隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
57話 本と魔人
「驚かせてごめん、ネイ。これは、そうだな……[念話]? うん。[念話]っていう魔法だよ」
「[念話]? なにそれ。そんな魔法、聞いたこと無いわ」
この魔法の名前を全く考えていなかったので急遽この魔法を[念話]と名付ける。
そして僕がそういうとネイは訝しげにしながらそう言った。
それはそうだろう。なぜなら[念話]はたった今僕が作った魔法なのだから。ちなみに今ネイに話しかけたのはちゃんと僕の声がネイに届いているかの実験だったりする。無事成功したみたいで良かった。
「これは多分だけど、リトルグリーンウルフ達はこの[念話]っていう魔法を常に使っていたんだと思うんだ」
僕は人差し指をピンと立てながらネイに向かって小声で説明する。
[念話]とは相手の距離と関係なく、しかも口を開かずに自分の声を届けることができる画期的な魔法だ。
リトルグリーンウルフ達のあのタイミングが完璧に合っていた連携攻撃、死角からの攻撃を見もせずに避けてみせた芸当。それらは、リトルグリーンウルフ達がこの[念話]を常に使ったいるとしたら簡単にできただろう。
今思えばリトルグリーンウルフ達が僕の周りに包囲網を張っていた時、必ず一匹は攻撃に参加することなく、傍観者に徹していた気がする。だとしたらその傍観者に徹していたリトルグリーンウルフが仲間にこの[念話]で指示を出していたのだろう。いわゆる司令塔の役割をしていたという事だ。
そうネイに説明すると彼女はなるほどと一つ頷いた。理解が早くて助かる。流石は学園区域一の学園の入学希望者だ。
するとネイは唐突に何やら目を瞑り、眉間に皺を作ってウンウンと唸りだした。
「……どうしたの?」
「頑張って[念話]を使えるか試しているのよ」
僕がそう聞くと彼女は難しい顔をしたままそう答えた。早速挑戦しているのか。
だけど僕はそんなネイに対して悪いと思いながらも、それをネイに止めるように言う。
「ネイ、それはここではやらない方がいいよ」
「なんでよ」
すると彼女は目を半眼にし、頬をプクッと膨らましてそう言った。かわいい反応だなぁ……いや、そうじゃなくて。
「ここ、図書館だよ。魔法なんて使ったことがバレたらどれだけ罰金とられるか分からないじゃん」
図書館では魔法を使うと多額の罰金を支払わなければならない。それは本の盗難を防ぐと同時に、貴重な本への損害を考慮してのことだ。例え盗難や本への損害に一見関係無さそうな、それこそそよ風を吹かせる[ウィンド]の魔法であっても容赦なく罰っせられる。
そのため、もしネイがここで[念話]を成功させてしまったらネイは多額の借金を背負う事になるだろう。ネイの境遇を考えればそれは避けた方が良いはずだ。……いや、ネイの境遇など関係なくても避けた方がいいのだが。
そうネイに説明する。
すると、彼女は僕のことを指差してこう言ったきた。
「な、なら、ラインは大丈夫なの!? 罰金よ、罰金!」
彼女は顔を青くしながら小声で怒鳴る。
どうやら彼女は僕が図書館で魔法を使ったことに対して心配してくれているようだ。当たり前か。
「大丈夫だよ。僕は常に魔力隠蔽をしているからね。バレる事は絶対にないよ」
僕は肩を少しすくめ、ネイに平気だというアピールをする。
この図書館に入った時、僕は受付のお姉さんが図書館での魔法の利用について説明している間、試しに魔力隠蔽をして体中から魔力を放出してみた。だが、受付のお姉さんだけでなく司書の方々もそれに気づいていなかった。僕が今も図書館でこうして本を読んでいたのがその証拠だ。
「なんか……ズルい」
ネイにそれを言うと彼女はまたまた頬をプクッと膨らましてそう言った。かわいい反応だなぁ……こういったらロリコンみたいだから今度からはこういうのは避けよう。
「大丈夫。ネイも練習したらすぐに僕と同じくらいの事はできるようになるよ」
拗ねた様子を見せる彼女に笑いかけながらそう励ます。
実際に僕らは毎日寝る前にネイの魔力感知の技量を上げるために訓練をしている。僕が魔力隠蔽をした魔力をネイの体内に流し込むのだ。それを続けていれば、いつかきっと僕と同じような事ができるはずだ。
「それじゃ、リトルグリーンウルフが使っている魔法も分かったことだし、帰りましょ。早く[念話]が使えるようになりたいし」
するとネイが帰りたいと言ってきた。彼女の体も既に図書館の出入り口に向いている。だが、彼女の手には僕が気になった数冊の本がある。僕がネイの言葉に従って帰ろうか迷っていると、彼女は一つ溜め息を吐いて諦めたようにこういった。
「わかったわよ。ラインはそこらへんの机に座ってこの本を読んでいて。私も何か気になる本を持ってくるから。席、ちゃんと私の分もとっておいてよ?」
「もちろんだよ。ありがとう、ネイ」
ネイが諦めて僕のわがままに付き合ってくれることに対して感謝する。ホントによくできた七歳だ。親御さんに感謝だな。
そして僕がそういうと彼女は持っていた本を僕に渡し、スタスタとどこかへ歩いて行った。
僕も一番近くの空いている席に座り、気になっていた数冊の本を隣の空席に置く。ネイの分の席をとっておくためだ。
そして僕は早速気になっていた本の内の一冊を開いて読みはじめる。
そうやってしばらくの間本を読み進めているとネイがやってきた。隣の空席に置いていた本を机の上に移動させ、ネイが座る分の席を空ける。
「ネイは何の本を取ってきたの?」
彼女の手の中には一冊の本があった。ちょうど彼女の手が本のタイトルを隠してしまっていて、どのような本なのか分からない。なのでネイに小声で質問する。
すると僕のその質問にネイが小声で答えてくれた。
「魔法学の本よ」
彼女は簡潔に、一言小声でそう返してきた。そしてその本の表紙を僕の方に見せてくる。そこにはネイが言った通り『わかりやすい魔法学』と書かれていた。……これ、参考書じゃないですか。
「そういうラインは何の本を読んでいるの?」
ネイの勉強に対する熱心さに内心驚いていると、彼女はそう聞いてきた。
「魔人についての本だよ。最近魔人の噂をあちこちで聞くからね」
実を言えば魔人の噂はどうやら冒険者の間でしか広まっていないみたいだが、適当にそう答えておく。
するとネイは一言、そうなんだ、と言ってようやく席に座った。そしてペラペラと魔法学の参考書を捲り始める。
その様子を見て僕も再び目の前の本に目を向けた。
魔人にはいくつかの特徴がある。
まず一つ目は二本足で立ち、歩くことができる。まぁ、これは人間とおんなじだし、魔物であるゴブリンやオーク、オーガだって二本足で立っている。
そして二つ目は真っ赤な目をしていることだ。まぁ、これは魔物にも共通している。それに、色だけなら僕やネイといった一部の人間にも見られるものだ。
だがここからは違う。
三つ目の特徴は黒くて堅い大きな角がある、という点だ。本によればその角は魔力を殆ど通さないらしく、さらには魔法を弾くことがあるらしい。魔力を殆ど通さず、魔法を弾くことができる、か。ぜひともその角は欲しいな。僕の魔道具か武器にしたい。
そして四つ目は全ての魔人の肌は真っ黒だということだ。これは人間でいう日焼けの黒さとか、そのような話ではなく、とにかく夜のように真っ黒らしい。
最後に五つ目。これがいちばん厄介な特徴だ。こいつらはなんと魔石を食べるらしい。そうして魔石を体内に取り込んだ魔人はどんどん強くなっていくとのこと。
「……ふーむ。このままじゃまずいかもしれないな」
「どうしたの?」
おっと。本を読みながら考えに耽っていると、気づかない内に独り言が外に漏れてしまったようだ。
ネイに何でもないと手を振りつつ、本の続きを読んでいく。
魔人は魔石を取り込んでいくことによって強くなっていく。
なので魔人にはその強さによって位階が存在するようだ。下、つまり弱い順から最下級、下級、中級、上級、最上級といった具合に位階が存在する。
最下級と聞けばそれ程強くなさそうに聞こえるが、その最下級魔人でもその危険度は緑らしい。昨日冒険者ギルドで耳にしたアカハという人と同じランクだ。
そして最上級魔人の危険度は伝説の別称である銀ランクに匹敵するらしい。
シンリョクの森にいる魔人はここ数日間ずっと周囲の魔物を狩っていることから、今の強さは相当なものだろう。もしかしたら下級、いや中級まで成長しているかもしれない。本に書いてあることを鵜呑みにするなら、このままその魔人を放置しておけば必ず王都は危機に陥る。いや、魔人がいる時点で今も十分危機に陥っているのだが。
それはお偉いさん方も分かっているはずだ。だがその魔人を盗伐したという噂は聞かない。つまりまだ魔人は力を蓄え続けているということだ。
そしてもし王都がその魔人によって壊滅したら、それはさらに人類存亡の危機につながる。なぜならこの王都には無限に魔物が湧き続ける迷宮があるのだから。
その魔人がその迷宮を占領してしまったらその迷宮は最上級魔人製造工場と化してしまう。そうなってしまったら本当に人類は終わりだ。伝説とも呼ばれる銀ランクの最上級魔人集団が製造工場によって出来上がってしまうのだから。
このまま知らんふりをして誰かが討伐してくれる事を期待するのも一つの手だ。だけれどこれは一度魔人の様子を直接見に行ったほうが良さそうな気がする。
オハラ草原での実験から、今の僕ならシンリョクの森の奥深くまで入っても大丈夫だろうし、明日にでもネイに秘密にしてシンリョクの森に行ってみるか。そしてその魔人を倒せそうなら倒しておこう。もちろんかなわない相手なら[ゾーン]と[神足]、そして[ブースト]を全力で使って逃げるが。
その後も数冊の本を読み、隣にいるネイからの質問に答えたりして、それら全てを読み終わると図書館の閉館時間が近づいていた。持っていた本を全て本棚に戻し、図書館を出る。すると時刻は夕方。街がオレンジ一色に染まっていた。何度見てもこの夕日の染まった王都の景色は美しいと感じるな。
そうしていつまでもボーっと王都の景色を眺めている訳には行かないので、街が黒に染まってしまう前に僕達は宿に戻った。そして夕食を宿の職員さんに部屋に持ってきてもらい、それを全て食べ終えると、僕らは実験の用意を始めた。
「それは何の魔法陣を書いてるの?」
「[念話]の魔法陣だよ」
まず最初の実験の準備は[念話]の魔法陣作りから。
[念話]は声を出すことなく相手に言葉を伝えることができるという地味に便利な魔法だが、それは特定の一個人に対して使うには魔力の消費量があまりにも大きい。そのため[念話]の魔道具を作って魔力消費量を抑え、かつ、特定の一個人と話す事ができるようにしようと思う。
とは言ってもまずはリトルグリーンウルフと[念話]の相性を確かめるのが先だ。これでリトルグリーンウルフの血液がルビー色に輝いてくれたらいいのだが……。
[念話]の魔法陣を描き終え、ネイと二人で床に座る。
僕らの目の前にはトレーに入ったリトルグリーンウルフの血液と、先程僕が普通の布に描いた[念話]の魔法陣がある。
ネイがその布を血液に漬ける。
そして僕は血液の上に手をかざし、いつでも魔力を流せる準備をする。
「……いくよ」
一度ネイの方に顔を向けてそう言うと、彼女はすぐに頷いた。
それを確認してから[念話]の魔法陣に魔力注ぐ。
するとどうだろうか。
魔法陣が起動した瞬間、リトルグリーンウルフの血液がルビー色に輝いたのだ。
「やった!」
「やったわね、ライン!」
それを見て二人で手を取りながら喜ぶ。
どうやらリトルグリーンウルフと親和性が最も高いのは[念話]だったらしい。
ここまでくるのにこんなに時間がかかるとは思っていなかったよ……。でもこれで新しい魔道具が一つ作れるぞ!
「[念話]? なにそれ。そんな魔法、聞いたこと無いわ」
この魔法の名前を全く考えていなかったので急遽この魔法を[念話]と名付ける。
そして僕がそういうとネイは訝しげにしながらそう言った。
それはそうだろう。なぜなら[念話]はたった今僕が作った魔法なのだから。ちなみに今ネイに話しかけたのはちゃんと僕の声がネイに届いているかの実験だったりする。無事成功したみたいで良かった。
「これは多分だけど、リトルグリーンウルフ達はこの[念話]っていう魔法を常に使っていたんだと思うんだ」
僕は人差し指をピンと立てながらネイに向かって小声で説明する。
[念話]とは相手の距離と関係なく、しかも口を開かずに自分の声を届けることができる画期的な魔法だ。
リトルグリーンウルフ達のあのタイミングが完璧に合っていた連携攻撃、死角からの攻撃を見もせずに避けてみせた芸当。それらは、リトルグリーンウルフ達がこの[念話]を常に使ったいるとしたら簡単にできただろう。
今思えばリトルグリーンウルフ達が僕の周りに包囲網を張っていた時、必ず一匹は攻撃に参加することなく、傍観者に徹していた気がする。だとしたらその傍観者に徹していたリトルグリーンウルフが仲間にこの[念話]で指示を出していたのだろう。いわゆる司令塔の役割をしていたという事だ。
そうネイに説明すると彼女はなるほどと一つ頷いた。理解が早くて助かる。流石は学園区域一の学園の入学希望者だ。
するとネイは唐突に何やら目を瞑り、眉間に皺を作ってウンウンと唸りだした。
「……どうしたの?」
「頑張って[念話]を使えるか試しているのよ」
僕がそう聞くと彼女は難しい顔をしたままそう答えた。早速挑戦しているのか。
だけど僕はそんなネイに対して悪いと思いながらも、それをネイに止めるように言う。
「ネイ、それはここではやらない方がいいよ」
「なんでよ」
すると彼女は目を半眼にし、頬をプクッと膨らましてそう言った。かわいい反応だなぁ……いや、そうじゃなくて。
「ここ、図書館だよ。魔法なんて使ったことがバレたらどれだけ罰金とられるか分からないじゃん」
図書館では魔法を使うと多額の罰金を支払わなければならない。それは本の盗難を防ぐと同時に、貴重な本への損害を考慮してのことだ。例え盗難や本への損害に一見関係無さそうな、それこそそよ風を吹かせる[ウィンド]の魔法であっても容赦なく罰っせられる。
そのため、もしネイがここで[念話]を成功させてしまったらネイは多額の借金を背負う事になるだろう。ネイの境遇を考えればそれは避けた方が良いはずだ。……いや、ネイの境遇など関係なくても避けた方がいいのだが。
そうネイに説明する。
すると、彼女は僕のことを指差してこう言ったきた。
「な、なら、ラインは大丈夫なの!? 罰金よ、罰金!」
彼女は顔を青くしながら小声で怒鳴る。
どうやら彼女は僕が図書館で魔法を使ったことに対して心配してくれているようだ。当たり前か。
「大丈夫だよ。僕は常に魔力隠蔽をしているからね。バレる事は絶対にないよ」
僕は肩を少しすくめ、ネイに平気だというアピールをする。
この図書館に入った時、僕は受付のお姉さんが図書館での魔法の利用について説明している間、試しに魔力隠蔽をして体中から魔力を放出してみた。だが、受付のお姉さんだけでなく司書の方々もそれに気づいていなかった。僕が今も図書館でこうして本を読んでいたのがその証拠だ。
「なんか……ズルい」
ネイにそれを言うと彼女はまたまた頬をプクッと膨らましてそう言った。かわいい反応だなぁ……こういったらロリコンみたいだから今度からはこういうのは避けよう。
「大丈夫。ネイも練習したらすぐに僕と同じくらいの事はできるようになるよ」
拗ねた様子を見せる彼女に笑いかけながらそう励ます。
実際に僕らは毎日寝る前にネイの魔力感知の技量を上げるために訓練をしている。僕が魔力隠蔽をした魔力をネイの体内に流し込むのだ。それを続けていれば、いつかきっと僕と同じような事ができるはずだ。
「それじゃ、リトルグリーンウルフが使っている魔法も分かったことだし、帰りましょ。早く[念話]が使えるようになりたいし」
するとネイが帰りたいと言ってきた。彼女の体も既に図書館の出入り口に向いている。だが、彼女の手には僕が気になった数冊の本がある。僕がネイの言葉に従って帰ろうか迷っていると、彼女は一つ溜め息を吐いて諦めたようにこういった。
「わかったわよ。ラインはそこらへんの机に座ってこの本を読んでいて。私も何か気になる本を持ってくるから。席、ちゃんと私の分もとっておいてよ?」
「もちろんだよ。ありがとう、ネイ」
ネイが諦めて僕のわがままに付き合ってくれることに対して感謝する。ホントによくできた七歳だ。親御さんに感謝だな。
そして僕がそういうと彼女は持っていた本を僕に渡し、スタスタとどこかへ歩いて行った。
僕も一番近くの空いている席に座り、気になっていた数冊の本を隣の空席に置く。ネイの分の席をとっておくためだ。
そして僕は早速気になっていた本の内の一冊を開いて読みはじめる。
そうやってしばらくの間本を読み進めているとネイがやってきた。隣の空席に置いていた本を机の上に移動させ、ネイが座る分の席を空ける。
「ネイは何の本を取ってきたの?」
彼女の手の中には一冊の本があった。ちょうど彼女の手が本のタイトルを隠してしまっていて、どのような本なのか分からない。なのでネイに小声で質問する。
すると僕のその質問にネイが小声で答えてくれた。
「魔法学の本よ」
彼女は簡潔に、一言小声でそう返してきた。そしてその本の表紙を僕の方に見せてくる。そこにはネイが言った通り『わかりやすい魔法学』と書かれていた。……これ、参考書じゃないですか。
「そういうラインは何の本を読んでいるの?」
ネイの勉強に対する熱心さに内心驚いていると、彼女はそう聞いてきた。
「魔人についての本だよ。最近魔人の噂をあちこちで聞くからね」
実を言えば魔人の噂はどうやら冒険者の間でしか広まっていないみたいだが、適当にそう答えておく。
するとネイは一言、そうなんだ、と言ってようやく席に座った。そしてペラペラと魔法学の参考書を捲り始める。
その様子を見て僕も再び目の前の本に目を向けた。
魔人にはいくつかの特徴がある。
まず一つ目は二本足で立ち、歩くことができる。まぁ、これは人間とおんなじだし、魔物であるゴブリンやオーク、オーガだって二本足で立っている。
そして二つ目は真っ赤な目をしていることだ。まぁ、これは魔物にも共通している。それに、色だけなら僕やネイといった一部の人間にも見られるものだ。
だがここからは違う。
三つ目の特徴は黒くて堅い大きな角がある、という点だ。本によればその角は魔力を殆ど通さないらしく、さらには魔法を弾くことがあるらしい。魔力を殆ど通さず、魔法を弾くことができる、か。ぜひともその角は欲しいな。僕の魔道具か武器にしたい。
そして四つ目は全ての魔人の肌は真っ黒だということだ。これは人間でいう日焼けの黒さとか、そのような話ではなく、とにかく夜のように真っ黒らしい。
最後に五つ目。これがいちばん厄介な特徴だ。こいつらはなんと魔石を食べるらしい。そうして魔石を体内に取り込んだ魔人はどんどん強くなっていくとのこと。
「……ふーむ。このままじゃまずいかもしれないな」
「どうしたの?」
おっと。本を読みながら考えに耽っていると、気づかない内に独り言が外に漏れてしまったようだ。
ネイに何でもないと手を振りつつ、本の続きを読んでいく。
魔人は魔石を取り込んでいくことによって強くなっていく。
なので魔人にはその強さによって位階が存在するようだ。下、つまり弱い順から最下級、下級、中級、上級、最上級といった具合に位階が存在する。
最下級と聞けばそれ程強くなさそうに聞こえるが、その最下級魔人でもその危険度は緑らしい。昨日冒険者ギルドで耳にしたアカハという人と同じランクだ。
そして最上級魔人の危険度は伝説の別称である銀ランクに匹敵するらしい。
シンリョクの森にいる魔人はここ数日間ずっと周囲の魔物を狩っていることから、今の強さは相当なものだろう。もしかしたら下級、いや中級まで成長しているかもしれない。本に書いてあることを鵜呑みにするなら、このままその魔人を放置しておけば必ず王都は危機に陥る。いや、魔人がいる時点で今も十分危機に陥っているのだが。
それはお偉いさん方も分かっているはずだ。だがその魔人を盗伐したという噂は聞かない。つまりまだ魔人は力を蓄え続けているということだ。
そしてもし王都がその魔人によって壊滅したら、それはさらに人類存亡の危機につながる。なぜならこの王都には無限に魔物が湧き続ける迷宮があるのだから。
その魔人がその迷宮を占領してしまったらその迷宮は最上級魔人製造工場と化してしまう。そうなってしまったら本当に人類は終わりだ。伝説とも呼ばれる銀ランクの最上級魔人集団が製造工場によって出来上がってしまうのだから。
このまま知らんふりをして誰かが討伐してくれる事を期待するのも一つの手だ。だけれどこれは一度魔人の様子を直接見に行ったほうが良さそうな気がする。
オハラ草原での実験から、今の僕ならシンリョクの森の奥深くまで入っても大丈夫だろうし、明日にでもネイに秘密にしてシンリョクの森に行ってみるか。そしてその魔人を倒せそうなら倒しておこう。もちろんかなわない相手なら[ゾーン]と[神足]、そして[ブースト]を全力で使って逃げるが。
その後も数冊の本を読み、隣にいるネイからの質問に答えたりして、それら全てを読み終わると図書館の閉館時間が近づいていた。持っていた本を全て本棚に戻し、図書館を出る。すると時刻は夕方。街がオレンジ一色に染まっていた。何度見てもこの夕日の染まった王都の景色は美しいと感じるな。
そうしていつまでもボーっと王都の景色を眺めている訳には行かないので、街が黒に染まってしまう前に僕達は宿に戻った。そして夕食を宿の職員さんに部屋に持ってきてもらい、それを全て食べ終えると、僕らは実験の用意を始めた。
「それは何の魔法陣を書いてるの?」
「[念話]の魔法陣だよ」
まず最初の実験の準備は[念話]の魔法陣作りから。
[念話]は声を出すことなく相手に言葉を伝えることができるという地味に便利な魔法だが、それは特定の一個人に対して使うには魔力の消費量があまりにも大きい。そのため[念話]の魔道具を作って魔力消費量を抑え、かつ、特定の一個人と話す事ができるようにしようと思う。
とは言ってもまずはリトルグリーンウルフと[念話]の相性を確かめるのが先だ。これでリトルグリーンウルフの血液がルビー色に輝いてくれたらいいのだが……。
[念話]の魔法陣を描き終え、ネイと二人で床に座る。
僕らの目の前にはトレーに入ったリトルグリーンウルフの血液と、先程僕が普通の布に描いた[念話]の魔法陣がある。
ネイがその布を血液に漬ける。
そして僕は血液の上に手をかざし、いつでも魔力を流せる準備をする。
「……いくよ」
一度ネイの方に顔を向けてそう言うと、彼女はすぐに頷いた。
それを確認してから[念話]の魔法陣に魔力注ぐ。
するとどうだろうか。
魔法陣が起動した瞬間、リトルグリーンウルフの血液がルビー色に輝いたのだ。
「やった!」
「やったわね、ライン!」
それを見て二人で手を取りながら喜ぶ。
どうやらリトルグリーンウルフと親和性が最も高いのは[念話]だったらしい。
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