隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

63話 改造と夜の森

 僕は魔法陣が描かれた布の山の中に体の半分を突っ込み、ようやく目的の魔法陣を探し出すことに成功した。






「ライン、大丈夫?」






 するとネイがその山を崩しながらそう声を掛けてくれた。正直に言うと今の体勢だと自分でこの山から抜けられなかったので助かった。






「ありがとー」






 いまだに布の山から抜け出せずにそう答える。
 すると真っ暗だった視界が急に明るくなった。ちょうどネイが僕の頭の部分を発掘してくれたみたいだ。






「……こっちから見るとまるで亀ね」






 そんなことをボソリと呟きながら彼女は僕を布の山から発掘してくれた。
 みっともない姿を見せてしまった。恥ずかしさがこみ上げてくる






「いやー、助かったよ」






 その恥ずかしさを振り払うように頭をかきながら体を起こす。そして見つけた魔法陣をしっかりと手に持っているか確認する。






「あれ!? これじゃない!?」






 しかし僕が手にしていたのは探していた魔法陣とは似ているものの全く違うものだった。薄暗い山の中で探していたからきっと間違えたんだろう。再びネイが崩してくれた布の山を掘り下げて目的の魔法陣を探す。ちなみにネイは魔法陣について何も知らないから僕一人でその布の山から魔法陣を探し出さなければなからなかった。




 そうすること約三十分後。






「あった!」






 今度こそ僕は探していた魔法陣を見つけた。三度見して確認したから間違いない。一応もう一度確認する。これで四度見だ。うん。間違いない。






「あ、あったんだ。おめでとう」






 そんなネイは僕が魔法陣を探している間、熱心なことに、スライム紙を使ってずっと魔力操作の練習をしていた。だけど僕が今手に持っている魔法陣を発掘したことを知ると、ネイはそれをズボンのポケットに仕舞ってこちらに来た。




 さぁ、さっそく実験だ!






「とりあえず、この散らばっている布を片付けましょうか」






 そう言われてベッドだけでなく、その周囲の床の上の広範囲に魔法陣が描かれた布が散らばっていることに気がついた。






「……そうだね」






 素直に頷いて片付けを始める。




 そうして片付けをすること約十分。ようやく全ての布を僕の[ストレージ]に収納し終えることができた。
 ネイの手も借りて実験準備も終え、とうとう実験の段階に入る。
 まずは魔法陣が描かれた布をナイトオウルの血液に浸す。






「じゃ、魔力を込めるね」






 もはや恒例となったこの一言。
 ネイにそう断りを入れてから僕は魔法陣に魔力を流す。するとナイトオウルの血液がルビー色に輝きだした。
 やっぱりこの魔法がナイトオウルと親和性が高い魔法だったか。






「これは何の魔法陣なの?」






 するとネイが輝いている血液を見ながらそう聞いてきた。やはり彼女はこの輝いている血液を見ても当初のような感動はしないようだ。
 そんなことを考えつつ僕はネイの質問に答える。






「これは[音響減衰]の魔法陣だよ。さっき実験して失敗した音を消す[音響消去]の魔法陣の、言えば下位互換の魔法陣だね」






 そうネイに説明しながら魔法陣を停止させ、布に染み込んだ血液を絞って出す。あ、床にちょっと垂れちゃった。後でちゃんと拭いておこう。




 そうして僕らはトレーに入れていたナイトオウルの血液を元の瓶に直し、トレーを魔法で綺麗にした。そしてそれらを[ストレージ]に収納する。




 さて、と。ここからは魔道具作りの時間だ。
 まずはツインスネークの革を[ストレージ]から取り出す。あらかじめこの魔物の革はどんな風に使うかを決めていたので事前に手頃な大きさにカットしてある。
 そして僕は片目ゴーグル型の眼帯と同じ形になるように魔力掌握で変形していく。なお、ネイはここからは手伝えることはないと判断したのかサミット学園の過去問のようなものを解いている。がんばれー。
 そう心の中で彼女を応援しながら、魔力掌握で変形させたツインスネークの革を片目ゴーグル型の眼帯に重ねる。うん。ぴったりだな。
 それを確認したら後はこのツインスネークの革に魔法陣を刻んで、そこに血液を流し込み、乾くまで待つ。
 僕がネイにあげた眼帯も先に同じようにして改造をしまおうかと思ったが、万が一その眼帯が機能しなくなったりしたらネイが怒るかもしれないので、僕の眼帯が完成してからやることにする。つまり正常に機能するか確認してからネイの眼帯の改造をしようということである。




 それじゃあ次はナイトオウルの方をやっていくとするか。
 とは言ってもこちらはすぐに終わる。何せナイトオウルの革を靴底と同じ形になるように魔力掌握で変形させて、あとは魔法陣を刻んでそこにナイトオウルの血液を流し込むだけだからだ。後はそれをツインスネークの革と同じように血液が乾ききるまで待つだけである。




 それまでは暇なので僕も[ストレージ]からスライム紙を取り出して魔力操作の練習をすることにする。早く乾かないかなー。












「ほい。できたよ」






「ありがとう、ライン!」






 ネイの分の眼帯と靴の改造を終え、それをネイに渡す。すると彼女は僕に飛びつきながらそう言ってくれた。そこまで嬉しいのか。それならば製作者冥利に尽きるというものである。






「それじゃあそろそろ僕は行ってくるよ」






「わかったわ。気をつけてね」






 ネイは心配気な顔をして僕を見送ってくれる。だが、そんなに心配しなくても大丈夫なのは彼女も分かっているのだろう。昨日よりも僕を外に見送り出す顔が幾分か柔らかいものになっている。そんなネイの頭をポンと優しく叩きながら大丈夫だと伝える。そうして僕は部屋を、そして宿を出た。




 正確な時刻は時計が無いので分からないが、今は夜だ。辺りを見れば真っ暗である。この中で僕は昨日と同じ様に上下とも黒の服を着て、幻影魔法の[ミラージュ]で肌と髪色を変え、片目ゴーグル型眼帯を右目に着ける。名付けるならば紅眼モードである。
 その紅眼モードに変身して僕は王都の外壁へと向かう。昨日と同じ様に夜の狩りに出かけるのだ。
 しかし昨日と同じ様に狩りをするとは言っても、昨日のように魔物達が跋扈する草原に行ったりはしない。今日はシンリョクの森で狩りをするのだ。
 もちろんシンリョクの森に生息している魔人とは戦わないつもりでいる。だが、夜のシンリョクの森にしかいない魔物の素材が欲しいので、泣く泣くそこに行くしか無いのだ。






「[風撃]」






 昨日と同じ様に、だが悲鳴など上げず僕は[風撃]を使って外壁の上に立つ。






「[風撃]」






 そしてそこからさらに[風撃]を使って空を飛ぶ。目指すはもちろんシンリョクの森だ。
 空を飛ぶのももう慣れた。自分の順応性の高さに自分でビックリするわ。
 そうやって空を飛びながら眼下を見ると昨日と同じ様に様々な魔物が跋扈している。その中には昨日狩ったツインスネークの姿もあった。そうして眼下の魔物達の宴を見ながら空を飛んでいると、シンリョクの森の目の前まできた。






「[風撃]」






 そこに[風撃]を使って落下のスピードを和らげて安全に着地する。
 森の中は当然真っ暗で様々な魔物達の声が聞こえる。それに風が吹く度に草木がザワザワと揺れている。お化けの一つや二つが出そうな雰囲気だ。
 僕はそんなことを考えながらも森の中に足を踏み入れる。
 文字通りの一寸先は闇だな。
 僕は眼帯に魔力を通し、[暗視]を使う。眼帯をつけてない左目が慣れるまではしばらくはこれで行こう。
 そうしてしばらくの間シンリョクの森の外縁部を一人で歩いていると魔力探知に魔物の反応があった。もう左目はこの暗闇に慣れてある程度見えるようになったので、この眼帯の新しい機能[熱源探知]を使う。すると眼帯をつけている右目の視界が青一色になった。僕が魔力探知で見つけた魔物がいる方向を向くと、そこには赤色に光っている小型の魔物が映っている。






「おぉ……!」






 実際にこうやって映し出されているのを見ると驚いてしまった。
 そう。この眼帯の新しい機能とは、視界がサーモグラフィーのように映ることである。これをつけることによって闇夜の中でも関係なく魔物を見つけ出す事ができる。そしてつい今し方気づいたのだが、どうやらこれは赤外線を捉えて温度として見えるわけではなくて、魔物が発する魔力を捉えてサーモグラフィーのように見えるみたいだ。
 これは思っていたより得な物を作り出せたようだ。なぜならこの眼帯では恒温動物だけではなくて変温動物まで捕らえきれることができるのだから。もはやこれは[熱源探知]ではなくて[魔力探知]と同等、いや魔力を形として見えるようになるわけだからそれ以上の性能を秘めていると言っても過言ではない。これからは[熱源探知]ではなく[魔力源探知]とよぶことにしよう。




 僕がその性能に感心しながら周りをキョロキョロとしていると後ろから数匹の魔物が近づいてきた。もちろん僕が使っている魔力探知に反応があったから気づいた。僕はそちらのほうに振り向く。すると[暗視]のおかげでその姿がはっきりと見えた。ナイトラットだ。






「おぉ!」






 再びこの眼帯の性能に驚いていると、どんどんナイトラット達が僕の方に近づいてきた。なので木の上に登ってやり過ごそうとしたのだが、なんとその木の上にはナイトオウルが待ちかまえているではないか。どうやらナイトラットと僕が交戦している間に奇襲をかけようとしていたみたいである。……恐らく僕に。
 ならば別の方に逃げようと思い、くるりと振り返ると僕の魔力探知圏外にナイトキャットが複数匹しげみに隠れているのが片目ゴーグル型眼帯でわかった。……なるほど。夜って怖いな。






「[風撃]!」






 とりあえずまずは頭上のナイトオウルから始末する。落ちてきたナイトオウルの死体は[ストレージ]にポイだ。これで木の上に登ればナイトラットの群れからはひとまず逃れられるだろう。
 ……ん? まて、群? 僕は慌ててナイトオウルが居座っていた木の上に登り、ナイトラット達を見る。すると先程は数匹しかいなかったナイトラットがいつの間にか群と称するに値する数に増えていた。一体いつのまにこんなに増えたんだよ……ん?
 その群に違和感を感じ、ナイトラットの群が走ってきている奥に目をやれば、そこから犬の形をした何かが走ってきているのが見えた。眼帯を[暗視]に切り替えてその犬の形をした魔物を見る。






「あれは……ブラックウルフか」






 するとその正体は体中が真っ黒で闇夜の中では見つけづらい魔物であるブラックウルフだった。ちなみに危険度は単体で茶色、群で青を一つ飛ばして緑にまでなる。一人前冒険者が複数人で狩ることができるレベルの魔物だ。
 グリーンウルフを黒に塗って、夜行性にしたものがブラックウルフだと思えばいい。
 そのブラックウルフ達がナイトラット達を追いかけている。それを見て僕は些か疑問を覚えた。リトルグリーンウルフの時からあれだけ連携攻撃が上手かったのだ。それの成体であるグリーンウルフと同じブラックウルフがナイトラットの群れをこうも容易く逃したりするのだろうか?






「ゴアアアアアアアアア!」






 するとナイトラットとブラックウルフが来ている方向から荒々しい咆哮が聞こえてきた。急いでそちらに目を向ける。だが、距離が遠すぎるのか[暗視]でも[魔力源探知]でも見えない。なのでひとまず[暗視]に切り替えて、ナイトラット達がこの木に登って来れないように魔法で細工をしようとした……その時。そのナイトラットの群れの真上から木、それも大木が降ってきた。

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