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隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

61話 飛行とネイの眼帯

 魔人が去ってからもバクバクと激しく脈を打つ心臓。いまだに背筋に寒気が走ったあの瞬間が忘れられない。手のひらを見れば汗でぐっしょりと濡れている。






「すぅー、はぁー」






 いまだに落ち着くことができていない僕の体を一度大きく深呼吸することで、落ち着かせる。魔人は去っていったという意識と体に刻みついた恐怖のギャップが激しい。まるで自分の体が自分のものじゃないみたいだ。
 一度外壁の上で両手足を大の字に開け、寝転ぶ。空が少しずつ明るくなってきている。もう後数分もすれば太陽が顔を出してくるだろう。






「……あ、そうだ。ネイにナイトキャットの眼帯を作ってあげる約束があったんだった」 






 仰向けになってバクバクと激しく脈を打つ心臓のその音を聞きながら空をボーっと眺める。するとネイと昨晩外に出る直前に交わした約束を思い出した。
 しかし体は魔人との駆け引きで相当疲れてしまっている。いや、精神の方が疲れていると言った方が正しいのかもしれない。ともかく一瞬ではあったものの、魔人との戦いで僕は心身ともに疲れていた。






「まだ今の時間だったらナイトキャットは外にいるだろうな」






 顔を横に向け、顔を出そうとしている太陽を見ながら一人そう呟く。
 だけどいくら体と心が疲れているからと言ってもそれを理由にネイとの約束を破るような真似をするのは忍びない。
 ……狩りに行くか。






「……よっこいしょ」






 心臓の激しさは幾分かマシになったものの、体のほうはまるで鉛のように重い。だがその体に鞭を打ち、かけ声を口に出すことでなんとか体を起こした。
 そして立ち上がると両手を組んで頭の上に伸ばし、体全体を一度伸ばす。






「んー……! っはぁ!」






 手首足首を回し、首をぐるりと一周させる。軽く体をほぐして、少しでも体のだるさをほぐそうとしているのだ。……まぁ体感ではそれほどだるさがとれた感じはしなかったが。
 それは気分の問題だと自分に言い聞かせて、やっと落ち着いてきた体を動かす。そうしてからようやく僕は外壁の下に目をやった。






「おー、魔人が帰っていったばかりなのにもう何匹か魔物がいるなー」






 危機関知能力が優れているのか、はたまた偶然か。それは分からないが、僕の目に見える範囲にはポツポツと魔物が点在していた。その中には僕が狙っているナイトキャットの姿もある。たが、距離が遠すぎる。はてさて、どうしたものか……。
 今度超長距離の攻撃手段を考えないとな。そう頭の片隅で思っているといいことを思いついた。……そうだ、高い所から一気に襲撃したらいいじゃないか。せっかくできるようになった[風撃]での飛行法の感覚の復習がてらそうしよう。






「[風撃]」






 早速[風撃]を使い王都の外壁より空高く飛び出す。太陽はまだ出ていないものの王都の中にはこの時間に起きている人も少なからずいるだろう。だけど辺りはまだ幾分か薄暗い。これだけの薄暗さがあれば、今のように王都から飛んだとしても僕の格好だと見つかりにくいはずだ。まぁ絶対見つからないという保証は無いが。






「[風撃]」






 そんなことをつらつらと考えていると、もうそろそろナイトキャットが僕の魔法射撃圏内に入ってくるところだ。意識を狙っているナイトキャットに移し、魔法をいつでも放てるように準備する。
 そのナイトキャットはこれから巣穴に帰るところなのか欠伸をしながら呑気に歩いている。どうやら僕の存在には全く気づいていないようだ。都合がいいな。
 そしてナイトキャットを魔法射撃圏内に収めた僕はそれに向かって魔法を放つ。






「[雷撃]」






 僕の手のひらから出た電撃は若干のズレはあったものの轟音を轟かせながらまっすぐと進み、ナイトキャットの胴体に直撃した。うーむ。やはり[雷撃]の狙いがまだまだ甘いな。これもまたどこかのタイミングで練習しなければ。あと、音も。さすがに[雷撃]を放つたびにこの轟音を聞いているといつか絶対に耳を壊してしまう。






「[風撃]。よっと」






 空からまっすぐと落ち、着地する瞬間に上向きの[風撃]を放つ。そうして落下エネルギーを殺し、怪我をすることなく無事地面に着地した。






「[ストレージ]」






 口を大きく開けた[ストレージ]に[ブースト]で強化した腕力を利用してナイトキャットの死体を頭から突っ込ませる。解体とかはまた冒険者ギルドの裏手の広場を借りよう。
 ……いや、やっぱり今ここで解体するか。僕が持っている魔物はナイトキャットだけじゃなくてツインスネークにナイトオウルもあるんだ。




 この二種の魔物は完全な夜行性、つまり早朝まで活動するナイトキャットと違って、真夜中にだけ活動する。
 これを冒険者ギルドの裏手で解体しているところを誰かに見られたら、僕が夜に王都の外で狩りをしていたことがバレてしまう。
 それだけでなく、この二種の魔物は現在の僕の冒険者ランクより二つも危険度が高い青ランクなんだ。七歳の子供が一人前冒険者が狩るような魔物を解体する……うん。僕じゃなくても絶対目立つな、これ。
 仕方がない。周りに誰もいない今のうちにパパッと済ませるか。あ、その前にネイに連絡を入れておこう。












「眼帯を取れ」






「はい」






 門番さんに幻影魔法の[ミラージュ]で隠したいつも通りのグロい目を見せる。それを見たこの門番さんはこれまたいつも通り眉をしかめた後、街に入る許可をくれた。眼帯をつけて何気ない顔で街に入る僕。あの門番さんの反応からどうやらこの朝の時間帯に街に入ってきた僕のことを不自然に思っていないようだ。
 まぁ今の僕は普通の冒険者が着ているような服に碧眼の子供だから仕方ないか。




 ツインスネークを始めとする三匹の魔物の解体を終えた僕は、太陽が完全に顔を出していたこともあり、[ストレージ]に入れていた普通の服に着替えた。それだけではなく、眼帯をいつも使っているやつに変え、左目に装着した。
 これで怪しまれることなく正門から悠々と王都に帰ってきたのだ。そしてその足で直接宿の部屋に帰る。






「おかえりなさい! ライン! 大丈夫だった?」






 するとネイが開口一番そう言ってきた。よっぽど心配していたのか僕の体をしきりに見ている。そこまでジロジロと見られるとなんだか恥ずかしいのだが……。






「うん。大丈夫だった。特に問題なく欲しかった魔物を狩れたよ」






 僕がそう言うとネイはホッと安堵した様子を見せた。そこまで心配しなくてもいいのに。
 そう思いながらも僕はネイに向かって口を開く。






「ネイ、僕は眠いからこれから寝るとするよ。それから魔道具作りを始めるから眼帯はそれまで待っててね」






 僕がそう言うとネイは目をキラキラさせてこっちを見てきた。






「それならナイトキャットを狩ってこれたのね! ありがとう、ライン!」






 そしてそういいながら僕に向かって抱きついてきた。よっぽどうれしかったのだろう。彼女は僕が寝る直前まで顔をだらしなく緩めていた。










「おはよう、ライン!」






「……おはよう、ネイ」






 目が覚めたら目の前にネイがいた。それもキラキラと目を輝かせて。……もしかして僕がネイの分の魔道具を作るまでずっとそうやって待っているつもりだったのかな? そんなにあの眼帯が欲しかったのだろうか。だとしたら早く作ってあげよう。






「それじゃあ今から早速魔道具作りにかかるよ。ネイはどうするの?」






「そばで見ておく!」






 僕がそう言ってネイに尋ねると、彼女は間髪入れずにそう答えた。よっぽどあの眼帯が欲しいんだなぁ。
 というわけで早速ネイの分の眼帯作りを始める。






「[ストレージ]」






 まずは[ストレージ]から今朝剥いだばかりのナイトキャットの革を取り出す。






「それが狩ってきたナイトキャットの毛皮なの?」






「うん。そうだよ」






 首から上の部分がないナイトキャットの革を見て、ネイがそう聞いてくる。見れば分かると思うのだが……そっか。ネイはまだナイトキャットを実際に見たことないんだ。
 そう思っているとネイが再び質問してきた。






「それにしては綺麗すぎじゃない? それにもうなめしてあるみたいだし……」






「それはナイトキャットから毛皮を剥いだ直後に魔法でやっておいたんだ。冒険者ギルドでやるわけにもこの部屋でやるわけにもいかないしね」






 そういいながら僕はナイトキャットの革を手早く魔法で切っていく。そしてちょうど手頃なサイズになった革に魔力を流して形を変えていく。ちなみにこの魔力を流して物質を変形させることを魔力掌握という。






「ちょっとこれをつけてみて」






 僕はネイにナイトキャットの革をだいたい眼帯に近い形までに変形させたものを渡す。この時点ではまだ眼帯と呼ぶには早いかな? 






「えっと……こう?」






「そうそう。それで少しそのままでいてね」






 僕は、変形させたナイトキャットの革をつけているネイの周りを歩きながら、違和感がある部分を魔力掌握で変形させていく。






「ありがとう。それじゃあそれをちょっと貸して」






「はい」






 何回もネイにそのナイトキャットの革を着けたり外したりしてもらいながら細部の調整を行っていく。そしてネイの耳や目に合わせた形にまで変形させた眼帯が完成した。後は、これに僕が持っているスライム製の透明なカバーを着ける。後はナイトキャットの革に魔法陣を刻んでそこにナイトキャットの血液を流すだけだ。






「……よし。これで完成だよ。ネイ」






「わぁ! ありがとう、ライン!」






 スライム製のカバーを黒色に塗り、刻み込んだ魔法陣に流し込んだ血液が乾いたのを確認して僕はネイにその眼帯をあげた。ネイはそれを受け取ると嬉しそうな顔をし、早速その眼帯を僕と同じ左目を隠すように着けた。






「付け心地はどう? どこか痛かったり、緩かったりしない?」






 いくら何度もネイに眼帯を着けてもらい、細部を調整したとしてもどこかしら不備があるかもしれない。そう思いネイに聞いたのだが、彼女の答えは一言だった。






「完璧よ!」






「そう? それなら良かった」






 ネイはしきりに眼帯を着けてはニヤニヤし、外してはそれを見てまたニヤニヤしている。






「じゃあ、僕は次の魔道具を作るよ」






「ねぇ、ライン。あたしもそばで見てていい?」






 次の魔道具作りの準備をしていると、眼帯をつけたネイがそう声をかけてきた。






「いいよ」






 もちろん断る理由など何もない。むしろ彼女は手伝ってくれるので大助かりだ。
 そんなことを思いながら僕は布と羽ペン、インクを[ストレージ]から取り出した。






「これから何をするの?」






 いつも新しい魔道具作りといえば、素材との親和性が高い魔法を調べるところから始めていたので、これらの道具を出した僕を見て不思議に思ったのだろう。ネイがそう質問してきた。それに対して僕は簡潔に一言、こう答える。






「新しい魔法陣を作るんだ」

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