魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
48話 バッセルの街の前で
自分が辺りに爆音をまき散らしていることをすっかりと忘れ、カズトは荷車のスピードを落としながら隊列を組んでいる騎士と冒険者達に近づく。
すると騎士達の隊長と思われる人物が一際大きな声を上げた。
「放てぇぇぇ!」
するとその瞬間一斉に矢が射られ、弧を描きながらカズトと彼が乗る荷車へと向かっていく。
「うわ! 攻撃してきた!」
それに気づいたカズトは金属箱の中で発生させている水素爆発を一旦止め、すぐさまイメージを構築して魔法を展開する。
パチン!
その瞬間、矢とカズトの丁度真ん中あたりで金属箱の中で鳴らしていた爆音とは比べられないほど大きな音と共に、爆発が起こった。
そしてその爆風により、矢の軌道はカズトと荷車を避けるようにして逸れていく。
爆発が起こったのはカズトが空中で水素爆発を起こしたためである。
というのも彼はここにくるまでの間、休むことなくひたすら金属箱の中で水素爆発を起こしていたのだ。
そのため咄嗟に思い浮かんだイメージが水素爆発を起こすためのイメージしか無かった。
それに彼は道中で繰り返し水素爆発を起こすイメージを構築していたため、そのイメージは他の魔法のイメージよりも鮮明なものとなった。
それによって咄嗟に魔法を放ったにしては明らかに威力が大きすぎる爆発が起きたのである。
「あつつ!」
しかし爆風で矢の軌道を無理矢理逸らしたのはいいものの、その熱気がカズトにも襲いかかった。
彼は急いで魔法を使い、空気を冷やして熱された肌を冷ます。
念の為さらに全身に治癒魔法をかけると、再び前を見た。
「もう一度矢を放て! そして進めぇぇぇ!」
すると再度隊長と見られる騎士が腕を振り下ろしながらそう指示をだす。
その直後弓を持っている騎士と冒険者達は一斉に矢を放ち、剣や槍といった獲物を持っている者達はそれを手にカズトの荷車へと迫る。
「ええ!? ど、どうしよう!? とりあえずもういっちょ爆発!」
パチン! という音の直後にまたもや空中で派手な音を鳴らしながら爆発を起こして矢を逸らす。
そうしてなんとか矢を凌いだのを確認して、慌てながらも走ってきている冒険者と騎士達の対処に考えを巡らせる。
そしてさほど時間を置かずにカズトの頭に妙案が浮かんだ。
「そうだ! なにも戦う必要ないじゃん! 降りて攻撃を止めてもらえるように言えばいいんだ!」
そう思い至ったカズトは馬車の壁を力強く握り、もう一度パチン! と指を鳴らす。
すると荷車の進行方向の土が突如ぬかるみ、泥となってそのタイヤを絡め取った。
カズトが土中に大量の水分を混ぜたのだ。
そしてその範囲は荷車のタイヤが半分程沈み込む深さだ。
そのため荷車が急激にスピードを落とし、すぐに止まった。
「うっ、くっ!」
しかし荷車が急に止まったため、カズトの体が慣性の法則に従って前へ飛び出そうとする。
それを横壁を掴んだ腕と正面の壁を蹴って突っ張った足でなんとか持ちこたえる。
そして攻撃を止めてもらうように説得しようと荷車から降りる為に体を起こす。
するとその瞬間、カズトのわき腹にまるで赤く熱された鉄を押し付けられたような痛みが走った。
「ぐあ!?」
カズトが反射的に声を上げながら痛みの出所を見ると、そこにはまるで自分の体が串に刺されたように槍が深々と刺さっていた。
そして槍の使い手に目を向ける直前、突如彼の視界が回転し、背中から地面に勢いよく叩きつけられた。
「かはっ!?」
地面が僅かに陥没し、カズトの体がくの字に曲がる。
そこでさらにわき腹の傷口の中からスタンガンを当てられたような強烈な痛みがカズトを襲い、直後に彼の意識は闇に落ちる。
彼の目に最後に移ったのは槍を二本手にした銀髪の少女だった。
◆◇◆◇◆◇
カズトの脇腹に槍を刺し、そのまま槍ごと彼の体を持ち上げて地面に叩きつける。
そして最後にトドメの電流を流す。
そうして意識を失ったカズトを目の前にして、雷霊の二つ名を持つランクB冒険者のリディアはホッとため息をついた。
(巨大な魔物の咆哮のような音を鳴らしながら街に近づいてきていたから、どんな相手かと思ったけど虚仮威しみたいでよかった。全然強くなかったし、これなら二本もいらなかった。反省)
リディアはズポッとカズトのわき腹から槍を引き抜くと、槍についた血を払ってから両手に持ったそれらを亜空の腕輪に収納した。
そしてカズトから目を離し、彼が乗っていた荷車に目を向ける。
(あれがこの少年が乗っていた荷車? なんか着いてる)
リディアは明らかに普通の荷車ではないそれを見て、不審に思い近づく。
するとそれには金属箱に金属の筒をつけたような物が四つ固定されていた。
(なに、これ?)
「あつ!?」
何気なく金属箱を触ったリディアは、そのあまりの熱さに反射的に手を引っ込める。
(もしかしてこの金属箱はマジックアイテム? てことはあの音を出していたのはこれ?)
事実は水素爆発の熱によって熱されているだけなのだが、そんなことを知る由もないリディアには、これが爆音を出していたマジックアイテムに思えた。
奇しくも爆音を出していたということだけは当たっている。
そうして一通り金属箱を眺め回すと、次に彼女は空を見上げた。
(さっきの爆発、あれも多分マジックアイテム。魔法であんな威力を出そうと思ったら詠唱時間が足りないし、無詠唱なら不可能な威力だった。まさか爆発させて矢を逸らすとは思わなかったけど)
それからリディアは荷車が埋もれている地面を見る。
(それにしてもこんな所に泥なんてあった? 今朝ダンジョン都市からここに避難してきたときには無かったし、今日は雨なんか降ってない。後方に魔法士はいなかったし魔法じゃない。なんで? 凄い気になる)
リディアは靴の先で泥をちょんちょんと触れながら、なぜここに泥があるのか考えを巡らせる。
すると後から追いついてきた騎士達が気を失っているカズトを拘束しだした。
そしてその中から一人の騎士がリディアの下にやってくる。
「さすがは雷霊殿ですね。隊長の命令で同時に走り出したにも関わらず、我々を突き放すような圧倒的な速さで荷車に乗っていた人間を倒すとは」
「そんなことない。あれぐらいあなた達もできるようになる。それに事前に人間だと分かっていたから、わざわざ近づいて無力化しただけ。もし魔物だったらもっと別の手段を取ってた」
そう。彼女達は最初に矢を放った時点でカズトの事を魔物ではなく人間だと分かっていた。
確かに彼らは最初は魔物の襲撃だと勘違いして外に集まったが、それはその場にいた誰よりも視力が良いリディアが騎士隊長にそう報告したため、その勘違いもすぐに解けたのだ。
だが彼らはそれを分かっていた上でカズトに攻撃した。
理由は単純。カズトが凶悪な爆音を響かせながら街に迫っていたため、どう考えても街に危害を加えようとしているようにしか見えなかったからだ。
そのため騎士と冒険者達は協力してカズトを倒すために行動を起こしたのだ。
リディアは騎士の賛辞に言葉を返した後、気になっていたことを質問することにした。
「ねえ、ここに泥なんてあった?」
「泥、ですか? 無かったと思いますが、本当ですね。なぜこんなところにあるのでしょう? 最近は雨も降ってないですし、そもそもこんなところに泥があれば昨日今日とダンジョン都市にいた皆様が避難して来るときに誰かが気づいて砂をかけると思いますし……」
騎士とリディアがここにある泥について同じように首を傾げていると、カズトの拘束をしていた騎士の内一人が、悲鳴に近い大声を上げた。
「こ、これは!?」
すると騎士達の隊長と思われる人物が一際大きな声を上げた。
「放てぇぇぇ!」
するとその瞬間一斉に矢が射られ、弧を描きながらカズトと彼が乗る荷車へと向かっていく。
「うわ! 攻撃してきた!」
それに気づいたカズトは金属箱の中で発生させている水素爆発を一旦止め、すぐさまイメージを構築して魔法を展開する。
パチン!
その瞬間、矢とカズトの丁度真ん中あたりで金属箱の中で鳴らしていた爆音とは比べられないほど大きな音と共に、爆発が起こった。
そしてその爆風により、矢の軌道はカズトと荷車を避けるようにして逸れていく。
爆発が起こったのはカズトが空中で水素爆発を起こしたためである。
というのも彼はここにくるまでの間、休むことなくひたすら金属箱の中で水素爆発を起こしていたのだ。
そのため咄嗟に思い浮かんだイメージが水素爆発を起こすためのイメージしか無かった。
それに彼は道中で繰り返し水素爆発を起こすイメージを構築していたため、そのイメージは他の魔法のイメージよりも鮮明なものとなった。
それによって咄嗟に魔法を放ったにしては明らかに威力が大きすぎる爆発が起きたのである。
「あつつ!」
しかし爆風で矢の軌道を無理矢理逸らしたのはいいものの、その熱気がカズトにも襲いかかった。
彼は急いで魔法を使い、空気を冷やして熱された肌を冷ます。
念の為さらに全身に治癒魔法をかけると、再び前を見た。
「もう一度矢を放て! そして進めぇぇぇ!」
すると再度隊長と見られる騎士が腕を振り下ろしながらそう指示をだす。
その直後弓を持っている騎士と冒険者達は一斉に矢を放ち、剣や槍といった獲物を持っている者達はそれを手にカズトの荷車へと迫る。
「ええ!? ど、どうしよう!? とりあえずもういっちょ爆発!」
パチン! という音の直後にまたもや空中で派手な音を鳴らしながら爆発を起こして矢を逸らす。
そうしてなんとか矢を凌いだのを確認して、慌てながらも走ってきている冒険者と騎士達の対処に考えを巡らせる。
そしてさほど時間を置かずにカズトの頭に妙案が浮かんだ。
「そうだ! なにも戦う必要ないじゃん! 降りて攻撃を止めてもらえるように言えばいいんだ!」
そう思い至ったカズトは馬車の壁を力強く握り、もう一度パチン! と指を鳴らす。
すると荷車の進行方向の土が突如ぬかるみ、泥となってそのタイヤを絡め取った。
カズトが土中に大量の水分を混ぜたのだ。
そしてその範囲は荷車のタイヤが半分程沈み込む深さだ。
そのため荷車が急激にスピードを落とし、すぐに止まった。
「うっ、くっ!」
しかし荷車が急に止まったため、カズトの体が慣性の法則に従って前へ飛び出そうとする。
それを横壁を掴んだ腕と正面の壁を蹴って突っ張った足でなんとか持ちこたえる。
そして攻撃を止めてもらうように説得しようと荷車から降りる為に体を起こす。
するとその瞬間、カズトのわき腹にまるで赤く熱された鉄を押し付けられたような痛みが走った。
「ぐあ!?」
カズトが反射的に声を上げながら痛みの出所を見ると、そこにはまるで自分の体が串に刺されたように槍が深々と刺さっていた。
そして槍の使い手に目を向ける直前、突如彼の視界が回転し、背中から地面に勢いよく叩きつけられた。
「かはっ!?」
地面が僅かに陥没し、カズトの体がくの字に曲がる。
そこでさらにわき腹の傷口の中からスタンガンを当てられたような強烈な痛みがカズトを襲い、直後に彼の意識は闇に落ちる。
彼の目に最後に移ったのは槍を二本手にした銀髪の少女だった。
◆◇◆◇◆◇
カズトの脇腹に槍を刺し、そのまま槍ごと彼の体を持ち上げて地面に叩きつける。
そして最後にトドメの電流を流す。
そうして意識を失ったカズトを目の前にして、雷霊の二つ名を持つランクB冒険者のリディアはホッとため息をついた。
(巨大な魔物の咆哮のような音を鳴らしながら街に近づいてきていたから、どんな相手かと思ったけど虚仮威しみたいでよかった。全然強くなかったし、これなら二本もいらなかった。反省)
リディアはズポッとカズトのわき腹から槍を引き抜くと、槍についた血を払ってから両手に持ったそれらを亜空の腕輪に収納した。
そしてカズトから目を離し、彼が乗っていた荷車に目を向ける。
(あれがこの少年が乗っていた荷車? なんか着いてる)
リディアは明らかに普通の荷車ではないそれを見て、不審に思い近づく。
するとそれには金属箱に金属の筒をつけたような物が四つ固定されていた。
(なに、これ?)
「あつ!?」
何気なく金属箱を触ったリディアは、そのあまりの熱さに反射的に手を引っ込める。
(もしかしてこの金属箱はマジックアイテム? てことはあの音を出していたのはこれ?)
事実は水素爆発の熱によって熱されているだけなのだが、そんなことを知る由もないリディアには、これが爆音を出していたマジックアイテムに思えた。
奇しくも爆音を出していたということだけは当たっている。
そうして一通り金属箱を眺め回すと、次に彼女は空を見上げた。
(さっきの爆発、あれも多分マジックアイテム。魔法であんな威力を出そうと思ったら詠唱時間が足りないし、無詠唱なら不可能な威力だった。まさか爆発させて矢を逸らすとは思わなかったけど)
それからリディアは荷車が埋もれている地面を見る。
(それにしてもこんな所に泥なんてあった? 今朝ダンジョン都市からここに避難してきたときには無かったし、今日は雨なんか降ってない。後方に魔法士はいなかったし魔法じゃない。なんで? 凄い気になる)
リディアは靴の先で泥をちょんちょんと触れながら、なぜここに泥があるのか考えを巡らせる。
すると後から追いついてきた騎士達が気を失っているカズトを拘束しだした。
そしてその中から一人の騎士がリディアの下にやってくる。
「さすがは雷霊殿ですね。隊長の命令で同時に走り出したにも関わらず、我々を突き放すような圧倒的な速さで荷車に乗っていた人間を倒すとは」
「そんなことない。あれぐらいあなた達もできるようになる。それに事前に人間だと分かっていたから、わざわざ近づいて無力化しただけ。もし魔物だったらもっと別の手段を取ってた」
そう。彼女達は最初に矢を放った時点でカズトの事を魔物ではなく人間だと分かっていた。
確かに彼らは最初は魔物の襲撃だと勘違いして外に集まったが、それはその場にいた誰よりも視力が良いリディアが騎士隊長にそう報告したため、その勘違いもすぐに解けたのだ。
だが彼らはそれを分かっていた上でカズトに攻撃した。
理由は単純。カズトが凶悪な爆音を響かせながら街に迫っていたため、どう考えても街に危害を加えようとしているようにしか見えなかったからだ。
そのため騎士と冒険者達は協力してカズトを倒すために行動を起こしたのだ。
リディアは騎士の賛辞に言葉を返した後、気になっていたことを質問することにした。
「ねえ、ここに泥なんてあった?」
「泥、ですか? 無かったと思いますが、本当ですね。なぜこんなところにあるのでしょう? 最近は雨も降ってないですし、そもそもこんなところに泥があれば昨日今日とダンジョン都市にいた皆様が避難して来るときに誰かが気づいて砂をかけると思いますし……」
騎士とリディアがここにある泥について同じように首を傾げていると、カズトの拘束をしていた騎士の内一人が、悲鳴に近い大声を上げた。
「こ、これは!?」
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