隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
59話 説得と蛇
「ネイ、少し話があるんだ」
時刻は夜。何時もならこの時間は二人そろってベッドでグースカしている時間である。しかし僕はこの時間にネイを呼ぶ。これから真剣な話をするためである。
「どうしたの? 改まって」
ベッドの上で正座している僕の様子を見て、不思議そうな顔でそう言うネイ。彼女も僕の向かい側に同じように座る。それを確認してから僕は口を開いた。
「実は、これから数日間は夜に王都の外で狩りをしようと思うんだ。それをネイに言っておこうと思ってさ」
「そんなのダメ!」
僕がそう告げるとネイは瞳を不安げに揺らし、声を荒げてそう言った。だが僕は彼女がそう言うのは分かっていた。当然だ。何せ夜行性の魔物は皆凶暴であるというのはこの世界では常識だからだ。
僕が今朝狩ったナイトキャットだって、太陽が出れば活動が鈍くなり巣に帰る習性があるため余裕を持って魔法で狩ることができたのだ。
実際に真夜中のナイトキャットはキャットの名に相応しくないほど獰猛で狡猾になる……と魔物図鑑に書いていた。
そのためネイが声を荒げてまで僕を外に行かせまいとするのは当然であった。
「だけどね、ネイ。今僕が動かないとこの王都が魔人によって潰されてしまうかもしれないんだ」
「それって、どういうこと?」
僕はいまだに瞳を不安げに揺らしているネイに向かって、現在の状況の説明と魔人の特性、特に魔石を体に取り込むほど強くなっていくことについて、なるべく分かりやすいように丁寧に説明した。そして魔人が恐らくシンリョクの森の殆ど、少なくとも外縁部の魔物を殆ど食していることもネイに話した。シンリョクの森へは冒険者ギルドの依頼で二人で一緒に行ったことがある。その時に魔物が殆どいなかったことを僕らは知っている。なのでネイにはこの話はすんなりと伝わった。そして魔人がどれだけ強くなっているかも。
そうして僕はなんとかネイの説得に成功し、こっそりと王都の外に出る準備を始めた。とは言っても特別な準備などは殆どない。眼帯を特別なものに変えるだけだ。
「ライン、そのちょっと変わった眼帯は何?」
すると僕が夜の外に出る準備をしているところを見ていたネイがそう質問してきた。それに対して僕は少し得意気に説明する。
「これはナイトキャットの素材で作った眼帯の魔道具だよ。一回付けてみて」
本来の用途で使用する場合、つまり目の病気などの理由で眼帯をつけている場合は他人にその眼帯を着けるよう言うのはダメだが、僕もネイも目の病気など持っていないので、僕は気軽にその[ストレージ]から取り出した眼帯をネイに着けさした。
するとその眼帯を着けた彼女は目を見開いて驚いた。
「なにこれ!? 眼帯を着けているはずなのにその目が見えるんだけど!? しかも黒い!」
そう。その眼帯は眼帯の形をした片目ゴーグルのようなものだ。正確には眼帯型片目ゴーグル(黒)といったところか。
そしてネイが黒いと言って驚いているのはそのゴーグル部分、サングラスでいうガラス部分が黒いせいで、片目だけ見える景色が黒く見えるのだろう。
「凄いでしょ? でもそれだけじゃないんだよ、その眼帯の凄さは。それを着けたまま外を見てみて。あ、驚いて声を上げないようにしっかりと口は閉じてね」
僕がそう言うとネイは両手を口元に持って行ってしっかりと押さえる。そして一つ頷くと彼女はそのままの状態で僕が開いたカーテンから外を覗いた。
「ん!?」
「……まぁ、ギリギリセーフかな」
外を覗いたネイは両手でしっかりと口を押さえているはずなのに喉の奥からくぐもった驚きの声が漏れていた。部屋の中にはある程度の音を消してくれる防音の結界を一応張っていたからギリギリセーフだろう。まぁ、今の声を聞かれたからといってもこの眼帯が魔道具だとバレルことはないだろうけど。
ネイがそのままじっと街の外を凝視していたのでサッとカーテンで隠す。このままだと夜が明けるまで外を見ていそうだったからだ。
「どうだった? 外の景色は」
僕が若干得意げにそう聞くと、ネイは目をキラキラさせてこういってきた。
「凄いよこれ! 外は真っ暗なはずなのに眼帯を着けている方はまるで昼間みたいにハッキリと見えるよ! これホントに凄い! あたしもほしい!」
「あはは……。そう言ってもらえて嬉しいよ。ネイの分は今日の狩りで素材がとれたら作ってあげるね。だから今はお願いだから返して……」
よほど興奮しているのかネイは頬を紅くし、凄い勢いで僕に迫ったきた。それを彼女の肩に両手を置いてひとまず落ち着かせる。ネイが物をねだることなんてそうそうないから、どうやらこの眼帯は彼女のツボにかなりハマったらしい。
この眼帯は一言で言えば[暗視]の魔法がかかっている片目ゴーグルだ。これを着けることによって夜闇の中でも自由に動けるようになる。
僕の手にその眼帯が戻っていくのを彼女が名残惜しげに見ている様を見ると少し心が痛くなるが仕方ない。今はこれが必要なのだ。
それから僕は黒い服に黒いズボンを履き、闇夜の中で見つかりづらい格好に変身する。……変身とは言っても単に着替えるだけなのだが、そこは気分だ。
「じゃあ行ってくるよ。おやすみ、ネイ」
「うん。気をつけてね。おやすみ」
そうして僕は宿の部屋を出てネイと別れる。そして宿を飛び出し、一目散に王都の外壁を目指した。
あ、髪の色とか肌の色とか、色々と変えるのを忘れていた。
一旦道の脇に繋がっている細い路地に入り、周りを確認する。視覚情報からと魔力探知からの情報から、誰もこの路地の近くにいないことを確認する。
そして僕はさらなる変装を頭に施す。まず左目を隠していた眼帯を右目に着けて紅眼を露わにする。僕はこの王都に入るとき毎回眼帯を外せと言われるが、紅眼だと中に入れないことを知っているので毎回幻影魔法[ミラージュ]で誤魔化している。なのでもし紅眼の僕の姿が王都の中で見つかっても足はつかないはずだ。
そしてさらに念を入れて、[ミラージュ]で肌と髪の色を真っ黒に染める。これで人に見つかりにくくなったし、万が一見つかっても僕だとバレル心配はないだろう。
「よし。それじゃあ行くか!」
そう声を出して気合いを入れ、[ブースト]と靴の[走力強化]を使う。そしてさらに[ゾーン]も使って安全に、しかし確実に、さらに早く、外壁を目指した。ちなみに[神足]まで使うと魔力の消費が激しいのでそれは使わない。
そして外壁前。魔力探知に意識を集中させ、全力で人間の反応を探す。……誰もいないし、壁の向こうにも何もいないな。
そのことを確認して僕は魔法を使う。
「[風撃]! ふぬぉぉぉぉ!!」
自分の背後に範囲を広げた[風撃]を使い、発射。叫び声が喉の奥からせり上がってくるが、それを両手で口を封じることによって、なんとか叫び声を抑えることに成功する。そして猛烈な風の力で僕の体は外壁の向こう側へと軽々飛ばされた。
そして外壁を超えると見えてくる黒色の地面。僕は再び範囲を広げた[風撃]を、今度は自分の正面で、かつ威力を先程よりも若干弱めて発動する。それを空中で何度か使用することで、空気のクッション代わりにし、不格好ながらも何とか地面に着地する。
「……とりあえず成功ってことでいいか」
パンパンと服に着いた土を払いながら一人でそうこぼす。
そして辺りを見回し、魔物や人間は何一ついないことを確認する。先程確認したが念には念を、の精神である。夜だからね。何時もより警戒していく。
そしてその場から僕は正門前にある草原へと向かう。そこならば朝に地形を覚えたから夜行性の魔物達に遅れを取らない筈である。
僕が外壁を飛び越えた位置と正門までの位置はそれほど離れていなかったので体感で三分もかからずに着いた。
「おぉー。正門の近くにも結構いっぱいいるなぁ」
そこから魔力探知で魔物の反応を広範囲で調べると当然正門から遠い場所程うじゃうじゃと魔物がいたが、意外なことに正門付近にもかなりの数の魔物がいた。だがその辺りで狩りを行うことはできない。なぜなら門番の詰め所がその正門の横にあるからだ。そのためその近くで狩りを行うと僕の存在がバレてしまうだろう。それは避けたいので正門から近すぎず遠すぎずの場所で魔物を狩ることに決めた。
「だけどうじゃうじゃいるって言ってもこれだけ広大な草原だから、足の踏み場が無いってことは流石に無いな。それに僕でも簡単に倒せそうな魔物もたくさんいるから周りの注意さえしっかりとしていれば、それ程危険は無い、か」
ひとまず今周りに魔物がいない状況を利用して正門前に広がっている草原での魔物達の動きを分析する。これだけの広大な土地に魔物達が跋扈しているんだ。それなら弱い魔物達が集まっている場所もあるはず……あった。でも、あそこか……。
僕が予想したとおり弱い魔物達が集まっている場所はあった。あったのだが、その場所はなんと正門前だった。
これは困ったな……。門番にバレたくは無い。けど強そうな魔物達が集まっている場所には行きたくない。そうやって考えること数分。僕は正門前で狩りをすることに決めた。変装をしているから大丈夫だと信じて。
「とりあえずあの正門前にあの魔物は見つけたからそれだけ狩って、今日は退散するか」
今日はその目的の魔物一匹を狩ってから帰ることにする。こんな強そうな魔物達が跋扈している地獄のような場所にはもう一秒たりともいたくないからね。それにだんだんと魔物達が僕がいる方に寄ってきているみたいだし……。
よし! さっさと終わらせよう!
「[ゾーン]! [ブースト]!」
[ゾーン]を使い擬似的な極限の集中状態に入る。そして[ブースト]と靴の[走力強化]を使って身体能力と走る速度を底上げする。
「はぁ!」
そして走る。[ゾーン]のおかげで走る速度を極端に上げても転ぶ心配はない。それどころか走りながら欠伸する余裕までできそうだ。そんなことを考えながら目標の魔物、ツインスネークに向かって走る。
ツインスネークとは双頭のヘビだ。その体長は二メートルを優に超え、その体は剣も通さないような頑丈な鱗で覆われている。そしてヘビといえば毒なのだが、このツインスネークは毒を持たない。その代わりエサとなる対象を巨大な体で締め付けたり、双頭を生かして対象を挟み込んで締め付けたりする。ちなみに危険度ランクは青。僕のランクより二つも上だ。
だが僕のランクより二つも上だからって僕が負けることは絶対に無い。なぜなら、この[ブースト]と[走力強化]のコンボと相性の良い新たなコンボがあるのだから。
「[剛体・腕]! [コングスマッシュ]! [神足]!」
[剛体・腕]で腕の強度を上げ、[コングスマッシュ]でパンチの威力を引き上げる。そしてさらに段階を上げたこの超スピードの助走から放たれるパンチ。とくと味わえ、青ランク!
「うおおおおおお!」
[ゾーン]により最適なタイミングで放ったその凶悪なパンチは、ツインスネークの弱点の一つである双頭の根元に的確な一撃を与えた。
「ギャルルルルル!?」
そうして僕の超威力のパンチを食らったツインスネークは吹き飛び、地面に転がり、そして絶命した。
「やば!? 飛ばすつもりはなかったのに!」
その超威力のパンチを放った本人である僕は、あの巨大ヘビが吹き飛ぶとは思っていなかったのだ。だって二メートル以上のヘビだよ? 吹っ飛ぶとか思わないじゃん。まぁ、吹っ飛んだんだけども……。
「って、驚いてないで急いで回収して帰らないと! 」
安全地帯と言っても良かったあの魔物がいなかった場所から、地獄に突入してしまった僕。その周りには様々な魔物がうようよといた。それも青ランク以上の。
「[ゾーン]![ブースト]!」
急いで走るスピードを上げ、飛んでいったツインスネークの元まで走り寄る。そしてそれを入り口をでっかく広げた[ストレージ]に収納する。血は後で回収しよう! 
そうしてその場を離脱し、壁内に入るために急いで[風撃]を打とうとしたときだった。
「ガアアアアアアアアア!」
という背筋が凍るような雄叫びが聞こえた。
時刻は夜。何時もならこの時間は二人そろってベッドでグースカしている時間である。しかし僕はこの時間にネイを呼ぶ。これから真剣な話をするためである。
「どうしたの? 改まって」
ベッドの上で正座している僕の様子を見て、不思議そうな顔でそう言うネイ。彼女も僕の向かい側に同じように座る。それを確認してから僕は口を開いた。
「実は、これから数日間は夜に王都の外で狩りをしようと思うんだ。それをネイに言っておこうと思ってさ」
「そんなのダメ!」
僕がそう告げるとネイは瞳を不安げに揺らし、声を荒げてそう言った。だが僕は彼女がそう言うのは分かっていた。当然だ。何せ夜行性の魔物は皆凶暴であるというのはこの世界では常識だからだ。
僕が今朝狩ったナイトキャットだって、太陽が出れば活動が鈍くなり巣に帰る習性があるため余裕を持って魔法で狩ることができたのだ。
実際に真夜中のナイトキャットはキャットの名に相応しくないほど獰猛で狡猾になる……と魔物図鑑に書いていた。
そのためネイが声を荒げてまで僕を外に行かせまいとするのは当然であった。
「だけどね、ネイ。今僕が動かないとこの王都が魔人によって潰されてしまうかもしれないんだ」
「それって、どういうこと?」
僕はいまだに瞳を不安げに揺らしているネイに向かって、現在の状況の説明と魔人の特性、特に魔石を体に取り込むほど強くなっていくことについて、なるべく分かりやすいように丁寧に説明した。そして魔人が恐らくシンリョクの森の殆ど、少なくとも外縁部の魔物を殆ど食していることもネイに話した。シンリョクの森へは冒険者ギルドの依頼で二人で一緒に行ったことがある。その時に魔物が殆どいなかったことを僕らは知っている。なのでネイにはこの話はすんなりと伝わった。そして魔人がどれだけ強くなっているかも。
そうして僕はなんとかネイの説得に成功し、こっそりと王都の外に出る準備を始めた。とは言っても特別な準備などは殆どない。眼帯を特別なものに変えるだけだ。
「ライン、そのちょっと変わった眼帯は何?」
すると僕が夜の外に出る準備をしているところを見ていたネイがそう質問してきた。それに対して僕は少し得意気に説明する。
「これはナイトキャットの素材で作った眼帯の魔道具だよ。一回付けてみて」
本来の用途で使用する場合、つまり目の病気などの理由で眼帯をつけている場合は他人にその眼帯を着けるよう言うのはダメだが、僕もネイも目の病気など持っていないので、僕は気軽にその[ストレージ]から取り出した眼帯をネイに着けさした。
するとその眼帯を着けた彼女は目を見開いて驚いた。
「なにこれ!? 眼帯を着けているはずなのにその目が見えるんだけど!? しかも黒い!」
そう。その眼帯は眼帯の形をした片目ゴーグルのようなものだ。正確には眼帯型片目ゴーグル(黒)といったところか。
そしてネイが黒いと言って驚いているのはそのゴーグル部分、サングラスでいうガラス部分が黒いせいで、片目だけ見える景色が黒く見えるのだろう。
「凄いでしょ? でもそれだけじゃないんだよ、その眼帯の凄さは。それを着けたまま外を見てみて。あ、驚いて声を上げないようにしっかりと口は閉じてね」
僕がそう言うとネイは両手を口元に持って行ってしっかりと押さえる。そして一つ頷くと彼女はそのままの状態で僕が開いたカーテンから外を覗いた。
「ん!?」
「……まぁ、ギリギリセーフかな」
外を覗いたネイは両手でしっかりと口を押さえているはずなのに喉の奥からくぐもった驚きの声が漏れていた。部屋の中にはある程度の音を消してくれる防音の結界を一応張っていたからギリギリセーフだろう。まぁ、今の声を聞かれたからといってもこの眼帯が魔道具だとバレルことはないだろうけど。
ネイがそのままじっと街の外を凝視していたのでサッとカーテンで隠す。このままだと夜が明けるまで外を見ていそうだったからだ。
「どうだった? 外の景色は」
僕が若干得意げにそう聞くと、ネイは目をキラキラさせてこういってきた。
「凄いよこれ! 外は真っ暗なはずなのに眼帯を着けている方はまるで昼間みたいにハッキリと見えるよ! これホントに凄い! あたしもほしい!」
「あはは……。そう言ってもらえて嬉しいよ。ネイの分は今日の狩りで素材がとれたら作ってあげるね。だから今はお願いだから返して……」
よほど興奮しているのかネイは頬を紅くし、凄い勢いで僕に迫ったきた。それを彼女の肩に両手を置いてひとまず落ち着かせる。ネイが物をねだることなんてそうそうないから、どうやらこの眼帯は彼女のツボにかなりハマったらしい。
この眼帯は一言で言えば[暗視]の魔法がかかっている片目ゴーグルだ。これを着けることによって夜闇の中でも自由に動けるようになる。
僕の手にその眼帯が戻っていくのを彼女が名残惜しげに見ている様を見ると少し心が痛くなるが仕方ない。今はこれが必要なのだ。
それから僕は黒い服に黒いズボンを履き、闇夜の中で見つかりづらい格好に変身する。……変身とは言っても単に着替えるだけなのだが、そこは気分だ。
「じゃあ行ってくるよ。おやすみ、ネイ」
「うん。気をつけてね。おやすみ」
そうして僕は宿の部屋を出てネイと別れる。そして宿を飛び出し、一目散に王都の外壁を目指した。
あ、髪の色とか肌の色とか、色々と変えるのを忘れていた。
一旦道の脇に繋がっている細い路地に入り、周りを確認する。視覚情報からと魔力探知からの情報から、誰もこの路地の近くにいないことを確認する。
そして僕はさらなる変装を頭に施す。まず左目を隠していた眼帯を右目に着けて紅眼を露わにする。僕はこの王都に入るとき毎回眼帯を外せと言われるが、紅眼だと中に入れないことを知っているので毎回幻影魔法[ミラージュ]で誤魔化している。なのでもし紅眼の僕の姿が王都の中で見つかっても足はつかないはずだ。
そしてさらに念を入れて、[ミラージュ]で肌と髪の色を真っ黒に染める。これで人に見つかりにくくなったし、万が一見つかっても僕だとバレル心配はないだろう。
「よし。それじゃあ行くか!」
そう声を出して気合いを入れ、[ブースト]と靴の[走力強化]を使う。そしてさらに[ゾーン]も使って安全に、しかし確実に、さらに早く、外壁を目指した。ちなみに[神足]まで使うと魔力の消費が激しいのでそれは使わない。
そして外壁前。魔力探知に意識を集中させ、全力で人間の反応を探す。……誰もいないし、壁の向こうにも何もいないな。
そのことを確認して僕は魔法を使う。
「[風撃]! ふぬぉぉぉぉ!!」
自分の背後に範囲を広げた[風撃]を使い、発射。叫び声が喉の奥からせり上がってくるが、それを両手で口を封じることによって、なんとか叫び声を抑えることに成功する。そして猛烈な風の力で僕の体は外壁の向こう側へと軽々飛ばされた。
そして外壁を超えると見えてくる黒色の地面。僕は再び範囲を広げた[風撃]を、今度は自分の正面で、かつ威力を先程よりも若干弱めて発動する。それを空中で何度か使用することで、空気のクッション代わりにし、不格好ながらも何とか地面に着地する。
「……とりあえず成功ってことでいいか」
パンパンと服に着いた土を払いながら一人でそうこぼす。
そして辺りを見回し、魔物や人間は何一ついないことを確認する。先程確認したが念には念を、の精神である。夜だからね。何時もより警戒していく。
そしてその場から僕は正門前にある草原へと向かう。そこならば朝に地形を覚えたから夜行性の魔物達に遅れを取らない筈である。
僕が外壁を飛び越えた位置と正門までの位置はそれほど離れていなかったので体感で三分もかからずに着いた。
「おぉー。正門の近くにも結構いっぱいいるなぁ」
そこから魔力探知で魔物の反応を広範囲で調べると当然正門から遠い場所程うじゃうじゃと魔物がいたが、意外なことに正門付近にもかなりの数の魔物がいた。だがその辺りで狩りを行うことはできない。なぜなら門番の詰め所がその正門の横にあるからだ。そのためその近くで狩りを行うと僕の存在がバレてしまうだろう。それは避けたいので正門から近すぎず遠すぎずの場所で魔物を狩ることに決めた。
「だけどうじゃうじゃいるって言ってもこれだけ広大な草原だから、足の踏み場が無いってことは流石に無いな。それに僕でも簡単に倒せそうな魔物もたくさんいるから周りの注意さえしっかりとしていれば、それ程危険は無い、か」
ひとまず今周りに魔物がいない状況を利用して正門前に広がっている草原での魔物達の動きを分析する。これだけの広大な土地に魔物達が跋扈しているんだ。それなら弱い魔物達が集まっている場所もあるはず……あった。でも、あそこか……。
僕が予想したとおり弱い魔物達が集まっている場所はあった。あったのだが、その場所はなんと正門前だった。
これは困ったな……。門番にバレたくは無い。けど強そうな魔物達が集まっている場所には行きたくない。そうやって考えること数分。僕は正門前で狩りをすることに決めた。変装をしているから大丈夫だと信じて。
「とりあえずあの正門前にあの魔物は見つけたからそれだけ狩って、今日は退散するか」
今日はその目的の魔物一匹を狩ってから帰ることにする。こんな強そうな魔物達が跋扈している地獄のような場所にはもう一秒たりともいたくないからね。それにだんだんと魔物達が僕がいる方に寄ってきているみたいだし……。
よし! さっさと終わらせよう!
「[ゾーン]! [ブースト]!」
[ゾーン]を使い擬似的な極限の集中状態に入る。そして[ブースト]と靴の[走力強化]を使って身体能力と走る速度を底上げする。
「はぁ!」
そして走る。[ゾーン]のおかげで走る速度を極端に上げても転ぶ心配はない。それどころか走りながら欠伸する余裕までできそうだ。そんなことを考えながら目標の魔物、ツインスネークに向かって走る。
ツインスネークとは双頭のヘビだ。その体長は二メートルを優に超え、その体は剣も通さないような頑丈な鱗で覆われている。そしてヘビといえば毒なのだが、このツインスネークは毒を持たない。その代わりエサとなる対象を巨大な体で締め付けたり、双頭を生かして対象を挟み込んで締め付けたりする。ちなみに危険度ランクは青。僕のランクより二つも上だ。
だが僕のランクより二つも上だからって僕が負けることは絶対に無い。なぜなら、この[ブースト]と[走力強化]のコンボと相性の良い新たなコンボがあるのだから。
「[剛体・腕]! [コングスマッシュ]! [神足]!」
[剛体・腕]で腕の強度を上げ、[コングスマッシュ]でパンチの威力を引き上げる。そしてさらに段階を上げたこの超スピードの助走から放たれるパンチ。とくと味わえ、青ランク!
「うおおおおおお!」
[ゾーン]により最適なタイミングで放ったその凶悪なパンチは、ツインスネークの弱点の一つである双頭の根元に的確な一撃を与えた。
「ギャルルルルル!?」
そうして僕の超威力のパンチを食らったツインスネークは吹き飛び、地面に転がり、そして絶命した。
「やば!? 飛ばすつもりはなかったのに!」
その超威力のパンチを放った本人である僕は、あの巨大ヘビが吹き飛ぶとは思っていなかったのだ。だって二メートル以上のヘビだよ? 吹っ飛ぶとか思わないじゃん。まぁ、吹っ飛んだんだけども……。
「って、驚いてないで急いで回収して帰らないと! 」
安全地帯と言っても良かったあの魔物がいなかった場所から、地獄に突入してしまった僕。その周りには様々な魔物がうようよといた。それも青ランク以上の。
「[ゾーン]![ブースト]!」
急いで走るスピードを上げ、飛んでいったツインスネークの元まで走り寄る。そしてそれを入り口をでっかく広げた[ストレージ]に収納する。血は後で回収しよう! 
そうしてその場を離脱し、壁内に入るために急いで[風撃]を打とうとしたときだった。
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