魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
63話 マーレジャイアント(2)
マーレジャイアントが拳を振り上げ、そして振り下ろそうとする。
その瞬間カズトはマーレジャイアントが拳を後ろに溜めた時を狙って魔法を発動した。
(摩擦力は摩擦係数とその物体の重さに対する垂直効力の積だ。そしてその摩擦係数をへらしてやれば、摩擦力は少なくなる。だからマーレジャイアントの足下の地面の摩擦係数を激減してやれば、その地面は氷の上よりも更に滑りやすくなる!)
パチン!
マーレジャイアントは後ろに溜めていた拳をカズトに向かって勢い良く突き出す。
しかしその直後、カズトの魔法によって地面の摩擦係数が激減したことにより、マーレジャイアントは足を滑らせて顔から地面に突っ込んだ。
「オオオオオオオオ!?」
だがマーレジャイアントはとっさに地面に手をついて顔が地面に衝突するのをギリギリで防ぐ。
しかしその隙をついてあらかじめマーレジャイアントが倒れる場所のそばにいたリディアがそいつに駆け寄り飛び上がる。
「ふっ」
彼女は空中を飛んだ勢いそのままに、マーレジャイアントのうなじにある頸椎を狙って両槍を勢い良く突き出した。
ズプリ、と刀身の根元まで深く突き刺さる。
そこから更にリディアは両槍に魔力を流し、雷をマーレジャイアントの体内に流し込んだ。
「オオオオオアアアアアア!?」
マーレジャイアントが叫びながら、ビクンビクンと体を痙攣させる。
あまりにもマーレジャイアントの体が大きいためか何度も地面が揺れる。
そしてそれ以上に揺れの強い巨体の上にいたリディアはバランスを取りきれずに地面に落下した。
「リディアさん!」
「大丈夫」
リディアが落下する様を見ていたカズトは咄嗟に叫ぶが、彼女程の実力があれば空中で体勢を整えるのは簡単だ。
両手に槍を持ったまま、地面に手を着かずに綺麗に着地した。
それを見たカズトはホッと胸をなで下ろす。
「マーレジャイアントは」
「あまり効いてないみたい。予想以上にタフだよ」
「ランクAだからタフなのは当たり前。むしろこれまで一回しか攻撃されてないこと自体が幸運」
頸椎に槍を二本刺され、さらには電流まで流されたはずのマーレジャイアントは、それでもゆっくりと起き上がる。
その顔には怒りの表情が現れているものの、この作戦の狙いである頸椎損傷による麻痺といった症状には至っていない。
それもそのはずで、リディアが言う通りこれだけ弱点を突いても倒れないタフさを持っているのがランクAの魔物がランクAである所以である。
そのため一回二回攻撃したからといって大ダメージを与えれると思ったら大間違いだ。
むしろカズトが一瞬で聴覚を奪ったことが異常なのだ。
カズトとリディアは地面から起き上がりつつあるマーレジャイアントを見ながら早口で話し合う。
「それじゃあこれまで立てた作戦の殆どが意味ないかもしれない」
「そんなことない。攻撃を加え続けてたらいつか倒せる。それにカズト君の魔法のおかげで戦いやすい。だから絶対に倒せる」
「そう言ってくれると嬉しいよ。でもマーレジャイアントも簡単には倒されてくれないみたいだよ」
「オオオオオオオオ!」
カズトとリディアが話し合っている目の前で、憤怒の形相をしているマーレジャイアントは彼らに向かって吠える。
するとその声に呼応するように小さな水の塊がマーレジャイアントの口の前に出現した。それが徐々に大きくなっていく。
「リディアさん、あれ何? 集めた情報にはあんなことするって無かったよね?」
「無かった。でもそういうのはよくあること」
「そうなんだ。ならできるだけ僕の近くに来て。結界張るから」
「分かった」
リディアはカズトの言葉に従い彼の横に立つ。
そしてカズトは陸亀守護獣の指輪に魔力を注いでいく。
すると彼らの周りに半透明の壁が生成され、それが時間と共に厚さを増していく。
そうしてわずかな時間、両者の間にピリピリとした緊張感が生まれ、周りの騒音以外の音が無くなった。
するといち早くマーレジャイアントの動きを読んだリディアが口を開く。
「カズト君、来る」
「大丈夫」
リディアの言葉に即座にそう答えるカズト。
直後、マーレジャイアントが動いた。
「オアアアアアアアアアア!」
マーレジャイアントが自分の顔よりもなお大きくした水球に向かって吠えた。
その瞬間、カズト達に向かって水球から極太の水柱が発射され、彼らを守っている結界に勢い良く激突した。
「ハイドロポンプ!?」
「なにそれ?」
「あ、いや、なんでもないです」
カズトがマーレジャイアントのその攻撃を昔見た懐かしのアニメの技と重ねてついそう叫ぶ。
だがその声をかき消す勢いで水柱は彼らの結界を中心として後方に向かって二手に分かれ、建物を次々と粉砕していく。
「うわぁ、よくこんな威力のあるハイドロポンプを受け止めきれたな」
「さすが陸亀守護獣の指輪。普通の結界を生み出すマジックアイテムより遥かに頑丈。それでハイドロポンプって何?」
「えっと、あの攻撃の名前? 僕が勝手につけただけだけど」
やがてマーレジャイアントの水柱攻撃が終わり、カズトが結界を解いた。
すると彼らがまだ生きていることを確認したマーレジャイアントが今度は天に向かって吠える。
そして先ほどと同じ様に口の前に水の球を生み出した。
「オオオオオオオオ!」
「うるさ!」
「そんなこと言ってる場合じゃない。またハイドロポンプがくる」
「あ、ホントだ。ってあれ? さっきとなんか違う」
マーレジャイアントは先ほどと同じ様に水の球を生み出したが、大きくしたそれを今度は身体全体に纏わせ始めた。
すると不定形で流動体であるはずの水が徐々に形作られていく。
「ねぇ、リディアさん。あれも集めた情報には無かったと思うけど、なんだと思う?」
「どこからどう見ても水の鎧」
リディアの言う通り、マーレジャイアントが全身に纏わせた水は鎧のような形に変化した。
だがそれだけでは終わらず、水の鎧の腕部分が不自然に伸びる。
そしてその伸びた分の水がまた別の形に変形した。
「今度は水の剣か」
「それも二本。厄介」
最終的にマーレジャイアントは水の全身鎧を纏った二刀流の剣士のような格好になる。
しかしリディアはマーレジャイアントのその姿を見て、カズトの前に出た。
そして左手の疾雷の槍を構える。
「だけど逆に電気に弱くなった」
そう言うと同時にリディアは疾雷の槍に魔力を流し、マーレジャイアントに向かって雷を放つ。
しかし。
「うそ……。効いてない……?」
「どうやらそうみたいだね」
リディアの雷をその鎧に受けたマーレジャイアントは、ビクともしていない。
普通なら雷がその鎧に当たった瞬間、マーレジャイアントの全身に雷が走る筈なのに、だ。
そして雷を受けても全く効かないなんてことは、先ほどリディアがマーレジャイアントの頸椎から電流を流したときの反応から考えるに、ありえない。
雷霊の二つ名の基である得意の雷攻撃がマーレジャイアントに通じず、少なからず動揺を見せるリディア。
だがそんなリディアの疑問が解決される前にマーレジャイアントが動いた。
その瞬間カズトはマーレジャイアントが拳を後ろに溜めた時を狙って魔法を発動した。
(摩擦力は摩擦係数とその物体の重さに対する垂直効力の積だ。そしてその摩擦係数をへらしてやれば、摩擦力は少なくなる。だからマーレジャイアントの足下の地面の摩擦係数を激減してやれば、その地面は氷の上よりも更に滑りやすくなる!)
パチン!
マーレジャイアントは後ろに溜めていた拳をカズトに向かって勢い良く突き出す。
しかしその直後、カズトの魔法によって地面の摩擦係数が激減したことにより、マーレジャイアントは足を滑らせて顔から地面に突っ込んだ。
「オオオオオオオオ!?」
だがマーレジャイアントはとっさに地面に手をついて顔が地面に衝突するのをギリギリで防ぐ。
しかしその隙をついてあらかじめマーレジャイアントが倒れる場所のそばにいたリディアがそいつに駆け寄り飛び上がる。
「ふっ」
彼女は空中を飛んだ勢いそのままに、マーレジャイアントのうなじにある頸椎を狙って両槍を勢い良く突き出した。
ズプリ、と刀身の根元まで深く突き刺さる。
そこから更にリディアは両槍に魔力を流し、雷をマーレジャイアントの体内に流し込んだ。
「オオオオオアアアアアア!?」
マーレジャイアントが叫びながら、ビクンビクンと体を痙攣させる。
あまりにもマーレジャイアントの体が大きいためか何度も地面が揺れる。
そしてそれ以上に揺れの強い巨体の上にいたリディアはバランスを取りきれずに地面に落下した。
「リディアさん!」
「大丈夫」
リディアが落下する様を見ていたカズトは咄嗟に叫ぶが、彼女程の実力があれば空中で体勢を整えるのは簡単だ。
両手に槍を持ったまま、地面に手を着かずに綺麗に着地した。
それを見たカズトはホッと胸をなで下ろす。
「マーレジャイアントは」
「あまり効いてないみたい。予想以上にタフだよ」
「ランクAだからタフなのは当たり前。むしろこれまで一回しか攻撃されてないこと自体が幸運」
頸椎に槍を二本刺され、さらには電流まで流されたはずのマーレジャイアントは、それでもゆっくりと起き上がる。
その顔には怒りの表情が現れているものの、この作戦の狙いである頸椎損傷による麻痺といった症状には至っていない。
それもそのはずで、リディアが言う通りこれだけ弱点を突いても倒れないタフさを持っているのがランクAの魔物がランクAである所以である。
そのため一回二回攻撃したからといって大ダメージを与えれると思ったら大間違いだ。
むしろカズトが一瞬で聴覚を奪ったことが異常なのだ。
カズトとリディアは地面から起き上がりつつあるマーレジャイアントを見ながら早口で話し合う。
「それじゃあこれまで立てた作戦の殆どが意味ないかもしれない」
「そんなことない。攻撃を加え続けてたらいつか倒せる。それにカズト君の魔法のおかげで戦いやすい。だから絶対に倒せる」
「そう言ってくれると嬉しいよ。でもマーレジャイアントも簡単には倒されてくれないみたいだよ」
「オオオオオオオオ!」
カズトとリディアが話し合っている目の前で、憤怒の形相をしているマーレジャイアントは彼らに向かって吠える。
するとその声に呼応するように小さな水の塊がマーレジャイアントの口の前に出現した。それが徐々に大きくなっていく。
「リディアさん、あれ何? 集めた情報にはあんなことするって無かったよね?」
「無かった。でもそういうのはよくあること」
「そうなんだ。ならできるだけ僕の近くに来て。結界張るから」
「分かった」
リディアはカズトの言葉に従い彼の横に立つ。
そしてカズトは陸亀守護獣の指輪に魔力を注いでいく。
すると彼らの周りに半透明の壁が生成され、それが時間と共に厚さを増していく。
そうしてわずかな時間、両者の間にピリピリとした緊張感が生まれ、周りの騒音以外の音が無くなった。
するといち早くマーレジャイアントの動きを読んだリディアが口を開く。
「カズト君、来る」
「大丈夫」
リディアの言葉に即座にそう答えるカズト。
直後、マーレジャイアントが動いた。
「オアアアアアアアアアア!」
マーレジャイアントが自分の顔よりもなお大きくした水球に向かって吠えた。
その瞬間、カズト達に向かって水球から極太の水柱が発射され、彼らを守っている結界に勢い良く激突した。
「ハイドロポンプ!?」
「なにそれ?」
「あ、いや、なんでもないです」
カズトがマーレジャイアントのその攻撃を昔見た懐かしのアニメの技と重ねてついそう叫ぶ。
だがその声をかき消す勢いで水柱は彼らの結界を中心として後方に向かって二手に分かれ、建物を次々と粉砕していく。
「うわぁ、よくこんな威力のあるハイドロポンプを受け止めきれたな」
「さすが陸亀守護獣の指輪。普通の結界を生み出すマジックアイテムより遥かに頑丈。それでハイドロポンプって何?」
「えっと、あの攻撃の名前? 僕が勝手につけただけだけど」
やがてマーレジャイアントの水柱攻撃が終わり、カズトが結界を解いた。
すると彼らがまだ生きていることを確認したマーレジャイアントが今度は天に向かって吠える。
そして先ほどと同じ様に口の前に水の球を生み出した。
「オオオオオオオオ!」
「うるさ!」
「そんなこと言ってる場合じゃない。またハイドロポンプがくる」
「あ、ホントだ。ってあれ? さっきとなんか違う」
マーレジャイアントは先ほどと同じ様に水の球を生み出したが、大きくしたそれを今度は身体全体に纏わせ始めた。
すると不定形で流動体であるはずの水が徐々に形作られていく。
「ねぇ、リディアさん。あれも集めた情報には無かったと思うけど、なんだと思う?」
「どこからどう見ても水の鎧」
リディアの言う通り、マーレジャイアントが全身に纏わせた水は鎧のような形に変化した。
だがそれだけでは終わらず、水の鎧の腕部分が不自然に伸びる。
そしてその伸びた分の水がまた別の形に変形した。
「今度は水の剣か」
「それも二本。厄介」
最終的にマーレジャイアントは水の全身鎧を纏った二刀流の剣士のような格好になる。
しかしリディアはマーレジャイアントのその姿を見て、カズトの前に出た。
そして左手の疾雷の槍を構える。
「だけど逆に電気に弱くなった」
そう言うと同時にリディアは疾雷の槍に魔力を流し、マーレジャイアントに向かって雷を放つ。
しかし。
「うそ……。効いてない……?」
「どうやらそうみたいだね」
リディアの雷をその鎧に受けたマーレジャイアントは、ビクともしていない。
普通なら雷がその鎧に当たった瞬間、マーレジャイアントの全身に雷が走る筈なのに、だ。
そして雷を受けても全く効かないなんてことは、先ほどリディアがマーレジャイアントの頸椎から電流を流したときの反応から考えるに、ありえない。
雷霊の二つ名の基である得意の雷攻撃がマーレジャイアントに通じず、少なからず動揺を見せるリディア。
だがそんなリディアの疑問が解決される前にマーレジャイアントが動いた。
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