魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

89話 ランクアップ

 翌日。
 ベッドでまたもやリディアがカズトを抱き枕にしていてひと騒動あったものの、それ以外は普通に早朝を過ごした二人。
 彼らは朝ご飯を食べ終えた後、散歩と称して外に出た。


「んー! 爽やかな朝って感じで気持ちがいいね」

「うん。今日はここ最近で一番爽やかな日」

「そうなんだ。ここまでスッキリできる朝は僕も味わったことがないなぁ」


 そう言って全身を伸ばし終えたカズトはスタスタと歩く。
 その隣にリディアが並び、二人は特に目的地を決めずにブラブラする。


「それにしても昨日の宴会は良かったよね。タダで屋台の料理を食べれたし、味も凄くよかったし」

「たしかに料理の種類も味も良かった。だけど一番良かったのはどれだけ大量に頼んでも屋台が潰れないこと。おかげで大好きなオークの焼肉を満足するまで食べられた」

「あー、リディアさんはよく食べるからね」


 リディアが昨日の宴会で店主が倒れる寸前までオークの焼肉を頼んでいたことを思い出したのか苦笑するカズト。
 そうして何気ない話しで盛り上がっていると、彼らは昨日の宴会場にやってきた。


「うわぁ……。これは酷いね……」

「うん。いくら夏が近いからって皆油断しすぎ。これじゃあ風邪をひく人が絶対に出る」


 そこには一晩中酒を飲んでいたのか、酒が入ったカップを持ったままテーブルに突っ伏して眠りこけている冒険者達がたくさんいた。
 辺りには酒の臭いが漂っている。
 彼らは皆顔を赤らめたまま目を瞑っており、すぐに起きないだろうことは明白だ。


「……リディアさん、どうする?」

「このまま放っておいていいと思う。風邪はひくだろうけど死にはしないから大丈夫」

「ま、それもそうか。この人たちを動かせてもどこに運べばいいか分からないもんね」


 そう言って二人はすぐにその場を離れた。
 それから彼らは再び他愛もない話しをしながら拠点の中をブラブラと歩く。
 すると簡易的に建てられた冒険者ギルドが見えてきた。
 冒険者ギルドが簡易的な建物となっているのは、元々この街にあった冒険者ギルドの建物がスタンピードによって壊されたためである。
 それを目にしたカズトが口を開いた。


「そうだ。奪還作戦の報酬、受け取ってないから受け取りに行こうか」

「うん。今回カズト君はかなり頑張っていたからランクが上がるかもしれない」

「そっか。リディアさんと一緒とはいえランクAの魔物を4匹も倒したからねえ」


 二人はそんな話をしながら冒険者ギルドへと足を踏み入れる。
 中は外見同様簡素なものとなっており、依頼書すら張り出されていない。
 すると二人を見つけた受付嬢が声をかけた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。雷霊さんとカズトさんですね。ダンジョン都市奪還作戦の依頼の報酬の受け取りですか?」

「その通りです。よく分かりましたね」

「他の冒険者の方々がやってくる理由のほとんどが同じ理由ですから」


 そう言って受付嬢は慣れた手つきで受付机の下から袋に入った硬貨を取り出した。
 それをカズトとリディアに差し出す。


「こちらが今回の依頼の報酬になります。ご確認ください」

「ありがとうございます」

「ありがとう」


 そう言って二人は報酬の中身を確認し、それを受け取った。
 ちなみに具体的な金額を言うとそれぞれ金貨十枚貰った。
 カズトがこれまで受けてきた依頼の報酬で最高額である。
 ただしこれは奪還作戦の依頼達成分のお金である。
 もし彼らが狩った魔物達の素材を売り払えば、その何倍もの金額を手に入れることが出来ただろう。
 もっとも今の冒険者ギルドは様々な仕事に追われており忙しいため、彼らはまだ売らないことにしているのだが。
 
 カズトはホクホクした顔でそのお金をバッグに仕舞う。
 すると丁度そのタイミングで受付嬢が彼らに話しかけた。


「ところでお二人の冒険者ランクについての話なのですが、今回の奪還作戦において非常に目覚ましい活躍をなさったのでランクアップすることができます。いかがなさいますか?」

「お願いします」


 カズトは即答した。
 それもそのはずで、ランクが高ければ高いほど報酬が良い依頼を受けることができるためだ。
 そうなればこの依頼を受ける前の貧乏な状態になることはまずない。
 だから彼は受付嬢の申し出に一も二もなく頷いたのだ。
 対してリディアは違った。
 受付嬢からの申し出に対して少し悩んだ様子を見せた後、口を開いた。


「私は、ランクアップしない」
「え!? なんで!?」


 カズトと受付嬢はてっきりリディアもランクアップすると思っていたのだろう。
 彼女のその言葉に対して二人は眉を上げて驚いた顔をした。


「奪還作戦では私は殆どカズト君の力になれなかった。怪我をしてばかりでランクAの魔物を倒したのは実質カズト君ただ一人。だからランクアップはしない」

「いやそんなことないよ!? リディアさんがいなければ僕がランクAの魔物を倒すなんて絶対にできなかったよ!」

「それこそそんなことはない。トドメは全てカズト君が行っていたし、そこに至るまでの作戦もあなたが全てやったこと。私はその補助をすることと足を引っ張ることしかしなかった。こんな結果で終わったのにランクアップしてしまうと、いつか身の丈に合わない依頼を受けて死ぬことになる」


 そう言ったリディアの顔には絶対に譲れないという強い意志が表れていた。
 その意志を感じ取ったカズトはそれ以上彼女にランクアップを勧めることを止めた。
 受付所もまたその空気を読んだのだろう。
 タイミング良く口を開いた。


「では今回はカズトさんだけランクアップするということですね。ギルドカードを預からせて頂きます」
「わかりました」


 カズトからギルドカードを受け取った受付嬢は奥に引っ込んでいった。
 そして五分ほどその場で待つと受付嬢が新しくなったギルドカードを持ってやってくる。


「はい、ランクアップおめでとうございます。こちらがカズトさんの新しいギルドカードになります」
「おお! ありがとうございます!」


 そう言ってカズトが渡されたギルドカードは綺麗な赤色をしており、その両面にでかでかとCの文字が刻印されていた。
 もちろん彼の冒険者ランクがCランクであることを示すものである。
 しかし彼のランクに異を唱える者がいた。
 リディアだ。


「カズト君おめでとう。それにしても何故Cランク? カズト君ならAランクの実力は十分にあるし、人格も問題ない。冒険者としての経験が浅いことを考えてもせめてBランクが妥当だと思うけど」

「たしかに当初は雷霊さんの言う通りBランクにするという意見があったようです。それも当然で、今回の作戦においてカズトさんの活躍は非常に目覚しいものだったからですね。しかし議論を重ねた結果、その成果はやはりランクB冒険者である雷霊さんがいたからこそそれだけ大きいことを成し遂げることができたのではないか、と上層部は判断したそうです」

「だからカズト君はCランクだと?」

「はい。ご不満がおありですか?」

「ある。瀕死の重賞を負った私をたった一日で完全に回復してくれたり、さっきも言ったようにランクAの魔物を倒してみせた。マシンガンビートルなんて一撃だった。それなのにCランクはさすがにおかしい」

「それらについての報告も当然届いております。しかし我々の上層部はそれらが本当なのかどうか正直判断しかねているようなのです。雷霊さんの瀕死の重傷を治したというのはカルロスさんやダニーさんの報告からも信憑性が高いと判断していますが、それ以外のランクAの魔物にトドメを刺したという報告はハッキリ言いますと疑っております。ランクAの魔物の息を止めれるだけの威力がある魔法など聞いたこともありませんし、ギルドでもそのような魔法や、それだけの強力な魔法を行使できるほどの魔法士の情報は一切ありませんから」

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