隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
23話 ハンコと実験
しばらく考え、やがて一つの策を思いついた。
「ハンコを作ればいいのでは?」
魔法記号のハンコ。これが出来れば楽に魔法陣が描ける。それに一度作れたら二回目からは楽が出来る。作り方も簡単にだか思いついた。だけど……
「今から作ったら日があけるだろうな……」
窓の外を見れば真っ暗だ。月は高く登り、虫達の合唱が聞こえてくる。今からハンコを作るにはどう考えても時間が厳しい。今日は諦めて明日作ろうか……。
そんなことを考えているとサーシャが声を掛けてきた。
「坊ちゃま。ハンコ、とは、どのような物なのでしょうか?」
「ん? えっとハンコって言うのはこんなので……」
紙に絵を描き、ハンコに関して簡単に説明する。なにやらアンナもサーシャの後ろから覗き込んで、僕の説明を熱心に聞いている。
「なるほど。つまり彫った絵を一瞬で、しかも全く同じ物を描くことができるものなのですね」
ハンコならいくら魔法文明と言えども、一つくらいありそうなものだけど……。
そんなことを思っているとアンナがポツリと一言。
「なんだか魔封蝋みたいですねー」
なにやら気になる単語が聞こえた。
「アンナ。その魔封蝋ってなに?」
アンナの説明曰わく、魔封蝋とは封蝋と同じように手紙の封筒などに封印を施す魔道具らしい。こう言うと封蝋と同じように聞こえるが、ただ一点、封蝋と違うところがる。それは手紙の封筒自体に埃や雨から守るための保護魔法が付与される、という点だ。
……なるほど。この世界にはハンコより一歩先を行く魔道具があったのか。もっとも今の魔法文明ではなく、古代文明の遺物だが。
するとサーシャが再び声を掛けてきた。
「坊ちゃま。坊ちゃまが仰るハンコならば私が作りましょうか? これならすぐに作れると思いますので」
「え、すぐにできるの? 今はもうこんな時間だけど」
窓の外、真っ暗な世界を指差しながら言う。
「はい。このくらいならば木を変形させれば簡単に出来ます」
木を変形させる?
木を切るや削るならばまだわかるのだが、変形させるとはどういうことだ?
「その木を変形させるっていうのはどういうこと?」
何か変なことを言っただろうか。僕の言葉を聞いたサーシャはキョトンとした顔をした。するとすぐに納得したような素振りを見せて口を開いた。
「坊ちゃまにはまだお教えしていませんでしたね。これをご覧ください」
そう言ってサーシャは何も書かれていない真っ白な紙を手にとった。すると次の瞬間、驚いたことに、その紙が端からひとりでにクルクルと巻かれ、あっという間に筒状になった。
「このように物体にある一定以上の魔力を流し込むと自由に変形が出来るようになります。これを魔力掌握と言い、物作りに携わる人達に必須の技術とされています」
……魔法に関わることならもう驚かない自信があったのだがまだまだだったようだ。開いた口が塞がらないどころか、顎が外れてしまいそうである。魔法、便利すぎである。
「あれ? それじゃあ、ものさしとコンパスを作るときにそれをすればすぐに出来たんじゃ……」
思わぬ事実に愕然とする。顎が床につきそうである。
「そう落ち込まないで下さい、坊ちゃま。魔力掌握にはかなりの魔力が必要なのでそうおいそれと出来るものではありません」
「そうなんだ。……ちなみにアンナはこのこと知ってたの?」
「もちろん知ってましたよ。でも坊ちゃまは魔力がそれほど多くないとサーシャさんから聞いていたので、あえてその方法を取らないんだと思っていました」
そうだったのか……。まぁ、今更嘆いても仕方がない。気持ちを切り替えよう。
「なら、サーシャ。ハンコ作りの方を任せていいかな?」
「もちろんです」
それからハンコが出来るまではあっという間だった。
ものさしとコンパスを作った時に出た端材を見本の魔法陣の横に置き、しばらく見比べていたかと思ったら、次の瞬間にはハンコが出来ていた。試しに紙に押して、その紙を魔法陣の上に置いて透かしてみたが、全く同じだった。
サーシャ曰わく、ここまで正確にできたのは見本がそばにあるためイメージしやすかったからだとか。
それでもスゴイよ、これ。針の穴に一発で糸を通すくらいスゴイよ。
それにサーシャの様子を見てもハンコを作る前と特に変わりはない。かなりの魔力がいるって言ってたのに、魔力が切れないなんて……。
……というかこれで直接魔法陣を作ればいいんじゃ……。あ、作っている途中に不完全な魔法陣が起動したら危ないからしないと。なるほど。
ひとまずこれで見本の魔法陣である魔道ランプの魔法陣を紙に模写できた。明日はこれの起動実験だ。
◇◆◇◆◇◆
また朝の訓練を早めに終わらせ、僕とアンナは庭で実験の下準備をしていた。
「[アースホール]! ……ふぅ。 坊ちゃま、このくらいの深さでどうでしょうか!」
穴の底からアンナが話しかけてくる。
「バッチリだよ! ついでにそこから地上までジャンプできるか試してみて!」
穴の深さは約五メートル。これだけの深さがあれば今回の実験には充分だろう。後はアンナが穴の底からすぐに出られるかどうかだが……。
「わかりましたー!」
そう言って彼女は穴の底を蹴り、スタッと地上に着地してみせた。心配は無用だったみたいだ。
「お疲れ様。これで準備は完了だね」
「そうですけど……あれは何ですか?」
アンナが困惑した顔をしながら指を指した方には、大人の男性程もある土の山が。
「爆発から身を守るための防壁だよ。念には念をいれて作っておこうと思ってね」
アンナが穴を掘る魔法、[アースホール]は不便なことに、穴を作った場所にあった土が穴の外に出てくるのだ。そのためアンナが作っていた穴の周りにでた土を、全て使って簡単な防壁を作った。
「僕とサーシャはこの防壁の後ろにあらかじめ避難しておくから、アンナも穴から脱出したらすぐにここに来てね」
「承知しました!」
アンナとそんなやりとりをしていると家の方からサーシャが歩いてきた。
「坊ちゃま、お昼ご飯が出来ました」
早いな。もうそんな時間か。
時間を意識していない間はお腹が空くことはなかったが、一旦昼時だと意識してしまうとなんだか急にお腹が空いてきた。それはアンナも同じだったようで、僕達はそそくさと家に入り、すぐさまお昼ご飯を平らげた。御馳走様でした。
◇◆◇◆◇◆
早く実験を始めたいがために食器洗いを手伝い、僕らは再び庭に集合した。サーシャとアンナはメイド服ではなくそれぞれ動きやすい服装をしている。
「まずは実験の手順をもう一度説明するね。
アンナは穴の底、サーシャと僕は防壁の向こうでスタンバイする。
そして僕が五からカウントダウンをするから、それに合わせてアンナは魔法陣を起動、と同時に肉体強化魔法を使って穴から脱出。
サーシャはアンナが穴から脱出したのを確認して[アースウォール]を横に展開。穴に蓋をする。
これで全部だけど、何か質問ある?」
僕がそう聞くも、二人は揃って首を横に振った。
「よし! じゃあ早速始めよう!」
「「はい」」
緊張した面持ちで二人は位置についた。それを確認して僕も急いでサーシャの下へ行く。
「坊ちゃま、防御魔法をかけますね」
そういえば、僕に全力の防御魔法をかけるとかそんな話があったな。恐らく爆発はしないだろうからいらないと思うけど、一応掛けてもらおうかな。
「実験が終わっても自由に動けるくらいには魔力は残しておいてよ?」
「もちろんです。[ウォーターベール]」
彼女は了承し、僕に防御魔法をかけてくれた。
突如僕の全身を薄い水の膜が覆う。
「おわぁ!? ……あ、なんだ。息はちゃんと出来るんだね」
急に水の中に入れられたのかと思ったよ。焦ったー。
「これってちゃんと声は聞こえてるんだよね?」
「はい。聞こえております」
サーシャがそんな凡ミスをするとは思わなかったけど、一応聞いておかないとね。念には念を、だ。
「サーシャ、準備はいいね?」
「はい」
やや緊張を伴った声で返事をしてきたサーシャ。
「アンナー! 準備はいいー?」
「大丈夫でーす!」
僕の質問に対して間髪入れずに返事をしてきたアンナ。こちらの声もしっかり聞こえているようだし、準備も出来ているようだ。
なら、早速始めようか!
「じゃあ、カウントダウンいくね!」
「「はい!」」
「五!」
サーシャが手のひらを穴に向ける。
「四!」
アンナが肉体強化魔法を発動したのだろう。微かに魔力が感じられた。
「三!」
サーシャも魔力を集め[アースウォール]を使う準備をする。
「二!」
ザリ、と。アンナが土を踏みしめる音が聞こえてきた。
「一!」
アンナが魔力を魔法陣に込める準備を完了させる。
「零!」
そう叫んだ瞬間、僕は後ろに飛んで防壁に全身を隠す。
「きゃああああああ!」
突如アンナの悲鳴が聞こえた。
まさか!? と思い急いで防壁から顔をだす。
すると、目の前にはつま先が。
は?
「[アースウォール]!」
サーシャが魔法を発動させた。
「ぶへぇ!?」
と同時に顔面に痛みが走った。
「あぁ!? 坊ちゃま!!」
とアンナの叫び声が。
……あれ?
「坊ちゃま! 大丈夫ですか!?」
もう一度アンナの声が。
……あれれ?
うっすらと目を開くと目の前にはアンナが。……おかしいな。アンナの悲鳴が聞こえたから、魔法陣が爆発したのかと思ったんだけど……。見た感じピンピンしてるな。一応聞いとくか。
「あんにぁ、はいほうふ?」
「サーシャさん! 坊ちゃまに回復魔法をお願いしますぅ!」
その後すぐさまサーシャが回復魔法を使ってくれたおかげで顔の痛みが完璧に取れた。
「つまり爆発するかもしれないという恐怖に負けて、つい悲鳴を上げてしまったと?」
「はい……。本当に申し訳ありませんでした」
ペコリと、アンナが頭を下げてきた。
「いやいや、元々は僕がするつもりだった係をアンナがやってくれたんだから謝らないでよ。そもそも僕が防壁から顔を出したのが悪いんだしさ」
サーシャが僕に掛けてくれた防御魔法、[ウォーターベール]は高熱から身を守るための魔法であり物理的な攻撃にはめっぽう弱いらしい。防壁があったら物理的な攻撃に強い防御魔法はいらないって思うよね、そりゃ。
「坊ちゃま、アンナ」
僕とアンナがお互いに謝罪しあっているとサーシャが声を掛けてきた。
「魔法陣が正常に起動しているか確認しに行きませんか?」
……そうだった。今は魔法陣の実験中だった。顔を蹴られたことが頭にいっぱいで、すっかり忘れてたよ。
「ハンコを作ればいいのでは?」
魔法記号のハンコ。これが出来れば楽に魔法陣が描ける。それに一度作れたら二回目からは楽が出来る。作り方も簡単にだか思いついた。だけど……
「今から作ったら日があけるだろうな……」
窓の外を見れば真っ暗だ。月は高く登り、虫達の合唱が聞こえてくる。今からハンコを作るにはどう考えても時間が厳しい。今日は諦めて明日作ろうか……。
そんなことを考えているとサーシャが声を掛けてきた。
「坊ちゃま。ハンコ、とは、どのような物なのでしょうか?」
「ん? えっとハンコって言うのはこんなので……」
紙に絵を描き、ハンコに関して簡単に説明する。なにやらアンナもサーシャの後ろから覗き込んで、僕の説明を熱心に聞いている。
「なるほど。つまり彫った絵を一瞬で、しかも全く同じ物を描くことができるものなのですね」
ハンコならいくら魔法文明と言えども、一つくらいありそうなものだけど……。
そんなことを思っているとアンナがポツリと一言。
「なんだか魔封蝋みたいですねー」
なにやら気になる単語が聞こえた。
「アンナ。その魔封蝋ってなに?」
アンナの説明曰わく、魔封蝋とは封蝋と同じように手紙の封筒などに封印を施す魔道具らしい。こう言うと封蝋と同じように聞こえるが、ただ一点、封蝋と違うところがる。それは手紙の封筒自体に埃や雨から守るための保護魔法が付与される、という点だ。
……なるほど。この世界にはハンコより一歩先を行く魔道具があったのか。もっとも今の魔法文明ではなく、古代文明の遺物だが。
するとサーシャが再び声を掛けてきた。
「坊ちゃま。坊ちゃまが仰るハンコならば私が作りましょうか? これならすぐに作れると思いますので」
「え、すぐにできるの? 今はもうこんな時間だけど」
窓の外、真っ暗な世界を指差しながら言う。
「はい。このくらいならば木を変形させれば簡単に出来ます」
木を変形させる?
木を切るや削るならばまだわかるのだが、変形させるとはどういうことだ?
「その木を変形させるっていうのはどういうこと?」
何か変なことを言っただろうか。僕の言葉を聞いたサーシャはキョトンとした顔をした。するとすぐに納得したような素振りを見せて口を開いた。
「坊ちゃまにはまだお教えしていませんでしたね。これをご覧ください」
そう言ってサーシャは何も書かれていない真っ白な紙を手にとった。すると次の瞬間、驚いたことに、その紙が端からひとりでにクルクルと巻かれ、あっという間に筒状になった。
「このように物体にある一定以上の魔力を流し込むと自由に変形が出来るようになります。これを魔力掌握と言い、物作りに携わる人達に必須の技術とされています」
……魔法に関わることならもう驚かない自信があったのだがまだまだだったようだ。開いた口が塞がらないどころか、顎が外れてしまいそうである。魔法、便利すぎである。
「あれ? それじゃあ、ものさしとコンパスを作るときにそれをすればすぐに出来たんじゃ……」
思わぬ事実に愕然とする。顎が床につきそうである。
「そう落ち込まないで下さい、坊ちゃま。魔力掌握にはかなりの魔力が必要なのでそうおいそれと出来るものではありません」
「そうなんだ。……ちなみにアンナはこのこと知ってたの?」
「もちろん知ってましたよ。でも坊ちゃまは魔力がそれほど多くないとサーシャさんから聞いていたので、あえてその方法を取らないんだと思っていました」
そうだったのか……。まぁ、今更嘆いても仕方がない。気持ちを切り替えよう。
「なら、サーシャ。ハンコ作りの方を任せていいかな?」
「もちろんです」
それからハンコが出来るまではあっという間だった。
ものさしとコンパスを作った時に出た端材を見本の魔法陣の横に置き、しばらく見比べていたかと思ったら、次の瞬間にはハンコが出来ていた。試しに紙に押して、その紙を魔法陣の上に置いて透かしてみたが、全く同じだった。
サーシャ曰わく、ここまで正確にできたのは見本がそばにあるためイメージしやすかったからだとか。
それでもスゴイよ、これ。針の穴に一発で糸を通すくらいスゴイよ。
それにサーシャの様子を見てもハンコを作る前と特に変わりはない。かなりの魔力がいるって言ってたのに、魔力が切れないなんて……。
……というかこれで直接魔法陣を作ればいいんじゃ……。あ、作っている途中に不完全な魔法陣が起動したら危ないからしないと。なるほど。
ひとまずこれで見本の魔法陣である魔道ランプの魔法陣を紙に模写できた。明日はこれの起動実験だ。
◇◆◇◆◇◆
また朝の訓練を早めに終わらせ、僕とアンナは庭で実験の下準備をしていた。
「[アースホール]! ……ふぅ。 坊ちゃま、このくらいの深さでどうでしょうか!」
穴の底からアンナが話しかけてくる。
「バッチリだよ! ついでにそこから地上までジャンプできるか試してみて!」
穴の深さは約五メートル。これだけの深さがあれば今回の実験には充分だろう。後はアンナが穴の底からすぐに出られるかどうかだが……。
「わかりましたー!」
そう言って彼女は穴の底を蹴り、スタッと地上に着地してみせた。心配は無用だったみたいだ。
「お疲れ様。これで準備は完了だね」
「そうですけど……あれは何ですか?」
アンナが困惑した顔をしながら指を指した方には、大人の男性程もある土の山が。
「爆発から身を守るための防壁だよ。念には念をいれて作っておこうと思ってね」
アンナが穴を掘る魔法、[アースホール]は不便なことに、穴を作った場所にあった土が穴の外に出てくるのだ。そのためアンナが作っていた穴の周りにでた土を、全て使って簡単な防壁を作った。
「僕とサーシャはこの防壁の後ろにあらかじめ避難しておくから、アンナも穴から脱出したらすぐにここに来てね」
「承知しました!」
アンナとそんなやりとりをしていると家の方からサーシャが歩いてきた。
「坊ちゃま、お昼ご飯が出来ました」
早いな。もうそんな時間か。
時間を意識していない間はお腹が空くことはなかったが、一旦昼時だと意識してしまうとなんだか急にお腹が空いてきた。それはアンナも同じだったようで、僕達はそそくさと家に入り、すぐさまお昼ご飯を平らげた。御馳走様でした。
◇◆◇◆◇◆
早く実験を始めたいがために食器洗いを手伝い、僕らは再び庭に集合した。サーシャとアンナはメイド服ではなくそれぞれ動きやすい服装をしている。
「まずは実験の手順をもう一度説明するね。
アンナは穴の底、サーシャと僕は防壁の向こうでスタンバイする。
そして僕が五からカウントダウンをするから、それに合わせてアンナは魔法陣を起動、と同時に肉体強化魔法を使って穴から脱出。
サーシャはアンナが穴から脱出したのを確認して[アースウォール]を横に展開。穴に蓋をする。
これで全部だけど、何か質問ある?」
僕がそう聞くも、二人は揃って首を横に振った。
「よし! じゃあ早速始めよう!」
「「はい」」
緊張した面持ちで二人は位置についた。それを確認して僕も急いでサーシャの下へ行く。
「坊ちゃま、防御魔法をかけますね」
そういえば、僕に全力の防御魔法をかけるとかそんな話があったな。恐らく爆発はしないだろうからいらないと思うけど、一応掛けてもらおうかな。
「実験が終わっても自由に動けるくらいには魔力は残しておいてよ?」
「もちろんです。[ウォーターベール]」
彼女は了承し、僕に防御魔法をかけてくれた。
突如僕の全身を薄い水の膜が覆う。
「おわぁ!? ……あ、なんだ。息はちゃんと出来るんだね」
急に水の中に入れられたのかと思ったよ。焦ったー。
「これってちゃんと声は聞こえてるんだよね?」
「はい。聞こえております」
サーシャがそんな凡ミスをするとは思わなかったけど、一応聞いておかないとね。念には念を、だ。
「サーシャ、準備はいいね?」
「はい」
やや緊張を伴った声で返事をしてきたサーシャ。
「アンナー! 準備はいいー?」
「大丈夫でーす!」
僕の質問に対して間髪入れずに返事をしてきたアンナ。こちらの声もしっかり聞こえているようだし、準備も出来ているようだ。
なら、早速始めようか!
「じゃあ、カウントダウンいくね!」
「「はい!」」
「五!」
サーシャが手のひらを穴に向ける。
「四!」
アンナが肉体強化魔法を発動したのだろう。微かに魔力が感じられた。
「三!」
サーシャも魔力を集め[アースウォール]を使う準備をする。
「二!」
ザリ、と。アンナが土を踏みしめる音が聞こえてきた。
「一!」
アンナが魔力を魔法陣に込める準備を完了させる。
「零!」
そう叫んだ瞬間、僕は後ろに飛んで防壁に全身を隠す。
「きゃああああああ!」
突如アンナの悲鳴が聞こえた。
まさか!? と思い急いで防壁から顔をだす。
すると、目の前にはつま先が。
は?
「[アースウォール]!」
サーシャが魔法を発動させた。
「ぶへぇ!?」
と同時に顔面に痛みが走った。
「あぁ!? 坊ちゃま!!」
とアンナの叫び声が。
……あれ?
「坊ちゃま! 大丈夫ですか!?」
もう一度アンナの声が。
……あれれ?
うっすらと目を開くと目の前にはアンナが。……おかしいな。アンナの悲鳴が聞こえたから、魔法陣が爆発したのかと思ったんだけど……。見た感じピンピンしてるな。一応聞いとくか。
「あんにぁ、はいほうふ?」
「サーシャさん! 坊ちゃまに回復魔法をお願いしますぅ!」
その後すぐさまサーシャが回復魔法を使ってくれたおかげで顔の痛みが完璧に取れた。
「つまり爆発するかもしれないという恐怖に負けて、つい悲鳴を上げてしまったと?」
「はい……。本当に申し訳ありませんでした」
ペコリと、アンナが頭を下げてきた。
「いやいや、元々は僕がするつもりだった係をアンナがやってくれたんだから謝らないでよ。そもそも僕が防壁から顔を出したのが悪いんだしさ」
サーシャが僕に掛けてくれた防御魔法、[ウォーターベール]は高熱から身を守るための魔法であり物理的な攻撃にはめっぽう弱いらしい。防壁があったら物理的な攻撃に強い防御魔法はいらないって思うよね、そりゃ。
「坊ちゃま、アンナ」
僕とアンナがお互いに謝罪しあっているとサーシャが声を掛けてきた。
「魔法陣が正常に起動しているか確認しに行きませんか?」
……そうだった。今は魔法陣の実験中だった。顔を蹴られたことが頭にいっぱいで、すっかり忘れてたよ。
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