隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

33話 実験終了と秘密基地

 ふと違和感を覚えた。
 これだけ僕らが直射日光をまともに受けているということは、砂煙がこの安全地帯まで届いてないということ。すると先程の音は聞き間違いでは無かったのかもしれないという考えが浮上してくる。やはり爆発は規模が小さかったのだろうか。
 穴から顔を出して周辺の様子を窺う。
 辺りは砂煙が舞い視界を覆い尽くしたり、巨大なクレーターがあるわけでもない。見えるのは延々と続く砂の海と、実験場所周辺にもうもうと立ち上る砂煙だけである。その砂煙が舞っている場所が、先程僕が魔法陣を起動させた場所だ。
 砂煙が立ち上っていることから魔法陣が爆発したのは明白だ。僕は魔法陣があった場所に近づいた。






「[ゲイル]」






 立ちこめていた砂煙を一掃する。するとそこから小さなクレーターが出現した。いや、直径約五メートル程のクレーターなんて無いだろうから、穴と表現すればいいのだろうか。ともかくあの巨大なクレーターより遥かに小さな穴が出来ていた。






「坊ちゃま」






 爆発跡をジッと見ていると、サーシャから声をかけられた。その隣にアンナもいる。






「なに?」






「この実験はこれでおしまいにしましょう。これ以上すると私達が死にかねません」






 サーシャは厳しい目をし、ハッキリと言ってきた。アンナも同じく厳しい目をしている。
 彼女の言っていることは分かる。実を言うと僕もこの実験を止めようかと考えていたところだった。なぜなら爆発の規模がバラバラみたいだからだ。
 今回の爆発は規模が小さかったからいいものの、もし前回より規模の大きい爆発であったなら、僕らは死んでいたかもしれない。それを考慮するとこの実験は一旦止めた方がいい。






「サーシャの言う通り、これ以上実験を続けたら死ぬかもしれないね。なら、これで実験を終わろうか」






 僕がそう言うと二人はフッと目元を和らげ安堵した様子を見せた。
 ……うーむ。二人と良好な人間関係を築いていくには、あまり危険な実験に関わらせない方がいいかもしれないな。これからは出来るだけ二人の力を借りずに、自分の力だけで物事を解決していく事にしよう。
 そう心の中で結論づけて、僕らは家に帰った。






◇◆◇◆◇◆






「よし! 始めるか!」






 茫漠たる砂の海、死の砂漠。
 そこにある岩山の洞窟の前に立ち、僕は一人気合いを入れる。
 これから始めるのは前々からやりたいと思っていた秘密基地作りである。どのような秘密基地にするかは予めしっかりと考えてきたのでそれほど手こずる事無く出来るだろう。
 早速洞窟に入り、突き当たりまで歩く。






「……どこらへんに作ろうかな」






 そこでなるべく目立たない場所を選ぶ。秘密基地の入り口を作るためだ。
 ……うーん。目立たない場所って言っても、洞窟の壁は全て同じに見えるから、目立たないどころか目立つ場所さえない。どうしようか……そうだ!
 突き当たりから見て、右側の壁。そこに魔法で大きな窪みを作る。大体僕がスッポリと収まるくらいの大きさでいいかな。
 そしてその向かい側の壁に秘密基地の入り口を作ることに決める。ここなら窪みに注意が向くことはあっても、ここには注意を向けないだろう。
 それにこの洞窟の構造をよく知っているのはアンナとサーシャだけだ。彼女達はここにはめったな事が無い限り来ないだろうから、少しくらいここの構造を変えても大丈夫だろう。






「[ライト]」






 明かりをつけ、魔法で洞窟の壁を真っ直ぐ掘っていく。壁は普通の岩みたいで、魔法を使えば簡単に掘り進められる。そしてある程度掘り進めたら今度は斜め上に向かって掘っていく。






「……息苦しくなってきたな。一旦戻るか」






 明かりがあっても周りには岩を掘る際に出た砂煙が立ち込めている。そのせいか息苦しくなってきた。いや、もしかしたら空気を入れ替えていないから酸素が無くなってきたのかもしれないな。
 そんなことを考えながら僕は一旦、掘った穴の外に出た。






「……先に空気穴を作るか? ……いや、その前に空気を入れ換えるのが先か」






 本来は基地となる部屋を作った後に空気穴を作る予定だったのだが、思っていた以上に息苦しくなったのが早かったので、先に空気穴から作る事を検討する。
 だがその前に空気を入れ換えるほうが先だと気づき、穴に向かって[ゲイル]を使う。






「[ゲイル]」






 すると、穴の中にある空気は当然外に出てきた。しかしそれは空気だけではなく当然砂煙も一緒に外に出てくることになる。そのため、穴の正面に立っていた僕は……






「ゲホッゲホッゲホッ!」






 岩を掘った際に出た砂煙を、全て被ることになった。
 一旦洞窟を出て、[ウォーター]を頭から被る。ひどい目にあった……。そして洞窟に戻ろうと足を向けたところで、はたと気づく。掘った穴の中に立ちこめていた砂煙が全て外に出たのだから、今洞窟の中は砂煙が立ちこめているということに。実際に洞窟の中は奥まで見えない程、砂煙が立ちこめていた。
 今度は、先程砂煙を被った二の舞になるのを避けるため、入り口の横に立ち、手だけを伸ばして手のひらを洞窟の中に向ける。






「[ゲイル]」






 再び[ゲイル]を使って、手のひらから風を生み出す。そうして洞窟の中の砂煙を全て外に出す。今度は砂煙を被る事無く、外に出すことが出来た。
 さて、続きを始めようか。
 再び掘った穴の中に入り、突き当たりまで行く。






「だいぶ掘ったし、ここらへんに部屋を作るか」






 [ライト]を動かし、僕が今まで掘ってきた道を照らす。その道は早くも十メートル程にもなっていた。自分でも魔法があるとはいえ、よくこんなに掘れたものだなと感心してしまう。
 再び前を向き、今までは縦に掘ってきたところを今度は横に、広げるように掘っていく。なるべく四角の空間が出来上がるようにして掘っていくと、特に何が起きることも無く無事に終わった。
 そして最後に空気穴を作る。ここで注意することは、大きな穴ではなく、目立たないように出来るだけ小さい穴を多く作ることだ。大きな穴だと外から岩山を見たときに気づかれてしまうからね。なるべく地味に、目立たないような穴を作る。
 一通り空気穴を作り終わったら、今度は風魔法で部屋を換気する。
 これでひとまず秘密基地作りは一段落終えたかな。






「あ、入り口塞がなきゃ」






 危ない危ない。肝心の入り口を目立たないように塞がないと、ただの基地になってしまう。急いで入り口まで戻り、魔法で適当に入り口を封鎖する。一目みて分からない程度に封鎖したから、この洞窟にわざわざ入ってくる物好きがいない限り大丈夫だろう。






「……もうこんな時間か」






 洞窟を出て、太陽の位置を確認する。
 そろそろお昼ご飯の時間なので一旦家に帰ろうかな。






 一旦家に帰り、お昼ご飯を食べてきた。秘密基地作り再開である。
 とはいっても部屋と道は出来たので、後は入り口を分かりにくくすることと、部屋の利便性を高める事ぐらいしかする事がない。
 だからまずは入り口の改良から始めようかな。
 先程適当に封鎖した入り口の前に立ち、魔法を解除する。ちなみに掛けていた魔法は[ミラージュ]と言い、幻影を見せる魔法だ。これで入り口を普通の洞窟の壁に偽装していた。
 [ミラージュ]を使って入り口を隠し続ける事も考えたが、[ミラージュ]で作られた幻影は触れられるとすぐに解けてしまうので断念した。
 なのでちょっとやそっと触れられたぐらいでは分からない入り口、忍者屋敷のどんでん返しを参考にして作ろうかと思う。




 まずは先程洞窟の壁を掘った際に出た岩に、魔力を流し込んで自由に変形出来る状態にする。そしてそれを平べったい板状に変形させ、扉にする。
 次は扉の左側に回転軸をつける。とはいっても扉の端につけるような真似はしない。端から十五センチ程空けてそれを取りつける。
 そして出来た扉を入り口を隠すように設置する。
 最後に扉が反時計回りに回転して開かないように洞窟の方を弄る。扉の回転軸より右側の入り口部分を少し弄り、狭くするのだ。こうすることによって扉が開く時は、扉が時計回りでしか回転出来ないようになる。




 これで完成だ。
 使い方は簡単。
 扉の回転軸から左側を押す。
 すると扉は時計回りに開く。
 ちなみに扉の回転軸から右側を押しても、その部分の入り口を少し狭めたので、扉は開かない。
 つまり、扉を開くには扉の左端から幅十五センチ程の部分を押さなければならないのだ。
 これがちょっとやそっと触れられたぐらいでは分からないどんでん返しである。






「後は……こんな感じかな?」






 扉の外側部分を他の洞窟の壁の部分と同じように少しデコボコにする。
 うむ。なかなか立派な隠し扉になったのではないだろうか。






 隠し扉が出来上がったので、次は部屋の利便性を向上させなければ。
 流石に机も椅子もない秘密基地は寂しすぎる。






「[ストレージ]」






 [ストレージ]から正方形の大きな岩を取り出す。砂漠にある他の岩山から削りだして持ってきたものだ。






「……うーん、内装は特にこだわりとかないから適当に作ろうかな」






 どのような机と椅子を作るか考えてみたが、これといっていい案が思いつかなかったので、適当に作ることにする。




 そして適当に作った結果がこれだ。






「ただ単純に岩を変形させただけの机と椅子だな……」






 岩の色で岩の質感をした岩の長机。
 岩の色で岩の質感をした岩の椅子。
 これといった工夫も無く、単純に岩を机と椅子の形に変形させただけだから、こうなるのは当たり前なのだが、やはりなにか寂しい感じがする。
 いや、質実剛健な机と椅子と捉えれば悪くはないか……?
 試しに椅子を引いて座ってみる。






「……固いな」






 当たり前である。
 クッションも何もないのだから、柔らかい訳がない。
(後々改良していくか)
 そう考え、ひとまず机と椅子は完成したことにした。






「他には……あ、フィルターをつけるのを忘れる所だった」






 机と椅子が完成したことによって秘密基地も完成かと思ったが、一つ忘れていることがあった。フィルターの設置である。
 ここはひんやりとして気持ち良い場所だが、砂漠の外縁部である。当然のように外は暑い。逆に何故直射日光が遮られただけでここまで涼しくなるのか分からないが、とにかくここは砂漠なのである。
 すると、当然風が吹けば空気穴から細かな砂粒が入り込んでくる。作ったばかりの基地がすぐに汚れていくのはどうしても避けたい。
 なので、魔法陣で結界を生成して砂粒が入ってこれないようにしようと思う。




 砂粒が入ってこれないようにする結界生成の魔法陣は簡単に作れる。
 結界生成の魔道具は基本的に野宿や家を留守にするときに使われる。そのため結界で弾く対象が魔物と人間になっているのだ。
 この対象を砂粒に変更すればいい。
 あ、魔物はそのままにしておこう。






「……よし。できた」






 早速改造した結界生成の魔道具を起動する。
 すると魔道具を中心に半径十メートルの位置に透明な結界が生成された。ちなみに何故透明な結界が生成されたか分かるかというと、魔力感知で結界の魔力が感じ取れるからである。






「うん。こんなものでいいかな。他には……特にないか」






 改造した魔道具の完成度合いに満足し、部屋の中をグルッと一通り見る。他に何か必要なものはないか考えたが、今のところそれもない。
 すると空気穴から差し込んで来たオレンジ色の光に気がついた。






「これは……夕焼けの光か。もうそんな時間なんだ。帰らないと」






 空気穴を覗き、外の様子を見ると既に太陽が沈み始めている。それを見てそろそろ夕ご飯の時間がやってくることを悟った。
 部屋を出て、洞窟に出る。その際にどんでん返しがちゃんと入り口を隠しているか確認し、家に向かって走った。








 こんな風にアンナとサーシャの目が届かない秘密基地で、やりたいと思ったことを貪欲にやりながら日々を過ごしていると、早くも一年が経っていた。

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