隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
35話 両親と進学
「では、食べようか」
「はい」
「……はーい」
父さんの言葉をきっかけに僕達は夕飯を食べ始める。
そう。僕じゃなくて父さんが、だ。
実は三ヶ月程前に、両親が何の前触れも無く家に帰ってきたのだ。
今までは何やら大きな仕事があってなかなか家に帰れなかったらしいが、つい三ヶ月程前にその仕事が終わったみたいだ。
そしたら両親は僕に手紙も寄越さず、直ぐに帰ってきた。
これだけ聞くと
(それだけ辛い仕事だったんだろうな……)
と思ったのだが、すぐに帰ってきた理由が一刻も早く僕に合いたかったから、らしい。親バカである。
そんな両親を持つ僕だが、正直未だに慣れない所がある。
例えば、今の状況もそうだ。これまで僕はアンナとサーシャと三人で卓を囲んでいた。なので両親と僕という構成は三ヶ月経った今でもなかなか慣れない。
他には就寝前に母さんが僕の横に寝転がり、何かしらの物語を呼んでくれる、とか。朝のランニングをしていると父さんがニコニコして見守っている、とか。
父さんと母さんが帰ってきてから僕の生活リズムは乱れてはいないが、どこか調子が狂うのだ。
……まぁ、『記憶』にも両親と暮らしていた生活は殆ど無いし、僕がこちらにきてからもしばらくの間は合っていなかったから、調子が狂うのも仕方ないのかもしれない。そう思うことにしよう。
ちなみにアンナとサーシャは僕がこの世界に来る前の生活を送っている。ご飯くらい一緒に食べればいいのに。まぁ二人が全力で拒否していたから無理矢理させる訳にはいかないか。
「そうだ。ライン、この後父さんの部屋に来なさい。大事な話がある」
 
「わかったよ、父さん」
熱々のスープを冷ましながら少しずつ飲んでいると、父さんに話しかけられた。
大事な話って何だろうか。父さんの顔を見る限り怒ってはいないみたい。少なくともお説教ではなさそうだな。いや、お説教される心当たりなど全く無いが。
ま、今考えなくても後で分かる事か。怒られるわけじゃ無いみたいだし気楽に構えておこう。
晩御飯を食べ終わった後は一旦部屋に戻り、汚れ一つ無い綺麗な服に着替える。この後はいつもはベッドの上で魔力操作の訓練をしてから、母さんの物語を聞きながら寝るのだが、今日は父さんから呼び出された。なので魔力操作の訓練は無しだ。
でも正直なところ、少しでも魔力操作の訓練がしたい。日々の努力は馬鹿にできないからね。
なので早く重要な話とやらを終わらせるために、着替え終わったら早速父さんの執務室に向かう。
思えば父さんの執務室は一度も入った事が無いな。一体どんな部屋なんだろうか。
ちょっとだけワクワクしながら執務室のドアをコンコンとノックする。
「どうぞ」
中から父さんの声が返ってきた。
ドアの取っ手をつかみ中に入る。
一番最初に目に付いたのは、横に大きな木製の執務机だ。年期が入っているみたいで、角が所々削れて丸くなっている。その机がドアの正面奥にあるから一番最初に目についた。
次に目に入ったのはその執務机の前に置かれている木でできた、来客が来た際の対談用の椅子と机だ。こちらは執務机と違ってまだ新しいのか、天井に取り付けられている魔道ランプの光を反射している。
そして最後に目に入ってきたのは、執務机の横に位置する壁際に、デンと置かれている本棚だ。そこには領地の運営に関する資料が並べられているみたいだ。
そんな父さんは母さんと対談用の椅子に並んで腰掛けていた。母さんもいるのか。てことはこれから話す内容はそれだけ重要な話ということなのかな。
「お待たせ。母さんもいるんだね」
軽く挨拶して父さんと母さんの正面に座る。すると早速父さんが話を切り出してきた。
「ライン。早速で悪いけど、重要な話と言うのはこれの事なんだ」
そう言って父さんは一度立ち上がり、執務机の上に置いてあった一つの封筒をこちらに手渡してきた。受け取ったときの感触からして何やら少し分厚い長方形の物が入っているようだ。
父さんが再び椅子に座ったので、これが何なのか説明してもらう意味も込めてジッと見る。すると父さんは一度封筒を指差しニッコリと笑った。
どうやら説明を聞く前に、封筒の中を確認しろということらしい。
その意に従い封筒を開ける。すると中から冊子のような物が出てきた。
「……なにこれ?」
表には学校紹介と書かれている。その冊子を手に取り、パラパラとページを捲り軽く目を通す。中身はそのタイトル通り、学園を紹介しているページばかりだ。
……うん。だいたい父さんと母さんが何を言いたいのか大体察しがついた。
「ラインももうじき七歳になるからね。七歳になると学校に行けるようになるんだ。けど学校と言っても、その冊子を見たら分かる通り沢山ある。だからラインがどの学校に通いたいか聞かせてもらおうと思ってね」
この国の王都には、現存する全ての学校が集まる学園区域というものがある。そこでは下は七歳から上は十九歳までの生徒達がおり、その数はなんとこの国の人口の三割を超える。
そんな学園区域は区域といっても、それだけの人数を向かい入れる大きさがあるため、半ば一つの都市と化している。王都に一つの都市がくっついているような状態だ。そのためそこは学園都市とも呼ばれているそうだ。
なぜそれだけの人数の生徒達が学園区域で学園に通っているかというと、この国の子供達は皆向学心がある……というわけではない。
それはこの国の法律に原因がある。
その法律とは親は七歳になった子供達を皆、学校に通わせなければならないというものだ。いわゆる義務教育だ。
この国の学校は初等学校から始まり、中等学校、高等学校とある。親は子供が高等学校を卒業するまでこの義務を負う。具体的には初等学校三年、中等学校三年、高等学校三年の計九年、親は子供を学校に通わせなければならないのだ。
そして高等学校卒業後、子供達には様々な選択肢が与えられる。そのまま専門の学問の道へ進み研究者となるのもよし、就職して働くのもよし、だ。
しかし家庭の事情は様々で、子供を学校に通わせるお金が無い、というところもあるはずだ。だが、子供が学校に通っている間は国から補助金が出る。そのため貴族平民問わず学校に通うことが出来るのだ。
「入学手続きの締め切りまではまだ時間があるから、今すぐに決めなくて良いわよ。ただ、直前になって急に言われると父さんも母さんも困るから、出来るだけ早めに教えて頂戴ね」
母さんがそう言い切ると、二人は話は終わったとばかりに席を立とうとした。それを慌てて止める。二人に言わなければならないことがあるのだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「ん? どうしたんだい?」
僕が二人を呼び止めると、二人は浮かせていた腰を再度下ろした。それを確認して再び口を開く。
「実は、もう行きたい学校は決めてあるんだ」
僕がそう言うと二人は驚いたような顔をした。そりゃそうか。
本来なら一ページに一つの学校が紹介されており、百ページを越す冊子の中から一つの学校を選ばなければならない。
だけど僕はその冊子を一度軽く目を通しただけだ。二人はまさか僕が既に学校を決めてあるとは思っていなかったのだろう。
「……どの学校に行きたいんだい?」
「サミット学園」
僕が意を決して言うと、二人は目をこれ以上無いくらいに見開いて驚いた。
サミット学園。
それは天才達だけが集まると言われている学園区域一の超エリート校だ。文武両道、頭脳明晰。そんな人達がゴロゴロといるのがサミット学園だ。
「さ、サミット学園か。うーん……」
「ら、ライン、別の学校はだめかしら?」
そんなエリート校に入学するには当然入学試験を受けなければならない。それもとても難しいやつを。
いくらこの三ヶ月程一緒に生活したからといって、僕がこの世界に来る前の堕落した生活を知っている二人からすれば、その学園に入学するのは無謀なことだと思ったのだろう。
だけど僕は引かない。なぜならおふざけでサミット学園を入学したいと思っている訳ではないのだ。
「母さん、別の学校はだめなんだ。サミット学園じゃなきゃ絶対にだめなんだ」
「その理由は……」
母さんの提案を拒否した僕を見て、すぐさまその理由を聞いてこようとした父さんだったが、何かに気づいたようにハッとして、再び口を開いた。
「……もしかしてラインがサミット学園に行きたい理由はあの権利が欲しいからかい?」
「うん。そうだよ。僕は迷宮探索権が欲しいんだ」
この世界には数多の魔道具が存在している。それは小さい物でも大人が両手で抱えなければ持てない程の大きさがある。それよりさらに大人数人がかりでようやく持ち上げることが出来る魔道具もある。
では最も大きい魔道具は何なのか。
その答えが迷宮だ。
迷宮とは大昔の大賢者が創った世界最大の魔道具であり、数多の魔物を生み出す機能をもつ。それを作り出した目的は人類に魔物との戦い方を身につけさせるというものだ。
この世界には、ゴブリンのような人間より弱い魔物は殆どいない。大抵の魔物が人間より優れているのだ。そのため、迷宮ができる前は人類は何度も絶滅に瀕したらしい。だが迷宮が出来たことによって強大な魔物との戦い方を学んだ人間達は、それ以来絶滅の危機にさらされることは殆ど無くなったそうだ。
だが、そもそも迷宮内の魔物に負けて死んでしまえば迷宮を創った意味がない。そのため大賢者は迷宮内で死んだ人間を生き返らせるようにしたらしい。無茶苦茶である。
迷宮の機能はこれだけではない。迷宮内には宝箱があり、その中からは金銀財宝や鎧、魔法が付与された剣、魔道具などが出ることがある。これは本などに記されていなかったが、恐らく出来るだけ多くの人間に積極的に魔物との戦い方をおぼえさせるための処置だろうと僕は考えている。
そんな信じられないような機能が幾つもある迷宮だが、それが人類にもたらしたのは何も魔物との戦い方だけではない。魔物を倒した事によって得られる魔石や素材なども人類に多大な恩恵をもたらした。魔石は言うまでもなく魔道具の素材に。魔物の素材は武器や防具、回復薬の材料として使われ、より強く、便利な道具を作り出すための研究が盛んに行われてきた。
このような人類に多大な恩恵をもたらしてきた迷宮ではあるが、そこに潜ることが出来るのは実はとある権利を得た一部の人間だけである。その権利を迷宮探索権といい、国から特別に認められたら人しか得ることが出来ない。
それを得るには探索者試験という名の十歳から受けることが出来る試験であったり、何かしらの功績を上げた者であったり、と。様々な方法がある。
その中の一つにサミット学園の生徒であれば自由に迷宮を探索出来るというものがある。これを聞けばどれだけサミット学園の生徒が国から信用され、どれだけその者たちが期待されているのかが分かるだろう。
「……そうか。そこまで言うのならサミット学園の過去の入学試験の問題に一度挑戦してみなさい。書庫にあるはずだ。その結果を見てからでも学校を決めるのは遅くないからね」
「わかった」
僕の絶対に曲げないという意志を感じ取ったのか、父さんはやや間を空けてからそう言った。勿論僕の答えはイエスである。それ以外の選択はありえない。
こうして僕のサミット学園入学試験対策が始まった。
「はい」
「……はーい」
父さんの言葉をきっかけに僕達は夕飯を食べ始める。
そう。僕じゃなくて父さんが、だ。
実は三ヶ月程前に、両親が何の前触れも無く家に帰ってきたのだ。
今までは何やら大きな仕事があってなかなか家に帰れなかったらしいが、つい三ヶ月程前にその仕事が終わったみたいだ。
そしたら両親は僕に手紙も寄越さず、直ぐに帰ってきた。
これだけ聞くと
(それだけ辛い仕事だったんだろうな……)
と思ったのだが、すぐに帰ってきた理由が一刻も早く僕に合いたかったから、らしい。親バカである。
そんな両親を持つ僕だが、正直未だに慣れない所がある。
例えば、今の状況もそうだ。これまで僕はアンナとサーシャと三人で卓を囲んでいた。なので両親と僕という構成は三ヶ月経った今でもなかなか慣れない。
他には就寝前に母さんが僕の横に寝転がり、何かしらの物語を呼んでくれる、とか。朝のランニングをしていると父さんがニコニコして見守っている、とか。
父さんと母さんが帰ってきてから僕の生活リズムは乱れてはいないが、どこか調子が狂うのだ。
……まぁ、『記憶』にも両親と暮らしていた生活は殆ど無いし、僕がこちらにきてからもしばらくの間は合っていなかったから、調子が狂うのも仕方ないのかもしれない。そう思うことにしよう。
ちなみにアンナとサーシャは僕がこの世界に来る前の生活を送っている。ご飯くらい一緒に食べればいいのに。まぁ二人が全力で拒否していたから無理矢理させる訳にはいかないか。
「そうだ。ライン、この後父さんの部屋に来なさい。大事な話がある」
 
「わかったよ、父さん」
熱々のスープを冷ましながら少しずつ飲んでいると、父さんに話しかけられた。
大事な話って何だろうか。父さんの顔を見る限り怒ってはいないみたい。少なくともお説教ではなさそうだな。いや、お説教される心当たりなど全く無いが。
ま、今考えなくても後で分かる事か。怒られるわけじゃ無いみたいだし気楽に構えておこう。
晩御飯を食べ終わった後は一旦部屋に戻り、汚れ一つ無い綺麗な服に着替える。この後はいつもはベッドの上で魔力操作の訓練をしてから、母さんの物語を聞きながら寝るのだが、今日は父さんから呼び出された。なので魔力操作の訓練は無しだ。
でも正直なところ、少しでも魔力操作の訓練がしたい。日々の努力は馬鹿にできないからね。
なので早く重要な話とやらを終わらせるために、着替え終わったら早速父さんの執務室に向かう。
思えば父さんの執務室は一度も入った事が無いな。一体どんな部屋なんだろうか。
ちょっとだけワクワクしながら執務室のドアをコンコンとノックする。
「どうぞ」
中から父さんの声が返ってきた。
ドアの取っ手をつかみ中に入る。
一番最初に目に付いたのは、横に大きな木製の執務机だ。年期が入っているみたいで、角が所々削れて丸くなっている。その机がドアの正面奥にあるから一番最初に目についた。
次に目に入ったのはその執務机の前に置かれている木でできた、来客が来た際の対談用の椅子と机だ。こちらは執務机と違ってまだ新しいのか、天井に取り付けられている魔道ランプの光を反射している。
そして最後に目に入ってきたのは、執務机の横に位置する壁際に、デンと置かれている本棚だ。そこには領地の運営に関する資料が並べられているみたいだ。
そんな父さんは母さんと対談用の椅子に並んで腰掛けていた。母さんもいるのか。てことはこれから話す内容はそれだけ重要な話ということなのかな。
「お待たせ。母さんもいるんだね」
軽く挨拶して父さんと母さんの正面に座る。すると早速父さんが話を切り出してきた。
「ライン。早速で悪いけど、重要な話と言うのはこれの事なんだ」
そう言って父さんは一度立ち上がり、執務机の上に置いてあった一つの封筒をこちらに手渡してきた。受け取ったときの感触からして何やら少し分厚い長方形の物が入っているようだ。
父さんが再び椅子に座ったので、これが何なのか説明してもらう意味も込めてジッと見る。すると父さんは一度封筒を指差しニッコリと笑った。
どうやら説明を聞く前に、封筒の中を確認しろということらしい。
その意に従い封筒を開ける。すると中から冊子のような物が出てきた。
「……なにこれ?」
表には学校紹介と書かれている。その冊子を手に取り、パラパラとページを捲り軽く目を通す。中身はそのタイトル通り、学園を紹介しているページばかりだ。
……うん。だいたい父さんと母さんが何を言いたいのか大体察しがついた。
「ラインももうじき七歳になるからね。七歳になると学校に行けるようになるんだ。けど学校と言っても、その冊子を見たら分かる通り沢山ある。だからラインがどの学校に通いたいか聞かせてもらおうと思ってね」
この国の王都には、現存する全ての学校が集まる学園区域というものがある。そこでは下は七歳から上は十九歳までの生徒達がおり、その数はなんとこの国の人口の三割を超える。
そんな学園区域は区域といっても、それだけの人数を向かい入れる大きさがあるため、半ば一つの都市と化している。王都に一つの都市がくっついているような状態だ。そのためそこは学園都市とも呼ばれているそうだ。
なぜそれだけの人数の生徒達が学園区域で学園に通っているかというと、この国の子供達は皆向学心がある……というわけではない。
それはこの国の法律に原因がある。
その法律とは親は七歳になった子供達を皆、学校に通わせなければならないというものだ。いわゆる義務教育だ。
この国の学校は初等学校から始まり、中等学校、高等学校とある。親は子供が高等学校を卒業するまでこの義務を負う。具体的には初等学校三年、中等学校三年、高等学校三年の計九年、親は子供を学校に通わせなければならないのだ。
そして高等学校卒業後、子供達には様々な選択肢が与えられる。そのまま専門の学問の道へ進み研究者となるのもよし、就職して働くのもよし、だ。
しかし家庭の事情は様々で、子供を学校に通わせるお金が無い、というところもあるはずだ。だが、子供が学校に通っている間は国から補助金が出る。そのため貴族平民問わず学校に通うことが出来るのだ。
「入学手続きの締め切りまではまだ時間があるから、今すぐに決めなくて良いわよ。ただ、直前になって急に言われると父さんも母さんも困るから、出来るだけ早めに教えて頂戴ね」
母さんがそう言い切ると、二人は話は終わったとばかりに席を立とうとした。それを慌てて止める。二人に言わなければならないことがあるのだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「ん? どうしたんだい?」
僕が二人を呼び止めると、二人は浮かせていた腰を再度下ろした。それを確認して再び口を開く。
「実は、もう行きたい学校は決めてあるんだ」
僕がそう言うと二人は驚いたような顔をした。そりゃそうか。
本来なら一ページに一つの学校が紹介されており、百ページを越す冊子の中から一つの学校を選ばなければならない。
だけど僕はその冊子を一度軽く目を通しただけだ。二人はまさか僕が既に学校を決めてあるとは思っていなかったのだろう。
「……どの学校に行きたいんだい?」
「サミット学園」
僕が意を決して言うと、二人は目をこれ以上無いくらいに見開いて驚いた。
サミット学園。
それは天才達だけが集まると言われている学園区域一の超エリート校だ。文武両道、頭脳明晰。そんな人達がゴロゴロといるのがサミット学園だ。
「さ、サミット学園か。うーん……」
「ら、ライン、別の学校はだめかしら?」
そんなエリート校に入学するには当然入学試験を受けなければならない。それもとても難しいやつを。
いくらこの三ヶ月程一緒に生活したからといって、僕がこの世界に来る前の堕落した生活を知っている二人からすれば、その学園に入学するのは無謀なことだと思ったのだろう。
だけど僕は引かない。なぜならおふざけでサミット学園を入学したいと思っている訳ではないのだ。
「母さん、別の学校はだめなんだ。サミット学園じゃなきゃ絶対にだめなんだ」
「その理由は……」
母さんの提案を拒否した僕を見て、すぐさまその理由を聞いてこようとした父さんだったが、何かに気づいたようにハッとして、再び口を開いた。
「……もしかしてラインがサミット学園に行きたい理由はあの権利が欲しいからかい?」
「うん。そうだよ。僕は迷宮探索権が欲しいんだ」
この世界には数多の魔道具が存在している。それは小さい物でも大人が両手で抱えなければ持てない程の大きさがある。それよりさらに大人数人がかりでようやく持ち上げることが出来る魔道具もある。
では最も大きい魔道具は何なのか。
その答えが迷宮だ。
迷宮とは大昔の大賢者が創った世界最大の魔道具であり、数多の魔物を生み出す機能をもつ。それを作り出した目的は人類に魔物との戦い方を身につけさせるというものだ。
この世界には、ゴブリンのような人間より弱い魔物は殆どいない。大抵の魔物が人間より優れているのだ。そのため、迷宮ができる前は人類は何度も絶滅に瀕したらしい。だが迷宮が出来たことによって強大な魔物との戦い方を学んだ人間達は、それ以来絶滅の危機にさらされることは殆ど無くなったそうだ。
だが、そもそも迷宮内の魔物に負けて死んでしまえば迷宮を創った意味がない。そのため大賢者は迷宮内で死んだ人間を生き返らせるようにしたらしい。無茶苦茶である。
迷宮の機能はこれだけではない。迷宮内には宝箱があり、その中からは金銀財宝や鎧、魔法が付与された剣、魔道具などが出ることがある。これは本などに記されていなかったが、恐らく出来るだけ多くの人間に積極的に魔物との戦い方をおぼえさせるための処置だろうと僕は考えている。
そんな信じられないような機能が幾つもある迷宮だが、それが人類にもたらしたのは何も魔物との戦い方だけではない。魔物を倒した事によって得られる魔石や素材なども人類に多大な恩恵をもたらした。魔石は言うまでもなく魔道具の素材に。魔物の素材は武器や防具、回復薬の材料として使われ、より強く、便利な道具を作り出すための研究が盛んに行われてきた。
このような人類に多大な恩恵をもたらしてきた迷宮ではあるが、そこに潜ることが出来るのは実はとある権利を得た一部の人間だけである。その権利を迷宮探索権といい、国から特別に認められたら人しか得ることが出来ない。
それを得るには探索者試験という名の十歳から受けることが出来る試験であったり、何かしらの功績を上げた者であったり、と。様々な方法がある。
その中の一つにサミット学園の生徒であれば自由に迷宮を探索出来るというものがある。これを聞けばどれだけサミット学園の生徒が国から信用され、どれだけその者たちが期待されているのかが分かるだろう。
「……そうか。そこまで言うのならサミット学園の過去の入学試験の問題に一度挑戦してみなさい。書庫にあるはずだ。その結果を見てからでも学校を決めるのは遅くないからね」
「わかった」
僕の絶対に曲げないという意志を感じ取ったのか、父さんはやや間を空けてからそう言った。勿論僕の答えはイエスである。それ以外の選択はありえない。
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