隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

5話 ダイエットと訓練開始

「別にいいけど、何で?」




「単純にサーシャさんの方が私より魔法が得意だからですよ。それに、私はどちらかというと近接攻撃を主体としているので、内包系の方が得意ですし……」




「待って。その、ないほうけい? って何?」




「えーっとですね……。あ、どうせならこれもサーシャさんに教わってはどうですか? サーシャさんの方が説明が上手ですし」




「わかった。アンナがそう言うならサーシャに教えてもらうよ。サーシャは今何処にいるか知ってる?」




「恐らく洗濯物を干しているかと思います。よければ私がサーシャさんを呼びに行きましょうか?」




「ありがとう。それなら頼むよ」




「承知しました」




 そう言うと、アンナは立ち上がった。
 あ、そうだ。僕からも二人に言いたいことがあったんだった。




「アンナ。サーシャを呼ぶだけじゃなくて、ここに連れてきてくれる? 二人に言いたいことがあるから」




 僕がそう言うとアンナは了承し、サーシャを呼びに言った。




 さてと、少しでも運動するために適当な空き部屋から椅子と机を運んで来るとしますか。
 ……なるべくベッドに座りたくないからね。




◇◆◇◆◇◆




「あー! やっと終わったー! 疲れたー!」




 なんとか一人で机と椅子三脚を運び終えることが出来た。たったこれだけを部屋に運んだだけなのに、服が汗でしっとりしている。
 それに、もう息が切れている。
 この体でこの先、生きていくとか嫌だよ。本当に。絶対痩せよう……。




 とりあえず二人がくるまで椅子に座って休むとするか。




 ……ギシィ




 おい、椅子! お前もか!!
 ベッドよりもギシギシいってるんだけど!? 大丈夫!?




◇◆◇◆◇◆




 休憩しているとドアをコンコンとノックする音が。




「坊ちゃま。サーシャさんを連れてきました」




「アンナか。ありがとう。とりあえず入って」




 そう言うとドアを開けて二人が部屋に入ってきた。
 ……え? 自分で開けないのかって? 
 しんどいんだよ!!




 とりあえず、二人に席に着くように促す。




「椅子と机を持ってきたからそこに座って」




「「……」」




 あれ?二人ともフリーズしている。




「……っは!? お茶の用意をしてきますね!」




 と思ったら、アンナが再起動して早々お茶の用意をしに部屋を出て行った。
 (慌ただしいなー)と思っていたらサーシャがポツリと一言。




「あの寝るか食べるかしかしない坊ちゃまの部屋に、机と椅子が……」




 うん。確かに驚くよね。数年間寝るか食べるかしかしてこなかった人の部屋に、いきなり机と椅子が現れたもんね。しかも『記憶』を見ると邪魔とか言って部屋の外に出させてたもんね。そりゃ驚くわ。




 しかし、今はそんなことはどうでもいい。サーシャにこちらの世界に戻ってきてもらわねば。




「サーシャ、起きてるー? サーシャー! おーい!!」




 だめだこりゃ。反応が返ってこない。
 聴覚がダメなら視覚から攻めよう。と言うことで少し楽になった体でサーシャの下まで行き、目の前で手を振る……いや、振ろうとした。




「……フッ! ……ホッ! ……ハッ! ……ヨッ! 
 ……こなクソ! ……フヌ!」




  クソ! どれだけジャンプしても、サーシャの目の前に手を持っていけないぜ!!
 



 「……ハァ、ハァ、ハァ」




  デブには運動はきついぜ!!




 体が悲鳴を上げてるので、サーシャが再起動するまで床に座って休憩する事にする。もう、椅子まで歩くのさえ辛いんですよ……。
 



  ハァ……。絶対痩せよう……。




 休憩しながらこれからのダイエット計画を練っていると、アンナがお茶の用意を持って戻ってきた。




 「あ、アンナ。おかえり」




「坊ちゃま! そんなところに座ってどうしたのですか!?」




「サーシャをこっちの世界に呼び戻そうとしたんだけど、上手くいかなくてさ。アンナ、代わりにサーシャを起こして」




 僕がそう言って頼むと、アンナは承諾した後すぐにサーシャを再起動させた。
 …………サーシャの目の前で手を振って。クソゥ……。




 そして、二人に席に付くように言って僕も椅子に座る…………ものすんごい慎重に。




 …………。


 

 お? ギシィって言ってない? 言ってないよね? 言ってないね!
 よっしゃ!




 思わずガッツポーズすると




 ギシィ




 オゥマァイガット!!










「坊ちゃま。いかが致しましたか?」




 上げて落とすという精神攻撃をまさかの椅子からくらって落ち込んでいるとサーシャが声をかけてきた。




「いや、何でもないよ」




 無理矢理笑顔を作って誤魔化す。
 いかん。顔が引きつってる。




「それより、さっきの話しの続きをしよう!」




 顔が引きつってるのを誤魔化すために強引に話題を変える。




「先程までの続き、ですか? アンナからは何も聞かされていないのですが……」 




「これは私の口からでなく、坊ちゃま自身の口から聞くべきだと判断しましたので」




 と、言われたので、アンナに言った事と全く同じ事をサーシャにも言う。
 やはり、サーシャもアンナと同様に信じきれていない様子。
 頑張って椅子と机を運んできたからもう少し信じてくれると思ったんだけどなぁ。
 ……え? それくらいで信じるわけがない?
 チクショウ……。




◇◆◇◆◇◆




「それと、これはアンナにも言ってなかったけど、痩せる事にした。だからこれからはお菓子もジュースもいらない」




 二人に言いたかった事を、何てことない風にサラッと言ったのだが、それを聞いた瞬間二人の目がいっぱいに開かれた。




「あの、引きこもりの坊ちゃまが……」




 アンナさん、心の中の声がダダ漏れですよ。




「頭の傷の直し方が不味かったのかしら……」




 サーシャさんもダダ漏れですよ。




 まぁ、そこまで驚く気持ちは分からなくもない。今までの生活スタイルが最悪だったからなぁ……。






 それよりも、本題の魔法の習得方法を教えてもらわねば!




「まぁ、この話は横に置いといて魔法の使い方を教えてよ、サーシャ。前とは違って心機一転したから、今度は面倒臭がらずにやり遂げてみせるよ!」




 しつこいくらい『心機一転した』っていえば無理矢理納得してくれるはず!




「……分かりました」




 この顔は納得して……無さそうだね! 信用無さ過ぎだな!
 まぁ仕方ないか……と割り切ろう。




「あ、じゃあ私はその間、サーシャさんの代わりに洗濯物を干してきますね。 サーシャさん、坊ちゃまの訓練が終わったら声をかけて下さい」




「えぇ。わかったわ」




 そう言ってアンナは洗濯物を干しに行った。




◇◆◇◆◇◆




 サーシャ先生の魔法の使い方講座が始まる。




「まず、魔法が使えるようになるためには大前提として、二つのステップを踏む必要があります。一つ目はーー」




 サーシャの話によると、魔力を知覚する魔力感知と呼ばれる技術と、知覚した魔力を操る魔力操作と呼ばれる技術を習得しなければ、魔法を使えるようにはならないらしい。




「普通ならば、三歳頃から親が子どもの手を握って毎日少しずつ魔力を流していくことで、魔力を感じることが出来るようになるのですが……」




「なるほど。僕はそれをやって来なかったから魔力を感じる事が出来ないと」




「そうでございます。ですが先程言った方法でも、魔力を感じる事が出来ない人も稀にいます。なので、その場合は荒療治で無理矢理魔力感知を会得させます」




 『荒療治』と聞いて、思わず唾をゴクリと飲み込む。




「その、荒療治って……?」




「魔力を体内に流し込みます。それも、大量に」




「……それだけ?」




 荒療治って聞いたから、魔力を感じるまで鞭で叩かれるとか、そういう苦痛が伴う系かと思ってたんだけど。
 少しずつ込めるか一度に沢山込めるかの違いでしょ?
 なんか拍子抜けした。




「えぇ。それだけです」




 すると、サーシャが珍しくニッコリ笑いながらそう言った。
 ……絶対なにか隠してるでしょ!




「……サーシャ、なにか隠してない?」




「いえ、何も」




 目をそらしながら言うなよ。




「そして次の魔力操作ですが、」




「凄い自然に話題をそらすね」




「魔力感知さえ出来れば後はイメージと経験の問題なので、またその時に説明しましょう」




 ……無視かい。








「まぁいいや。じゃあ早速、魔力感知を会得したいから魔力を流してもらっていい?」




 早く魔法を使いたいので、サーシャの協力の下、今から訓練を始めることにする。




「畏まりました」




 そう言ってサーシャは僕の右手を取った……って!?




「うわわわわわわ!! なにこれなにこれ気持ち悪!! うわぁぁぁ!! なんか這い上がってきた!! ちょ、まっ、ムリムリムリムリ!! うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」




 なんか生温かい蛇みたいなのが右手から、皮膚の下を通って、ニュルニュルと這い上がってきた感じと言えば分かるだろうか。
 要するに凄く気持ち悪い、と言うことだ。




「坊ちゃま、いかが致しました?」




 僕の右手を放して、サーシャが満面の笑みでそう聞いてきた。




「サーシャって絶対、人が苦しむ様を見て喜びを感じるタイプだよね?」




「いえ、そんなことありませんよ」




 だから目をそらしながら言うなよ。




「今、坊ちゃまの手から私の魔力を流し込みましたがその様子だと上手く感じ取れたようですね」




 そう言われて、先程の気持ち悪いのと同じ感覚がするものを体内から探してみる。しかし……




「あれ?何も感じないけど?」




「え、本当ですか? おかしいですね……。それならもう一度……」




 そう言いいつつサーシャが左手を出し、笑顔で僕の右手を掴んでくる。




 ヒョイ




 右手を下げてサーシャの手を避ける僕。




 ガシッ




 そのままの手で僕のお腹を掴むサーシャ……って、え?




「うわぁぁぁぁぁぁ!!!! ちょ、まっ、ストップ!! うわぁぁぁぁぁぁ!!ーー




 ーー荒療治中ーー




「どうですか? 坊ちゃま、これで魔力を感じれるようになったのでは?」




 グッタリして椅子に座っている僕に満面の笑みで話かけてくるサーシャ。
 ……その笑顔が眩しいぜ。クソゥ……。




 悔しさを噛みしめながら体の中にあるはずの違和感を探す。しかし……




「ねぇ。やっぱり何も感じないんだけど……」




「え、本当ですか? おかしいわね……。流し込む魔力が少なかったのかしら……?」




 そう言いつつ僕に近づいてくるサーシャ。
 マズい!!




 ガタッ!




 椅子から勢い良く立ち上がり、臨戦態勢に入る僕。




 ヒュッ




 左手で僕の右手を狙ってくるサーシャ。




 ヒョイ




 右手を下げて華麗にサーシャの手を回避する僕。




 スッ




 先程と同じく僕のお腹を狙ってくるサーシャ。
 二度も同じ手は食らわん!!




 パシッ




 その手を左手で払い余裕の笑みを浮かべる僕。




 ヒュン!




 すると今度は、右手で僕の顔を掴みにくるサーシャ。




「ふぉぉぉぉぉぉ!!」




 あぶねぇ!! ギリギリしゃがんで避けれた!!




 ダン!!




 そしてすぐさま鋭く踏み込んで、僕の足を踏むサーシャ……って!?


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!ーー




 ーー荒療治中ーー




「今度こそ魔力を感じ取れるようになりましたか? 坊ちゃま」




 グッタリして床に寝転んでいる僕に、またまた満面の笑みで話かけてくるサーシャ。
 ……太陽のような笑顔だ。クソゥ……。




 まさか手じゃなく足から足を通じて魔力を流し込んでくるなんて……。




 汗をかいたせいで肌に張り付いている服をパタパタして涼みながら、体の中の違和感を探す。しかし……




「ねぇ。やっぱり何も感じないんだけど……」




「本当ですか? おかしいですね……」




 (来るか!?)と思い急いで立ち上がる僕。しかし……




「どういうことでしょうか……? 普通ならもうとっくに魔力感知が出来ていてもおかしくないのですが……」




 今度はサーシャも本当に困惑している様子。




《坊ちゃまはどうやら魔力がない体質のようですね。魔力がないと魔法は使えないので諦めて下さい》とか言われたらどうしよう……。




 サーシャがしばらくの間考え込んでいると……




「はっ!? もしかして!!」




 何か原因が分かったみたい。
 もうこれ以上魔力を流し込むのは勘弁してくれよ……と願いつつサーシャに聞いてみる。




「何か分かったの?」




「えぇ」




 うわ。凄いニヤニヤしてる……。
 嫌な予感が……。




「坊ちゃまはもしかして、苦痛を受けると喜びを感じるタイプなのでは?」




「違うわ!!」




 なんでそうなるかな!? こっちは本気で魔法が使えないかもしれないって思ってたんだけど!? さっきまでのシリアスな雰囲気返して!!




「……え? 違うのですか?」




 いや、本気で落ち込まないで欲しいんですけど!!




「それが違うとなると何が問題なのでしょうか……?」




 再び考え込むサーシャ。
 そこで恐る恐る、先程から頭の中にちらついていた質問をしてみる。




「ねぇ、もしかして僕は、魔力がない体質とかじゃない?」

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