隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

40話 襲撃開始と強者

 右手を上げ、三人の盗賊達に狙いを定める。
 そして、発現させる魔法のイメージを頭の中で組み立てる。これから行うのは新たな魔法の開発だ。この状況に合った魔法を作り出す。




 色は水色。
 形は円。
 性質は水。
 大きさは……直径二メートル程でいいか。
 そして、イメージは丸の子。






「名付けて……[水刃斬撃]!」






 目にも止まらぬ早さで高速回転する円形の水。
 それはもはや普通の水ではなく、水の刃と言うのが正しい程の威力を秘めている。
 更に言えばその水の刃には魔力を過剰につぎ込んだ。
 そうすることによって飛翔スピードや威力が段違いに上がるのだ。
 その凶悪な水の刃を盗賊達の首に向かって放つ。






「お、おい! あれはなんだ!?」






 すると盗賊の内の一人が向かってくる水の刃に気がついたようだ。
 だが気づいたからと言って結果は何も変わらない。
 避ける時間ももはやない。
 盗賊もそれに気付いたのだろう。
 一番始めに水の刃に気づいた男は腕を交差させ、防御の構えを取った。






「うわ! なんだこれ!?」






 一番に気づいた男が防御の構えを取った直後、二人目の男が水の刃に気がついた。
 彼も避ける時間が無いと思ったのだろう。
 腕を交差させ防御の構えを取った。
 そこまでは最初の男と同じだったが、彼はそれだけではなく後ろに飛んだ。
 少しでも受ける威力を和らげるためだろう。






「なんだぁ!? こんなもの!」






 そこでようやく最後の男、仲間がやられて怒っていた男が水の刃が自分達に迫っていることに気がついた。
 だがこの男は先の二人とは違い、水の刃を上から叩きつけようと腕を振り上げ、そして下ろした。
 男はそれで迎撃できると思ったのだろう。
 だが、その見通しは甘い。
 僕が作った[水刃斬撃]が、ただの叩きつけで止められる筈がない。




 男が振り下ろした腕は水の刃に触れた所から容赦なく切断され、やがて肉を断ち、骨をも断った。
 その瞬間、男は驚いた顔を浮かべたがそれも一瞬だけ。
 なぜなら次の瞬間には水の刃が男の首を切断していたのだから。
 その時、首を切断された男の後ろにいた男達は何を思い、何を感じ、何を叫ぼうとしたのだろうか。
 少なくとも僕がそう考えた頃には既に、水の刃が残りの二人の首を飛ばしていた。
 腕を交差させ防御しようと、後ろに飛んで衝撃を減らそうと、迎撃しようと関係ない。




 三本の血柱が天に向かって勢いよく吹き上がる。その様子を見ても今の僕には何の感情も浮かび上がってこない。ただこう思っただけだ。
(ゴブリンより勢いよく吹き上がったな)
 やはりゴブリンを狩りすぎたからだろうか。人間がこんな風になっても、考えることはゴブリンを狩った時とあまり変わらなかった。




三人の首を切断した[水刃斬撃]を霧散させ、立ち上がる。そして隣にいたネイを見ると、驚いたことに彼女の顔には恐怖や嫌悪といった感情が見られなかった。あるのは驚愕、それだけである。






「……じゃあ、僕はちょっと行ってくるからここで待ってて。すぐに戻るから」






「あ、ちょっ……」
 





 ネイが僕を呼び止めようとしてきたが、今の状況を理解しているのか途中でその言葉を飲み込んだ。僕も走り出していたので一瞬だけ振り返り、その様子を確認してから再び前を向く。
 洞窟の直ぐ横まで来ると、魔力探知を使って盗賊達が洞窟から出てこない事を確認する。[水刃斬撃]を使う直前に一度魔力探知を使って周囲を調べたが、やつらは奥の方に固まっていて余り動いていない。何をしているかは分からないが僕らにとっては好都合だ。
 [ストレージ]から魔力発煙弾を、そうだな……五つでいいか。五つ取り出す。そしてこれらを……おっと、これを投げ込む前に発声練習しなきゃ。






「あ、あ、あ、あー……あー。よし、初めてにしては上手くできたぞ」






 音は空気が振動することによって伝わっていく。その振動の仕方を変えることによって子供特有の高い声を大人の男性の声に変えることができる。
 より正確に言えば音の高さは一秒辺り何回空気が振動するか、つまり周波数によって決まっている。そして高い音は周波数が高く、低い音は周波数が低い。




 このことから僕は自分の口から出た声の周波数を魔法を使うことで無理矢理低くして大人の男性の声を再現した。
 この魔法を[万声変化]と名付けよう。




 [万声変化]を使い準備を整えた僕は洞窟の入り口に立ち、持っている魔力発煙弾を全て中に投げ込んだ。もちろん投げる直前に起動させている。
 そして投げ入れてから十秒数えると、五つの魔力発煙弾から白くて濃い煙が一斉に吹き出た。それを確認してから僕は野太い声で洞窟の中に向かって大声で叫ぶ。






「火事だー! 逃げろー!」






 そう二言叫んでから僕はダッシュでネイの元まで戻る。すると洞窟の中から慌てた声が次々に聞こえてきた。






「な!? 火事だと!? 早く外に出ろ! 死ぬぞ!」






「痛ぇ! おい! 押すなよ!」






「うっせぇ! 早く行けよ! 死にのか!」






「煙で前が見えないんだよ! 痛ぇ! だから押すなって!」






  おー、声だけ聞いても慌てているのが分かりますなぁ。フフフ、作戦通り。後は簡単な作業だけだ。






「これで盗賊達が次々に外に出てくるはずだから、それを片っ端から攻撃していこう。あ、なるべく火属性の魔法で攻撃してね」






「分かったわ」






 火属性の魔法で攻撃するよう指示したのは、盗賊達に伝えた内容が火事だからだ。ならば人が焼ける臭いを起こさせる方がよりリアルに思いこませることができる。
 するとすぐに盗賊達が次から次へと外に出てきた。狙い通りだ。それを二人で出てきた順番に倒していく。






「[ファイアーボール]!」






「[炎弾]!」






「熱い! 熱いいいいいい!」






「グペッ」






 ネイの[ファイアーボール]が敵を火達磨にし、僕の[炎弾]が敵の頭を爆散させる。
 ネイの[ファイアーボール]の威力を見る限り、彼女の実力はなかなかの物だ。少なくとも僕が[ファイアーボール]を普通に使った時に近しい威力が出ている。




 そうして数分程ネイの実力を分析しながら盗賊をやっつけていると洞窟の中から野太い声が聞こえてきた。






「一旦落ち着けてめぇら! 煙は[ゲイル]で外に出せ! 火がついてるところは[ウォーター]で消火しろ!」






『へい!』






 ……あ、やばいかも。
 魔法で対処される場合を考えて無かった……。
 うーむ。火がついてない事がバレるのはもう少し時間がかかるはず。魔力発煙弾は魔石が底をつくまで煙を出し続けるから、これもバレるのはもう少し時間がかかる、か。
 よし、作戦変更だ。






「ネイ、これから僕は洞窟に乗り込んで、できるだけ多くの敵をやっつけてくる。ネイはこのままここに残って出てきた盗賊達を倒しておいて。無理はしないでね。じゃ、ちょっと行ってくるよ。[ストレージ]」






「あ、ちょっと!」






 ネイに一方的に告げると、僕は[ストレージ]から剣を取り出し、洞窟に向かう。一方的に告げたのは、こうしないとネイが反対すると分かっていたからだ。実際、僕が初めにアジトに乗り込むと言ったときはすぐに反対してきたからね。






「な!? なんでガキがこんなところに! ぐあ!」






 洞窟の入り口に入ってすぐの所に盗賊がいたので、相手が驚いている隙に切る。今の奴は煙を外に出していたやつか。ここだけ煙が不自然に薄いから多分そうなのだろう。
 そこでふと気づいたことがある。
 煙は洞窟の中に蔓延しているが、それは上半分だけだ。下半分は殆ど煙がきていない。これなら子供の身長を生かして煙に紛れながら盗賊に攻撃できるんじゃないか?
 魔力探知を使い、一番近くにいる敵を探してそこに向かう。






「[ゲイル]! [ゲイル]! [ゲイル]! ……くそっ! 全然煙が無くならねぇな!」






 洞窟の入り口に一番近い角を曲がると、そこにも一人煙を外に出そうとしている奴がいた。しかしそいつは顔が洞窟の上半分、つまり煙の中にあるため周りが見えないのか、洞窟の奥に向かって必死に[ゲイル]を放っていた。端から見ると滑稽だな。
 そんなことを思いながら、姿勢を低くしてその男に忍び寄る。僕の顔は洞窟の下半分、つまり煙が殆ど無い位置まで下げているので、男がどこにいるのか丸分かりなのだ。
 そして剣が届く範囲まで近づくとジャンプして背後から攻撃する。






「[ストライク]!」






「がぁ!?」






 心臓を狙っての一突き。
 手応えを感じ、剣を男の体から抜くと男は地面に倒れ伏した。よし。次だ。




 この洞窟に住んでいる盗賊達は皆大人で、僕程背が低くない。そのため出会った敵の顔全てが煙の中にあった。つまり盗賊達は煙に視界が遮られ、周りが見えない状態だったのだ。よって奇襲は大した苦労もせず、楽々成功した。




 そうして奇襲を繰り返すこと数分。敵との遭遇回数が減り、ついには周りを見渡しても盗賊達が見当たらなくなった。洞窟の中を走り回り、結構な数の敵を倒したから、もしかしたら全て倒したのかもしれない。
 それにもうそろそろ魔力発煙弾の魔石も底をつく頃だろう。一旦ネイの下に戻るか。
 そう思い、来た道を引き返そうと背中を向けた瞬間だった。背後から野太い声が聞こえてきたのは。






「[ストーム]」






「くっ!」






 ビュオオオオ、と。
 背後から突如強烈な突風が襲いかかってきた。
 咄嗟に振り返り、飛ばされないように地面に手をついて四つん這いになる。
 それでも獰猛な風には耐えきれない。
 最初は左手、そして右手、最後に両足、と。
 地面から離れ、吹き飛ばされてしまう。
 手足を必死に伸ばし、洞窟の地面に、壁に、とにかく掴めそうな物に手を伸ばす。
 だが届かず、遂には十メートル程後ろにあったT字路の壁に背中から叩きつけられてしまう。






「がはっ!」






 肺から空気が無理矢理外に押し出され、一瞬呼吸が出来なくなる。
 そしてそのままズルズルと地面に落ちるかと思われた。
 だが何者かが放った風が強すぎて壁に磔にされてしまった。
 そして次の瞬間、僕が飛んできた通路の先から、大小様々な石が風に乗って飛んできているのが見えた。






「っ!? [ブースト]!」






 とっさに[ブースト]を使って壁を蹴り、左横の道に避難する。
 その直後、背後から壁に叩きつけられた石の雨の音が聞こえた。
 洞窟の中は危険だと判断し、急いで洞窟の外に向かって走る。




 [ストーム]は相手の至近距離で発動しない限り人が吹き飛ぶほどの威力は出ない。先程僕が[ストーム]で吹き飛んだのは、僕の体重が軽いせいもあるかもしれないが、一番の原因は洞窟の中だったことだろう。本来ならばほぼ全方向に向かって放たれるはずの風が、洞窟という周りが囲まれた場所で[ストーム]を使ったことによって指向性を得、より強力な風を生み出したのだ。
 僕の[風撃]を洞窟の中限定で再現したようなものだ。




 だから僕は洞窟の中での戦闘は危険と判断し、外に出た。






「ライン、そんなに急いでどうしたの?」






 外に出ると分厚い雲が空を覆い一雨来そうな天気になっていた。さっきまでは晴れていたんだけどな……。
 視線を下にむけると盗賊達の死体がゴロゴロと転がっている。ネイが倒した盗賊達だ。
 すると僕が出てきたことに気づいたネイが草むらからひょっこりと顔を出した。






「ネイ、これから出てくる奴はそこらへんに転がっている奴らより確実に強い。これから戦闘になるから、それが終わるまでそこで隠れていて」






「……わかったわ」






 先程[ストーム]を放った術者を、吹き飛ばされる直前に見た。それはほんの一瞬だけだったが、少なくともネイよりは絶対に強い。もしかしたら僕よりも強いかもしれない。そう言えるだけの風格はあった。






「なんだぁ? 血の臭いが濃い方に来たら、ただのガキじゃねぇか」






 僕がネイにそう指示を出した直後、洞窟の奥からそんな声と共に奴が出てきた。




 ロープを何本も束ねたような太い足。
 野球のグローブのように分厚い手。
 丸太のように太い腕。
 身長は百七十センチ以上は絶対にある。
 そして血のような真っ赤な髪に獣のような獰猛な顔つき。




 こいつがさっき僕を飛ばした張本人だ。

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