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隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

60話 雄叫びと魔人

 遠くから聞こえたその雄叫び。
 聞こえてきた音の大きさからはたしかに遠くから聞こえてきた筈だった。
 だがその雄叫びを聞いた瞬間、背筋にゾクリと寒気が走り、急に手のひらが汗で濡れ始めた。
 この雄叫びはまさか……。
 そう思った直後、広大な草原に跋扈していた数多の魔物達が、その雄叫びとは反対方向に一斉に駆け出した。
 それによってドドドドドと地面が震え、鳴る。
 その異変にどうやら門番も気づいたらしい。なにやら慌てたような声がここまで聞こえてくる。
 だけど僕はそれを無視して、逃げていった魔物たちとは反対の方向、つまり雄叫びが聞こえた方へ走る。






(雄叫びが聞こえてきた方向にはシンリョクの森がある……。だから多分あの身の毛もよだつような咆哮は……魔人でまず間違いないはずだ)






 最近冒険者の間で噂されている魔人。その姿の目撃者もいることから、シンリョクの森にはかねてから魔人がいると噂されていた。
 まさか青ランクを含めた魔物たちが一斉に逃げるとは思わなかったが、それだけ魔人が強く、そして魔物たちにとって脅威であるということなのだろう。
 情報収集もかねて一目だけでも見る価値はある。何か弱点とかが分かったらなお良しだ。
 意識を魔力探知に半分ほど割き、後の意識は右目の眼帯に集中させる。
 そうして魔法を使ってない普通のスピードでシンリョクの森に向かって走っていると、前からとてつもない重圧を感じた。思わずその場で足を止めてしまう。まるで見えない手で上から押さえつけられているようだ。
 そしてその重圧は時間が経つごとにどんどん大きくなっていく。
 これ以上近づいたら危険だ。
 僕の頭の中で警鐘が鳴り響く。
 早くその場を離れて逃げろ、と。
 今の僕は全身真っ黒なので見つかる心配は無い。
 そのような考えが頭に過ったが……それを体全体が否定する。
 そのことに驚く僕。
 こんな体験は初めてだ。
 未知のその感覚に従い、すぐさまその場からの離脱を計る。






「[風撃]!」






 自分自身に範囲を広げた[風撃]を放ち、外壁の方へ飛ばす。そのまま何度か[風撃]を自分に放って角度を調整し、王都の外壁の上に着地した。シンリョクの森から王都までは相当な距離があるので、これだけ離れていれば十分だろう。現に先程の重力が大きくなったと錯覚するような重圧はここまでは届いていない。






「それにしても……逃げることに集中していたからかもしれないけど、[風撃]で空を飛ぶことが簡単にできたな」






 謎の重圧から逃れたことにより、先程の事を冷静に思い返すことができるようになった。
 練習したら[風撃]で空を飛べるようになるかもしれない。そしたら戦闘での優位性は遥かにあがるので、またどこかのタイミングで練習しよう。
 気が抜けていたのかそんなことを考えていると、シンリョクの森から魔物たちが飛び出して来ているのが見えた。見る限りその魔物たちは全て外縁部に生息する、コボルトやホーンラピッド、ゴブリンなどであった。






「あ! あれ僕が狙ってた魔物だ!」






 するとそれらの魔物に混じって僕が欲しかった素材の魔物が森から飛び出してきた。もちろん今日狙っていたツインスネークとはまた別の魔物だ。
 その魔物はシンリョクの森から相当距離がある王都の外壁の上からでも確認できるほど特徴的なシルエットをしている。
 極端に短い足に極端に短い羽。それでいて突き出している嘴は大きく、体も丸々としていてデカい。何故あんなからだの生物が空を飛べるのかは分からないが、それが僕が狙っている夜行性の魔物の内の一つ、ナイトオウルだ。
 ナイトオウルは魔物図鑑によれば奇襲を得意とし、その際周りの音を殆ど消す事ができるらしい。その音を消す範囲はナイトオウルを中心とした半径一メートルにも及ぶという。それだけの範囲の音を消せるのならば奇襲をかけるのには十分だろう。
 まぁ、ナイトオウルは魔物だから、その体から漏れ出る魔力までは消せない。魔力探知を使えば奇襲を受けることなく、すぐに見つけることができるだろう。
 だから今すぐにあのナイトオウルを狩らなくても、明日の夜にもう一度シンリョクの森に来れば何匹か見つかるはずだ。でも魔人に見つかる可能性があるからなぁ。




 ナイトオウルを狩るかこのまま見逃すか。
 ナイトオウルは僕がいる方向へ逃げてきているので僕の魔法の範囲内に入れば撃ち落とすことはできる。命を奪うことだってできるだろう。だがその死体を回収することを考えると魔人に見つかってしまうのではないかとどうしても躊躇ってしまう。この重圧からその実力を察するに、今はまだ魔人と戦うには色々と揃ってないだろうからなぁ……。
 はてさて、どうしたものか……。






「あ! そうだ!」






 ここで僕は天啓にうたれたといっても良いような事を思いついた。
 早速僕は狙撃範囲に入ってきたナイトオウルに向かって、右手を銃の形にし、小指のサイズにまで凝縮した[風撃]を放つ。






「[風撃]!」






 そうして放った[風撃]は、僕の狙い通り一瞬でナイトオウルの頭を打ち抜いた。
 ゴブリンの森で鍛え上げた僕の狙撃力を舐めてはいけない。僕は五十メートル先のゴブリンの目玉だって撃ち抜くことができるのだから。




 そうして僕の[風撃]で頭を撃ち抜かれたナイトオウルは地面に向かって落下しだした。それに向かって今度は指先から[魔糸]を生成。先端部分の性質を粘着質にして、そのナイトオウルに向かって投げた。
 [魔糸]は僕の魔力でできているので、当然魔力操作で[魔糸]を飛ばすことは可能だ。紐型の空飛ぶラジコンと言えば分かるだろうか。
 そしてその[魔糸]の先端がナイトオウルの死体にくっついた手応えが帰ってきた。その手応えに従い、すぐさま引っ張る、と同時に[魔糸]を釣り竿のリールをまくイメージで回収する。するとナイトオウルの死体が僕に向かって飛んでくるように近づいてきた。






「オーライオーライ……よっと。よし、ナイスキャッチだ僕!」






 それを上手いことキャッチし、思わず握り拳を作って自分で自分を褒める。
 そうして無事回収できたナイトオウルの死体を[ストレージ]に収納し、再びシンリョクの森の様子を観察する。




 それからしばらくの間観察していると再びあの身の毛もよだつ雄叫びが聞こえてきた。






「ガアアアアアアア!」






「うおぅ」






 これだけ離れていてもなお、あの咆哮を聞いただけで背筋にゾクリと寒気が走った。それだけ魔人の力が増しているという証拠だろう。普通の魔人がここまでの力を最初から持っているなんてことは考えにくい。もし持っていたら……考えないでおこう。
 そうしてさらにしばらくの間森に変化がないかと観察する。一応今日目標にしていた魔物は狩れたのでここで帰っても良いのだが、やはり魔人の情報を一つでも入手したい。それも森に入らずに。
 そうやって更に森に変化が無いかと、ナイトオウルの死体からでる血を瓶に注ぎながら森を観察していると、変化が起きた。ザワザワと最初はシンリョクの森の草だけが揺れていたのだが、突然草だけでなく木も揺れ出したのだ。
 すると、先程のシンリョクの森の外縁部に生息していた魔物たちとは違い、今度は中層部に生息しているはずの魔物たちが森の外に逃げてきた。そしてそれと時を同じくしてとうとう奴が現れる。




 離れているので細かい特徴は分からないが、恐らく体長は二メートルは超えている。そしてその体はまるで筋肉が肌を内側から突き破ろうとしているかのように全体が膨らんでおり、その様子は相当離れているここからでも確認できた。後の主な特徴は全身が闇夜よりもなお暗い肌をしており、目は眼球全体が赤いのか、人間でいう白目の部分がないのだ。そしてもっとも特徴的なのは、その頭に生えている二本のわん曲した角だ。その角で突かれたらひとたまりも無いだろうことは簡単に想像できる。




 その迫力に思わずゴクリと唾を飲み込む。
 その魔人はどうやら逃げている中層部に生息する魔物達を追っているようだ。
 幸い王都からズレた方向へ走っているのでこっちに被害は及ばないだろう。




 その姿から何か弱点は無いかと[視力強化]を施した目でその魔人の動きをじっと見る。
 走り方は人間と同じ様に手足を振って走っている。特に四足で走るとかそういうわけでは無さそうだ。だが……走るスピードが相当早い。そしてその体中についた筋肉は偽物ではないようで、飛んでいるナイトオウルの進化形であるミッドナイトオウルを一回ジャンプしただけで捕まえた。






「まじか……」






 少なくともミッドナイトオウルが飛ぶ速度は同じ鳥型の魔物と比べると速さが低いほうに位置する。だが、それでも鳥型は鳥型だ。飛翔速度が遅くても空を高く飛べば容易に逃げられる筈だ。現にそのミッドナイトオウルは十メートル程の高さを飛んで、逃げている魔物たちの最後尾を飛んでいた。
 しかし魔人はそんなの関係ないとばかりに飛び上がり、ミッドナイトオウルを上から叩きつけるようにして捕まえた。
 そう。魔人は十メートル以上の高さにまで飛び上がったのだ。
 そうして魔人にミッドナイトオウルごと叩きつけられた攻撃に、地面は耐えきれなかったのかその周囲の地面だけ凹んでおり更には罅が入っていた。






「なんて馬鹿力だ……」






 僕が魔人の力強さに呆然としていると、その魔人は既に絶命しているそのミッドナイトオウルの体の上半分を一口でかじり、残りの下半分をそのへんに投げ捨てた。下半身を喰らわなかったのは、魔石が上半身にあるからだろう。
 そして再び魔人は走り出す……が、その時東の空が明るくなったきた。
 するとそれに魔人も気づいたのか走るのを止め、ゆっくりと歩きながら森に帰って行く。




 その時、僕はその魔人の後ろ姿を見て一度だけ攻撃を加えてみることにした。[ストレージ]に素早くナイトオウルとその血液を入れた瓶を入れ、外壁を降りる。そして[ブースト]と靴の[走力強化]を使って魔人を僕の魔法の狙撃圏内に入れる。
 全力で空気を小指の先程の大きさに圧縮。






「[風撃]!」






 その魔人の後頭部を狙った一撃はしかし、魔人に当たり、そして霧散した。
 ゆっくりと魔人がこちらを振り向く。






「!? [風撃]!」






 直後、魔人は凄まじい速度でこちらに迫ってきた。それを見て僕は危機感を感じ、正面から真後ろの方向に範囲を広げた[風撃]を当ててその突進から逃れる。そしてさらに[風撃]を連続して使い、すぐさま王都の外壁の上まで逃げた。
 すると魔人はそんな僕に興味を失ったのか踵を返し、森の中に帰って行った。
 ……危なかった。まさか[風撃]が効かないとは思っていなかったし、それに実際に正面から突進してくるそのスピードはかなりのものだった。少しでも逃げの[風撃]を放つのが遅れていたら、あの凶悪な突進の餌食になっていただろう。
 いまだに激しく鳴り止まない心臓を落ち着けるために、しばしその場に座り休憩する。

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