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隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

19話 約束と考察

「坊ちゃま。どうかお止めください」




 そう言ってサーシャが僕の前に回り込んできた。




「……理由は?」




 顔を上げ、彼女の顔を見ると一瞬言葉を失ってしまった。
 あまりにも真剣な顔をしていたからだ。
 僕もおふざけ無しで真面目に話し合う心構えをし、彼女の目を真っ直ぐに見つめる。




「魔法陣の謎に挑んだ人々は沢山いましたが、その謎を誰一人解くことができなかったと私は説明しました」




「そうだね」




「この謎は三代前の王だけでなく、国中の研究者達が満場一致で解けないと認めた謎です。 『魔法陣の種類は無限にあるという事実が謎を謎たらしめていた』と先々王が民衆の前でそう宣言したのです。 ですから坊ちゃまが今からその謎に挑む意味はありません」




 サーシャの顔を見、そして言葉を聞き、思わず笑みが漏れてしまった。
 ほんと、僕は愛されているんだな。この世界で生まれてからずっと。




「坊ちゃま、どうして笑っているのですか?」




「何故そのことをさっき説明しなかったの? その説明をしていたら僕は魔法陣の謎を解こうとは思わなかったかもしれないのに」




 そんな嘘をつくなんてサーシャは余程僕をその謎に挑ませたく無いらしい。
 まぁ、その気持ちはわからなくもないけど……。




 目を見つめ合いながら話していると、嘘をついた時、人間は左上を見ることは有名だ。
 右脳は想像を、左脳は記憶を支配しており、さらに右脳は左半身に、左脳は右半身に繋がっている。
 そのため嘘をつくとき、つまり記憶に無いことを話すときは右脳が働く事によって左上をみてしまう。




 サーシャが言っていた『先々王だけでなく、国中の研究者達が満場一致で解けないと認めた謎』『先々王が民衆の前で宣言した』と言っていたが、それを話しているときの彼女の目はしっかりと左上を向いていた。


 
 これを根拠に嘘だと言い切ってサーシャを説得することも考えたが、僕はまだ六歳である。……時々忘れそうになるが体は六歳なのだ。体は。ここ重要だからね? 精神は18歳だから。
 そんな六歳の子供がこんな根拠を並べても、どこでそんなことを知ったのかという質問が必ず返って来るだろう。
 だから嘘には気付かないフリをしつつ妥協案を提示する。




「まぁ解けないと思ったらすぐに引き下がるよ。それだけは約束する。僕の一生をかけて解こうなんて思ってないから安心して」




 恐らく、サーシャが心配しているのは僕が自分の人生を全て使って魔法陣の謎に挑むことだろう。
 だからこう言えばサーシャも納得するはずだ。




「……ニ年です」




「え?」




「ニ年で何も成果が出なければ、魔法陣の謎に挑むのは止めて下さい」




「……あー、うん。分かったよ」




 時間制限つきか。
 まぁいくら僕が一生を掛けるつもりはないと言っても、僕が解けないって思わない限りずっと続ける事になっちゃうからなぁ。
 それぐらいの条件ならば受け入れても何も問題はないか。




◇◆◇◆◇◆




 ドン!




 本を机に置いただけなのになかなか大きい音が出た。重すぎだろ……。




「サーシャ、ありがとう」




 読書スペースには大きな机と椅子がたくさんあった。
 ここで勉強したら捗りそうだな。前世でよく利用していた図書館の机と似ている。
 なんだか図書館を貸し切りにした気分になり、テンションが上がってきた。




「サーシャ、別に急がなくてもいいから残りの二~十一巻を全部持ってきてくれない?」




「承知しました」




 ここまでくる間、サーシャは『魔法陣集 一巻』を涼しい顔で持っていた。大人の力ならそんなに重く感じないのかもしれない。




 よし。気持ちを入れ替えて、始めますか!
 あ、紙とペンが無いじゃん。




「サーシャ、何か書くものってある?」




 スタスタと歩き始めたサーシャに声かける。
 すると彼女は足を止め、こちらに向き直った。 




「紙は机の引き出しの中にあります。ペンとインクはすぐに持って参りますので少々お待ち下さい」




 すると、サーシャは別の方向に向かって歩き始めた。先にペンとインクを持ってきてくれるみたいだ。
 ……ちょっと待て。ペンとインクって言った?
 ペンはシャーペンとかボールペンをイメージしていたけど、よく考えたらこの世界にそんなもの無さそうだよね? 
 てか、絶対無いよね。
 だってインクって言ってたもん。
 インクって事は、ペンは万年筆か?
 そんなの使った事なんてないからサーシャに使い方を教えて貰わなきゃ。




 ……あ、紙出してないや。
 引き出しを開けるとサーシャが言った通り紙が入っていた。
 とりあえず五枚程出しておこう。




「お待たせいたしました」




 紙を引き出しから出したタイミングでサーシャが戻ってきた。早かったな。
 そして彼女の手を見ると、そこには立派な万年筆が……あれ!? 羽だ!? 羽ペンだ!? 万年筆ですらないのか!
 は、羽ペンなんて使ったこと無いよ……。
 ……いや、使ったことないけど大丈夫だ! 『記憶』に羽ペンの使い方があった! 




「ありがとう、サーシャ」




「では残りの本をもって参りますので少々お待ち下さい」




「分かった。急がなくていいからねー」




 珍しく『記憶』が役に立ったな。








 さて、と。ここからは気持ちを入れ替えて真面目に取りかかりますか。




 まずサーシャが話していた魔法陣の説明を紙に書いて纏めよう。




・種類は無限にある
・似た魔法陣でも違う魔法を発現させることがある
・全く異なる魔法陣が同じ魔法を発現させることがある
・全ての魔法陣は魔法円の中に模様がある
・魔法記号と呼ばれる特殊な記号が使われている
・魔力を通しやすい液体で書かれている




 これで全部だな。気になることを順番に一つ一つ考えていこう。




 まず一つ目。無限にあると言われている種類の多さ。
 これを聞いたとき、前世でもそんな思いをしたことがあったのを思い出した。




 化学反応式を習った時だ。
 中学校の理科で先生に化学反応式は覚えろと言われ、バカ正直に丸暗記したが、高校では新たな化学式や反応式がたくさん出てきて、てんやわんやになったことがある。
 その時に(化学反応式は無限にあるんじゃね?) と思った。
 後にそれを先生に質問したのだが、『化学反応式は覚える物じゃなくて作る物だ』と言われ、まるで雷に打たれたような衝撃を感じた。




 つまり何が言いたいかというと、魔法陣は無限に種類があるのではなく、何らかのルールに乗っ取って作られ、描かれているのではないか、という事だ。
 そしてこの考えは恐らく、いや、確実に当たっている。
 根拠は魔法円。
 全ての魔法陣が円形であり、多角形の魔法陣は無いという事実。
 このことから魔法陣は円形でなければならないというルールがあるはずだ。
 それと魔法記号。
 基本的に記号には大抵何らかの意味がある。例えば地図記号がそうだ。
 だからこの魔法記号も何かを表しているはずだ。




 そして二つ目に気になったこと。非常に似ている種類の魔法陣であっても、全く別の魔法を発現させる、だ。




 これも化学の考え方を応用すれば色々と辻褄が合う部分がある。
 例えば反応前の物質が鉄と酸素、銀と酸素が入った二つのビンがあるとする。一見しただけじゃ鉄と銀を見分ける事が出来ない。言い換えれば非常に似ていると言える。だがそれぞれの金属を酸化させれば、酸化鉄と酸化銀という全く別の化合物が出来上がる。
 魔法陣の模様を反応前の物質、そして発現する魔法を反応後の物質とみなして考えればいい。




 この逆パターン、つまり模様が全く似ていない魔法陣が、全く同じ魔法を発現させる、ということも化学の考え方を利用してみると納得がいく。
 水素は水の電気分解によって得たり、鉄やニッケル、亜鉛などの金属に塩酸や硫酸をかければ得られる。
 この水素を発現する魔法だとすると、一つの魔法を発現させるには様々な方法があるのだろう。
 そのため似ていない模様の魔法陣でも、全く同じ魔法を発現させる事が出来るのだろう。




「坊ちゃま。お待たせしました」




「う、うん。ありがとう、サーシャ。……大丈夫?」




 手を動かしながら自分の考えに耽っていると、サーシャが『魔法陣集』の二~十一巻を一度に全部持ってきてくれた。
 ……両手で抱えて。すごい無茶するな。




「肉体強化魔法を使っていますから、大丈夫ですよ」




「そうなんだ……」




 魔法便利すぎだろ。




「ならこの机の真ん中に置いといて。今から使うから」




「もしかして全部使うのですか?」




「うん。それでサーシャに手伝って貰いたいことがあるんだけど頼んでもいいかな?」




 僕一人ではテーブルの真ん中にギリギリ手が届かないし、本を動かすのも一苦労だ。
 だからサーシャの手を借りたい。




「承知しました。では、私は何を手伝いましょうか」




 サーシャが机の真ん中に『魔法陣集』を置き、そう聞いてきた。




「えっと、全ての巻の『魔法陣集』から、[ライト]の魔法陣を探して欲しいんだ。見つけたらそのページを開けて僕の横とか前とか、とりあえず近くに置いといて」




 僕は[ライト]以外使ったことがないから、今回はそれ以外の魔法陣は調べない。
 サーシャに指示を出してから、僕も一巻から順に探していく。
 お、早速発見。でも三種類しか無いな。




 どうやらこの『魔法陣集』はおよそ百年ごとに新しい巻が作られているらしい。表紙の端っこに『太陽暦元年~百年』と書いているから間違いない。
 百年でたったの三種類か。同じページに描かれている他の魔法陣を見ても一つの魔法あたり、多くても六種類しかない。
 ……この本、二千ページ以上あるんだよ。それがまだ十冊も残ってるんだ……。




 こんなことを考えている間も、手はしっかりと動かしている。
 目的の魔法陣と発現する[ライト]の特徴を全て紙に書き出していく。
 ちなみに前世で図形問題を解くときに、円や直線を何回もフリーハンドでノートに書いていたから、ある程度綺麗な図は書ける。例え羽ペンが使い難くても可能だ。ドヤァ。




「あ、ミスった」




 ……余計な事を考えるのは止めよう。



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