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隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

14話 お説教とスライム紙

 眩しさを感じ目を開ける。
 するとそばにサーシャがいた。




「おはようございます、坊ちゃま」




 おはよう、と。起き上がりながら言おうとしたのだが、体が重く上手く起き上がれない。




「そのまま安静にしていてください。今は体が重く感じると思いますが、魔力が回復するにつれて楽になっていくはずです」




 魔力が回復?
 あ、そうか。また魔力切れを起こしたのか。
 それを思い出したと同時に意識を失う寸前に[ライト]が成功したことを思い出した。……いかん、ニヤニヤしてしまう。




「坊ちゃま。しばらくは魔法の使用をお控えください。ただでさえ魔力が少ない状態であんな無茶なことをすれば、万一の事があるかもしれません」




 喜びを噛みしめていると、サーシャが有無を言わせぬ雰囲気でそう注意してきた。




「……すみません」




 サーシャの立場になって考えてみると、心配をかけすぎてしまったかもしれない。
 目の前で僕が意識を失ったさまを見せつけられたら確かに心配するだろう。それも二回。サーシャがそう言うのも当たり前だ。
 僕は魔法を使う事に夢中になりすぎていたみたいだ。次からは気をつけよう。




 そんな僕の様子を見ていたサーシャは、少し呆気に取られた後、直ぐに慈愛に溢れる笑みを浮かべた。
 どうやら許してもらえたらしい。




 内心ホッとしていると、サーシャの持っている本が目に付いた。使い古された本のようで、ページの端がいくらかよれているところがある。
 それに気付いたのかサーシャが本をこちらに向けてきた。




「覚えていらっしゃらないかもしれませんが、これは坊ちゃまが赤ん坊の頃によく読み聞かせていた本ですよ。毎日寝る前に必ず読んでいた本です」




「そうなんだ。けどサーシャの言うとおりほとんど覚えてないよ」




 『記憶』を遡ってみるが、本を読んでもらっている記憶が点々とある程度だ。流石に本の名前や内容までは覚えてない。




「ちょっと見して」




 本を枕の横に置いてもらい、寝転がりながら読む。うぅ、体が重い……。
 ちなみに字は物心がついた頃から習っていたのでちゃんと読める。
 僕がこの世界に来て初めて読む本だ。どんな内容なのかワクワクする。




 字が読める事を確認し、サーシャが開いていたページを軽く流し読みをする。
 そこである一文に目が止まった。




『ーーそれに対して神は怒り、一匹の天使を地上に遣わしましたーー』




「……神? 天使?」




 神話やフィクションの世界ではよく聞く単語だ……前世の世界では。
 しかしまだ一度も見たことないが魔物や、摩訶不思議な魔法なんてものがこの世界にはある。だからこの話は案外実話だったりするかもしれない。まぁ今更神や天使がいたと知ってもそれ程驚かないけどね。


  サーシャに本を裏返してもらい、表紙を見てみる。そこには《悪の末路》と書かれていた。……これがこの本の名前か?子供に読み聞かせる本には合ってないと思うのだが……。




 再び本を開いてもらいザッとそのページを流し読みする。そしてある程度満足したのでサーシャに返そうと思ったのだが、彼女はいつの間にか椅子に座り、別の本を読んでいた。
 少し魔力が回復したのか、腕を動かすくらいならば出来るようになった。なので最初のページからこの本をじっくりと読むことにする。


 最近は訓練やダイエットに時間を割いて、のんびり出来る時間が無かった。だから偶にはこんな日があってもいいよね。




◇◆◇◆◇◆




 パタン。




 最後まで読み切ったが、これがなかなかどうして面白い。
 悪政を敷いていたある大国の王様が神の怒りを買い、手先である天使を地上に送り込まれた。そしてその天使の手により、僅か一晩でその国は滅びた。
 大方のあらすじはこんなところだ。あらすじだけを見ると、前世の世界にも似たような物語はたくさんある。しかしこの平凡なストーリーに魔法という名のスパイスが加わることで、この本の評価は劇的に変わった。
 大量の雨を降らせ洪水を起こし、地面に足を振り下ろして地震を起こす。さらに、手を軽く横に振るだけで万の軍勢が吹き飛び、背中の羽を羽ばたかせることで竜巻を起こす。
 戦闘描写だけで僕の心を大半持って行かれたと言っても過言ではない。
 まさに神話やフィクションの話、ライトノベルを読んでいるかと錯覚した。




「坊ちゃま。体の具合はどうですか?」




 僕が本を読み終わるのを待っていたのか、丁度サーシャが声を掛けてきた。本を読んでいた時間が長かったのか、部屋はもうオレンジ色に染まっている。
 本を返し、腕を上げる。軽く腕を動かし、続いて上半身を起こす。




「さっきまでのダルさが嘘のようになくなってるよ」




 体を動かす感覚が思った以上に軽いことに驚いた。思っていた以上に魔力切れは厄介なものだったらしい。
 ベッドから降りて立ち上がってみても特に問題は見られないので、早速[ライト]を使ってみる。
 魔力切れ? そんなの慣れたら勝ちでしょ。
 そんなものにいちいち怖がっているようじゃこの先、生きて行けないよ。
 この世界の全てを知った風な口を聞き、魔法を使う正当性を建てる。
 さっきと同じように、まずは右手を出して……




「坊ちゃま!」




「はい!?」




 背中に寒気を感じ、恐る恐る振り返る。
 そこには、泣く子も黙る鬼がいた。




「先程魔法を使うのは控えて下さいと言ったばかりですが? 坊ちゃまはそれを聞き入れられたと思っていましたがどうやら違ったようですね」




「いや、体が楽になったし魔力も大分回復したから大丈夫だと思ってさ。アハハ……」




 ツーと、冷や汗が頬を流れる。だが僕の弁明は受け入れてもらえなかったらしい。




「それでもです! まだ坊ちゃまは魔法を使う際にどれだけの魔力が必要か把握していないではありませんか! 今日はこれ以上魔法を使うのは禁止です!」




 なん……だと……!?
 まさかそこまで言われると思っていなかった……。




 しかし、ここで先程サーシャの立場になって考えていた事が頭をよぎる。
 ……確かにそんな事を言われても仕方がないかもしれない。
 それに、サーシャは”今日は”禁止と言った。つまり明日になればまた使えるということだ。
 ならば今日は潔く諦め、明日また頑張ろう。




「……なら残りの時間は魔力操作の訓練もかねて、体の中で、魔力で遊んでおくとするよ」




 魔力が減らなければ魔力切れにはなるまい。それに、何事も基礎は大事と言う。だから、魔力操作を鍛えても無駄にはなるまい。
 ベッドに座り目を瞑る。目から入ってくる情報を遮断することでより魔力を鮮明に感じ取ることができるのだ。
 体内の魔力をグニグニと粘土をコネるように遊んでいると、サーシャが声を掛けてきた。




「坊ちゃま。残りの時間に関してなのですが、是非とも坊ちゃまにしてほしいことがあります」




 魔力を大きさの違う二つの塊に分けそれらを丸める。そして大きい方を下に、小さい方を上に持ってきてそれらをドッキングさせる。
 すると、はい! 出来ました! 雪だるま!
 つい心の中で自分に(素晴らしい!)と拍手を送ってしまった。




「ん? なに?」




 謎の充実感を感じ、目を開ける。そこには、いつの間に目の前に移動したのか、サーシャが立っていた。




「まずはこれを」




 そう言って渡してきたのは、ヨレヨレの黒い紙。表だけじゃなく裏も真っ黒だ。だいたい折り紙と同じくらいの大きさかな? 折り鶴を作るには丁度良さそうだな。




「これに十秒程、全力で魔力を注いで下さい。あ、両手ではなくどちらか片方の手だけで持ってください」




 急な話でよく分からないが、とりあえず言われた通りにやる。……魔法はダメでこれに魔力を注ぐのはいいのか。まぁ十秒だけなら大丈夫だろう。
 右手で紙を持ち、言われたとおりに十秒間、全力でそれに魔力を注ぐ。
 すると、その紙に僅かだが変化が起きた。
 真っ黒だった紙が、持っていた右手を中心として、円形に、茶色に変化していったのだ。しかしゆっくりと変色していったため、十秒では全体に広まりきらなかった。そのため紙は黒と茶色のグラデーション模様に……あまり綺麗じゃないな。
 するとサーシャが険しい顔をしながら声を掛けてきた。




「坊ちゃま。それを少しお借りしてもいいですか?」




「いいよ。ほい」




 紙を渡してから気づいたのだが、どうやらあの変化は紙の両面に起こっていたらしい。僕が見ていた表と全く同じ模様が裏にもあった。それと僕が持っていた右手の部分。そこは一番鮮やかな茶色に変色していた。




「それってなんなの?」




 変色した紙を険しい顔で見ているサーシャにそう尋ねる。




「これはスライム紙と言って、その人の魔力量がどのくらいなのか色で分かるものです。大雑把に、ですけど」




「へー。そんなのあるんだ。それってスライムから作られたからスライム紙っていうの?」




 スライムとは丸く、弾力がある半透明の魔物だ。あの超有名なゲーム、ドラちゃんクエストに出てくるスライムを思い浮かべると分かりやすいかもしれない。もっともここのスライムは目や口がないのはもちろん、雨粒の形でもないが。




「その通りです。正確にはスライムから取れる粘液を紙に塗り、乾燥させたものですね」




 スライムの体内には弱点である魔石があり、そこを攻撃すれば簡単に倒せる。スライムの粘液とは、その魔石以外の体の部分を指す。




 これは後から知ったのだが、スライムは保有している魔力が多ければ多いほど、粘液の色が変わるらしい。魔力が少ないほうから順に並べて黒、茶、青、緑、黄、赤、白というふうに。
 この性質に着目して作られたのがスライム紙だとか。
 ……僕の魔力量は下から二番目の茶色だ。まぁ魔力が少ないと言われていたので特に驚きはない。




 余談だが何らかの物体に込められた魔力は適切な処理をしなければ時間とともに抜けていくそうだ。だから最初のスライム紙の状態は全く魔力が込められていない状態の黒だったのだとか。




閑話休題




 魔力量が色で分かるなら、パッと見るだけで十分だと思う。しかしサーシャはあまりにも真剣にそれを眺めているから、何か得体の知れない不安を感じる。




「……それで、僕の魔力量はどれくらいなの?」




 魔力が極端に少ないと言われていたので、何を言われるかある程度覚悟はできていた。しかし何も言われないことなど想定外だった。ただただ不安が押し寄せてくる。
 サーシャに尋ねると、彼女は険しい顔をしたまま口を開いた。




「ハッキリと申しますと、坊ちゃまの魔力量は恐らく全人類の中で最も低いと思われます」




「ワーオ……」




 思っていた以上に僕の魔力量は低かったらしい。開いた口が塞がらないとはまさに今の僕の状態を指すのだろう。
 まさか全人類でワースト一位を飾る日がくるとは。
 しかし次の瞬間、さらに衝撃的な事実を突きつけられた。




「この魔力量では坊ちゃまが使える魔法は殆どありません。魔導具でさえ充分に使える物はかなり限られてくるかと」

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