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隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

8話 内包系と訓練

 サーシャに言われた通りにアンナに教えを乞う。




「サーシャさんから内包系の説明を聞いたんですね。もちろんいいですよ。私に任せてください!」




「ありがとう。とは言っても、魔力操作の訓練に時間を取られそうだから、まだ先の話なんだけどね」




 サーシャに言われてから、受験生お得意の隙間時間活用法を駆使して練習しているが、今のところできる気が全くしない。
 そんなことを考えていると、アンナが唐突に衝撃的な発言をした。




「大丈夫ですよ、坊ちゃま。内包系の魔法の訓練は魔力操作が出来なくても、できる事はたくさんありますから」




「え!? そうなの!?」




 驚いて目を見開いてる僕に対して、アンナは得意気に説明しだした。




「内包系の魔法を使うには、確かに魔力操作の技術も重要です。それが出来ないと魔法が使えませんからね。しかし、それより遥かに重要なのは、体の動きを正確に把握する事なんですよ!」




「へー、そうなんだ。魔法なのに、体の動きを把握する事の方が大事なんて変わってるね」




「それが内包系の魔法の特徴ですから!」




 思ったことを素直に言うと、アンナが自慢気にそう言ってくる。




「坊ちゃまが言った他にも、内包系は他の魔法、つまり放出系の魔法ですね、それとは異なった特徴を持っています。例えば、内包系の魔法は、肉体強化魔法、ただ一つしかないのです!」




「なにそれ? 体系に分かれてるのに一つしかないの? おかしくない?」




「坊ちゃまの気持ちはよーくわかりますよ。ですが事実なんですよ。勿論ちゃんとした理由はありますよ」




 たった一つの魔法で一つの体系を成している。そう考えると、なんかかっこいいな。
 『ちゃんとした理由』とやらが気になるので聞いてみる。




「それってどんな理由?」




「それは……」




「それは?」




 僕が質問すると、アンナは悪戯を思いついたような顔をしてニヤニヤしだした。




「そーれーはー……」




「……それは?」




 一応気になるので、このノリに付き合う事にする。




「そーーれーーはーー……」




「……そーれーはー?」






 ……ちょっと面倒くさいと思ってしまった。
 いや、せっかくアンナが僕を弄るようになるくらい、親好を深めたんだ。ここは耐えねば。




「そーーーれーーーはーーー……」




「…………そーーれーーはーー?」




 ……面倒くさくなってきた。だけど、アンナがここまで僕を焦らしてきた事は『記憶』にない。だから、そんな思いなど顔に出さないように努力し、アンナに付き合う。




「そーーーーれー「あ、もうこんな時間か。」えっ」




「じゃあ、僕は疲れてるからさっさと寝ることにするよ。おやすみー」




 やっぱり面倒くさいのでさっさと寝ることにした。え? アンナと親好を深める? これからも毎日顔を合わせるから、その内深まるでしょ。なので、ノープロブレム!




◇◆◇◆◇◆




 自分の部屋に入ると、重大な事実を思い出し愕然とした。




「風呂がない……」




 そう。少なくともこの家には、お風呂が無い。僕より身分の高い貴族の家や王城にはあるかもしれないけど、それ以外は『記憶』にある限りだと無い。




 その代わり朝ご飯を食べた後、歯磨きをするタイミングで体を濡れタオルで拭くらしい。
 百歩譲ってお風呂が無いのはまだ我慢できる。だが、今最も重要なのは夜ではなく朝に体を拭くと言うことだ!




「サーシャにお湯とタオルを準備してもらうつもりが、すっかり忘れてたなぁ……」




 さて、どうしたものか……。
 つま先を隠しているお腹を何となく摘まみながら考える。




「服だけでも着替えるか……。それぐらいしか出来る事もないし……」




 既に月が天高く昇っているこの時間からお湯をわかしてもらうのも悪いので、汗や埃が付いている服から新しい綺麗な服に着替える。




「まぁ、さっきよりは少しマシかな。」




 明日からは夜にお湯を持ってきてもらうよう頼もう。
 そう固く決意して布団に入る。




 ギシィ




 ……やべ。完全に忘れてた。
 適当な本をベッドの足の傍に積み重ねて補強しておこう。




 それじゃあ、おやすみ。




◇◆◇◆◇◆ 




「ふぁぁ……。朝か」




 外にいる鳥たちの鳴き声で目が覚めた。




「まだお日様昇ってないじゃん」




 二度寝をするか少しだけ考えて、しない事にする。昨日の疲れは完全に取れたみたいで、頭の中が妙にクリアだったからだ。




「朝ご飯食べにいくか」




 部屋を出て、食堂に向かって歩く。




 食堂に入ると、朝ご飯を作っているところなのか、美味しそうな匂いが充満している。




「パンとベーコン……いや、この匂いはソーセージかな?」




 匂いで朝ご飯のメニューを予想していると、台所の方からアンナがやってきた。




「おはよう、アンナ」




「おはようございます、坊ちゃま。今日は随分早起きですね」




 アンナは昨日の事など気にしていないような素振りで挨拶してくる。




「一度目が覚めたら逆に寝れなくなったんだよ」




「そうなんですか。体調の方は大丈夫ですか? 昨日、坊ちゃまは凄く頑張っていらしたので……」




 アンナが少し不安そうな声色で訪ねてくる。




「特に何もないよ。逆に自分でもビックリするくらい調子が良い気がするよ」




 僕が肩を回し、大丈夫アピールをしながらそう言うと、アンナの表情がパッと明るくなった。




「そうですか、それはよかったです! なら、今日は昨日出来なかった事を外でやりましょう!」




「それはいいけど、サーシャの訓練の事もあるから、一緒にご飯食べながら話さない? 時間の問題とかいろいろあるだろうし」




「あ、サーシャさんとはもう話し合っているので、後は坊ちゃまが了承していただくだけです! なので気にしなくても大丈夫ですよ」




 僕が二人の訓練の時間配分などを心配をして提案すると、アンナがすぐにそう返してきた。




「え? そうなの? 昨日は結構遅くまで訓練したと思うけど。アンナこそ寝不足になってない? 大丈夫?」




「安心してください。昨日の夜ではなく、さっき二人で朝ご飯を作りながら話し合ったので、大丈夫ですよ」




 そこで、台所の方から四人分の朝ご飯をカートに乗せ、運んでいるサーシャが出て来た。
 ……え? 一人分多い? アンナが二人分食べるからこれでいいんだよ。




「サーシャ、おはよう」




「あら。おはようございます、坊ちゃま。今日は随分早起きなのですね」




 サーシャにもアンナと同じ事を言われ、苦笑いしながら席に着く。
 そしてサーシャとアンナも席に着いたことを確認し、口を開く。




「じゃあ全員揃ったから食べようか」




 僕のその言葉を皮切りに、二人も朝ご飯を食べ始めた。




◇◆◇◆◇◆




 朝ご飯を食べ終わり、体を綺麗にしてから午前の訓練を始める。
 ちなみにお湯の件は、ちゃんと忘れずに言ったよ。




「では坊ちゃま。これから午前中の訓練はここで行います」




「了解。で、ここでなにするの?」




 僕たちが今立っているのは、家の庭。とはいっても、庭というより広場と言った方がしっくりくる位には広い。あと、芝生が生えて一面緑なので目に優しい。




「今日からはしばらくの間、ここでランニングと剣のアーツを習得してもらいます!」




「ランニングは分かるけど、アーツってなに?」




 僕がそう質問するとアンナは真剣な顔で話し始めた。 
 そんな顔出来たんだ……。




「アーツというのは内包系の魔法を使うにあたって、魔力操作より重要な『肉体の動きを正確に把握する』ための技術です」




「あ、昨日言ってたやつか」




「そうです。そして、このアーツこそが、肉体強化魔法が一つの体系を成している理由なのです!」




「あ、昨日言いそびれてたやつか」




 アンナが昨日の最後の事を思い出したのか急にシュンと落ち込み始めた。
 ……しまった。思わず直球に言ってしまった。




「えっと、その、アーツの事を教えて欲しいなー。それと、体系を成している理由が何なのか気になるなー」




「え? 気になります? 気になりますか? そうですか。ならば教えましょう!」




 先ほどまでの雰囲気が嘘のように元気になったアンナ。
 ……なるほど。アンナの扱い方が分かってきた気がする。




 すると何の前触れも無く、アンナが目の前から消えた。




「あれ!?」




 驚きつつ、周りを見るも緑ばかりが目に映る。そして困惑しつつ両目を擦ってみる。
 再び目を開けた時、アンナが先程の位置にいた。……でかい丸太を持って。
 ……何があったの? と言うか今のも何かの魔法なの?




 そう思い疑問を口にしようとしたら、




「よーしよしよしよしよし。そのままですよー。そのままじっとしててくださいよー」




 アンナは丸太に話しかけながら、丸太を立たせていた。
 ……あの子の頭は大丈夫? 凄い不安になったきた……。




 「そうです! そのままです! そのままですよ!」




 僕がアンナの心配をしていると、アンナが丸太を立たせる事に成功したようだ。




「では、坊ちゃま! まずはーー」




 ズゥン……。




 あ、丸太が倒れた。




「ああ! そのままって言ったじゃないですか!」




 そう言ってアンナは、再び丸太を立たせる作業に戻って行った。……丸太に話しかけながら。
 本当に頭は大丈夫なの?
 僕が割と本気で心配していると、アンナが丸太を立たせる事に成功したようだ。




「お待たせしました、坊ちゃま! ではーー」




 ズゥン……。




 あ、また倒れた。




「ちょっと! ちゃんと立ってて下さいよ!!」




 そう言ってアンナは、三度丸太を立たせる作業に戻って行った。……やはり、丸太に話しかけながら。
 この事は後でサーシャに報告しておこう。サーシャの魔法なら頭も治るでしょ。




「すみません、坊ちゃま!では、説明をはじ」




 ズゥン……。




 ……頑張れアンナ。
 僕が心の中で応援していると、今度は無言で丸太の傍まで歩いていった。
 あれ?急に静かになったな。
 そう思った時、




「うりゃああああぁぁ!」




 ズドン!




 アンナが丸太を地面に突き刺した。素手で。それも丸太全体の半分くらいの長さが地面に埋まる程だ。 




「えぇ……」




 あれも多分肉体強化魔法だと思う。それ無しであんなことができる人がいたら、それはもはや人間じゃないな。
 この展開に唖然としていると、アンナが何事もなかったかのように戻ってきた。




「では肉体強化魔法の凄さを知ってもらいましょう! まずはこれを見てください!」




 そう言ってアンナがいつの間にか持っていた鞘から剣を取り出した。
 おかしいな。本物の剣なんか初めて見るのになんの感情もわかないや。さっきのアンナの行動が衝撃的すぎて感覚が麻痺している。




「最初は魔力を使わずにこの剣でこの丸太を切ってみますね」




 そう言ってアンナは剣を袈裟懸けに振り下ろした。
 しかし、




 ストッ




 アンナが振った剣は、丸太に浅く傷を付けただけで終わった。




「まぁ当然のように切れません。しかし、魔力を使うと……」




 アンナが振った剣は、先程と同じ軌道を描き




 ズバッ!




 と、大きな音を出して丸太を斜めに切り裂いた。




「このように強力な攻撃が出来るようになるわけです!」




 物凄い得意気な顔をしてそう言うアンナ。
 ……そのデモンストレーションいる? 丸太を地面に突き刺しただけで充分じゃないかなぁ。
 それより、今は他に聞きたいことがある。




「あぁ、うん。そんなことより、さっき一瞬消えたのは何だったの?」




 肉体強化魔法の凄さは十分に分かったので、今一番気になるのはさっきアンナが一瞬消えた魔法だ。




「そ、そんなこと!?」




 僕の質問に酷くショックを受けた様子のアンナ。
 え? 『そんなこと』だよね?




「うん。肉体強化魔法の威力については昨日サーシャに教えてもらったし、さっき丸太を地面に刺したのもそれでしょ? もうその凄さは十分に理解したよ。それより、さっき一瞬消えた魔法はなんなの?」




 サーシャに昨日驚かされ、先程アンナにも驚かされたからなぁ。もうそれで驚き切れないよ。それに、アンナが今更、剣で丸太を二つにしたところで、(それくらいならできるだろうなぁ)としか思えなくなってしまっているんだよね。




「サーシャさんが先に内包系の魔法の凄さを教えていたとは……。 いえ、確かにサーシャさんに説明をしてもらうように言ったのは私ですよ? でもでも、サーシャさんは私が内包系が得意って知っていますから、ブツブツ……」




「おーい。アンナさん? 聞こえてますかー? こっちに戻ってきてくださーい」




 何やら俯いて、急に自分の世界に入り込んだ様子のアンナさん。
 『肉体強化魔法より、丸太を急に出した魔法を教えて!』って言わない分、大丈夫だと思ってたけど、まさかここまで落ち込むとは……




「ワースゴイナー。マサカコンナオオキナマルタヲマップタツニスルナンテー。ニクタイキョウカマホウスゴイナー」




 ……あかん。アンナを元に戻そうと思って言ってみたけど、自分でも驚くほど棒読みになってしまった。




「……ぇ?」




 すると、アンナの耳がピクッと動いた。
 お?このまま押し通したらいけるか?




「スゴイナー。キリクチガキレイダナー。ニクタイキョウカマホウスゴイナー。」




 あれ? 結構気持ちを込めて言ったつもりなんだけど、さっきと全く同じじゃね?




「……え?」




 すると、またもアンナの耳がピクピクッと動いた。
 あれ!? 今のでも反応するの!?
 なら、今度はさっきよりも気持ちを更にこめて……




「ニクタイキョウカマホウスゴイナー。アンナモスゴイナー。オシエテホシイナー」




 ……あかん。どれだけ気持ちを込めても最初と変わってないじゃん!




「え?」




 するとアンナはおそるおそる顔を上げ、こちらを見てきた。




「あの、今なんと仰いましたか……?」




 えぇ!? これでも大丈夫なの!?
 なら、今度こそ僕の全演技力をもって気持ちが籠もったセリフを言ってやる!




「肉体強化魔法より、丸太を急に出した魔法を教えて!…………あ」




 うぉぉぉい!! なに言ってんの僕!! 
 気持ちを込めてって、正直に思ってることを言うんじゃないんだよ!!   
 これならさっきの棒読みの方が全然マシだったよ!!




「えっと、あれは普通に取ってきただけですけど……」




 あれ? なんで僕が『この子なに言ってるの?』みたいな目で見られてるの?
 いやいや、それよりも……。




「……今何て言ったの?」




「ですから、あそこの薪小屋から取ってきた、と……」




 そう言って、アンナが指で指し示したのは、庭の隅っこにある薪小屋。
 ……え? あなたさっきから『この子なに言ってるの?』って顔してますけど、こっちこそ『この子なに言ってるの?』って言いたいわ!




「あそこの薪小屋ってここから二十メートル以上あると思うんだけど……」




「そうですね」




 いやいやいや、『そうですね』じゃないでしょ!
 掌の上に握り拳をポンッと置いて『あ、薪小屋がどこにあるか知らなかったのか』って勝手に納得しないで!
 確かに薪小屋があそこにあるのは知らなかったよ? でも、僕が言いたいのはそれじゃないんだよ!




 ……一旦混乱してきた頭の中を整理しよう。




「……えっと、僕が聞きたいのはどうやってあの薪小屋からここまで薪を持ってきたのかを聞きたいんだよ」




「普通に両手で抱えて持ってきましたよ?」




 ……ますます分けが分からんわ!

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