魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
56話 リディアの頼み
「頼み?」
「うん」
カズトがそう聞き返すと、リディアは真剣な顔をして頷いた。
するとまるで二人の周りが外界から切り離されたように感じるほど、二人の間に緊張感が張り詰める。
そのあまりの緊張感からか、周りの音は全てが遮断されカズトの耳に入ってこない。
温度も二人の周りだけ酷く冷え込んだように思える。
さらにランクB冒険者が発するプレッシャーを感じ、周りにいた冒険者達が二人から離れていく。
それもそのはずだ。何せリディアがこれから頼むことは、例え相手が王家の紋章を持つ者であったとしても彼の強さを見込んで協力を取り付けたいものだからだ。
そのあまりの緊張感に、カズトは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
そしてリディアがゆっくりと口を開く。
「実はーー」
「はーい、オークの角煮丼デラックス特盛りとボンバーカウのステーキ定食だよ! たんとお食べ! ただし残したら許さないからね!」
リディアが口を開いたとほぼ同時、酒場の店員が二人の緊張感なぞ知ったことかとばかりに割り込み、ご飯を置いていく。
この店員の胆力はなかなかのものである。
すると店員がご飯を置き終わったタイミングを見計らい、リディアがカズトの分も含めたお金をサッと渡した。
「はいこれ」
「あいよ。たしかに! それじゃあゆっくり食べなよ!」
「あ、え?」
その店員はお金を受け取ると次の客に料理を運ぶためにサッサと去って行った。
そしてお金を遅れて取り出したカズトはその後ろ姿を呆然と眺める。
するとリディアはそんなことを気にした様子もなくカズトに話しかけた。
「とりあえず食べながら話そう。お金の話しは後で良い。これ、ボンバーカウのステーキ定食。そっちのオークの角煮丼ちょうだい」
「あ、なるほど。そういうことね。はい、どうぞ」
「ありがとう」
カズトはリディアが自分の分のお金を含めて全て払ったのは、後で自分に払ってくれということだと解釈し、納得した。
そして店員がオークの角煮丼デラックス特盛りをカズトの前に、ボンバーカウのステーキ定食をリディアの前に置いたので、二人は目の前に置かれた料理を交換する。
そう。リディアがオークの角煮丼デラックス特盛りを、カズトがボンバーカウのステーキ定食を頼んだのだ。
「……それ、僕の定食より何倍も量があるけど、本当に全部食べれるの?」
「大丈夫。問題ない」
「そうなんだ……」
するとリディアは次々にそれを口に入れていく。
そしてカズトはリディアの食いっぷりに驚きながらもステーキを食べ始めた。
(へぇ。酒場で料理なんて初めて食べたけど結構美味しいな)
そうして舌鼓をうちながらそれを味わっていると、食事を開始してしばらくしてからリディアがカズトに話しかけた。
「それで頼みなんだけど」
「うん。何?」
「ある魔物を倒すのを手伝ってほしい」
今度は先ほどのような緊張感のへったくれも無く、二人は手を動かしながら話しを進める。
そしてカズトはリディアの言葉が気になり、手を止めて彼女を見た。
「ある魔物?」
「うん。ある魔物」
するとリディアもまた食事の手を止め、真剣な顔でカズトを見ながらそう言った。
そして彼女はその魔物の名前を告げる。
「その魔物は……トニトルスジラフドラゴン」
「とり……なんだって?」
「トニトルスジラフドラゴン」
「トリニトロトルエンドラゴン? えらい物騒な名前だね」
「違う。トニトルスジラフドラゴン。もしかして知らないの?」
リディアが言うドラゴンの名前を再三聞き取れないカズト。
そんな彼に対してリディアはやや呆れたような視線を向ける。
ちなみにカズトが聞き間違えたトリニトロトルエンはTNT爆弾に使われる化学物質のことである。
「……ごめん。全く知らない」
リディアに呆れた視線を向けられながらも、カズトは正直にそう言った。
するとリディアは呆れたような顔のまま、トニトルスジラフドラゴンについての説明を始めた。
「トニトルスジラフドラゴンは鳴神豪雷龍とも呼ばれるランクSの魔物。雷を自在に操ることができると言われている凄いドラゴン。よくおとぎ話とか伝説なんかに出てくる」
「へぇ。ランクSのドラゴンかぁ……。この頼み、断ってもいい?」
「他人のお金で食べるご飯の味はどう?」
「先に僕の分までお金を払ったのはこういうことだったのか…………っ!」
カズトは今ようやくリディアが自分に罠をかけたのだと理解した。
だがそれに気づいたとしても、既にカズトはボンバーカウのステーキ定食を半分以上食べてしまっているのだからもう遅い。
「ちなみにボンバーカウのステーキ定食は定食メニューの中で一番高い」
「まさか、それを知っててわざと僕にそれを勧めたの!?」
「勧めただけ。決めたのはカズト君」
「くっ! なんてこった!」
「でも値段が高い分不味いはずがない」
「……まあ、そうだね。これまで食べたどのステーキよりも美味しいよ」
「その美味しさの八割はきっと私のお金で食べてるから」
「違うと言いたいけど自分のお金でこの定食を食べたこと無いから否定できない…………っ!」
そんなやりとりを一通りした後、カズトはため息を一つつき、諦めたように口を開く。
「わかった、手伝うよ。でも今の実力じゃあランクSの魔物相手に何かできるとは思わないから、しばらく時間がほしい」
「それは良かった。でもそれは私も同じ。だから今すぐじゃなくて良い」
リディアのその言葉を聞き、カズトはホッと安堵した。
「ちなみにそのトリニトロトルエンドラゴンってどこにいるかわかってるの? ランクSの魔物なんてそうそういるもんじゃないでしょ?」
「違う。トニトルスジラフドラゴン」
「あ、はい。とりに……じゃなくて、トニトルスジラフドラゴン」
「正解。トニトルスジラフドラゴンの居場所は分かってる。というよりここから数時間の所にある。今は魔物に占領されてて行けないけど」
「それって、もしかしてダンジョン都市のダンジョン?」
「そう。あそこの冒険者ギルドの資料室に大昔あのダンジョンに潜った冒険者が見たって言う記録がある」
「そうなんだ。まあ、僕もあそこで亜空の腕輪を見つけるために来たからそのついでだと思えばいいか」
「ランクSの魔物を倒すのをついで……。カズト君、もしかして大物?」
「いや、そんなことはないけど。でも雷を操るって分かってるなら、対策の立てようはいくらでもあるじゃん。それにそのドラゴンに挑む時には僕の魔力制御の技量も上がって、ある程度規模の大きい魔法なら放てるようになってると思うしさ。まあ、今はまだそのドラゴンに挑むっていう実感がないからこうして気楽に思っていられるんだけどね」
「……それでもそんなこと言えるなんて、やっぱりカズト君は大物」
「そうかな?」
そんなことを話しながら二人は食事を再開した。
「うん」
カズトがそう聞き返すと、リディアは真剣な顔をして頷いた。
するとまるで二人の周りが外界から切り離されたように感じるほど、二人の間に緊張感が張り詰める。
そのあまりの緊張感からか、周りの音は全てが遮断されカズトの耳に入ってこない。
温度も二人の周りだけ酷く冷え込んだように思える。
さらにランクB冒険者が発するプレッシャーを感じ、周りにいた冒険者達が二人から離れていく。
それもそのはずだ。何せリディアがこれから頼むことは、例え相手が王家の紋章を持つ者であったとしても彼の強さを見込んで協力を取り付けたいものだからだ。
そのあまりの緊張感に、カズトは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
そしてリディアがゆっくりと口を開く。
「実はーー」
「はーい、オークの角煮丼デラックス特盛りとボンバーカウのステーキ定食だよ! たんとお食べ! ただし残したら許さないからね!」
リディアが口を開いたとほぼ同時、酒場の店員が二人の緊張感なぞ知ったことかとばかりに割り込み、ご飯を置いていく。
この店員の胆力はなかなかのものである。
すると店員がご飯を置き終わったタイミングを見計らい、リディアがカズトの分も含めたお金をサッと渡した。
「はいこれ」
「あいよ。たしかに! それじゃあゆっくり食べなよ!」
「あ、え?」
その店員はお金を受け取ると次の客に料理を運ぶためにサッサと去って行った。
そしてお金を遅れて取り出したカズトはその後ろ姿を呆然と眺める。
するとリディアはそんなことを気にした様子もなくカズトに話しかけた。
「とりあえず食べながら話そう。お金の話しは後で良い。これ、ボンバーカウのステーキ定食。そっちのオークの角煮丼ちょうだい」
「あ、なるほど。そういうことね。はい、どうぞ」
「ありがとう」
カズトはリディアが自分の分のお金を含めて全て払ったのは、後で自分に払ってくれということだと解釈し、納得した。
そして店員がオークの角煮丼デラックス特盛りをカズトの前に、ボンバーカウのステーキ定食をリディアの前に置いたので、二人は目の前に置かれた料理を交換する。
そう。リディアがオークの角煮丼デラックス特盛りを、カズトがボンバーカウのステーキ定食を頼んだのだ。
「……それ、僕の定食より何倍も量があるけど、本当に全部食べれるの?」
「大丈夫。問題ない」
「そうなんだ……」
するとリディアは次々にそれを口に入れていく。
そしてカズトはリディアの食いっぷりに驚きながらもステーキを食べ始めた。
(へぇ。酒場で料理なんて初めて食べたけど結構美味しいな)
そうして舌鼓をうちながらそれを味わっていると、食事を開始してしばらくしてからリディアがカズトに話しかけた。
「それで頼みなんだけど」
「うん。何?」
「ある魔物を倒すのを手伝ってほしい」
今度は先ほどのような緊張感のへったくれも無く、二人は手を動かしながら話しを進める。
そしてカズトはリディアの言葉が気になり、手を止めて彼女を見た。
「ある魔物?」
「うん。ある魔物」
するとリディアもまた食事の手を止め、真剣な顔でカズトを見ながらそう言った。
そして彼女はその魔物の名前を告げる。
「その魔物は……トニトルスジラフドラゴン」
「とり……なんだって?」
「トニトルスジラフドラゴン」
「トリニトロトルエンドラゴン? えらい物騒な名前だね」
「違う。トニトルスジラフドラゴン。もしかして知らないの?」
リディアが言うドラゴンの名前を再三聞き取れないカズト。
そんな彼に対してリディアはやや呆れたような視線を向ける。
ちなみにカズトが聞き間違えたトリニトロトルエンはTNT爆弾に使われる化学物質のことである。
「……ごめん。全く知らない」
リディアに呆れた視線を向けられながらも、カズトは正直にそう言った。
するとリディアは呆れたような顔のまま、トニトルスジラフドラゴンについての説明を始めた。
「トニトルスジラフドラゴンは鳴神豪雷龍とも呼ばれるランクSの魔物。雷を自在に操ることができると言われている凄いドラゴン。よくおとぎ話とか伝説なんかに出てくる」
「へぇ。ランクSのドラゴンかぁ……。この頼み、断ってもいい?」
「他人のお金で食べるご飯の味はどう?」
「先に僕の分までお金を払ったのはこういうことだったのか…………っ!」
カズトは今ようやくリディアが自分に罠をかけたのだと理解した。
だがそれに気づいたとしても、既にカズトはボンバーカウのステーキ定食を半分以上食べてしまっているのだからもう遅い。
「ちなみにボンバーカウのステーキ定食は定食メニューの中で一番高い」
「まさか、それを知っててわざと僕にそれを勧めたの!?」
「勧めただけ。決めたのはカズト君」
「くっ! なんてこった!」
「でも値段が高い分不味いはずがない」
「……まあ、そうだね。これまで食べたどのステーキよりも美味しいよ」
「その美味しさの八割はきっと私のお金で食べてるから」
「違うと言いたいけど自分のお金でこの定食を食べたこと無いから否定できない…………っ!」
そんなやりとりを一通りした後、カズトはため息を一つつき、諦めたように口を開く。
「わかった、手伝うよ。でも今の実力じゃあランクSの魔物相手に何かできるとは思わないから、しばらく時間がほしい」
「それは良かった。でもそれは私も同じ。だから今すぐじゃなくて良い」
リディアのその言葉を聞き、カズトはホッと安堵した。
「ちなみにそのトリニトロトルエンドラゴンってどこにいるかわかってるの? ランクSの魔物なんてそうそういるもんじゃないでしょ?」
「違う。トニトルスジラフドラゴン」
「あ、はい。とりに……じゃなくて、トニトルスジラフドラゴン」
「正解。トニトルスジラフドラゴンの居場所は分かってる。というよりここから数時間の所にある。今は魔物に占領されてて行けないけど」
「それって、もしかしてダンジョン都市のダンジョン?」
「そう。あそこの冒険者ギルドの資料室に大昔あのダンジョンに潜った冒険者が見たって言う記録がある」
「そうなんだ。まあ、僕もあそこで亜空の腕輪を見つけるために来たからそのついでだと思えばいいか」
「ランクSの魔物を倒すのをついで……。カズト君、もしかして大物?」
「いや、そんなことはないけど。でも雷を操るって分かってるなら、対策の立てようはいくらでもあるじゃん。それにそのドラゴンに挑む時には僕の魔力制御の技量も上がって、ある程度規模の大きい魔法なら放てるようになってると思うしさ。まあ、今はまだそのドラゴンに挑むっていう実感がないからこうして気楽に思っていられるんだけどね」
「……それでもそんなこと言えるなんて、やっぱりカズト君は大物」
「そうかな?」
そんなことを話しながら二人は食事を再開した。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
6
-
-
39
-
-
755
-
-
52
-
-
0
-
-
238
-
-
2
-
-
111
-
-
1978
コメント