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隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

45話 眼帯と白馬亭

「どうした? 早く見せろ」






 そう言われてもネイはネックレスを手放そうとしない。
 僕はネイの方を見て首を横に振る。もうだめだ諦めよう、と。






「おい! いつまでそうしている! 早く見せろ!」






 受付の兵士の声が段々荒っぽくてなっていく。周りの兵士も何やら腰の剣に手をかけたり、僕らをジリジリと包囲しようとしている。
 ……ここまで紅眼の扱いは酷いのか。
 そう思った直後、ついに受付の兵士は立ち上がり、こちらに手を伸ばしてきた。






「おい! 聞いているのか! 早く見せろと言っているんだ!」






 兵士はそう怒鳴りながら、その手をネイのネックレスに……ではなく僕の肩に置いてきた。
 ……へ?






「お前に言っているんだ! 聞いてるのか!」






「え? あ。……え? 僕?」






 思いも寄らない指名に思わず兵士の顔とネイの顔を往復してしまう。
 ……何故ネイじゃなくて僕なの? という心の声と共に。






「おまえ以外に誰が眼を隠しているんだ?」






 そう言われて気づいた。
 ネイはなにも知らない人から見たらただのネックレスを着けている子供なのだ。それに対して僕は眼帯を着けて眼を隠している。紅眼を弾くなら当然僕が怪しまれても仕方ない……のか?
 まぁ、いいや。
 眼帯をずらし、その下を兵士に見せる。[ミラージュ]でグロテスクな感じにしておいたから、それを見た兵士は若干顔をしかめながらも通行の許可をくれた。






「すまない。それを見せないために眼を隠していたんだな……。よし。もう行ってもいいぞ」






「いえ、気にしないでください。ありがとうございます」






 その兵士は僕に一言謝り、王都に入る許可をくれた。
 そして王都に入る……前に先程の兵士達の行動が気にかかったので、一度ネイから離れ、近くにいる適当な兵士を捕まえていくつか質問する。






「すいません。先程のことで少しお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか」






「なんだ?」






 この兵士は先程僕が眼帯をとらなかった時に、剣に手をかけていた兵士だ。この兵士なら何か知っているだろうと思い詰め寄る。






「なぜ自分は眼帯を着けているだけであれだけ怪しまれたのでしょうか?」






「さぁな。知らん」






「そうですか。ではお仕事がんばってください」






 一瞬で白を切られたのでそれ以上追求せずに退散する。
 少なくとも何かを知っているがそれを喋らないようにしているのは確実だな。そしてそれはネイのことと、僕が眼帯を取らされたことから、紅眼に関係するものとみた。ならばーー






「ライン、どうしたの? 急に何か考え事をしたみたいだけど」






「あぁ、いや、さっき何故あれだけ怪しまれたのかを考えていたんだよ」






「ふーん。何かわかった?」






「いや、何も分からなかった」






 まだこれは仮説の域を出ていないため、下手にネイに話さない方が良いだろう。
 それよりこれからどうするのかネイと話し合わないと。






「ネイはこれからどうする? 僕は宿を取ろうと思うんだけど」






 時刻は夕方。既に空がオレンジ色になっている。早く宿を取らないと今日の寝床が無くなってしまう。






「もう夕方だもんね。それならあたしもラインと同じ宿にするわ」






「……わかった」






 これから僕が行く宿は貴族や裕福な商人が使っている宿だ。事前に父さんと母さんからその宿以外の宿には泊まるなと言われている。簡単な地図までわざわざ持たせてくれた。
 そのためネイがそこに泊まれるのかと思ったが、盗賊団を壊滅させたおかげで懐は潤っているから大丈夫だろう。
 ……あ、でも、お金とか宝石は全部実家に仕送りにするつもりだって言ってたな。
 まぁ、それなら僕がネイの分を出せばいいか。今の僕にはお金なんて自分で調達できるし、今のところ何かを買うつもりも無いからね。それに盗賊からもらったお金がたんまりあるし、問題ない。






「[ストレージ]。じゃあ、ネイ。これを着ていて」






 そう言って僕が[ストレージ]から取り出したのは真っ黒なローブだ。当然子供サイズである。






「いいけど……。なんでローブ?」






「まぁ、そのうちわかるよ」






 ネイにローブを着せる。
 うん。これでネイが貧乏だと外見からは判断できなくなったな。これなら僕が泊まる宿もネイを快く受け入れてくれるだろう。






「じゃあ、宿に行こうか」






 そう言って僕はネイの手を取る。
 念のためにお互いはぐれないようにするためだ。
 そんな様子を端から見れば可愛らしいのか、街中で僕たちに向けられている視線は全てが暖かいものだった。




 そうして子供の足で一時間程歩くと、周りには鎧を着た騎士が巡回していたり、何やら高そうな服を来たおばさま方がチラホラと目立つようになってきた。






「ね、ねぇ、ライン。なんだか凄い高貴な人がたくさんいるみたいなんだけど、大丈夫? 場違い感がすごいよ……?」






 ネイが顔を寄せ、小声でそう聞いてきた。どうやら周りの景色に圧倒されているらしい。ひっきりなしに周りをキョロキョロしている。






「大丈夫だよ。僕らが泊まる宿はもう少しで着くはずだから」






 彼女を安心させるために笑顔でそう答える。実は僕は心の中で、宿に着いた時にネイがどんな反応をするのか楽しみにしているのだが、それは言わない。




 そうしてしばらく歩いていると、ようやく目的の宿屋が見えてきた。






「ネイ、宿屋が見えてきた。あれだよ」






 そう言って僕が指で指し示す先には、清潔感溢れた真っ白な建物が。名前は白馬亭。その名に相応しい白さを誇る美しい宿だ。
 そのあまりにも綺麗な建物に内心驚きながらも、ネイの手を引きながら歩いていると、急にその抵抗が大きくなった。
 振り返ってみると、ネイは青い顔をして首をブンブンと横に振っている。






「ライン! ダメよ、あんな宿に入っちゃ! あそこはきっと、お貴族様や大商人の人が泊まるような宿よ! 絶対にダメ!」






 ネイは器用なことに、小声で怒鳴りながら僕を説得してくる。そして今すぐにでも来た道を引き返そうと僕の袖をグイグイと引っ張ってくる。
 たしかにネイの推測通りあの宿は貴族や大商人が泊まるような宿だ。当然、今もあの宿の中には有名な貴族や大商人が部屋を取っているだろう。
 だが、そんなことは関係ない。






「大丈夫、安心して、ネイ。僕らならあそこに泊まっても大丈夫だから」






「それってどういう……ま、まさか……!?」






 ネイは疑問をぶつける前に自分で答えにたどり着いたようだ。その通りだよ、という意味を込めて僕はゆっくりと頷く。






「まさか……ラインは大商人の息子なのね!?」






 思わずずっこけそうになった。
 たしかにそっちの選択肢もあるけど!
 そこは当てて欲しかった!




 姿勢を正しておっほんと一つ咳払い。そしてゆっくりと僕は口を開く。






「今まで隠していてごめん。実は僕、貴族なんだ」






 真正面からネイの顔を見て、今まで隠していた事実を告白する。ついでに[ストレージ]から貴族位を示す家紋をとり出す。
 すると彼女は固まった。
 僕らの間に沈黙が落ちる。
 てっきり彼女は何かしらの反応を返してくれると思っていた。なのでどんな反応が返ってこようともリカバリーできるように脳内でシュミレーションもした。だけど何の反応も返ってこないのは予想外だ。
 不安が僕の中に徐々に、徐々に……しかし確実に広がっていく。
 すると彼女はようやく反応を示した。






「え、えぇ!?」






 彼女が固まっていたのは、実際には数秒間だっただろう。だけど僕にはその時間は数分間に感じた。
 そしてようやく反応を返してくれてホッとすると同時に、今度は、ネイに嫌われないか? という新たな不安が心を埋め尽くす。






「え、えっと、とりあえず、あ、あたしなんかがラインからネックレスを貰っても良かったの、かな?」






 もしかしたら嫌われるかもしれない。
 そんな思いを抱いていた僕の予想と異なり、彼女が発したのは全く見当違いの言葉だった。
 ……いや、なんでここでネックレスが出て来るんだよ!
 そう内心で突っ込みながらも、とりあえずネイに嫌われたわけではないと分かり安堵する。






「ネックレスは貰っても良いんだよ。それは僕がネイ専用の物として作ったんだから。あ、それと今まで通り接してね。変に畏まられるのは苦手なんだ」






「……わかったわ」






 ネイに嫌われたわけではないと分かったからだろうか。何時もの調子がすぐに戻って来た。
 わかったと言いながらも、まだネックレスのことを心配するネイの手を再びとり、僕らは宿屋に向かう。






「ね、ねぇ、ライン? いくらラインがお貴族様だからといって、貧乏なあたしなんかがあの宿に入って大丈夫かな? あたしだけ追い出されたりしたらどうしよう?」






「大丈夫だよ。今のネイはローブを着ているおかげで外見からは貧乏だって分からないし。もしネイだけ追い出されたら僕もネイと一緒に宿を出るよ」






「本当?」






「うん。本当」






 ネイはそれで安心したのか先程までのように僕に引っ張られるのではなく、横に並んで一緒に歩きだした。






「ありがと」






 そんな呟きと共に。






◇◆◇◆◇◆






「すいません。二人部屋で二ヶ月、お願いします」






 宿に入るなり受付でお金を置き、手短に要点を伝える。
 こちらにはローブで身を隠したネイがいるのだ。なるべくその話題に触れられたくないので、必要最低限のこと以外は喋らず、さっさと要件を済ます。






「承知しました。ではこちらへどうぞ」






 受付の人も何かを察してくれたのか、ローブを着て周りをキョロキョロしているネイを、一度見ただけで案内をしてくれた。どうやら追い出されずに済んだようだ。ホッと安堵する。




 僕の手をぎゅっと掴みながら歩くネイを連れて、部屋まで先導してくれる受付の人に続く。
 その間にこの宿の事を、その人が詳細に説明してくれた。






「こちらのお部屋になります。どうぞごゆっくりおくつろぎください」






 そして部屋の扉の前に着くと、受付の人はそう言って来た道を引き返していった。なかなか気が利く人だったな。
 そんな感想を抱きつつ、いまだに僕の手を握っているネイに話しかける。






「ネイ、もう部屋に着いたから大丈夫だよ」






「う、うん」






 扉を開け、僕が先に中に入る。
 中にはピッタリと並んだ二つのベッドに、綺麗な装飾がなされた魔道ランプ、さらには食べ物や飲み物を冷やすことのできる魔道冷蔵庫までもあった。他にも見たこともない豪華な魔道具が点々と存在している。どれも高価な物ばかりだ。
 すぐさま部屋の中に入る。






「ほうほう。なるほど。ここがこうなって、それでここがこうなっているのか。なるほど、なるほどーー」






 めったに触れない魔道具たち。それらの構造を隅から隅まで調べる。
 魔法陣に詳しくなったとしても、魔道具については実はそれほど詳しくない。そのため実際にこうして構造を調べることで、今後自分で作る魔道具の質を高めようとしているのだ。






「ね、ねぇ、ライン? 高そうな魔道具にそんなにぺたぺた触らない方が良いんじゃない? 何かの拍子に壊れたりするかもしれないわよ?」






 そうやって様々な魔道具を調べているとネイが後ろから声をかけてきた。






「ネイ。僕がこれらの魔道具を調べているのは同じものを、いや、より凄い魔道具を作れるようになるためなんだ。だから今この魔道具達を壊してしまっても、その構造さえ分かればそれでいいんだ」






 壊してしまったら罰金で済むだろう。それだけで済むのなら、将来の投資と思えば懐は痛くない。だから僕は容赦なく、見たこともない魔道具達を次々に分解していく。






「……ところで、ネイ。早く部屋に入ったら?」






 何気なく部屋の入り口の方を見ると、ネイはドアを開けた入り口の前で、突っ立ったままそこから動いていなかった。






「う、うん。お邪魔します……」






 ソロリソロリ。そんな擬音語が似合うような歩きでネイが部屋に足を踏み入れる。そんなに慎重にならなくてもいいのにな。
 そんなことを考えながら彼女の動きを見ていると、先程彼女が開いていたドアが閉まった。




 パタン、という音と共に。






「ひゃあ!」






 勢いよく後ろを振り返るネイ。
 ドアが閉まる音だけでそこまで驚かなくてもいいのに……。






「……とりあえずベッドの上に座ったら?」






「うん。そうする」






 僕の提案に即答した彼女は、器用にも足音すら響かせない忍び足で早歩きをしながらベッドの上にちょこんと座った。






「あ、そうだ。[ストレージ]。ネイ、僕ので悪いけど、この服に着替えておいて」






 僕は[ストレージ]から汚れていない新しい服を取り出してネイに手渡す。今のネイが着ている継ぎ接ぎだらけの服だと、ローブを着ない限りこの宿に出入りできない可能性がある。そのためネイには僕の服を着てもらわないといけない。ネイは僕より小柄だから余裕で僕の服を着ることができるだろう。






「わかったわ。だけどあたしが着替えている間は向こう向いてて! 絶対こっちを見ないでね!」






「わかってるよ」






 その後は寝るまで、僕は魔道具を分解してその構造を調べ、ネイはスライム紙で魔力操作の訓練をしながら過ごした。






 そして王都に到着してから二日目の朝。
 僕らは太陽が登る直前に宿を出た。

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