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隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

15話 魔力量と後悔

 思っていた以上に深刻な問題だったようだ。まさか殆どの魔法、魔導具が使えないとは……。




「……ちなみに平均は何色なの?」




 基準が知りたいので質問してみる。




「一般的には青と緑の中間といったところでしょうか。坊ちゃまと同じ六歳児の平均でも青色はでると思います」




 まじか……。




「ですが安心してください。それは今の坊ちゃまの魔力量では扱える魔法が少ない、ということです。これから毎日コツコツと魔力量を増やして行けば問題はないかと」




「魔力量を増やす? 魔力量って増えるものなの?」




「はい。ですが魔力量を増やすといっても簡単な事ではありません」




 サーシャ曰わく、魔力量を増やす方法は頻繁に魔力を使うか、魔力切れを起こすかの二つあるらしい。
 そもそも魔力切れとは、簡単に言えば体内の魔力が無くなることだ。
 厳密には、消費した魔力に対して回復する魔力は極僅かなので、魔力を消費し続ければ回復が追いつかなくなる。その結果、体内の魔力を消費しきる。この状態を魔力切れと呼ぶらしい。
 また、体内に許容出来る魔力の総量もそれぞれであり、この量を一度に使い切ることでも起こる。




 魔力量を増やすとは、この回復量と魔力の許容量を増やすことを指すらしい。




「聞いた限りでは簡単な事のように思えるけど……」




「……坊ちゃま、本気で言ってますか?」




 サーシャが呆れたような、バカにしたような目を向けてくる。




「……」




 本気で言ってます! とか間違っても言えないな。




「坊ちゃま。先程坊ちゃまが意識を失う前に、体に寒気やダルさなどの異常をきたしていませんでしたか?」




 沈黙で返したのを肯定と受け取ったのだろう。質問というより確認のような口調でそう言ってきた。
 一度目に倒れた時はアドレナリンがドバドバ出ていたためか、なにも感じなかった。だが、二度目の魔力切れでは確かにサーシャが言ったような異常を感じた。




「もしかしてそれが簡単じゃないって理由?」




「そのとおりです」




 確かにあの感覚を味わうのはもう二度とごめんだ。
 だが、それを乗り越えねば魔法が自由に使えない、となれば話は変わってくる。むしろ逆にやる気がどんどん出てくる。
 魔法。ロマン。夢のようなことが実現できる。かっこいい。
 これだけの理由があれば充分だ。
 それに[ライト]が使えただけでも、あれだけ嬉しかったのだ。他の魔法ももっと使ってみたいと思うのも普通だよね?
 だが先程のこともあったので、今日は止めておく。




「今日は魔力操作の訓練だけにしましょうか。そして明日からは魔法の訓練と平行して、無理のない範囲で魔力量を増やしていきましょう。」




「わかったよ」




◇◆◇◆◇◆




 午後の訓練を終え、晩御飯を食べ終え、自分の部屋に帰ってきた。
 体を拭き寝間着に着替えてベッドにダイブする。
 そして[ライト]を使う。
 え? 今日は止めておくって言ってた? あれは嘘だ!
 あの時はサーシャに心配をかけないように気を使ったから潔く諦めたが、今この部屋には僕しかいない!
そしてベッドに入っているので意識が無くなっても問題なし!
そしてこの部屋には明かりがないから[ライト]の強さが分かりやすい!




 これだけの環境が整っているにも関わらず[ライト]を使わない人はいるだろうか。いや、いない!




 やはり昼間に見る[ライト]より、夜に見たほうがどれだけ明るいのかが分かりやすい。
 今の[ライト]はベッドの端まで光が届いていない。思っていた以上に光の強さが弱いな。
魔力をさらに追加して光を強めてみる。すると今度は辛うじて部屋の端が見えるくらいまで明るくなった。だが……




「うぅ……」




 魔力の消費量が多すぎる。若干の倦怠感が押し寄せてきた。




 一旦浮かべていた[ライト]を霧散させる。
 魔力操作の制御下から離れた魔法、魔力はこのように霧散する。これは魔法が上手く具現化されていない場合も同じように霧散するらしい。




 五分程ジッとしているとダルさは残っているものの、だいぶ体が楽になった。どうやら魔力が少しは回復したらしい。たった五分でも結構楽になるんだな。




「さて、どうしようか。問題は光が弱いことだ」




 声を出してそれを耳にすると、頭が活性化され、アイディアが浮かびやすくなる。
 つまり独り言をブツブツ言っているとその内新たな考えが生まれやすい。だが、流石に人前でこんなことをやる勇気はないので今のように誰もいない環境でするのがベストだ。




「単に魔力を追加しただけだと確かに明るくはなる。だけど魔力をたくさん持って行かれるからこれは却下だな。もっと効率が良い方法がいい」




 もう一度目の前に[ライト]を浮かべながら考える。




「……大きさは? 中の魔力を抜くことで消費量が少なくなったんだ。もっと小さく、例えば練り消しぐらいの大きさなら、さらに消費量が減るんじゃないか?」




 ピンポン球の大きさから、誰しも一度は作ったことがあるだろう、消しゴムのカスから作れる練り消しの大きさまで小さくする。




「うーん。確かに消費量は減ったけどさらに暗くなったな」




 もはや練り消し[ライト]の周囲数十センチを照らすくらいの明るさしかない。




「これに減った分の魔力を明るさに使う、と」




 先程より明らかに光が強くなった。ベッドの隣にある本棚もハッキリ見える。ただ、




「眩しすぎるな。こんなものを間近で見続けると目が悪くなりそうだ」




 流石にこの世界でもメガネをかけるなんてごめんだ。あれは前世だけで充分だ。
 いったん[ライト]を消す。




「まさか明るすぎてもダメとはな。困ったな」




 頭をガシガシとかきながら、他に何かいい案がないか考える。




「[ライト]の用途は、言葉通り周りを明るく照らすことだ。暗くて前が見えない時とか暗い場所でものを探す時とか……」




 [ライト]がどのように使われるか、または必要な時はどんな状況かを考える。




「……ダメだな。せいぜい目の前にもってくるより、電気みたいに視界の外に浮かべていた方がましか。むしろ皆そうやって使ってるんじゃないか?」




 声に出しながら考えてもあまりいい案が出てこないので、実際に[ライト]を視界の外に浮かべてみる。
 幸いにもこの時間は、[ライト]が必要な状況を作り出しやすいので、実際に使って欠点を探す事にした。




「あー。そっか。そうだよな。やっぱり考えるのと実際やってみるのでは全然違うな」




 いつ魔力切れが起こるのか自分でもまだよくわからないため、上半身だけを起こしてみたのだが……




「影が邪魔だな」




 頭の上に[ライト]を浮かべているのだが、体を少し動かすだけで大きな影がついてきた。しかも影がさしている所はかなり見えにくい。




「一番簡単に解決するには、ここに[ライト]を持ってくることなんだけど……やっぱり眩しいな」




 眩しいから視界の外に設置したのに、わざわざ視界に入れるのはバカのやることだ。
 ……今の僕みたいに。




「これ以外だと、単純にもう一つ別の[ライト]を作ればいいんだけど、それだと僕の魔力が保たないだろうしなぁ……」




 コンコン




 あれこれと考えを巡らせていると、僕の部屋のドアがノックされた。
 こんな時間に珍しいな。
 先程の[ライト]を霧散させ、ドアを開けに行く……いや、行こうとしたのだが、[ライト]を使っていたせいで暗闇に目が慣れていない。
 バカか、僕は。




 手探りでドアまでたどり着くことも考えたが、ベッドから転げ落ちて昇天する可能性があるので止めた。それにさっき[ライト]を使ったばかりで魔力も心許ない。
 ということで他人任せの選択肢を取る。




「入っていいよー」




「失礼します」




 そう言って部屋に入ってきたのはサーシャだった。
 なんでまたこんな時間に?
 あ、ドア閉めたら……そうそう少しでもいいから開けておいてね。そしたら廊下の明かりが入ってくるから。
 てか、この部屋にも明かりが欲しいな。
 ……あ、[ライト]で充分じゃん。
 ……あ、魔力ないじゃん。クソゥ……。




「……話に入る前に、先に明かりを付けてもよろしいでしょうか?」




 サーシャも僕と同じ事を考えたのかそう言ってきた。
 残りの魔力が少ない僕にとっては好都合なので喜んでお願いする。




「うん。頼んだ!」




 すると、サーシャは僕の方に向かって歩いてきた。
 てっきりその場でパッと[ライト]を使うと思ったんだけど……。
 サーシャの謎の行動を観察していると、彼女は僕がいるベッドのすぐ横まできた。そして彼女はベッドの横にある棚に手を伸ばし、そこに飾られてある行灯に似たガラクタに手を翳した。……ん? なんか今、違和感が……
 すると淡いオレンジ色の光がその行灯もどきのガラクタ……もう行灯でいいか、行灯から発せられた。




「おぉ!? なにこれ!?」




「色の違いはありますが、これは[ライト]が込められた魔導具です」




 魔導具……だと!?
 音の響き、そしてサーシャの言葉からおそらく、それは魔法のような不思議な現象を起こす道具なのでは!?
 是非手にとって観察したいと思いベッドから出ようとしたその時、黒い影がサッと僕に被さった。


 
「ひっ!?」




 見上げると、そこには視線だけで人を殺せそうな、だがその表情からは一切の感情を読み取ることができないサーシャがいた。




「私は昼間に言いましたよね? 今日はこれ以上魔法を使うことは禁止します、と」




「……ひゃい」




 僕が魔法を使ったことを確信している口振りだ。嘘を付いて逃げるという考えが一瞬頭をよぎったが、今、この場で、彼女の目の前で、嘘を付くことは万死に値すると僕の直感が言っている。




「坊ちゃま。もし坊ちゃまがこの先、私が言ったことをこれ以上守れないようでしたら、魔法の訓練は一切行いません。これはアンナの訓練も同様です。
 これから先、私達が坊ちゃまに教えることは安全が保障されたことばかりではありません。魔物を討伐したり、御自分の体より大きな物を運んだり、魔物が闊歩する森の中を駆け抜けたり、と。例を挙げるとキリがありませんが、基本的には私達のどちらかが傍に付いて万が一の事態に備えるつもりです。ですが坊ちゃまが私達の言ったことを守らず自由に行動を起こされますと、その万が一が起こる可能性が非常に大きくなります。
 ですから訓練の内容、またはそれに属することの指示や注意は必ず守ってもらわねばなりません。またーーーー」




 この後、軽く一時間はお説教をされた。
 今こうして怒られていることで、サーシャの言いつけを守らなかったことによる罪悪感はある。




 だが、同時に、誰かに怒られたのは久しぶりだったので、どこか懐かしさも感じる。
 昔はよくこうして母さんに叱られたなぁ……。
 そんなことを思い出していたからだろうか。涙が頬をツーと流れるのを感じた。




◇◆◇◆◇◆




 ……そうか。もう母さんには会えないのか。いや、母さんだけでなく父さんやじいちゃんばあちゃん、それに親友だったリク、密かに思いを寄せていた佐藤さん。皆にはもう会えないのか。




 こちらの世界に来てから今まで、前世で一度は使ってみたいと思っていた魔法に夢中になり、その訓練をし、さらに痩せるためにダイエットをひたすらしてきた。そして寝る前にはどんな魔法を使おうか、と、イメージを膨らませると称して妄想して一人でニヤけたりしていた。……キモイな。
 思えばこれらだけで1日を使い切っていたので、前世のことなんか思い出しもしなかった。




 だが、こうして前世のことを改めて振り返ってみると、急に胸が締め付けられる。




 三人で食卓を囲み、よく笑いながら食事をしたり、クイズ番組で出たクイズを一緒に考えたり……。なにより多額のお金や沢山の時間を費やして、様々な思い出をくれ、18歳まで育ててくれた父さんと母さん。
 色々と面白い話を聞かせてくれて、日常では決して使うことのない雑学を増やしてくれたじいちゃん。
 そんなじいちゃんに突っ込みを入れつつも、一緒に話に加わり、あまつさえじいちゃんとはまた別の分野の、これまた使うことが無いであろう雑学を植え付けてくれたばあちゃん。
 中学で出会ってからお互いの気が合い、東大寺や六勝寺金閣、慈照寺銀閣、他には……清水寺とかか。『歴史で習った有名所を全部行こうぜ』って言って、よく二人で日帰り旅行をした僕の親友、リク。
 視界に入るだけで無意識に目で追ってしまい、近くにいるだけで幸せを感じる。そして彼女と二人で話していると、楽しさや嬉しさ、幸せを感じた。そして家に帰ってから、その時話したことや彼女の顔を思い出してはニヤニヤしてたっけな。僕だけそう感じていたんだろうけど、そんな甘酸っぱい思い出を沢山くれた佐藤さん。




 前世のことを少し思い返しただけで、これだけの思い出が蘇ってくる。
 他にもやり残したことや、やっておけば良かったこともドンドンと湧き出てくる。あの小説まだ途中までしか読んでない、などとどうでもいいような事から、もっと親孝行をして育ててくれた恩を返したかった、とか。










 だが、どんなに、強く思い、願い、望んだとしても、もう遅い。




 再び胸が締め付けられる。
 父さんに会いたい。母さんに会いたい。
 じいちゃん、ばあちゃんに会いたい。
 リクや佐藤さん、他にも仲が良かった友達に会いたい。
 十秒だけでいい。
 会って一言でいいからこの想いを伝えたい。
 生きていた時は思いもしなかったこの想い。
 今だからこそ頭に、心に浮かんだこの想い。
 一言だけでいい。
 たった一言だけでいい。
 このたった一言を伝えたい。












 だけど、もう、皆には、会えない。




 三度胸が締め付けられる。
 涙が止まらない。
 いくら袖で拭っても、次から次へと際限なくこぼれ落ちてくる。 
 この想いを伝えたい。
 だけど皆には伝わらない。
 もう伝えることが出来ない。




 だからこの想いは、僕の心の奥底に仕舞っておく。




 皆、今まで、本当にありがとう。





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