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隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

24話 実験結果と水柱

「じゃあ、サーシャ。[アースウォール]を解除して」




 サーシャに穴を塞いでいる[アースウォール]を消してもらうよう頼む。




「はい」




 そう返事をし、彼女は手のひらを穴があった場所に向けた。すると[アースウォール]が端から徐々に霧散いく。見ているとなかなか壮観である。そして縦穴を塞いでいた[アースウォール]が完全に無くなった。
 そのまま三人で穴の底を覗き込む。すると……そこには仄かに光っているオレンジ色の[ライト]が。




「やった! ちゃんと起動してる!」




 それを確認した瞬間、胸の奥から嬉しさが一気にこみ上げてきた。




「やりましたね、坊ちゃま!」




「おめでとうございます、坊ちゃま」




 アンナとサーシャからお祝いの言葉を貰う。




「ありがとう! だけどここまでこれたのは二人の協力があってこそだよ!」




 僕一人だとここまでくるのに何ヶ月掛かっただろうか。ものさしやコンパスを作るのでさえアンナの協力なしには数時間で出来なかったし、ハンコを作るのもサーシャの協力なしには一晩で出来なかった。
 だから二人に感謝を述べる。




「二人とも、協力してくれてありがとう!」




 紙に模写した魔法陣が起動したことにひとしきり喜び合った後。発現した[ライト]が本当に魔道ランプと同じ[ライト]なのか調べる。




 まずは起動していた紙に書いた魔法陣を一旦停止させ、地上に持ってくる。そして僕の部屋から魔道ランプを持ってきて二つの[ライト]を比べる。ちなみに魔法陣の停止の仕方は、魔法陣の真ん中にある魔石入れを取り外すか押し込めばいい。要は魔法陣に魔力の供給がいかないようにすればいいのだ。




「色は言うまでもなくオレンジ色だから問題なし。形も同様に問題なし。光り方も大きさも問題……なし!」




 二つの魔法陣を見比べた結果どちらの[ライト]も全く同じだった。




「全く同じということは、魔法陣を描くのは金属でも紙でもいいってことか」




 実は他にも僕が見つけていない違いがあるかもしれないが、今は紙に描いた魔法陣が無事に起動したことを喜ぼう。これで対照実験が楽にできる。








 その日の夜。
 僕達は晩御飯を食べながら次の実験について話し合っていた。




「なら、次の実験は一週間もかけて行うのですか?」




 アンナが驚きながらそう聞いてきた。




「うん。分からないと思ったことを一つ一つ調べていくつもりだからね」




 マスの数や模様の意味、54種ある魔法記号。次の実験では、これらを一つ一つ調べていくつもりだ。




「坊ちゃま。私は逆に一週間では終わらない気がするのですが……」




 今度はサーシャが声を掛けてきた。




「まぁ早くて一週間だからね。遅くても一月以内には終わると思うよ」




「それでも一月ですか……」




 一つの謎が解ければ二つ目の謎が解け、そして二つ目の謎が解ければ三つ目の謎が解け……。というようにパズルのようにスルスルと解けていくと僕は思っている。だから遅くても一月で終わると言ったのだが、サーシャはそれでも足りないと思っているようだ。




「最悪二年以内に終わればいいんだから、そこまで心配しなくても大丈夫だよ」




 そう。最終的にサーシャと約束した二年以内に全ての実験が終わればいいのだ。魔法陣の研究はまだまだ始まったばかりである。急ぐ必要は何もない。ゆっくり行こう。




「まぁ次の実験の準備をいろいろとしなくちゃいけないから、これはまだまだ先の話だからね? 今はそれほど気にしなくていいよ」




 次の実験の準備。
 それは実験する魔法陣の模写だ。いくらアンナとサーシャにものさしやコンパス、ハンコを作ってもらったとはいえ、流石に一日二日ですべての魔法陣を模写するなんてできるとは思えない。それに訓練を疎かにするわけにもいかない。となると時間が限られてくる。




「では、坊ちゃま。次の実験は庭ではなく別の場所で行いませんか? もし爆発が起きたとしても被害が出ない場所でしたら失う物は最小限で済むはずです」




 サーシャにそう言われしばし考え込む。




「……確かに次の実験では爆発が起きないとは限らないか。今回の実験は爆発しない確信があったから庭でやってもよかったけど、次の実験からは分からないからなぁ……。よし。サーシャの言う通り次の実験は別の場所で行おうか」




 そうと決まれば、次の実験場も決めないといけないな。そう思い二人にたずねてみる。




「どこかピッタリな場所ってある? 人に迷惑がかかりそうに無いところで、かつ、広いところ」




 そんな都合のいい場所はそうそうないだろうな、と思いつつも二人に聞いてみる。
 すると黙っていたアンナが口を開いた。




「ここから北東に三時間ほど行くと、砂漠があります。そこで実験したらどうですか?」




 へー。そんな近くに砂漠なんかあったんだ。知らなかったな。
 ……そういや僕、この領のこと全然しらないや。機会があれば領内を散歩してみるのもいいかもしれないな。




「けれどアンナ。砂漠に行くまでには必ず森を通らないと行けないからそこは駄目よ」




 そう言ってサーシャがアンナに注意した。




「あ、そうでしたね。すいません、忘れていました」




 ん? 何故森を通らないと行けないからだめなんだ? 一体どういう事だろうか。 
 気になったので聞いてみる。




「ねぇ、何で森を通ったらダメなの? 森を通るくらいなら大丈夫じゃない?」




「そのようなことはありません。森にはゴブリンやコボルトなど比較的弱い魔物からオークやオーガといった凶暴な魔物まで数多の魔物が住み着いております。いくら私とアンナがいるとはいえ坊ちゃまの身に万が一の事があるかもしれません」




「そうなんだ……」




 そういえばこの世界は魔物がいるんだったな。僕は森に入る危険性をきちんと認識していなかったようだ。いくら僕が訓練しているとはいえ、実戦はまだ無理。そんな状態で森に入って魔物に囲まれでもしたら、僕はすぐにやられてしまうだろう。




「なら、砂漠以外で広くて人がいない場所ってある?」




 上を向いたり、額に手をあてたりしてしばし考え込む二人。しかし良い場所は頭に浮かんでこなかったみたいだ。




「……ねぇ、僕が明日から魔物と戦えるようになるまで鍛えたら、どのくらいの日数がかかるかな?」




 こうなったら僕自身が戦えるようになるしかない。
 本来ならば、もう少し後から実戦を見越した訓練をするはずだったが、前倒しして今からその訓練をしてもいいだろう……と思う。




「そうですね……早くて一カ月、遅くても五ヶ月、といったところでしょうか」




 早くて一カ月か。
 次の実験の準備は、『魔法陣集』を見た限りでは、恐らく一カ月程かかる。これは一日中実験の準備をしたときの計算だ。もし訓練をしながら実験の準備を同時並行で進めるとしたら…………その二倍、二か月はかかるだろう。
 それと遅くて五ヶ月。
 この世界の一年は十二ヶ月だから、五ヶ月掛かったとしても、一年と七ヶ月も残っている。それだけの時間があれば魔法陣の研究には充分だ。




 ……何千年もの間研究が続けられても解明されなかった魔法陣の謎がたった一年と少しで終わるというのは自分でもどうかと思うが。けど『魔法陣集』を見た限りではそれで充分なはずなんだよ。僕の予想では、この世界では数学や理科系の研究が一切行われていないため、そちらの考え方をする人がいないのだろう。現にこの世界では理系の学問が殆ど研究されていない。四則演算が出来れば良い方なのだ。化学や物理なんて言わずもがな。 




「明日から実戦訓練を始めますか?」




 サーシャが僕が言いたいことを聞いてきた。もちろん答えはイエスだ。




「うん。砂漠以外にこのあたりにちょうどいい場所はないんでしょ? それなら僕が戦えるようになったほうが早いと思う」




「承知しました。ではこの後アンナと明日からの訓練メニューについて話し合いをします」




 そう言ってチラリと窓の外を見るサーシャ。






「夜はもう遅いので、坊ちゃまは先にお休みください」




 彼女はそう言って僕達が使っていた食器を片付け始めた。気づけば皆ご飯を食べ終わっていた。それに話に夢中になっていたからか、早くも寝る時間が来ていたようだ。外はもう真っ暗だ。
 欠伸をかみ殺しながら席を立つ。意識したら急に眠くなってきた。




「じゃあそうさせてもらうね。おやすみ」




 そう告げて僕は食堂を出た。








 太陽が顔を出し始め、まだ朝靄がうっすらと残っている。そのせいか少しひんやりとした風が吹き、緑の木の葉が辺りを舞う。いつも通りの朝だ。
 だけど今日からは、これまでとはまた違った日常を送ることになる。その証拠にアンナではなく、この時間はいつも台所で朝ご飯を作っているサーシャがここにいる。アンナはサーシャと代わり、朝ご飯を作っているようでこの場にいない。




「これからしばらくの間は午前も午後も魔法の訓練を行います」




 庭でランニングなどの準備運動を終え、軽くストレッチをしていると、その様子を見ていたサーシャからそう言われた。
 今日から始まる訓練は、これまでのダイエットの延長のようなものではなく、実戦を見越したものになる。つまりこれまでの訓練よりも数段階上の厳しい訓練が待っている……と思っていたのだけど、魔法の訓練だけなの? 




「アンナとの訓練は?」




 てっきりこれまで通り一日の内、午前がアンナとのアーツに関する訓練、午後がサーシャとの魔法に関する訓練を行うものだと思っていた。




「アンナが、坊ちゃまは筋が良く、基本的なアーツは殆ど習得していると申しておりました。
 一方で魔法の方は、今まで[ライト]以外の魔法を使うことは私が禁止にしておりました。
 私はこれからは坊ちゃまに様々な魔法を使っていただき、経験してもらおうと思っておりますので、アンナと話し合った結果、一旦彼女の訓練を止め、その時間を魔法の訓練に充てることにしました。よろしいですか?」




「うん。わかったよ」




 つまり、僕はアーツより魔法の方が未熟だから、魔法を徹底的に鍛えますってことか。




 先程サーシャが言った通り、今まで僕は[ライト]以外の魔法を禁止されていた。これは未熟な者が魔法を使うと制御が甘くなりがちなためだ。
 発現された魔法は術者の制御下を完全に離れると霧散するのだが、中途半端に制御されている場合、その魔法が暴走する危険がある。この場合、例えば火を出す魔法が暴走した場合、術者の魔力が無くなるまでか、完全に制御されるか、制御下を完全に離されるかしない限り、永遠に火が大きくなったり予測不能な動きをして飛んだりする。大変危険だ。
 しかし[ライト]が暴走した場合、大きくなったり予測不能な動きをして飛んでも危険は無い。せいぜい眩しいと感じるくらいである。
 そのため僕は今まで[ライト]以外の魔法の使用を禁止されていた。
 他にも[ライト]で魔法を制御する感覚を鍛えるという意味もある。




 そんなわけで[ライト]以外の魔法を使える初めての機会に内心ワクワクしていたりする。




「じゃあ早速やろうか」




「ではアンナが呼びに来るまで、ということで」




 アンナが呼びに来る、つまりは朝ご飯が出来るまで早くも訓練開始というわけだ。




「わかった」




「では始めます。まずは一番簡単な土魔法から」




 そう言ってサーシャは無造作に手のひらを上に向けた。




「[アース]」




 すると不思議な事に彼女の手のひらから土が生まれた。まるで手のひらの上に、小さな土の噴水があるみたいだ。




「では同じようにやってみてください」




 サーシャに言われ僕もやってみる。手のひらを上に向け、先程の光景を思い浮かべながら……




「[アース]!」




 すると、手のひらの上にサーシャ程ではないが少量の土が生まれた。




「やった! 出来たよサーシャ!」




 思わず叫び、彼女にその土を見せつける。




「……まさか、一回見せただけで成功するなんて……」 




 なにやら目を見開いて驚いている。どうやら一発で出来ないと思っていたようだ。実は僕もそう思っていた。言わないけど。




「で、では次の魔法にいきましょう」




 今度はどもりながらサーシャは手を前に向ける。




「[ウォーター]」




 彼女が静かにそう唱えると手のひらから水がピューっと出てきた。これは出来そうだな。




「では坊ちゃまも同じようにしてみてください」




「わかった。[ウォーター]!」




 手を前に向け、意気込んで唱えた魔法は、しかし少量の水滴が出てきただけだった。




「あれ?」  




 イメージしていた結果と違う結果になって戸惑う。どういうことだ?




「あ、あら? 少量とはいえまた成功なさってる……」




「え、これで成功なの?」




 横から僕の手のひらを覗いてきたサーシャがそんな事を言ったので思わず聞いてしまった。




「はい。初めて使う魔法では、この結果は十分成功と言っても良いかと思います。一回見ただけでも全く出来ないのが普通ですから……」




 そうだったんだ。そういえばさっきの[アース]を使ったときも驚いてたっけ。
 んー……。けど、やっぱり僕としてはサーシャのようにピューっと水を出したかったんだけどな。やっぱり経験が足りないせいか? ならイメージで補うしかないんだけど…………そうだ!




「サーシャ! もう一回やってもいい?」




「え、えぇ。構いません」




 よし。サーシャの許可も得た。もう一回、今度は別のイメージも加えてやってみる。
 さっきサーシャがやったようなイメージ。これに水の生成のイメージを加える。具体的には大気を圧縮…………いや、大気中にある水素と酸素から水を…………いや! もっと具体的に水素分子二個と酸素分子一個から二個の水分子を生み出すイメージだ!!




「……[ウォーター]!」




 すると僕の手のひらから水が勢いよく出た……いや、勢いよく出すぎた。その水はもはや水柱と言って良く、地面を抉りながら遠くへ向かっていく。先程のサーシャが出した[ウォーター]とは比べ物にならない威力だ。
 慌てて水柱を霧散させる僕。
 その様子を見てサーシャと一言。




「「……え?」」




 呆然と。そう声を発することしか僕らにはできなかった。

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