魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
60話 一日目の夜
「ここが私たちの野営場所」
「ここかぁ。結構広いね」
リディアとカズトはブランドンから割り当てられた野営場所にやってきた。
そこは周りの冒険者や騎士達の野営場所と比べると広い。
それだけでなく、すぐに焚き火ができるように既に薪が組まれている。
いかにブランドン達が今回の作戦でカズトとリディアを重要視しているのか分かると言うものだ。
もっともブランドンはそれだけでなく王家の紋章が彫られた懐中時計を持つカズトの事を意識して、なるべく不満の無いような場所を割り当てたのだが。
そんなことを知らないカズトは一つ指を鳴らして薪に火をつける。
そしてバッグの中に手を突っ込んでゴソゴソとし、そこから干し肉と小さな鍋を取り出した。
するとそれを見たリディアがカズトに声をかける。
「カズト君、もしかしてそれって晩御飯?」
「うん。そうだけど」
「干し肉はダメ。そんなんじゃ力は出ない。私のを分けてあげる」
リディアはそう言うと、亜空の腕輪からサンドイッチやスープなど様々な料理を取り出した。
そしてそれらを皿により分け、カズトに差し出す。
「僕がもらってもいいの? ありがたいけど、リディアさんの食べる分が少なくなるよ」
「大丈夫。普段から料理は大量に買い溜めしてるから。腕輪の中にはまだまだ多くの料理が残ってる」
「そうなんだ。それじゃあ遠慮なく頂きます」
カズトはリディアからサンドイッチが置かれた皿を受け取ると食べ始める。
そうしてサンドイッチを食べていると、彼は干し肉だけの晩御飯とサンドイッチやスープなどの豪華な晩御飯を比べて、しみじみとした様子で呟いた。
「相変わらず亜空の腕輪って便利だねぇ」
「うん。でもダンジョン都市を奪還できたらトニトルスジラフドラゴンを倒すまで亜空の腕輪を探すのを手伝う」
「え? いいの?」
「どのみち魔物を倒して強くならなくちゃいけないから。そのついで。けど見つかる可能性は低いと思っていた方が良い」
「そっか。わかった、ありがとうね」
そんな風に二人は晩御飯を食べながら焚き火を囲んで和やかに話す。
そしてやがて彼らは晩御飯を食べ終えると寝るための準備を始めた。
カズトはバッグからマールの街の市場で買った寝袋を取り出し、それを地面に広げる。
するとそれを見たリディアがまたもや彼に話しかけた。
「カズト君は寝袋?」
「うん、そうだけど。って、リディアさんなにそれ?」
リディアに話しかけられて彼女の方に振り向くカズト。
すると彼の目に入ってきたのは側面に取ってがついた直方体の箱だった。
「これは亜空の大箱。見た目以上に中にたくさんの物を収納できる。だけど腕輪は中に入れないのに対して、この大箱には入ることができる。こんな風に」
そう言うとリディアは大箱の取ってを掴んで手前に引く。
すると大箱の側面がまるで扉のように開いた。
その中を見たカズトは目を丸くして驚く。
「うわぁ。これって……」
「これも大箱の利点。中に入ることができるから、こうやって家具をおいて簡易的な家代わりにする事ができる」
そうしてリディアが見せた亜空の大箱の中にはソファーや椅子、ベッドなどの家具が並んでいる。
まさに彼女の言う通り、これは簡易的な家である。
「すごいね……。これなら野宿するのも楽だし疲れも溜まらなさそうだ」
「その通り。だからカズト君も今日はここで泊まっていくと良い」
「え? リディアさんはどこで寝るの?」
「私もここで寝る」
「……はい?」
リディアのその言葉を聞いて、カズトの思考が停止した。
そして一泊遅れて彼女の言っている意味を理解すると、一度深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
「すぅ……はぁ……。よし。リディアさん、ちょっと待とうか」
「何?」
「いや、首を傾げてそんなことを聞かれても困るんだけど……。どう考えても一つの部屋で男女が夜を共にするのはまずいでしょ」
「何で?」
「何でって、えっと……」
カズトがそう言うも、リディアは彼が言っている意味が分からないのかそう聞き返すのみ。
そのためカズトはどう説明したものかと考えを巡らせる。
しかしこの場合、正しいのはリディアであってカズトではない。
というのもカズトは魔法士であり、翌日にはランクAの魔物であるマーレジャイアントとの戦いが控えている。
そして魔法は精神的な影響をもろに受ける。
そのためリディアはカズトが疲れを残さず翌日の戦いで魔法が十全に使えるようにと配慮して、そのような申し出を彼にしたのだ。
しかしカズトはそのことまで考えに至らないまま、考えていることを三重にしたオブラートに包んで説明した。
するとそれを理解したリディアはみるみるうちに顔を赤くしだす。
「わ、わわわ私、そんなつもりじゃ」
「う、うん。それはよかった」
あまりにもリディアが顔を赤くして慌てるものだから、カズトにも恥ずかしさがこみ上げてくる。
するとリディアは誤解を解こうと自分が何故このような申し出をしたのかどもりながらも説明を始めた。
「わ、私は単にカズト君がぐっすり寝れるようにと思っただけ。寝袋だとよく眠れないから。それに疲れを残したままマーレジャイアントと戦うなんて言語道断。だからカズト君にもここで寝て貰おうと……」
「ごめん!」
リディアが顔を赤くしながらそこまで説明したとき、カズトは彼女がどういう思いでそんな申し出をしてきたのかを理解した。
即座に頭を下げて謝るカズト。
「僕のことを思ってその申し出をしてくれていたことに全く気づかなかった。それなのに僕は……。本当にごめん!」
「い、いやカズト君は謝らなくていい。私がきちんと説明しなかったのが悪い。たしかにあの言い方だったら勘違いされても仕方がなかった。こちらこそごめん」
二人は互いに頭を下げて謝りあう。
そしてお互い頭を上げると、二人はどことなく恥ずかしそうな顔をして目をそらす。
「と、とにかくカズト君はここで泊まっていくと良い。明日はマーレジャイアントと戦うから。いくら対策していても疲れが残ってたら負ける可能性だってある」
「た、たしかにそうだね。それならリディアさんのお言葉に甘えて今夜はここで寝させてもらうよ。晩御飯をご馳走してもらったことといい、色々と迷惑をかけてごめんね」
「気にしなくていい。私達はパーティーだから支え合うのは当たり前」
「そう言ってくれるよ助かるよ。それじゃあ寝ようか。明日は早いし」
「うん」
そう言って二人は寝る準備を始めた。
カズトは一旦大箱から出て外の焚き火を消し、寝袋をバッグにしまう。
対してリディアは早々にベッドの中に入った。
カズトが大箱の中に戻るとベッドには既にリディアが寝ころんでいる。
そこから少し離れた場所の床にカズトは寝袋を敷き始めた。
するとベッドの中に入っていたリディアがそれに気づいた。
「カズト君、何してるの?」
「え、寝る準備だけど」
「そんなところで寝ずにここで寝れば良い」
「えっと……」
そう言ってリディアは自分の隣をポンポンと叩く。
するとカズトはどうしたものかと答えに窮し、リディアもまた自分が言った言葉の意味を客観的に考える。
そして一気に顔を赤くする二人。
「ち、ちち違う! これは、その……」
「そ、そうだよね! 変な意味なんかないよね! 僕のためを思って言ってくれたんだよね!」
「そ、そう! カズト君のためだから! 変な意味じゃないから!」
そうして二人は再び顔を赤くする。
だがそれでもさすがに同じベッドで寝るのはダメだとカズトがリディアに訴えたが、それで死んでしまったら洒落にならないとリディアに言われ、カズトは顔を赤らめながらも仕方なく彼女と同じベッドに入った。
「ここかぁ。結構広いね」
リディアとカズトはブランドンから割り当てられた野営場所にやってきた。
そこは周りの冒険者や騎士達の野営場所と比べると広い。
それだけでなく、すぐに焚き火ができるように既に薪が組まれている。
いかにブランドン達が今回の作戦でカズトとリディアを重要視しているのか分かると言うものだ。
もっともブランドンはそれだけでなく王家の紋章が彫られた懐中時計を持つカズトの事を意識して、なるべく不満の無いような場所を割り当てたのだが。
そんなことを知らないカズトは一つ指を鳴らして薪に火をつける。
そしてバッグの中に手を突っ込んでゴソゴソとし、そこから干し肉と小さな鍋を取り出した。
するとそれを見たリディアがカズトに声をかける。
「カズト君、もしかしてそれって晩御飯?」
「うん。そうだけど」
「干し肉はダメ。そんなんじゃ力は出ない。私のを分けてあげる」
リディアはそう言うと、亜空の腕輪からサンドイッチやスープなど様々な料理を取り出した。
そしてそれらを皿により分け、カズトに差し出す。
「僕がもらってもいいの? ありがたいけど、リディアさんの食べる分が少なくなるよ」
「大丈夫。普段から料理は大量に買い溜めしてるから。腕輪の中にはまだまだ多くの料理が残ってる」
「そうなんだ。それじゃあ遠慮なく頂きます」
カズトはリディアからサンドイッチが置かれた皿を受け取ると食べ始める。
そうしてサンドイッチを食べていると、彼は干し肉だけの晩御飯とサンドイッチやスープなどの豪華な晩御飯を比べて、しみじみとした様子で呟いた。
「相変わらず亜空の腕輪って便利だねぇ」
「うん。でもダンジョン都市を奪還できたらトニトルスジラフドラゴンを倒すまで亜空の腕輪を探すのを手伝う」
「え? いいの?」
「どのみち魔物を倒して強くならなくちゃいけないから。そのついで。けど見つかる可能性は低いと思っていた方が良い」
「そっか。わかった、ありがとうね」
そんな風に二人は晩御飯を食べながら焚き火を囲んで和やかに話す。
そしてやがて彼らは晩御飯を食べ終えると寝るための準備を始めた。
カズトはバッグからマールの街の市場で買った寝袋を取り出し、それを地面に広げる。
するとそれを見たリディアがまたもや彼に話しかけた。
「カズト君は寝袋?」
「うん、そうだけど。って、リディアさんなにそれ?」
リディアに話しかけられて彼女の方に振り向くカズト。
すると彼の目に入ってきたのは側面に取ってがついた直方体の箱だった。
「これは亜空の大箱。見た目以上に中にたくさんの物を収納できる。だけど腕輪は中に入れないのに対して、この大箱には入ることができる。こんな風に」
そう言うとリディアは大箱の取ってを掴んで手前に引く。
すると大箱の側面がまるで扉のように開いた。
その中を見たカズトは目を丸くして驚く。
「うわぁ。これって……」
「これも大箱の利点。中に入ることができるから、こうやって家具をおいて簡易的な家代わりにする事ができる」
そうしてリディアが見せた亜空の大箱の中にはソファーや椅子、ベッドなどの家具が並んでいる。
まさに彼女の言う通り、これは簡易的な家である。
「すごいね……。これなら野宿するのも楽だし疲れも溜まらなさそうだ」
「その通り。だからカズト君も今日はここで泊まっていくと良い」
「え? リディアさんはどこで寝るの?」
「私もここで寝る」
「……はい?」
リディアのその言葉を聞いて、カズトの思考が停止した。
そして一泊遅れて彼女の言っている意味を理解すると、一度深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
「すぅ……はぁ……。よし。リディアさん、ちょっと待とうか」
「何?」
「いや、首を傾げてそんなことを聞かれても困るんだけど……。どう考えても一つの部屋で男女が夜を共にするのはまずいでしょ」
「何で?」
「何でって、えっと……」
カズトがそう言うも、リディアは彼が言っている意味が分からないのかそう聞き返すのみ。
そのためカズトはどう説明したものかと考えを巡らせる。
しかしこの場合、正しいのはリディアであってカズトではない。
というのもカズトは魔法士であり、翌日にはランクAの魔物であるマーレジャイアントとの戦いが控えている。
そして魔法は精神的な影響をもろに受ける。
そのためリディアはカズトが疲れを残さず翌日の戦いで魔法が十全に使えるようにと配慮して、そのような申し出を彼にしたのだ。
しかしカズトはそのことまで考えに至らないまま、考えていることを三重にしたオブラートに包んで説明した。
するとそれを理解したリディアはみるみるうちに顔を赤くしだす。
「わ、わわわ私、そんなつもりじゃ」
「う、うん。それはよかった」
あまりにもリディアが顔を赤くして慌てるものだから、カズトにも恥ずかしさがこみ上げてくる。
するとリディアは誤解を解こうと自分が何故このような申し出をしたのかどもりながらも説明を始めた。
「わ、私は単にカズト君がぐっすり寝れるようにと思っただけ。寝袋だとよく眠れないから。それに疲れを残したままマーレジャイアントと戦うなんて言語道断。だからカズト君にもここで寝て貰おうと……」
「ごめん!」
リディアが顔を赤くしながらそこまで説明したとき、カズトは彼女がどういう思いでそんな申し出をしてきたのかを理解した。
即座に頭を下げて謝るカズト。
「僕のことを思ってその申し出をしてくれていたことに全く気づかなかった。それなのに僕は……。本当にごめん!」
「い、いやカズト君は謝らなくていい。私がきちんと説明しなかったのが悪い。たしかにあの言い方だったら勘違いされても仕方がなかった。こちらこそごめん」
二人は互いに頭を下げて謝りあう。
そしてお互い頭を上げると、二人はどことなく恥ずかしそうな顔をして目をそらす。
「と、とにかくカズト君はここで泊まっていくと良い。明日はマーレジャイアントと戦うから。いくら対策していても疲れが残ってたら負ける可能性だってある」
「た、たしかにそうだね。それならリディアさんのお言葉に甘えて今夜はここで寝させてもらうよ。晩御飯をご馳走してもらったことといい、色々と迷惑をかけてごめんね」
「気にしなくていい。私達はパーティーだから支え合うのは当たり前」
「そう言ってくれるよ助かるよ。それじゃあ寝ようか。明日は早いし」
「うん」
そう言って二人は寝る準備を始めた。
カズトは一旦大箱から出て外の焚き火を消し、寝袋をバッグにしまう。
対してリディアは早々にベッドの中に入った。
カズトが大箱の中に戻るとベッドには既にリディアが寝ころんでいる。
そこから少し離れた場所の床にカズトは寝袋を敷き始めた。
するとベッドの中に入っていたリディアがそれに気づいた。
「カズト君、何してるの?」
「え、寝る準備だけど」
「そんなところで寝ずにここで寝れば良い」
「えっと……」
そう言ってリディアは自分の隣をポンポンと叩く。
するとカズトはどうしたものかと答えに窮し、リディアもまた自分が言った言葉の意味を客観的に考える。
そして一気に顔を赤くする二人。
「ち、ちち違う! これは、その……」
「そ、そうだよね! 変な意味なんかないよね! 僕のためを思って言ってくれたんだよね!」
「そ、そう! カズト君のためだから! 変な意味じゃないから!」
そうして二人は再び顔を赤くする。
だがそれでもさすがに同じベッドで寝るのはダメだとカズトがリディアに訴えたが、それで死んでしまったら洒落にならないとリディアに言われ、カズトは顔を赤らめながらも仕方なく彼女と同じベッドに入った。
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