隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
12話 変化と初めての魔法
チュンチュン。チュンチュンチュン。
まだ太陽も顔を出していない時間。眠気を感じたり、疲れが残っている、なんて事もなく何時も通り、鳥のさえずりを聞きながら目が覚めた。この薄暗さや早朝特有の肌寒さにも今はすっかり慣れた。むしろこの時間のこの空気に心地良ささえ感じる。ついこの間までは布団から出ることさえ億劫だったことを考えると俄には信じがたい。
あれから早くも二週間がたった。あの時と比べると、今の僕は劇的に変わったことが自分でもわかる。
「おはよう、サーシャ」
「おはようございます、坊ちゃま。調子は如何ですか?」
寝間着を着替え、庭に行くついでに朝ご飯を作っているサーシャに挨拶する。
「特に問題無いよ。むしろこの肌寒さが気持ち良いくらいだ。ようやくこの生活スタイルに慣れてきたなって実感してるよ」
先週まではこの時間にサーシャかアンナに起こしてもらっていた。……もちろん二週間以上前については考慮に入れていない。だが今では、彼女たちの手を借りずとも自然と目が覚めるようになった。
「それは良かったです。アンナは既にお庭に行きました。坊ちゃまを待っていますよ」
「分かった。ありがとう、サーシャ」
サーシャに礼を言う。美味しそうなスープの香りに後ろ髪を引かれるが、アンナが待っているらしいので早歩きで庭に向かう。
「おはようございます! 坊ちゃま!」
「おはよう、アンナ」
庭に着くなり小柄で赤髪の女性が声を掛けてきた。アンナだ。手に巨大な丸太を持っている格好を見ても今では全く驚かない。むしろその様子を見ると早朝訓練の始まりを感じ、自然と気合いが入る。
「では早速始めましょう!」
軽く準備運動をしてからアンナと一緒にランニングを始める。
「坊ちゃまの走り方も大分様になってきましたね。ですがまだ無駄な力が入っています。昨日言ったようにーーーー」
訂正。一緒にランニングではなく、ランニングをしながらフォームの指導をされる、が正しい表現だ。普通はこんな指導方法をしないと思うが、僕の体力の問題で止まったり走ったりを繰り返すのは得策ではないと判断し、この方法になったとか。……やや強引すぎる気もするが教わる立場なので余計な口出しはしないことにしている。それに当初は庭の内周を一周する事さえ出来なかったのだ。それを考えれば仕方ない。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「坊ちゃま! 大分長く走れるようになりましたね!」
約二周半のランニングを終え地面に寝転がる。
アンナとのランニングは1日毎に距離が少しずつ長くなっていく。いきなり二周を走るように言われるより精神的に楽だが、それでもしんどいのはしんどい。だけどたったの二週間でこれだけ走れるようになったのは自分でも信じられない。体力が付いてきているのは間違いないがアンナに走り方を教わったのも大きいと思う。
「坊ちゃま、お疲れ様です。これをどうぞ」
休憩していると足元の方から声が聞こえた。上半身を起こしてそちらを見るとサーシャがタオルを差し出さしてきた。
「ありがとう、サーシャ。朝ご飯が出来たの?」
「はい。出来ましたよ」
サーシャは朝ご飯の用意が出来ると僕達を呼びにくる。ランニング後に彼女の姿を見るとお腹が空く。僕の腹時計はサーシャに握られていると言っても過言ではあるまい。
上の服を脱ぎタオルで体を軽く拭く。体の方もこの二週間の結果が僅かに出てきているようだ。最初の頃の違和感が今では全く無くなり、自分の思い通りに動かせる。この体に慣れた事ももちろんあるだろう。だがそれだけでなく、服を着ている時の、生地が肌に張り付く強さが以前と比べると緩くなっている気がするのだ。
つまり何が言いたいかと言うと、徐々に痩せてきているということだ! まぁ、それでもまだ《太っている》というカテゴリの中にいるのは確実なので油断は出来ないのだが……。
◇◆◇◆◇◆
「スラッシュ!!」
朝ご飯を食べ終えると今度はアーツの素振りだ。そばにアンナが付いて細かく指摘を受ける。
「坊ちゃまは筋がいいですね! たったの二週間でスラッシュの型を習得するとは思いませんでした!」
とは言いつつも、まだまだ無駄な力が入っているやら、もっと声を張れやらと沢山指示が飛んでくる。
ちなみにスラッシュとは両手剣のアーツの名前で、二週間前にアンナが初めて見せてくれたアーツだ。アンナ曰わくこれは基本のアーツなので必ず覚えなければならないとのこと。これが一番シンプルで難易度が低いらしい。
最初はただ単に袈裟懸けに剣を振り下ろす技なので簡単に出来ると思っていたが、アンナからはダメ出しの嵐だった。例えば足の幅や剣の軌道、力の入れ方などなど……。
それとアーツを繰り出す時はアーツの名前を叫ぶように言われた。これもアーツを使う上で重要なことらしい。
疑問に思うことは多々あるが、僕には武道の心得など全くない。なので素直に言われた通りにする。
この後もアンナに指摘されながらスラッシュの素振りを続けていると、再びサーシャがやってきた。どうやら昼ご飯が出来たようだ。お腹空いたな。
◇◆◇◆◇◆
「ごちそうさま」
この間のように手が震えたり、昼ご飯を残すようなことはなく、全て美味しく頂いた。
「では私は食器を洗ってきますね! 午後からの訓練も頑張って下さい!」
「頑張るよ。ありがとう」
これからサーシャとの訓練が始まるのでアンナは早々にこの場を去り、台所へ向かった。
「この訓練を初めてちょうど二週間が経ちますね。今日は坊ちゃまがどれだけ魔力操作が出来るようになったかを確かめます」
僕の部屋に向かっているとサーシャが唐突にそう切り出してきた。またあれをやるのか……。憂鬱な気分になるものの、それが魔法を使う為に必要なことらしいので割り切ることにする。
実は先週も同じ事をやったがその時はまだまだだと言われ、これまたダメ出しの嵐だった。
しかしこの一週間は先週までより、相当な量をこなしたつもりだ。午後のサーシャの訓練だけでなく隙間時間を利用したり、午前の訓練の休憩中や、更にはトイレに座り用を足しながらでさえも、魔力操作の練習を繰り返し行った。
それらの努力の成果が試される時。
「では、始めます」
僕の部屋について早々、サーシャがそう切り出し、僕の両手を取ってきた。
魔力操作がどれだけ上達しているかを確認する方法はいたって簡単だ。しかし……
「ううぅぅぅぅ……」
とにかく気持ち悪い。
体の中に魔力を流され、その魔力を自分で外に出さないようにするだけなのだが……。
本来外部から他の魔力が流れてきた場合魔力中毒にならないように自然とその魔力を体外に排出しようとする働きがある。これは防衛本能による働きであり自分自身の魔力を使う。つまりこの働きが起こるのは、本人の魔力操作の技量は関係ないとされている。
しかしこの働きを逆手にとって魔力操作の技量をある程度測る事ができる。つまり他の魔力を流された時にわざと自分の魔力を動かさないようにする事で、魔力操作の技量を測ろうという方法である。
この時魔力を流し込む側は、相手の片方の手から魔力を流し込み、もう片方の手からその魔力を出すように操作する。そして流し込んだ魔力と出てきた魔力の差で魔力操作の技量を測定する。これが一般的な魔力操作の技量の測りかたらしい。
ちなみにもっと正確に測るには専用の道具が必要になるので、大半の人々はこの方法でしか測らないとのこと。
不快な感覚に耐えること約五分。ようやく測定が終了した。
「サーシャ、どうだった?」
先週行った時とは明らかに手応えが違った。この一週間の頑張りとそれを考慮するとその結果には相当な自信がある。
「……流石坊ちゃまです。殆ど全ての魔力が私の元に戻ってきています。前回の結果を踏まえても、ここまで伸びるとは思っていませんでした」
「前回はダメ出しをくらいまくったからね。サーシャを見返すために頑張ったよ」
ベッドに横になりながらドヤ顔でそう答える。
例え五分だけであっても、あの気持ち悪さを感じ続けるのは大分キツい。
しかしサーシャの反応をみる限り、結果はなかなか良かったようで、地獄の五分間を耐えたかいがあった。やっと魔法を教えてもらえる、と実感が沸いてくる。
「これだけ出来れば文句無しの合格です。今日から早速魔法の訓練に移りましょうか」
「やった! やっと魔法が使える!」
予想はしていたが、実際に魔法を教えてくれると言われると嬉しさが爆発した。
これまで魔法らしい魔法、つまり放出系の魔法を実際に見たのは、サーシャに説明を受けていたあの時だけだ。内包系の魔法はアンナのアーツや彼女が的に使う丸太を運んでいたところを何回も見たことがあるが、僕のイメージしていた魔法とは全く異なっていたため、放出系の魔法より関心があまり無かった。もちろんその凄さは理解しているので疎かにはしていない。
魔力操作の測定の疲れをある程度とるため、三十分程の長めの休憩をとるよう言われた。
時々サディスティックな一面を見せるサーシャだが、それ以外は完璧で頼れるお姉さんという印象なので、素直にその言葉に甘えることにする。
◇◆◇◆◇◆
サーシャが入れてくれたお茶を飲みながら軽い雑談をしていると早くも三十分が経過した。いよいよ、これから本格的な魔法の訓練に入るんだ。緊張してきてドキドキしてきた……。
「まずは私がこの間見せた[ライト]を使ってみてください」
サーシャはそう言うと、それ以上何かするでもなくこちらをジッと見てきた。
「……え、それだけ?」
「これだけですよ? 何か気になることがありましたか?」
そんな不思議そうな顔をして言われても、気になるところだらけでどこから突っ込んだら良いのかわからない。とりあえず最初に浮かんだ疑問をぶつける。
「えっと、何かアドバイスとか注意点とかそんな感じの説明は無いの?」
「そのようなものは特にありません。魔法はイメージと経験に大きく影響を受けます。"魔力感知と魔力操作を習得している"今の坊ちゃまならばすぐにできるはずです」
その言葉を聞いて、何故サーシャが説明しないのか理解した。
魔法を使うには魔力感知と魔力操作を習得している必要がある。そして魔法の発現にはイメージと経験が大きな影響を与える。今は経験など皆無なので、より具体的なイメージが必要になる。
これらは全て、既にサーシャから教わったことだ。
それに加えて今は放出系の魔法の訓練。
これらのことを踏まえて考えると……
「魔力を手のひらに集め、具体的なイメージをしながらそこから放出させる?」
詳しく言うと、魔力感知で魔力を認識し、魔力操作で手のひらに魔力を集める。そして具体的なイメージを伴って魔力を放出させる、ということだ。
確認の意味を込めてサーシャの方に顔を向けると、サディスティックな笑みとは異なる柔らかな笑顔で返された。
サーシャの[ライト]を見たとき、まるで水中から浮かび上がるように、手のひらから輝く白玉が浮かび上がってきていた。
その時の様子も加味して先程の考えを基に実践する。
手のひらに魔力を集め、輝く白玉……いや、輝く白のピンポン球の方がより具体的にイメージしやすいな。その輝くピンポン球が手のひらから浮かび上がる様子をイメージしながら……
「魔力を放出する!」
するとイメージ通り手のひらから[ライト]が浮かび上がってきた。
「……っ! 出てこい!」
だが、そこで思わぬ事が起こった。
[ライト]が浮かび上がる速度があまりにも遅いのだ。
今の時点でおそらく30秒は経っている。それでも[ライト]はまだ半分も浮かび上がってこない。
[ライト]が浮かび上がるイメージを繰り返し頭の中で行いながら魔力を放出し続ける。
それから五分程が経過したころに、ようやく[ライト]全体が出て来るところまできた。
「もう少し! あともう少し!」
声を出し自分を奮い立たせながらイメージを繰り返す。
そして、とうとうその全体が現れると思った時……
目の前が真っ暗になった。
まだ太陽も顔を出していない時間。眠気を感じたり、疲れが残っている、なんて事もなく何時も通り、鳥のさえずりを聞きながら目が覚めた。この薄暗さや早朝特有の肌寒さにも今はすっかり慣れた。むしろこの時間のこの空気に心地良ささえ感じる。ついこの間までは布団から出ることさえ億劫だったことを考えると俄には信じがたい。
あれから早くも二週間がたった。あの時と比べると、今の僕は劇的に変わったことが自分でもわかる。
「おはよう、サーシャ」
「おはようございます、坊ちゃま。調子は如何ですか?」
寝間着を着替え、庭に行くついでに朝ご飯を作っているサーシャに挨拶する。
「特に問題無いよ。むしろこの肌寒さが気持ち良いくらいだ。ようやくこの生活スタイルに慣れてきたなって実感してるよ」
先週まではこの時間にサーシャかアンナに起こしてもらっていた。……もちろん二週間以上前については考慮に入れていない。だが今では、彼女たちの手を借りずとも自然と目が覚めるようになった。
「それは良かったです。アンナは既にお庭に行きました。坊ちゃまを待っていますよ」
「分かった。ありがとう、サーシャ」
サーシャに礼を言う。美味しそうなスープの香りに後ろ髪を引かれるが、アンナが待っているらしいので早歩きで庭に向かう。
「おはようございます! 坊ちゃま!」
「おはよう、アンナ」
庭に着くなり小柄で赤髪の女性が声を掛けてきた。アンナだ。手に巨大な丸太を持っている格好を見ても今では全く驚かない。むしろその様子を見ると早朝訓練の始まりを感じ、自然と気合いが入る。
「では早速始めましょう!」
軽く準備運動をしてからアンナと一緒にランニングを始める。
「坊ちゃまの走り方も大分様になってきましたね。ですがまだ無駄な力が入っています。昨日言ったようにーーーー」
訂正。一緒にランニングではなく、ランニングをしながらフォームの指導をされる、が正しい表現だ。普通はこんな指導方法をしないと思うが、僕の体力の問題で止まったり走ったりを繰り返すのは得策ではないと判断し、この方法になったとか。……やや強引すぎる気もするが教わる立場なので余計な口出しはしないことにしている。それに当初は庭の内周を一周する事さえ出来なかったのだ。それを考えれば仕方ない。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「坊ちゃま! 大分長く走れるようになりましたね!」
約二周半のランニングを終え地面に寝転がる。
アンナとのランニングは1日毎に距離が少しずつ長くなっていく。いきなり二周を走るように言われるより精神的に楽だが、それでもしんどいのはしんどい。だけどたったの二週間でこれだけ走れるようになったのは自分でも信じられない。体力が付いてきているのは間違いないがアンナに走り方を教わったのも大きいと思う。
「坊ちゃま、お疲れ様です。これをどうぞ」
休憩していると足元の方から声が聞こえた。上半身を起こしてそちらを見るとサーシャがタオルを差し出さしてきた。
「ありがとう、サーシャ。朝ご飯が出来たの?」
「はい。出来ましたよ」
サーシャは朝ご飯の用意が出来ると僕達を呼びにくる。ランニング後に彼女の姿を見るとお腹が空く。僕の腹時計はサーシャに握られていると言っても過言ではあるまい。
上の服を脱ぎタオルで体を軽く拭く。体の方もこの二週間の結果が僅かに出てきているようだ。最初の頃の違和感が今では全く無くなり、自分の思い通りに動かせる。この体に慣れた事ももちろんあるだろう。だがそれだけでなく、服を着ている時の、生地が肌に張り付く強さが以前と比べると緩くなっている気がするのだ。
つまり何が言いたいかと言うと、徐々に痩せてきているということだ! まぁ、それでもまだ《太っている》というカテゴリの中にいるのは確実なので油断は出来ないのだが……。
◇◆◇◆◇◆
「スラッシュ!!」
朝ご飯を食べ終えると今度はアーツの素振りだ。そばにアンナが付いて細かく指摘を受ける。
「坊ちゃまは筋がいいですね! たったの二週間でスラッシュの型を習得するとは思いませんでした!」
とは言いつつも、まだまだ無駄な力が入っているやら、もっと声を張れやらと沢山指示が飛んでくる。
ちなみにスラッシュとは両手剣のアーツの名前で、二週間前にアンナが初めて見せてくれたアーツだ。アンナ曰わくこれは基本のアーツなので必ず覚えなければならないとのこと。これが一番シンプルで難易度が低いらしい。
最初はただ単に袈裟懸けに剣を振り下ろす技なので簡単に出来ると思っていたが、アンナからはダメ出しの嵐だった。例えば足の幅や剣の軌道、力の入れ方などなど……。
それとアーツを繰り出す時はアーツの名前を叫ぶように言われた。これもアーツを使う上で重要なことらしい。
疑問に思うことは多々あるが、僕には武道の心得など全くない。なので素直に言われた通りにする。
この後もアンナに指摘されながらスラッシュの素振りを続けていると、再びサーシャがやってきた。どうやら昼ご飯が出来たようだ。お腹空いたな。
◇◆◇◆◇◆
「ごちそうさま」
この間のように手が震えたり、昼ご飯を残すようなことはなく、全て美味しく頂いた。
「では私は食器を洗ってきますね! 午後からの訓練も頑張って下さい!」
「頑張るよ。ありがとう」
これからサーシャとの訓練が始まるのでアンナは早々にこの場を去り、台所へ向かった。
「この訓練を初めてちょうど二週間が経ちますね。今日は坊ちゃまがどれだけ魔力操作が出来るようになったかを確かめます」
僕の部屋に向かっているとサーシャが唐突にそう切り出してきた。またあれをやるのか……。憂鬱な気分になるものの、それが魔法を使う為に必要なことらしいので割り切ることにする。
実は先週も同じ事をやったがその時はまだまだだと言われ、これまたダメ出しの嵐だった。
しかしこの一週間は先週までより、相当な量をこなしたつもりだ。午後のサーシャの訓練だけでなく隙間時間を利用したり、午前の訓練の休憩中や、更にはトイレに座り用を足しながらでさえも、魔力操作の練習を繰り返し行った。
それらの努力の成果が試される時。
「では、始めます」
僕の部屋について早々、サーシャがそう切り出し、僕の両手を取ってきた。
魔力操作がどれだけ上達しているかを確認する方法はいたって簡単だ。しかし……
「ううぅぅぅぅ……」
とにかく気持ち悪い。
体の中に魔力を流され、その魔力を自分で外に出さないようにするだけなのだが……。
本来外部から他の魔力が流れてきた場合魔力中毒にならないように自然とその魔力を体外に排出しようとする働きがある。これは防衛本能による働きであり自分自身の魔力を使う。つまりこの働きが起こるのは、本人の魔力操作の技量は関係ないとされている。
しかしこの働きを逆手にとって魔力操作の技量をある程度測る事ができる。つまり他の魔力を流された時にわざと自分の魔力を動かさないようにする事で、魔力操作の技量を測ろうという方法である。
この時魔力を流し込む側は、相手の片方の手から魔力を流し込み、もう片方の手からその魔力を出すように操作する。そして流し込んだ魔力と出てきた魔力の差で魔力操作の技量を測定する。これが一般的な魔力操作の技量の測りかたらしい。
ちなみにもっと正確に測るには専用の道具が必要になるので、大半の人々はこの方法でしか測らないとのこと。
不快な感覚に耐えること約五分。ようやく測定が終了した。
「サーシャ、どうだった?」
先週行った時とは明らかに手応えが違った。この一週間の頑張りとそれを考慮するとその結果には相当な自信がある。
「……流石坊ちゃまです。殆ど全ての魔力が私の元に戻ってきています。前回の結果を踏まえても、ここまで伸びるとは思っていませんでした」
「前回はダメ出しをくらいまくったからね。サーシャを見返すために頑張ったよ」
ベッドに横になりながらドヤ顔でそう答える。
例え五分だけであっても、あの気持ち悪さを感じ続けるのは大分キツい。
しかしサーシャの反応をみる限り、結果はなかなか良かったようで、地獄の五分間を耐えたかいがあった。やっと魔法を教えてもらえる、と実感が沸いてくる。
「これだけ出来れば文句無しの合格です。今日から早速魔法の訓練に移りましょうか」
「やった! やっと魔法が使える!」
予想はしていたが、実際に魔法を教えてくれると言われると嬉しさが爆発した。
これまで魔法らしい魔法、つまり放出系の魔法を実際に見たのは、サーシャに説明を受けていたあの時だけだ。内包系の魔法はアンナのアーツや彼女が的に使う丸太を運んでいたところを何回も見たことがあるが、僕のイメージしていた魔法とは全く異なっていたため、放出系の魔法より関心があまり無かった。もちろんその凄さは理解しているので疎かにはしていない。
魔力操作の測定の疲れをある程度とるため、三十分程の長めの休憩をとるよう言われた。
時々サディスティックな一面を見せるサーシャだが、それ以外は完璧で頼れるお姉さんという印象なので、素直にその言葉に甘えることにする。
◇◆◇◆◇◆
サーシャが入れてくれたお茶を飲みながら軽い雑談をしていると早くも三十分が経過した。いよいよ、これから本格的な魔法の訓練に入るんだ。緊張してきてドキドキしてきた……。
「まずは私がこの間見せた[ライト]を使ってみてください」
サーシャはそう言うと、それ以上何かするでもなくこちらをジッと見てきた。
「……え、それだけ?」
「これだけですよ? 何か気になることがありましたか?」
そんな不思議そうな顔をして言われても、気になるところだらけでどこから突っ込んだら良いのかわからない。とりあえず最初に浮かんだ疑問をぶつける。
「えっと、何かアドバイスとか注意点とかそんな感じの説明は無いの?」
「そのようなものは特にありません。魔法はイメージと経験に大きく影響を受けます。"魔力感知と魔力操作を習得している"今の坊ちゃまならばすぐにできるはずです」
その言葉を聞いて、何故サーシャが説明しないのか理解した。
魔法を使うには魔力感知と魔力操作を習得している必要がある。そして魔法の発現にはイメージと経験が大きな影響を与える。今は経験など皆無なので、より具体的なイメージが必要になる。
これらは全て、既にサーシャから教わったことだ。
それに加えて今は放出系の魔法の訓練。
これらのことを踏まえて考えると……
「魔力を手のひらに集め、具体的なイメージをしながらそこから放出させる?」
詳しく言うと、魔力感知で魔力を認識し、魔力操作で手のひらに魔力を集める。そして具体的なイメージを伴って魔力を放出させる、ということだ。
確認の意味を込めてサーシャの方に顔を向けると、サディスティックな笑みとは異なる柔らかな笑顔で返された。
サーシャの[ライト]を見たとき、まるで水中から浮かび上がるように、手のひらから輝く白玉が浮かび上がってきていた。
その時の様子も加味して先程の考えを基に実践する。
手のひらに魔力を集め、輝く白玉……いや、輝く白のピンポン球の方がより具体的にイメージしやすいな。その輝くピンポン球が手のひらから浮かび上がる様子をイメージしながら……
「魔力を放出する!」
するとイメージ通り手のひらから[ライト]が浮かび上がってきた。
「……っ! 出てこい!」
だが、そこで思わぬ事が起こった。
[ライト]が浮かび上がる速度があまりにも遅いのだ。
今の時点でおそらく30秒は経っている。それでも[ライト]はまだ半分も浮かび上がってこない。
[ライト]が浮かび上がるイメージを繰り返し頭の中で行いながら魔力を放出し続ける。
それから五分程が経過したころに、ようやく[ライト]全体が出て来るところまできた。
「もう少し! あともう少し!」
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