隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
6話 常識と発見
「魔力がない体質、ですか?」
「うん。体内の魔力を探しても違和感が全くないから、そうなのかなと思ってたんだけど……」
内心ビクビクしながらサーシャの返答を待つ。
「それは有り得ないと思います。そもそも、魔力が無ければ生物として成り立っていませんから」
「え? そうなの?」
「え? そうですが。もしかして坊ちゃまは知らないので?」
《こんな常識も知らないの?》みたいな目を向けてくるのは止めて欲しいのですが……。
……今まで、寝ることと食べることしかしてこなかったせいですね。すみません。
「うん。初めて聞いた」
「え……」
《マジかよオイ!!》みたいな顔で見ないで下さい……。
地味に精神的なダメージが入ってます……。
「……では、魔力は生物の体内のどこに存在するかは知っていますか?」
「し、知らない……」
すると、サーシャは目を見開いて驚いた顔をした。そして
「あ、そう言うことでしたか」
ポツリと、そう呟いた。
……え? どういうこと?
「坊ちゃま。全ての生き物は魔力が無くては生きていけません」
とサーシャは言った。
「もし体の中から保有している内の殆どの魔力が無くなると、めまいや吐き気などが起こる、魔力欠乏症と呼ばれる症状に陥ります」
なるほど。酸素欠乏症の魔力版みたいなものかな?
「さらに、全ての魔力が無くなると意識を失ってしまいます。そして、その状態で魔力が殆ど存在しない空間に居続けると、後遺症が残り、最悪死に至ります。あ、後遺症って分かりますか?」
「うん。分かるよ。病気とか怪我が治っても残り続ける障害のことでしょ?」
すると、サーシャは奇妙なものを見るような顔をした。
……サーシャの中での僕の評価が、どんなものなのかがよく分かるな。
「その通りです。つまり長時間体内に魔力がない事は死と同じ意味を持ちます。ここまではいいですか?」
「うん。大丈夫」
ちゃんと理解できたよ。……ホントだよ?
……だからサーシャさん。そんな疑うような目で見ないで。
「話は戻りますが、坊ちゃまが魔力を感じとれないのは、生物の体内のどこに魔力が存在するかをご存知でなかったからでしょう」
「そうかなぁ……。違和感が合ったらそれを知らなくても分かるものじゃない?」
「いえ、先程も言ったように生物は魔力がないと生きていけません。つまり生まれたての赤ん坊でも魔力を持っているので、体内にある魔力を感じようとしても、体がその感覚に慣れきっているので魔力を知覚する事が難しいのです」
「なるほど……。あ、じゃあさっきの魔力を流し込むやつは、無理矢理魔力がどういうものか知覚させるためにやっていたのか」
すると、サーシャは生徒を微笑ましく見る先生のような顔で説明しだした。
「惜しいですね。それでは50点です。坊ちゃまが仰る魔力は坊ちゃま自身の、ではなく私の魔力のことですよね?」
「うん、そうだけど。どっちも同じじゃないの?」
「いえ、殆ど同じですが、この訓練では坊ちゃまが坊ちゃま自身の魔力を知覚しなければならないので、私の魔力を知覚できても意味がありません」
「……なるほど。けど、あの魔力が入ってくる気持ち悪い感覚を味わいながら、自分の魔力を探すってできる気がしないんだけど……」
魔力が流れてきた時の感覚を思い出し、思わず右腕をさする。
その様子を見て、先程のことを思い出したのか若干ニヤリと笑いながら説明を続けるサーシャ。
「そこで先程言った、生物の中に存在する魔力の場所に繋がるのです」
「そうなんだ」
「まず、生物の体内に魔力を流すには、魔力操作の技術が対象よりも隔絶している必要があります。これは外から入ってきた魔力に対して、体内の魔力はそれを押し出そうとするからです。」
「え、押し出すの? 殆ど同じ魔力だったら、そのまま自分の魔力として吸収すると思ったんだけど」
「坊ちゃまの言う通り外から入ってきた魔力の内、一部は体内の魔力として吸収されますが、その他の殆どの魔力は体外へ出されます。これは、身体が魔力を吸収しすぎると魔力中毒に陥る危険があるからです」
「魔力中毒?」
「はい。魔力中毒とは身体の中に魔力が過剰に存在することで、不快感や目眩などが現れる症状のことです。」
「え、じゃあ、さっき魔力を流された時の気持ち悪さは魔力中毒の症状?」
「その通りです、坊ちゃま。ですが安心してください。そこまで多くの魔力を流してませんから魔力中毒の症状は軽い不快感を感じるのみに収まっている筈です」
「さっき大量の魔力を流すって言ってたよね? あの不快感で軽い方なの? やられた後ぐったりしてたんだけど?」
「大丈夫です。安心してください。坊ちゃまのお体に影響が残らない範囲で大量に流しましたから。なので坊ちゃまが感じた不快感はまだまだ序の口です」
うわぁ。めっちゃ笑顔で説明してるよ、この人。
「で、話を戻しますが、魔力を流し込みますと体内の魔力が、外から入ってきた魔力を押し出そうとします。これは防衛本能が働いて行うことですので、本人の意思とは関係なく無意識で行われます。この無意識で動いた魔力を感じることが先程の訓練の目的です」
「なるほど……。でも、さっきはそんな抵抗したような感じがしなかったんだけど……。ただただ気持ち悪い思いをしただけだったよ?」
「それは恐らく坊ちゃまが、魔力が存在する位置をご存知無かったからでしょう。言うなれば砂漠で地図がない状態でオアシスを探すようなものです。おおざっぱな地図さえ持っていればだいたいの場所が分かるのでオアシスを見つけやすくなるでしょう? それと同じです」
「なるほど。確かに地図を持った方が見つけやすいね。じゃあ、その例えで言うオアシスは身体のどこにあるの?」
「それは………………」
「いや、そこで止めないでよ!なんか急に不安になるじゃん!」
「心臓です」
「今度は凄いあっさり言ったね!?」
「では、これらを踏まえた上で、もう一度魔力を流してみましょうか」
また無視かい。
てか、今のやりとり必要だった?
「では、今度は弱めに流しますね」
サーシャが僕の右手を取ってそう言ってきた。
「分かったよ。それじゃ、よろしく」
本当に弱めに流すのか怪しいが、もう右手を取られているので諦めることにする。
目をつぶり、心臓の辺りに意識を傾ける。
すると、手のひらからサーシャの魔力が、ゆっくりと流れてきたのを感じた。
それに反応するように、心臓の辺りにあった生温かいものがゆっくりと動いているのを感じる。
え? もしかしてこれが魔力……? これって……。
頭の中で別のことを考えていると、魔力と思われる物の動きが急に早くなり……え?
「うわぁぁぁぁ!!!ーー
ーー荒療治? 中ーー
「サーシャ!! さっき途中から魔力の量増やしたよね!?」
「あら、申し訳ございません。調整を少し間違えてしまいました」
それは笑顔で言うことじゃないよねぇ!?
「それより、今度こそ坊ちゃま自身の魔力を感じ取ることができたのではないですか?」
また話題を逸らしおった……。
突っ込みたい気持ちに駆られるが、今はそれよりも聞きたいことを確認しないと。
「うーん。サーシャ、自分の魔力って結構あったかかったりする?」
「そうですね。確かに、他の身体の部分より温度は高い気がしますね」
やっぱりかぁ……。
「僕さ、前から胸の辺りが暑いなって思ってたんだよ。けど、それは太っているからと思ってそれ以上意識してなかったんだよね……」
「あら、そうなのですか? なら……」
「うん。さっきまでの訓練ってした意味あったのかな……?」
「安心してください。ちゃんと意味はありましたよ――――」
魔力を流し込まれる時の感覚を思い出しながら遠い目をしている僕に、サーシャはまるで聖母のような微笑みで励ましてくれる。
先程まで弄られていた事を忘れ、サーシャの優しさについ涙が出そうになる。
「――――私がとても楽しめたと言う意味が。」
「やっぱり楽しんでたんかい!!」
クソゥ、油断した……。
すると、サーシャは急に嬉しそうに笑い出した。
「急に笑い出してどうしたの、サーシャ? そんなに僕を弄るのが楽しかったの?」
つい不機嫌な口調で質問してしまった僕は、別に悪くないと思いたい。
「確かに坊ちゃまを弄るのも楽しかったですけれど、こうやって坊ちゃまと二人で話すのは、ずいぶん久しぶりな気がしまして。楽しくなって、ついつい坊ちゃまのことを弄りすぎてしまいました。申し訳ございません」
あー……。
なるほど、確かに最近の『記憶』ではまともな会話をしたことが無いからなぁ……。
「その、今まで迷惑かけてばっかりでごめん……」
「そんなこと気になさらなくて結構ですよ、坊ちゃま。私はノルド家のメイドですから。これからも坊ちゃまは好きなようにしていただいて大丈夫です。ただ、一つ言うなら、今ここで話している坊ちゃまの方が、昨日までの坊ちゃまより数段かっこ良いので、これからもかっこ良い坊ちゃまでいてください」
お世辞で言っているってことは分かってるけど、前世を含め、今までカッコいいなんて言われた事が無かった。だから嫌でも気分が高揚してしまう。
「分かったよ、サーシャ。改めてこれからもよろしく!」
「こちらこそよろしくお願いします、坊ちゃま」
この後、確認のためにもう何回か魔力を感じる訓練をしたあと、アンナが部屋に来た。
いつの間にか夜になっていたらしく、晩御飯ができたから呼びに来たらしい。
◇◆◇◆◇◆
サーシャはアンナの手伝いに行き、僕は今、椅子の上で自分の魔力を意識的に動かそうと頑張っている。
「うーん……。動けー動けー動けー動けー……」
サーシャが言うには、魔力感知が出来たら、次は魔力を動かす魔力操作を会得しなければならないらしい。この2つの技術ができて初めて魔法が使えるとのこと。
だから、晩御飯が出てくるまでの僅かな間でも練習しているのだが……。
「……ダメだ! 全く動く気がせん!」
思わず机に突っ伏してしまう。
「フフフ。苦戦しているようですね。そんなにすぐに出来るものでは無いので焦らなくて大丈夫ですよ」
サーシャの声がしたのでそちらに振り向く。
どうやらサーシャとアンナが今日の晩御飯を運んできたようだ。
「そうですよ。坊ちゃまはまだ魔力感知を習得したばかりらしいじゃないですか。なので、今すぐ魔力を動かせるようにはなりませんよ。魔力操作は魔力感知と違い、荒療治のような方法は無いので気長にやるしかありません」
アンナもそう言いながら、二人は晩御飯と食器を机に並べていく。
「そうなんだ……。魔力感知が簡単に出来たからすぐに出来ると思ってたよ……」
思わぬ事実を聞きショックを受けているとサーシャが、
「ですが坊ちゃまは私の魔力を、私が想定していたよりも敏感に感じ取っていたようなので、魔力感知のレベルは高いと思いますよ。魔力をより鋭敏に感じるほど、魔力操作はしやすくなるので坊ちゃまはすぐに出来るようになると思います」
と言って励ましてくれた。
前世の体には魔力が無かったから、余計に魔力を感じやすいのだろう。
そう考えると魔力操作もすぐにできそうな気がしてくる。
まぁ、そういう気がするだけなので実際にはどうか分からないが……。
◇◆◇◆◇◆
「では、準備ができましたのでどうぞお召し上がり下さい」
そう言われたが、机の上には一人分の食器とご飯しかない。
「あれ? なんで僕の分だけしかないの? 二人の分は?」
当たり前のように思った疑問を口にしたら、サーシャが
「マルロ様とルシア様は現在王都で仕事をなさっているのでまだ帰ってきていません。次にご帰宅なさるのは恐らく一ヶ月後になると思います」
と言った。
えーっと、マルロ様とルシア様って言うのは……あぁ、両親のことか。
って、今聞きたいのはそれじゃなくて、
「いや、父さんと母さんの分じゃなくて、サーシャとアンナの分は?」
そこまで言ったとき、『記憶』の中の自分はずっと一人でご飯を食べていたことを思い出した。
「「……」」
あー……。二人共呆然としちゃった……。
……よし。誤魔化そう!
「えーっと、これからは二人と一緒にご飯食べたいなーって思ってさ。それにまだ聞きたい事もあるし、食べながら話そう!」
この後、渋々とだが何とか二人を丸め込む事に成功し、三人でのディナーと相成った。
◇◆◇◆◇◆
「そういえば、坊ちゃまは先程何か聞きたい事があると仰っておりましたが……」
最後の一口を頬張っていると、サーシャがそんなことを言ってきた。
「あぁ、そうだった。晩御飯が美味しかったからその事をすっかり忘れてたよ」
そう言うと、アンナは途端にニコニコ顔になり、
「ありがとうございます、坊ちゃま!」
と言って、上機嫌に鼻歌を歌いながら食器を片付け始めた。
そんなアンナを横目に、僕はサーシャに聞きたかったことを思い出す。
「えーっと……。あぁ、そうだ。僕がサーシャに聞きたいことは”ないほうけい”というものについてなんだよ。」
「うん。体内の魔力を探しても違和感が全くないから、そうなのかなと思ってたんだけど……」
内心ビクビクしながらサーシャの返答を待つ。
「それは有り得ないと思います。そもそも、魔力が無ければ生物として成り立っていませんから」
「え? そうなの?」
「え? そうですが。もしかして坊ちゃまは知らないので?」
《こんな常識も知らないの?》みたいな目を向けてくるのは止めて欲しいのですが……。
……今まで、寝ることと食べることしかしてこなかったせいですね。すみません。
「うん。初めて聞いた」
「え……」
《マジかよオイ!!》みたいな顔で見ないで下さい……。
地味に精神的なダメージが入ってます……。
「……では、魔力は生物の体内のどこに存在するかは知っていますか?」
「し、知らない……」
すると、サーシャは目を見開いて驚いた顔をした。そして
「あ、そう言うことでしたか」
ポツリと、そう呟いた。
……え? どういうこと?
「坊ちゃま。全ての生き物は魔力が無くては生きていけません」
とサーシャは言った。
「もし体の中から保有している内の殆どの魔力が無くなると、めまいや吐き気などが起こる、魔力欠乏症と呼ばれる症状に陥ります」
なるほど。酸素欠乏症の魔力版みたいなものかな?
「さらに、全ての魔力が無くなると意識を失ってしまいます。そして、その状態で魔力が殆ど存在しない空間に居続けると、後遺症が残り、最悪死に至ります。あ、後遺症って分かりますか?」
「うん。分かるよ。病気とか怪我が治っても残り続ける障害のことでしょ?」
すると、サーシャは奇妙なものを見るような顔をした。
……サーシャの中での僕の評価が、どんなものなのかがよく分かるな。
「その通りです。つまり長時間体内に魔力がない事は死と同じ意味を持ちます。ここまではいいですか?」
「うん。大丈夫」
ちゃんと理解できたよ。……ホントだよ?
……だからサーシャさん。そんな疑うような目で見ないで。
「話は戻りますが、坊ちゃまが魔力を感じとれないのは、生物の体内のどこに魔力が存在するかをご存知でなかったからでしょう」
「そうかなぁ……。違和感が合ったらそれを知らなくても分かるものじゃない?」
「いえ、先程も言ったように生物は魔力がないと生きていけません。つまり生まれたての赤ん坊でも魔力を持っているので、体内にある魔力を感じようとしても、体がその感覚に慣れきっているので魔力を知覚する事が難しいのです」
「なるほど……。あ、じゃあさっきの魔力を流し込むやつは、無理矢理魔力がどういうものか知覚させるためにやっていたのか」
すると、サーシャは生徒を微笑ましく見る先生のような顔で説明しだした。
「惜しいですね。それでは50点です。坊ちゃまが仰る魔力は坊ちゃま自身の、ではなく私の魔力のことですよね?」
「うん、そうだけど。どっちも同じじゃないの?」
「いえ、殆ど同じですが、この訓練では坊ちゃまが坊ちゃま自身の魔力を知覚しなければならないので、私の魔力を知覚できても意味がありません」
「……なるほど。けど、あの魔力が入ってくる気持ち悪い感覚を味わいながら、自分の魔力を探すってできる気がしないんだけど……」
魔力が流れてきた時の感覚を思い出し、思わず右腕をさする。
その様子を見て、先程のことを思い出したのか若干ニヤリと笑いながら説明を続けるサーシャ。
「そこで先程言った、生物の中に存在する魔力の場所に繋がるのです」
「そうなんだ」
「まず、生物の体内に魔力を流すには、魔力操作の技術が対象よりも隔絶している必要があります。これは外から入ってきた魔力に対して、体内の魔力はそれを押し出そうとするからです。」
「え、押し出すの? 殆ど同じ魔力だったら、そのまま自分の魔力として吸収すると思ったんだけど」
「坊ちゃまの言う通り外から入ってきた魔力の内、一部は体内の魔力として吸収されますが、その他の殆どの魔力は体外へ出されます。これは、身体が魔力を吸収しすぎると魔力中毒に陥る危険があるからです」
「魔力中毒?」
「はい。魔力中毒とは身体の中に魔力が過剰に存在することで、不快感や目眩などが現れる症状のことです。」
「え、じゃあ、さっき魔力を流された時の気持ち悪さは魔力中毒の症状?」
「その通りです、坊ちゃま。ですが安心してください。そこまで多くの魔力を流してませんから魔力中毒の症状は軽い不快感を感じるのみに収まっている筈です」
「さっき大量の魔力を流すって言ってたよね? あの不快感で軽い方なの? やられた後ぐったりしてたんだけど?」
「大丈夫です。安心してください。坊ちゃまのお体に影響が残らない範囲で大量に流しましたから。なので坊ちゃまが感じた不快感はまだまだ序の口です」
うわぁ。めっちゃ笑顔で説明してるよ、この人。
「で、話を戻しますが、魔力を流し込みますと体内の魔力が、外から入ってきた魔力を押し出そうとします。これは防衛本能が働いて行うことですので、本人の意思とは関係なく無意識で行われます。この無意識で動いた魔力を感じることが先程の訓練の目的です」
「なるほど……。でも、さっきはそんな抵抗したような感じがしなかったんだけど……。ただただ気持ち悪い思いをしただけだったよ?」
「それは恐らく坊ちゃまが、魔力が存在する位置をご存知無かったからでしょう。言うなれば砂漠で地図がない状態でオアシスを探すようなものです。おおざっぱな地図さえ持っていればだいたいの場所が分かるのでオアシスを見つけやすくなるでしょう? それと同じです」
「なるほど。確かに地図を持った方が見つけやすいね。じゃあ、その例えで言うオアシスは身体のどこにあるの?」
「それは………………」
「いや、そこで止めないでよ!なんか急に不安になるじゃん!」
「心臓です」
「今度は凄いあっさり言ったね!?」
「では、これらを踏まえた上で、もう一度魔力を流してみましょうか」
また無視かい。
てか、今のやりとり必要だった?
「では、今度は弱めに流しますね」
サーシャが僕の右手を取ってそう言ってきた。
「分かったよ。それじゃ、よろしく」
本当に弱めに流すのか怪しいが、もう右手を取られているので諦めることにする。
目をつぶり、心臓の辺りに意識を傾ける。
すると、手のひらからサーシャの魔力が、ゆっくりと流れてきたのを感じた。
それに反応するように、心臓の辺りにあった生温かいものがゆっくりと動いているのを感じる。
え? もしかしてこれが魔力……? これって……。
頭の中で別のことを考えていると、魔力と思われる物の動きが急に早くなり……え?
「うわぁぁぁぁ!!!ーー
ーー荒療治? 中ーー
「サーシャ!! さっき途中から魔力の量増やしたよね!?」
「あら、申し訳ございません。調整を少し間違えてしまいました」
それは笑顔で言うことじゃないよねぇ!?
「それより、今度こそ坊ちゃま自身の魔力を感じ取ることができたのではないですか?」
また話題を逸らしおった……。
突っ込みたい気持ちに駆られるが、今はそれよりも聞きたいことを確認しないと。
「うーん。サーシャ、自分の魔力って結構あったかかったりする?」
「そうですね。確かに、他の身体の部分より温度は高い気がしますね」
やっぱりかぁ……。
「僕さ、前から胸の辺りが暑いなって思ってたんだよ。けど、それは太っているからと思ってそれ以上意識してなかったんだよね……」
「あら、そうなのですか? なら……」
「うん。さっきまでの訓練ってした意味あったのかな……?」
「安心してください。ちゃんと意味はありましたよ――――」
魔力を流し込まれる時の感覚を思い出しながら遠い目をしている僕に、サーシャはまるで聖母のような微笑みで励ましてくれる。
先程まで弄られていた事を忘れ、サーシャの優しさについ涙が出そうになる。
「――――私がとても楽しめたと言う意味が。」
「やっぱり楽しんでたんかい!!」
クソゥ、油断した……。
すると、サーシャは急に嬉しそうに笑い出した。
「急に笑い出してどうしたの、サーシャ? そんなに僕を弄るのが楽しかったの?」
つい不機嫌な口調で質問してしまった僕は、別に悪くないと思いたい。
「確かに坊ちゃまを弄るのも楽しかったですけれど、こうやって坊ちゃまと二人で話すのは、ずいぶん久しぶりな気がしまして。楽しくなって、ついつい坊ちゃまのことを弄りすぎてしまいました。申し訳ございません」
あー……。
なるほど、確かに最近の『記憶』ではまともな会話をしたことが無いからなぁ……。
「その、今まで迷惑かけてばっかりでごめん……」
「そんなこと気になさらなくて結構ですよ、坊ちゃま。私はノルド家のメイドですから。これからも坊ちゃまは好きなようにしていただいて大丈夫です。ただ、一つ言うなら、今ここで話している坊ちゃまの方が、昨日までの坊ちゃまより数段かっこ良いので、これからもかっこ良い坊ちゃまでいてください」
お世辞で言っているってことは分かってるけど、前世を含め、今までカッコいいなんて言われた事が無かった。だから嫌でも気分が高揚してしまう。
「分かったよ、サーシャ。改めてこれからもよろしく!」
「こちらこそよろしくお願いします、坊ちゃま」
この後、確認のためにもう何回か魔力を感じる訓練をしたあと、アンナが部屋に来た。
いつの間にか夜になっていたらしく、晩御飯ができたから呼びに来たらしい。
◇◆◇◆◇◆
サーシャはアンナの手伝いに行き、僕は今、椅子の上で自分の魔力を意識的に動かそうと頑張っている。
「うーん……。動けー動けー動けー動けー……」
サーシャが言うには、魔力感知が出来たら、次は魔力を動かす魔力操作を会得しなければならないらしい。この2つの技術ができて初めて魔法が使えるとのこと。
だから、晩御飯が出てくるまでの僅かな間でも練習しているのだが……。
「……ダメだ! 全く動く気がせん!」
思わず机に突っ伏してしまう。
「フフフ。苦戦しているようですね。そんなにすぐに出来るものでは無いので焦らなくて大丈夫ですよ」
サーシャの声がしたのでそちらに振り向く。
どうやらサーシャとアンナが今日の晩御飯を運んできたようだ。
「そうですよ。坊ちゃまはまだ魔力感知を習得したばかりらしいじゃないですか。なので、今すぐ魔力を動かせるようにはなりませんよ。魔力操作は魔力感知と違い、荒療治のような方法は無いので気長にやるしかありません」
アンナもそう言いながら、二人は晩御飯と食器を机に並べていく。
「そうなんだ……。魔力感知が簡単に出来たからすぐに出来ると思ってたよ……」
思わぬ事実を聞きショックを受けているとサーシャが、
「ですが坊ちゃまは私の魔力を、私が想定していたよりも敏感に感じ取っていたようなので、魔力感知のレベルは高いと思いますよ。魔力をより鋭敏に感じるほど、魔力操作はしやすくなるので坊ちゃまはすぐに出来るようになると思います」
と言って励ましてくれた。
前世の体には魔力が無かったから、余計に魔力を感じやすいのだろう。
そう考えると魔力操作もすぐにできそうな気がしてくる。
まぁ、そういう気がするだけなので実際にはどうか分からないが……。
◇◆◇◆◇◆
「では、準備ができましたのでどうぞお召し上がり下さい」
そう言われたが、机の上には一人分の食器とご飯しかない。
「あれ? なんで僕の分だけしかないの? 二人の分は?」
当たり前のように思った疑問を口にしたら、サーシャが
「マルロ様とルシア様は現在王都で仕事をなさっているのでまだ帰ってきていません。次にご帰宅なさるのは恐らく一ヶ月後になると思います」
と言った。
えーっと、マルロ様とルシア様って言うのは……あぁ、両親のことか。
って、今聞きたいのはそれじゃなくて、
「いや、父さんと母さんの分じゃなくて、サーシャとアンナの分は?」
そこまで言ったとき、『記憶』の中の自分はずっと一人でご飯を食べていたことを思い出した。
「「……」」
あー……。二人共呆然としちゃった……。
……よし。誤魔化そう!
「えーっと、これからは二人と一緒にご飯食べたいなーって思ってさ。それにまだ聞きたい事もあるし、食べながら話そう!」
この後、渋々とだが何とか二人を丸め込む事に成功し、三人でのディナーと相成った。
◇◆◇◆◇◆
「そういえば、坊ちゃまは先程何か聞きたい事があると仰っておりましたが……」
最後の一口を頬張っていると、サーシャがそんなことを言ってきた。
「あぁ、そうだった。晩御飯が美味しかったからその事をすっかり忘れてたよ」
そう言うと、アンナは途端にニコニコ顔になり、
「ありがとうございます、坊ちゃま!」
と言って、上機嫌に鼻歌を歌いながら食器を片付け始めた。
そんなアンナを横目に、僕はサーシャに聞きたかったことを思い出す。
「えーっと……。あぁ、そうだ。僕がサーシャに聞きたいことは”ないほうけい”というものについてなんだよ。」
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