魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

62話 マーレジャイアント

 野営場所を出発してから約一時間が経過した頃、ようやく一行はダンジョン都市の南門に到着した。


「ここからは低ランク魔物だけじゃなくて高ランク魔物も出る! 気張れよ!」
『おう!』


 カルロスが率先して冒険者と騎士達を鼓舞し、ダンジョン都市の中に入っていく。
 すると中にはコームアントやノーブルアントといった低ランクの魔物だけではなく、巨大な羽アリの様相をしたランクDのフライアントや顎が剣のようになっているランクCのナイトアントが蠢いている。
 しかしカルロスとそのパーティーである暴風の宴を中心に、それらの魔物達はまるで紙切れの如く散らされていく。


「ふっ。僕達も負けていられないね! いくよ、皆!」
「ああ!」
「もちろんよ!」


 すると怒濤の勢いで魔物達を殲滅していく暴風の宴を見て、ダニーと彼のパーティーである大地の目覚めも対抗心を燃やして目を見張るような速度で魔物達を殲滅していく。
 カズトはその様を少し離れた所から見ており、隣にいるリディアに向かって思わず話しかけた。


「……凄いね。あれがランクAパーティーか」
「確かに凄い。けどあの人達の本気はこんなものじゃない」
「え? そうなの?」
「うん。今はまだウォーミングアップ程度の実力しか出していない。あの人達が本気を出せば周りにいる人達も巻き込んでしまうから」
「そ、そうなんだ。あれでウォーミングアップ程度か……」


 そう言う彼らの目の前ではカルロスやダニー達の手によって、ランクDやランクCといった高ランクの魔物達が次々と死んでいく。
 さすがにランクBの魔物は手間取るのではないかと予想したカズトだが、カルロスがふん! と気合いを入れて振り下ろした斧によってその魔物は真っ二つになった。


「わーお、一撃ですか。ちなみにリディアさんならあんな風に無双できる?」
「ランクC以下の魔物達ばかりなら可能。だけどランクBの魔物なら一対一じゃないとキツい」
「そっか。それなら明日は僕のフォロー次第では……」
「戦線が崩れる。でもそうならないように頑張るし、対策も建ててきた。心配ない」
「頼もしいね。僕も頑張るよ」


 カルロス達の戦いぶりを見ながら二人はそう言って覚悟を新たにする。
 するとその時、大きな建物の影から紺色の肌をした四つ目の巨人がのっそりと出てきた。
 マーレジャイアントだ。


「オオオオオオオオ!」
「マーレジャイアントだ! 離れろ! やつと雷霊達の戦いに魔物を介入させるな!」
「ここから離れて! そして戦いに巻き込まれないようにしつつ、魔物達を倒すんだ!」


 マーレジャイアントが雄叫びを上げたと同時にカルロスとダニーは声を張り上げ、同じ内容の命令をそれぞれ口にした。
 するとその声を聞いた冒険者と騎士達は魔物を倒しながらすぐさまその場から離れる。
 そしてそれを確認したカズトとリディアは、たった今人がいなく多なった場所に立つ。


「それじゃあ作戦通りに行こうか」
「わかってる。ふっ!」


 リディアは亜空の腕輪からマジックアイテムである槍を二本取り出しすぐさま装備。
 そしてその内左手に持った疾雷の槍に魔力を流して、そこからマーレジャイアントの口内に向けて雷を発生させた。


 パチン!


 そこにカズトが続けて魔法で青い炎を稲妻のように走らせて同じ場所に突っ込ませる。
 するとどうなるか。
 雷によってマーレジャイアントの口内の水分が電気分解を起こして水素と酸素に分かれ、そこに炎を突っ込ませたのだ。
 結果、水素爆発が起こり、耳をつんざくような轟音が鳴り響く。


「オオオオオオオオ!?」


 突然口内に電気が走り、続けて爆発したものだから、マーレジャイアントはその衝撃によって上体を後ろに逸らしてバランスを崩した。
 しかし足を後ろに移動させて踏みとどまる。
 だが、その動きを読んでいたカズトとリディアは既に次の場所に移動していた。
 カズトはやや離れた場所に。
 リディアはマーレジャイアントが踏みとどまった足下にいる。
 そしてリディアはその場所から真っ直ぐ上に飛び上がり、マーレジャイアントの全体重が乗っている足の膝裏目掛けて両手の槍を勢い良く叩きつけた。


「はっ!」
「オオオオオオオオ!?」


 その瞬間、マーレジャイアントはその衝撃にされるがままに膝を曲げ、背中から地面に向かって倒れる。
 そしてその頭のすぐ近くにはカズトが立っている。
 彼はあらかじめマーレジャイアントが倒れた時に頭がくる場所に移動していたのだ。
 すると彼は指を鳴らして魔法を発動させる。


 パチン!


「ガアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「おっと」


 マーレジャイアントの両耳から凄まじい爆音とともに火が吹き出る。
 カズトはマーレジャイアントの両耳の中に水素と酸素を集めて水素爆発を起こしたのだ。
 あまりにもマーレジャイアントの耳がでかいため、カズトが予想していた以上に爆発の規模はでかいものとなったが、それによってマーレジャイアントの鼓膜が破れ、聴覚を奪うことに成功した。
 マーレジャイアントは未知の苦痛に苛まれ、顔を歪める。


 だが、それだけだ。


「オオオオオオオオ!」
「やば!」


 すぐさまマーレジャイアントは起き上がり、頭の横にいたカズトに向かって怒りを込めた拳を突き出した。


「カズト君!」


 回避は間に合わない。
 刹那の間にそう判断したリディアは、それでもすぐに疾駆の革靴に魔力を流してカズトの下に向かおうとする。
 しかし二人に良いようにされていたマーレジャイアントだが、その実態はランクAの魔物だ。
 その拳の速さはその巨体に似合わず、リディアが走る速度を何倍も上回る速度で繰り出された。
 轟音という言葉でさえ生ぬるく感じる、物理的な圧力を伴った音が辺りに響き渡る。


「カズト君!?」


 その音に混じってリディアの悲痛な声がした。
 だがマーレジャイアントの拳は地面に半分程埋もれているため、カズトの生存は絶望的だ。
 それを悟ったリディアの体から悲しみが、怒りが、憎しみが一気に溢れ出る。
 しかし。


「おー! この指輪って自動防御するときは必要な分の魔力を強制的に吸い出してくれるのか! 便利だな!」
「え? あれ? カズト君?」


 マーレジャイアントが拳を地面に打ちつけたことによって土煙がもうもう立ち込める中、カズトの声がリディアの耳に届いた。
 カズトは死んでしまったものだと思っていたリディアが困惑していると、パチン! という指を鳴らした音が鳴り、直後に突風が吹く。
 それによって土煙が飛んでいき、そこから陸亀守護獣の指輪が生み出した結界に守られているカズトの姿が現れた。
 カズトは近くに来ていたリディアに気づき、ばつの悪い顔を浮かべる。


「あ、リディアさん。ごめんなさい。作戦は失敗しちゃった。僕らと同じ人型だからその位置は合ってると思うんだけど、思っていたより三半規管の場所が深いか、丈夫だったみたいで……」


 カズト達の作戦はマーレジャイアントを素早く地面に倒してから、カズトの魔法で三半規管にダメージを与えるというものだった。
 しかし耳の中を爆発してもマーレジャイアントが立ち上がったことを見るに、三半規管にダメージを与えることはできなかったようだ。
 リディアはカズトが生きていることを確認してホッと安堵すると、再びマーレジャイアントに注意を向ける。


「カズト君が無事なら大丈夫。なんとか器官を壊せなくても倒す方法はいくらでもある」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「次はどうする」
「作戦3で!」
「了解」


 二人はそう言葉を交わして次の行動に出た。

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