隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
13話 魔力不足と魔力切れ
「……うぅん」
目が覚めると僕はベッドの上にいた。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
「……あれ? 外が明るいな」
カーテンの隙間から漏れる光や部屋の明るさから、もう太陽が出てきてしまっていることを悟る。
「やば、寝坊した! 早く行かないとアンナに怒られる!」
ダイエットの協力やアーツの指導を受ける身として、遅れるなんて論外だ。
上半身を起こし、ベッドから出ようと体を動かす。……だが、どういうわけか異様に体が重くてダルい。
いつもとは全く違う体の感覚に困惑していると、ガチャッと扉が開く音がした。サーシャだ。
「坊ちゃま、おはようございます。目が覚めたのですね。体の調子はどうですか?」
普段訊かないことを言ってきたサーシャに対して妙な違和感を感じる。
「体が重くてダルい。少し動くだけでもしんどいかな……。それよりも、アンナ怒ってる? もう朝ご飯食べ終えてる時間だよね……?」
今は違和感の正体を探すより、アンナの機嫌の方が大事だ。どんな罰を下されるか想像するだけで恐ろしい。
「……坊ちゃまは覚えていらっしゃらないのですか?」
唐突にそんなことを聞かれた。何の事を言っているか分からなかったが、先程の違和感が僕の中でムクムクと膨れ上がってきた。昨日の事を思い出そうとする。
だが、ベッドに入った記憶が無い。それだけでなく昼頃の記憶から先がない。
必死にその記憶を思い出そうとしていると、サーシャが思わぬ発言をした。
「坊ちゃまは先程[ライト]を使ったのですが、突然意識を失って倒れたのです。」
それを聞き、倒れる直前までの事を鮮明に思い出した。
「あぁ! そうだ、そうだった! [ライト]があと少しで出来るところだったんだ! サーシャ、あの後[ライト]はどうなったの!? ちゃんと出来てた!?」
詰め寄る勢いで聞くと、サーシャは目を僅かに伏せ、どこか言いにくそうに口を開いた。
「坊ちゃまが倒れたと同時に[ライト]もすぐに消えてしまいました……」
「ホントに? ホントに消えたの!? ならあれは失敗ってこと!?」
更にまくしたてるように聞くとサーシャは顔を伏せたまま僅かに首を縦に振った。
「よし!! よかった!! 失敗してよかった!!」
「……え? あの、坊ちゃま? 一体どうなされたのですか?」
僕が落ち込むと思っていたのか、サーシャは今の僕の様子に戸惑いながら聞いてくる。
「いやー、だってさ、自分で初めて成功させた魔法はちゃんとこの目で見たいじゃん? あ、失敗したことは確かに残念だよ? でもさ、初めて成功させた魔法が見れない事と、失敗してももう一回チャンスがある事を比べれば僕は断然後者を選ぶね!」
そう言うとサーシャは驚いたようだが、すぐに優しい笑顔を向けてきた。
「それよりさ、どうして失敗したのかわかる? 結構自信あったんだけどなー」
先程のサーシャの様子から、魔法の使い方は特に間違っていなかったはずだ。そうでなければあんなに言いにくそうな雰囲気を出さない、と思う。
失敗した原因をあれこれ考えているとサーシャが答えを言ってくれた。
「坊ちゃまが倒れた原因は恐らく魔力が足りなかったからでしょう。魔力が減るたびに精神力は削られ、体がダルくなっていきます。ですが、何かに夢中になっていたりするとその感覚もあまり感じなくなる時がありますから」
なるほど。魔力不足か。たしか体内の魔力が無くなると気を失うってこの前サーシャが言ってたな。今回はそれが起こったってことか。体のダルさに気付かなかったのはアドレナリンがドバドバ出ていたのだろう。あの時はテンション上がってたし。
そのことに納得していると彼女は、ですが、と更に続けた。
「普通[ライト]の魔力消費量はそれほど多くありません。それに坊ちゃまが出現させた[ライト]を見ても魔力消費量はそれ程多くありませんでした。つまり……」
「……つまり?」
「恐らく坊ちゃまの魔力量が少なかった事が今回の原因と考えられます」
「そうなんだ。魔力が少なかったからすぐに魔力切れを起こしたってことか。それなら無駄に魔力を使った部分があるはずだから、そこを改善すればいいよね。それをすれば魔力消費量も抑えられるはず。確か魔法は魔力操作と経験、それとイメージが重要と言っていた。魔力操作は今の段階で十分魔法が使えるとサーシャにお墨付きをもらっているから問題はないはず。経験は皆無だから今回は関係ないな」
「あの、坊ちゃま? いかが致しました?」
ならばイメージの問題か? あのイメージではだめだった? いや、ミミズの動きより複雑ではないからあれで十分なはず。
なら魔力の放出の仕方が悪かった? あの時は[ライト]が発現するイメージに合わせて魔力を放出した。そこも問題ないはず。
ならば何がいけなかったんだろう?
もしかしてどこか細かい所で魔法の使い方が間違っていた?
「ねぇ、サーシャ。僕が[ライト]を発現させる前に魔法の使い方をいったよね。あの時サーシャが微笑んだのって僕の考えたのが合ってたってことなの? それともあの方法は間違っていたの?」
「い、いえ、坊ちゃまが仰った方法で合っています」
「なら他に無視できるレベルで細かい所に間違いとか無かった?」
「私が見た限りでは全くありませんでした」
これだけ断言しているのなら、やはりあのやり方で良かったんだろう。
しかし、そうなると何が悪かったんだ?
魔法の使い方、魔力感知と魔力操作、そして経験。この3つは問題なかった。
ならば、やはりイメージと魔力の放出の仕方が原因か?
だけれどイメージに関しては特に問題ないはず……。大きさ、形ともにピンポン球よりも具体的にイメージできる物は他に心当たりが無い…………
「あ!!」
「ど、どうされましたか!?」
そうか! ピンポン球だ! 外見ばかり意識していて気付かなかった!
あれは中身が空じゃん! [ライト]も全く同じように空洞にすればいいのか!
さっきは中まで魔力で満たしていたから、今度は外側だけ魔力を使用すれば魔力の消費量は格段に減るはず。要はピンポン球の見た目をしたゴルフボールから普通のピンポン球に変えればいいんだ。それに[ライト]の本質は《周りを明るくする》ことなので、中に魔力があろうとなかろうと関係ないはず!
早速やってみよう!
右の手のひらを上に向け、中空構造を意識し、他は前回と同じようにイメージする。
「っ!? 坊ちゃま! 今すぐお止めください! それ以上ーー」
すると、
「うそ!? もうできたんだけど!?」
あっさりと成功した。
さっき苦戦したのが嘘のように感じる程、そして自分でも驚く程、それはもうあっさりと成功した。
だが、
「ぁ……」
次の瞬間、酷い倦怠感が全身を襲った。
それに耐えきれずベッドに身を預ける。
同時に[ライト]もすぐに消えてしまった。
「坊ちゃま! しっかーーーくーーー! ぼっーーー!」
倦怠感に侵され、徐々に薄れゆく意識の中でしかし、僕は確かな喜びを感じていた。
初めて魔法を使った。
僕も魔法が使えた。
確かにこの目で見た。
そんな思いが喜びと共に胸に満ち溢れ、気付けば笑顔を浮かべていた。
だがそんな中でも、今の状態を分析している冷静な自分がいる。
(これが魔力切れってやつか)
そう思った瞬間、真冬に氷水を大量にかけられたような急激な寒気が全身を駆け巡り、やがて僕は再び意識を失った。
◇◆◇◆◇◆
「坊ちゃま! しっかりしてください! 坊ちゃま!」
私の叫びも虚しく、坊ちゃまはまた気を失われた。
急いで坊ちゃまの心臓に手を当てて心臓の鼓動を、顔の前に手を翳し呼吸を確認する。……どうやら命に別状は無いみたいだ。
「……はぁ」
全ての生物は長時間魔力が無い環境にいると死んでしまう。このことは、歴史を学んでいない人でさえ知っている程有名な話だ。もはや常識と言ってもいい。
だが坊ちゃまは、一時間という僅かな時間内で二回も魔力切れを起こした。
そのような話は聞いたことがないし、どのような結果になるかも当然分からない。
そもそも魔力切れになった場合、魔力がある程度回復するまで安静にしておくことが普通だ。いや体を動かすことが辛いから安静にしておく以外に選択肢が無いという方が正しいか。動けても坊ちゃまのように上半身を起こすだけで限界だ。
しかし坊ちゃまはその状態から[ライト]を使って見せた。
魔力回復量が多い人ならば、容易く出来る事だろう。だが、坊ちゃまの魔力量は[ライト]で魔力切れを起こしたことから、恐らく全人類でダントツの最下位。そんな坊ちゃまがあの状態で[ライト]を使うなんて……。
それも一度目の[ライト]が失敗したにも関わらず、その時より遥かに魔力が少ない状態で[ライト]を成功させてみせた。
失敗した時のイメージとはまた別のイメージをしたのだろう。
それに先程の坊ちゃまの様子。
今まで見たことが無い程の真剣な表情をしていらした。
そこから坊ちゃまの魔法に対する凄まじい執着を感じた。何が坊ちゃまをそこまで駆り立るのだろうか。
このように変わられたのは確かに嬉しい。
普通に話したり少し弄ったりしても癇癪を起こさないようになった今の坊ちゃまと過ごす生活は確かに楽しい。
だが、何故ここまで人が変わったようになられたのだろう?
あの時の傷は完璧に治したと自負しているし、記憶の混濁も、目覚めた直後は少しあったようだが、それ以降は特に見られなかった。
だが、確実にあの時から坊ちゃまは変わられた。
何故? どうして?
疑問は尽きないが今は坊ちゃまが目覚めるまで側にいよう。
さっきのように魔法を使わせないために。
これ以上短時間の内に魔力切れを起こすと命を脅かすかも知れないのだから。
椅子をベッドの横に移動させる。改めて坊ちゃまの部屋を見回すと棚に懐かしい本があるのを見つけた。
まだ坊ちゃまが生まれて間もない頃によく寝物語に読み聞かせた本だ。
棚から取り出し本を開く。
あの時を懐かしみながら、坊ちゃまの目が覚めるのを待とう。
目が覚めると僕はベッドの上にいた。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
「……あれ? 外が明るいな」
カーテンの隙間から漏れる光や部屋の明るさから、もう太陽が出てきてしまっていることを悟る。
「やば、寝坊した! 早く行かないとアンナに怒られる!」
ダイエットの協力やアーツの指導を受ける身として、遅れるなんて論外だ。
上半身を起こし、ベッドから出ようと体を動かす。……だが、どういうわけか異様に体が重くてダルい。
いつもとは全く違う体の感覚に困惑していると、ガチャッと扉が開く音がした。サーシャだ。
「坊ちゃま、おはようございます。目が覚めたのですね。体の調子はどうですか?」
普段訊かないことを言ってきたサーシャに対して妙な違和感を感じる。
「体が重くてダルい。少し動くだけでもしんどいかな……。それよりも、アンナ怒ってる? もう朝ご飯食べ終えてる時間だよね……?」
今は違和感の正体を探すより、アンナの機嫌の方が大事だ。どんな罰を下されるか想像するだけで恐ろしい。
「……坊ちゃまは覚えていらっしゃらないのですか?」
唐突にそんなことを聞かれた。何の事を言っているか分からなかったが、先程の違和感が僕の中でムクムクと膨れ上がってきた。昨日の事を思い出そうとする。
だが、ベッドに入った記憶が無い。それだけでなく昼頃の記憶から先がない。
必死にその記憶を思い出そうとしていると、サーシャが思わぬ発言をした。
「坊ちゃまは先程[ライト]を使ったのですが、突然意識を失って倒れたのです。」
それを聞き、倒れる直前までの事を鮮明に思い出した。
「あぁ! そうだ、そうだった! [ライト]があと少しで出来るところだったんだ! サーシャ、あの後[ライト]はどうなったの!? ちゃんと出来てた!?」
詰め寄る勢いで聞くと、サーシャは目を僅かに伏せ、どこか言いにくそうに口を開いた。
「坊ちゃまが倒れたと同時に[ライト]もすぐに消えてしまいました……」
「ホントに? ホントに消えたの!? ならあれは失敗ってこと!?」
更にまくしたてるように聞くとサーシャは顔を伏せたまま僅かに首を縦に振った。
「よし!! よかった!! 失敗してよかった!!」
「……え? あの、坊ちゃま? 一体どうなされたのですか?」
僕が落ち込むと思っていたのか、サーシャは今の僕の様子に戸惑いながら聞いてくる。
「いやー、だってさ、自分で初めて成功させた魔法はちゃんとこの目で見たいじゃん? あ、失敗したことは確かに残念だよ? でもさ、初めて成功させた魔法が見れない事と、失敗してももう一回チャンスがある事を比べれば僕は断然後者を選ぶね!」
そう言うとサーシャは驚いたようだが、すぐに優しい笑顔を向けてきた。
「それよりさ、どうして失敗したのかわかる? 結構自信あったんだけどなー」
先程のサーシャの様子から、魔法の使い方は特に間違っていなかったはずだ。そうでなければあんなに言いにくそうな雰囲気を出さない、と思う。
失敗した原因をあれこれ考えているとサーシャが答えを言ってくれた。
「坊ちゃまが倒れた原因は恐らく魔力が足りなかったからでしょう。魔力が減るたびに精神力は削られ、体がダルくなっていきます。ですが、何かに夢中になっていたりするとその感覚もあまり感じなくなる時がありますから」
なるほど。魔力不足か。たしか体内の魔力が無くなると気を失うってこの前サーシャが言ってたな。今回はそれが起こったってことか。体のダルさに気付かなかったのはアドレナリンがドバドバ出ていたのだろう。あの時はテンション上がってたし。
そのことに納得していると彼女は、ですが、と更に続けた。
「普通[ライト]の魔力消費量はそれほど多くありません。それに坊ちゃまが出現させた[ライト]を見ても魔力消費量はそれ程多くありませんでした。つまり……」
「……つまり?」
「恐らく坊ちゃまの魔力量が少なかった事が今回の原因と考えられます」
「そうなんだ。魔力が少なかったからすぐに魔力切れを起こしたってことか。それなら無駄に魔力を使った部分があるはずだから、そこを改善すればいいよね。それをすれば魔力消費量も抑えられるはず。確か魔法は魔力操作と経験、それとイメージが重要と言っていた。魔力操作は今の段階で十分魔法が使えるとサーシャにお墨付きをもらっているから問題はないはず。経験は皆無だから今回は関係ないな」
「あの、坊ちゃま? いかが致しました?」
ならばイメージの問題か? あのイメージではだめだった? いや、ミミズの動きより複雑ではないからあれで十分なはず。
なら魔力の放出の仕方が悪かった? あの時は[ライト]が発現するイメージに合わせて魔力を放出した。そこも問題ないはず。
ならば何がいけなかったんだろう?
もしかしてどこか細かい所で魔法の使い方が間違っていた?
「ねぇ、サーシャ。僕が[ライト]を発現させる前に魔法の使い方をいったよね。あの時サーシャが微笑んだのって僕の考えたのが合ってたってことなの? それともあの方法は間違っていたの?」
「い、いえ、坊ちゃまが仰った方法で合っています」
「なら他に無視できるレベルで細かい所に間違いとか無かった?」
「私が見た限りでは全くありませんでした」
これだけ断言しているのなら、やはりあのやり方で良かったんだろう。
しかし、そうなると何が悪かったんだ?
魔法の使い方、魔力感知と魔力操作、そして経験。この3つは問題なかった。
ならば、やはりイメージと魔力の放出の仕方が原因か?
だけれどイメージに関しては特に問題ないはず……。大きさ、形ともにピンポン球よりも具体的にイメージできる物は他に心当たりが無い…………
「あ!!」
「ど、どうされましたか!?」
そうか! ピンポン球だ! 外見ばかり意識していて気付かなかった!
あれは中身が空じゃん! [ライト]も全く同じように空洞にすればいいのか!
さっきは中まで魔力で満たしていたから、今度は外側だけ魔力を使用すれば魔力の消費量は格段に減るはず。要はピンポン球の見た目をしたゴルフボールから普通のピンポン球に変えればいいんだ。それに[ライト]の本質は《周りを明るくする》ことなので、中に魔力があろうとなかろうと関係ないはず!
早速やってみよう!
右の手のひらを上に向け、中空構造を意識し、他は前回と同じようにイメージする。
「っ!? 坊ちゃま! 今すぐお止めください! それ以上ーー」
すると、
「うそ!? もうできたんだけど!?」
あっさりと成功した。
さっき苦戦したのが嘘のように感じる程、そして自分でも驚く程、それはもうあっさりと成功した。
だが、
「ぁ……」
次の瞬間、酷い倦怠感が全身を襲った。
それに耐えきれずベッドに身を預ける。
同時に[ライト]もすぐに消えてしまった。
「坊ちゃま! しっかーーーくーーー! ぼっーーー!」
倦怠感に侵され、徐々に薄れゆく意識の中でしかし、僕は確かな喜びを感じていた。
初めて魔法を使った。
僕も魔法が使えた。
確かにこの目で見た。
そんな思いが喜びと共に胸に満ち溢れ、気付けば笑顔を浮かべていた。
だがそんな中でも、今の状態を分析している冷静な自分がいる。
(これが魔力切れってやつか)
そう思った瞬間、真冬に氷水を大量にかけられたような急激な寒気が全身を駆け巡り、やがて僕は再び意識を失った。
◇◆◇◆◇◆
「坊ちゃま! しっかりしてください! 坊ちゃま!」
私の叫びも虚しく、坊ちゃまはまた気を失われた。
急いで坊ちゃまの心臓に手を当てて心臓の鼓動を、顔の前に手を翳し呼吸を確認する。……どうやら命に別状は無いみたいだ。
「……はぁ」
全ての生物は長時間魔力が無い環境にいると死んでしまう。このことは、歴史を学んでいない人でさえ知っている程有名な話だ。もはや常識と言ってもいい。
だが坊ちゃまは、一時間という僅かな時間内で二回も魔力切れを起こした。
そのような話は聞いたことがないし、どのような結果になるかも当然分からない。
そもそも魔力切れになった場合、魔力がある程度回復するまで安静にしておくことが普通だ。いや体を動かすことが辛いから安静にしておく以外に選択肢が無いという方が正しいか。動けても坊ちゃまのように上半身を起こすだけで限界だ。
しかし坊ちゃまはその状態から[ライト]を使って見せた。
魔力回復量が多い人ならば、容易く出来る事だろう。だが、坊ちゃまの魔力量は[ライト]で魔力切れを起こしたことから、恐らく全人類でダントツの最下位。そんな坊ちゃまがあの状態で[ライト]を使うなんて……。
それも一度目の[ライト]が失敗したにも関わらず、その時より遥かに魔力が少ない状態で[ライト]を成功させてみせた。
失敗した時のイメージとはまた別のイメージをしたのだろう。
それに先程の坊ちゃまの様子。
今まで見たことが無い程の真剣な表情をしていらした。
そこから坊ちゃまの魔法に対する凄まじい執着を感じた。何が坊ちゃまをそこまで駆り立るのだろうか。
このように変わられたのは確かに嬉しい。
普通に話したり少し弄ったりしても癇癪を起こさないようになった今の坊ちゃまと過ごす生活は確かに楽しい。
だが、何故ここまで人が変わったようになられたのだろう?
あの時の傷は完璧に治したと自負しているし、記憶の混濁も、目覚めた直後は少しあったようだが、それ以降は特に見られなかった。
だが、確実にあの時から坊ちゃまは変わられた。
何故? どうして?
疑問は尽きないが今は坊ちゃまが目覚めるまで側にいよう。
さっきのように魔法を使わせないために。
これ以上短時間の内に魔力切れを起こすと命を脅かすかも知れないのだから。
椅子をベッドの横に移動させる。改めて坊ちゃまの部屋を見回すと棚に懐かしい本があるのを見つけた。
まだ坊ちゃまが生まれて間もない頃によく寝物語に読み聞かせた本だ。
棚から取り出し本を開く。
あの時を懐かしみながら、坊ちゃまの目が覚めるのを待とう。
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