討がついている。
まずブラックウルフはリトルグリーンウルフの成体であるグリーンウルフの夜行性版だ。だからきっと[念話]の類だろう。
次にミッドナイトオウル。これはナイトオウルの親和性が高い魔法が[音響減衰]だったことからその上位互換の魔法である[音響削除]だろう。
最後にスルーカメレオン。これはもう言わなくてもわかるだろう。この魔物は透明になって周りの景色に文字通り完全に溶け込むのだから、親和性が高い魔法は[透明化]だ。
そう確信を持ってトレーに入れた血液に、魔法陣を浸して起動させるとどれもルビーのように輝いた。もしこの場面で違っていたら、また時間をかけて片っ端から親和性の高い魔法を探さなけばならなかったから助かった。
そんなことを思いつつ僕は早速ブラックウルフの革から魔道具にしていく。
ちなみにネイはまだぐっすりと寝ている。
ブラックウルフの革を魔道具するとは言ってもさほど時間がかかるわけでもない。
今僕が手首にはめているリトルグリーンウルフのリストバンドを元に、全く同じものを作るだけだからだ。だって親和性が高い魔法が[念話]だもの。
まぁ素材は成体のブラックウルフの方が優れているので性能はこちらの方が良くなるだろうな。
ブラックウルフの革から魔道具を完成させた僕は、次にミッドナイトオウルの革を使って魔道具を作る。
とは言ってもこれもナイトオウルの革から一度作ったものと同じものを作るだけなので、ブラックウルフと同様にさほど時間はかからなかった。
そして最後にスルーカメレオン。
これはちょっと気合いを入れて作ろうと思う。ちなみにネイの分も作ってあげる。絶対に欲しがるだろうからね。
まぁ気合いを入れるっていっても僕の姿が完全に隠れるくらい大きいサイズに革を切るだけなんだけど、意外とこれが難しい。ひとりでやるにはなかなかハードルが高い作業だった。まぁ、四苦八苦しながらもちゃんとできたから別に良いんだけどね。
そうしてそれぞれの革に刻んだ魔法陣に注いだ血液が乾くまで待つこと数十分。うつらうつらとしながらもようやく魔道具が完成した。
試しにミッドナイトオウルの革を靴底に貼り付けた靴に魔力を流し、その場でジャンプしてみる。
「おぉ……」
おっと。ネイがまだ寝ているのに、つい声を出してしまった。
だけど少しくらい声を出しても許されるだろう。だって靴に魔力を流し、上にジャンプして着地しても全く音がならなかったのだから。今までのナイトオウルの素材で作ったものは[音響減衰]だったので僅かに音がしたのだが、ミッドナイトオウルの素材を靴の裏に貼り付けたこれは[音響削除]だ。全く音が鳴らない。これは思った以上に良いものができた。
次に試すのはスルーカメレオンの革から作ったマントだ。ブラックウルフから作ったリストバンドはネイが起きてから試そうと思う。
まずは当然スルーカメレオンのマントを羽織る。おぉ、なんか格好いいぞ、これ! 元の色が黒ってのも良い! そしてそれを下半身にだけ巻きつける。それに魔力を流すと……
「おぉ……!」
見事に下半身が消えた。いや、正確には透明になったという方が正しいのだが、消えたと言っても良いだろう。またまた思わず感嘆の声が出てしまった。
そして最後にブラックウルフのリストバンドなのだが……ネイがまだ寝てるからなぁ……。無理矢理彼女を起こして[念話]のリストバンドの試運転をさせるわけにはいかないから、これは彼女が起きてからにしようかな。
辺りに凄まじい轟音が響く。
そして砂煙が巻き上げられ、僕の左目は何も見えなくなった。右目に関しては砂には魔力は無いので眼帯の[魔力源探知]のおかげで周囲の様子は大雑把にだが分かる。
飛んできた大木に潰されるのを逃れたナイトラット達は蜘蛛の子を散らすように一斉に様々な方向に逃げ出した。そしてそのナイトラット達の後ろを走っていたブラックウルフ達はお得意の連携でこれまた一斉に森の外に向かって駆け出していった。
あ、ブラックウルフは一匹だけ仕留めておこう。
「[風撃]」
「キャウン!?」
ナイスショット。
見事に頭に命中した。
他のブラックウルフ達は急に仲間が殺られたことに一瞬の動揺を見せたが、再び前に向き直り、すぐさま森の外に駆け出して行った。その立て直しの速さはさすが[念話]を得意とするだけはあるなと思わせるほどに早かった。
「[ゾーン]、[ブースト]、[神足]」
僕はブラックウルフ達が森の外のほうへ行ったのを確認してから、先ほど仕留めたブラックウルフを素早く[ストレージ]に回収する。
その際、ナイトラットとブラックウルフが走って来た方向をチラリと見たのだが、人型の何かが猛スピードでこちらに向かって走ってきているのが確認できた。
「やば!」
あれは危険だ。
僕はそれを片目ゴーグル型眼帯を通して見てそう判断した。
なぜなら[魔力源探知]で見たそれの魔力量が余りにも多かったからだ。魔力量が多いこと、つまり魔物で考えればそれは強者を意味する。
恐らくあれはシンリョクの森の深層に生息する魔物だろう。これまで出会ってきたどの魔物よりも危ない気がする。あ、ただし魔人は除く。あれと比べたら重圧がない分まだマシな部類だ。
「まぁそれでも危険なことには変わりはないんだけど! [風撃]!」
僕はすぐさま[風撃]を使って空に逃げる。
そうして少しの間その場で留まっていると、ドシドシという足音と共にその魔物の姿が木々の間からチラリと見えた。だが本当に一瞬しか見えなかったのでそれが何という名前の魔物かは分からない。
でもこれでシンリョクの森の深層に住み着いている魔物の強さがだいたい分かった気がする。
あの強そうな魔物が通り過ぎ、だいたい十分くらいしてから、僕は再びシンリョクの森に降り立った。
辺りはあの魔物が通ったばかりだからか、虫や動物、魔物の声は一切聞こえない。そんな中を僕は、シンリョクの森の中層を目指して歩く。今日狙っている魔物はシンリョクの森の中層に生息しているのだ。
どれくらい歩いただろうか。木々の色は既に外縁部と違い、より深い緑色になっている。
この色からしてもう中層に入ったと言っても良いはずなのだが、なぜか魔物が見つからない。やはり魔人や先ほどの魔物が跋扈しているせいだからだろうか。
そんなことを考えていると、僕の背後から何かが音もなく飛来してくるのが魔力探知で分かった。僕は後ろを振り向かずにそれに手のひらを向けて攻撃する。
「[風撃]」
すると、それは音もなく地面に落ちた。振り返ってそれを確認すると、それはまん丸とした巨大な体にナイトオウルよりもさらに鋭い嘴がついている。ミッドナイトオウルだ。
昨日魔人に食われていた奴と同じ種類の奴だな。
ナイトオウルの素材で[音響減衰]の靴はもう作ったんだけど……まぁいいか。これも回収していこう。
それと解体は……後ですることにしよう。ここはまだ森の中だからね。
そして再び僕は中層の探索を始める。
しかしやはり魔物は殆どいない。いるのはせいぜい虫くらいだ。先程と違い鳴き声が聞こえてくるからそれくらいはわかった。
さらに二時間程僕はその中層を歩き回った。道中で色々な魔物を見つけたが、これといってめぼしい特徴のある魔物では無かったので回収だけして後は売り払うつもりだ。……もちろん冒険者ランクが上がってからね。さすがに最低辺の黒ランクである今売ったら怪しまれる。
そうして歩いているとついに僕が目を付けていた魔物を発見した。発見といっても目で見える訳じゃないんだけどね。それは魔力探知と眼帯の[魔力源探知]によって見つけることができた。
その魔物の名はスルーカメレオン。体全体を透明にすることができる最強の擬態能力を持つ。まぁ、魔力がだだ漏れだから見えなくてもわかるのだが。魔力探知が使えない相手ならば確実に勝つことが出来るだろう。
「[風撃]」
右手をスルーカメレオンの方に伸ばして僕の得意魔法である[風撃]を放つ。
するとすぐに討伐することができた。スルーカメレオンは強力な擬態能力こそ持つものの、魔力探知などで見破ってしまえばそれほど強い相手ではない。そのため比較的楽に狩ることができる相手なのだ。
スルーカメレオンの死体を[ストレージ]にしまい込んで僕は辺りを見回す。
……やはり魔物の数が少ないな。
そう思った時、あの禍々しい叫び声がシンリョクの森中に轟いた。
「ガアアアアアア!」
……だいぶ近いな。
どうやらこの近くに魔人がいるみたいだ。
周囲を警戒しながら声が聞こえた方に向かって慎重に歩いていく。するとグチャグチャという恐ろしい咀嚼音が聞こえてきた。
[聴覚強化]と[視覚強化]を使い、さらに靴の[音響減衰]の効果を発動させて足音を極限まで消して周囲を警戒する。
するとその音の正体を見つけた。
それはさっきの人型の魔物よりも多量の魔力を体中から溢れさせ、もはや原形など殆どないなにかを食べている。
魔人だ。
やはり魔人はこの森に生息している魔物を食べて力を蓄えているんだ。
僕は急いでそばにあった木の幹に体全体を隠し、その魔人の様子を観察する。魔人の弱点や生態を詳しく知るためになるからだ。もちろんすぐに[風撃]を放てる準備もしている。……ただし倒すための[風撃]ではなくて逃げるための[風撃]だが。
そうして僕はしばらくの間魔人がその何かを食べているのを最後まで見た。そして魔人が立ち上がってその場を去り、他の魔物を探し出しにどこかへ歩いていくと、ホッと息を吐き出した。残念ながら特にこれといったことを知ることはできなかったが、見つかってやられる事はなかったのでこれでよしとする。
それから数分後、魔人の姿が完全に見えなくなったので僕は[風撃]を使って帰ることにした。あ、途中外壁の上で解体してから宿に戻ろう。
外壁の上でブラックウルフとミッドナイトオウル、そしてスルーカメレオンの解体を終わらせ、僕は宿の部屋に戻った。ちなみに時刻はまだ夜明け前。正門が開いてなかったので外壁から直接王都の中に入らせてもらった。
「ただいまー……」
まだネイが寝ている可能性もあるので小声でそう言いながらドアを開ける。すると予想通りネイはスヤスヤと寝息をたてて寝ていた。
彼女を起こさないようにゆっくりとドアを閉め、鍵を静かにかける。そしてソロリソロリと足音をたてずにいつも僕が魔道具を作る際に使う机に向かう。
「ん……」
すると何かに気付いたのか、ネイがそんな声を出した。そちらを見るとどうやら寝返りをうっただけだったようである。起こしたわけではないと内心ホッとし、再びソロリソロリと机に向かう。
そうして机についた僕は[ストレージ]からトレーを三枚出し、さらにブラックウルフとミッドナイトオウル、そしてスルーカメレオンの血液を取り出す。
恒例の親和性が高い魔法探しである。とは言ってもこれらの親和性が高い魔法は既に検討がついている。
まずブラックウルフはリトルグリーンウルフの成体であるグリーンウルフの夜行性版だ。だからきっと[念話]の類だろう。
次にミッドナイトオウル。これはナイトオウルの親和性が高い魔法が[音響減衰]だったことからその上位互換の魔法である[音響削除]だろう。
最後にスルーカメレオン。これはもう言わなくてもわかるだろう。この魔物は透明になって周りの景色に文字通り完全に溶け込むのだから、親和性が高い魔法は[透明化]だ。
そう確信を持ってトレーに入れた血液に、魔法陣を浸して起動させるとどれもルビーのように輝いた。もしこの場面で違っていたら、また時間をかけて片っ端から親和性の高い魔法を探さなけばならなかったから助かった。
そんなことを思いつつ僕は早速ブラックウルフの革から魔道具にしていく。
ちなみにネイはまだぐっすりと寝ている。
ブラックウルフの革を魔道具するとは言ってもさほど時間がかかるわけでもない。
今僕が手首にはめているリトルグリーンウルフのリストバンドを元に、全く同じものを作るだけだからだ。だって親和性が高い魔法が[念話]だもの。
まぁ素材は成体のブラックウルフの方が優れているので性能はこちらの方が良くなるだろうな。
ブラックウルフの革から魔道具を完成させた僕は、次にミッドナイトオウルの革を使って魔道具を作る。
とは言ってもこれもナイトオウルの革から一度作ったものと同じものを作るだけなので、ブラックウルフと同様にさほど時間はかからなかった。
そして最後にスルーカメレオン。
これはちょっと気合いを入れて作ろうと思う。ちなみにネイの分も作ってあげる。絶対に欲しがるだろうからね。
まぁ気合いを入れるっていっても僕の姿が完全に隠れるくらい大きいサイズに革を切るだけなんだけど、意外とこれが難しい。ひとりでやるにはなかなかハードルが高い作業だった。まぁ、四苦八苦しながらもちゃんとできたから別に良いんだけどね。
そうしてそれぞれの革に刻んだ魔法陣に注いだ血液が乾くまで待つこと数十分。うつらうつらとしながらもようやく魔道具が完成した。
試しにミッドナイトオウルの革を靴底に貼り付けた靴に魔力を流し、その場でジャンプしてみる。
「おぉ……」
おっと。ネイがまだ寝ているのに、つい声を出してしまった。
だけど少しくらい声を出しても許されるだろう。だって靴に魔力を流し、上にジャンプして着地しても全く音がならなかったのだから。今までのナイトオウルの素材で作ったものは[音響減衰]だったので僅かに音がしたのだが、ミッドナイトオウルの素材を靴の裏に貼り付けたこれは[音響削除]だ。全く音が鳴らない。これは思った以上に良いものができた。
次に試すのはスルーカメレオンの革から作ったマントだ。ブラックウルフから作ったリストバンドはネイが起きてから試そうと思う。
まずは当然スルーカメレオンのマントを羽織る。おぉ、なんか格好いいぞ、これ! 元の色が黒ってのも良い! そしてそれを下半身にだけ巻きつける。それに魔力を流すと……
「おぉ……!」
見事に下半身が消えた。いや、正確には透明になったという方が正しいのだが、消えたと言っても良いだろう。またまた思わず感嘆の声が出てしまった。
そして最後にブラックウルフのリストバンドなのだが……ネイがまだ寝てるからなぁ……。無理矢理彼女を起こして[念話]のリストバンドの試運転をさせるわけにはいかないから、これは彼女が起きてからにしようかな。
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