魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

41話 荷車入手

 カズトがどのようにしてダンジョン都市に行けばいいかをダイアナに相談した次の日。
 彼は早速ダイアナに言ったことを実現させるため行動に移していた。


(たしかニーナさんが言うにはここら辺だったよな)


 カズトは先に冒険者ギルドに寄り、ニーナに中古の荷車を格安で譲って貰える場所は無いかを聞き出した。
 そしてその場所に彼はやってきたのだ。


(黄色の屋根に緑の壁の建物……あった。あれだな)


 ニーナに教えてもらった建物の特徴とピッタリ一致している建物を見つけたカズトは、その建物から出てきたばかりの従業員と思われる男性に話しかける。


「すいません。ここで中古の馬車、いえ荷車を買えると聞いたのですが」


「ああ、それならこの店の裏手に回ってください。新品の荷車はそこの扉から入った所にたくさんありますが、中古の品は全て裏手に置いてあるんですよ」


「そうなんですか。教えて下さりどうもありがとうございます」


 従業員に今日の目的である中古の荷車が置いてある場所を聞いたカズトは言われた通りに店の裏手に回る。
 するとそこにはどれも年期が入った荷車がたくさん置かれていた。
 カズトの姿を見つけたのか店の奥からちょび髭を生やした体格の良い店員が彼の下までやってくる。


「おう、兄ちゃん。ここは中古の荷車売り場だ。新品ならこの店の裏に回りな」


「いえ、僕は中古の荷車を買いに来たんです。この中で一番安い荷車はどれですか?」


「なんだ、そうかい。一番安い荷車ってぇと……これだな」


 カズトの質問に対して店員は並べられている荷車の中で一番端に置かれていた四輪の物に手をかける。


「こいつは大銀貨6枚、六千ノアの中古の荷車だ。破格の値段だろ? だがこいつはそれに見合う理由がたくさんあるんだ」


 普通の荷車ならば新品なら最低でも金貨数枚、中古でも最低金貨一枚は必要になる。
 そのため大銀貨6枚で売っているこの馬車は相当安い。
 店員はその理由を説明しはじめた。


「まず全体的に傷が酷い。おそらく盗賊と何度も戦ったことがあるんだろう。だがそれでもここまで荷車が傷をつけるのはなかなか無いな」


 その荷車には前後左右どこもかしこも数々の切り傷や刺し傷がある。
 それはなにも外側の話しだけではなく、荷台の内側にまで傷が広がっていた。
 おそらく剣や槍、弓矢などの攻撃をいくつも食らってきたのだろう。
 そうカズトは予想しながら店員の話しを続けて聞く。


「次に大きさだ。こいつは他の荷車の中でも小せぇサイズだ。だから運搬量も少ねぇ」


 この荷車はここで売られている他のどの荷車よりも小さい。
 店員の言う通り、これでは一回に運ぶ荷物の運搬量もたかがしれている。


「んでさらに言うと、こいつは屋根が着いてねぇ一昔古いタイプだから、雨が降れば走れねぇ。まあ、それは昔のように布を被せてやればこいつに積んだ荷物はある程度守れるだろうが、積んでいる荷物によっちゃあ全ておじゃんだな」


 そう言って店員は肩をすくめる。
 今のオーランドで使われている馬車のタイプは屋根がある幌馬車が主流で、屋根が無いタイプの馬車は殆ど使われていないのだ。
 そのため全く売れないのだと店員は言う。


「後は、こいつは長らく売れ残っているから、もうそろそろ処分するところだったんだ。とまあ安い理由はこんな感じだな。でも安心しろ。いくら安いからといっても、走れねぇ程ボロくはねぇ。こんななりでも十分走れるさ。でなきゃ売らねぇよ。それでどうする? こいつを買うか? それとも別のにするか?」


「これにします」


 そう言ってカズトは即決し、大銀貨6枚を取り出して店員に渡す。
 すると店員はまさかカズトがこの荷車を買ってくれるとは思っていなかったのか、ポカンと口を開けた後慌てたように口を開いた。


「ちょ、ちょっと待ちな兄ちゃん。まさか本当にこれにするのかい? 店員の俺が言うのもおかしいが、これは見た目は悪いし他のと比べればすぐに壊れちまうと思うぜ。どう考えても損だと思うんだが……」


「大丈夫です。これで十分ですよ。あ、一応聞きますけど、ダンジョン都市までは保ちますよね? さすがにそこまで保たないと言われたら変えざるをえないんですが……」


「ああ、それなら大丈夫だ。それくらいの距離なら十分に保つだろうよ」


「そうですか。それを聞いて安心しました。それなら僕はこれにします。あ、もう持って行っても良いですよね?」


「あ、ああ。構わねえぞ」


 店員から持って行っても良いと許可を貰ったカズトは、遠慮なくその荷車を引っ張り始めた。
 馬が引っ張る用の荷車ならば普通はカズトでも引っ張ることはできないだろう。
 だがカズトが買ったこの荷車は普通の物よりも小さい。
 そしてカズトの身体能力はアームホーンゴリラと魔人を倒したことによって一般人よりも少しだけ高い。
 そうは言ってもさすがに大工などの力仕事をしているムキムキの一般人と比べると、その身体能力は今のカズトでは及ばないだろうが。
 だがそれでもこの荷車は今のカズトが引けない程の重さではなかった。


「お、おお、兄ちゃん以外と力あるんだな」


「まあ、これでも、冒険者、ですから」


 細い体をしたカズトが荷車を引っ張っている光景に唖然としつつも店員がそう呟くと、カズトは力強く一歩一歩踏み出しながらそう答えた。


「あ、そうだ! 兄ちゃん、馬はどうするんだ? ここは荷車しか売ってねぇが、馬を売ってる店を紹介してやれるぜ?」


 一般人からするとあまりにも非現実的な光景なので、カズトが荷車を引いている様子を唖然と眺めていた店員は思い出したようにそう言った。
 だがカズトは相変わらず全力で一歩を踏みしめながら、その言葉に答えた。


「いえ、大丈夫、です。僕には、馬は、必要、ありませんから!」


「え? 馬は必要ないのか? それは馬が引く用の荷車なんだが」


「知って、ますよ! そのつもりで、買いに、来ましたから!」


「そ、そうか。なら頑張ってそれを運べよ」


「はい!」


 カズトの言葉を聞いた店員は、おそらく彼は馬は持っているのだろうと解釈してカズトを見送った。
 本当は馬も持っていないのだと知れば、彼は慌ててカズトに馬を買うように勧めただろう。
 もっとも、それでも彼は今と同じように馬は必要ないと答えただろうが。






 そして次の日。
 カズトは今度は鍛冶屋にやってきた。


「すいませーん。誰かいませんかー?」


「はいはい。どんなご用でしょうか?」


 鍛冶屋に入りそこで自分が欲しい物が売っていないことを確認すると、店員を探した。
 しかし会計席にも誰もいなかったため大声で店員を呼ぶ。
 すると店の奥から一人の若い女性の店員がやってきた。
 カズトはその店員に自分が欲しい物が作れないかどうかを相談する。


「……分厚い金属の箱、ですか? それも穴が空いている?」


「はい。できるだけ丈夫な物が欲しいんです」


「わかりました。少々こちらでお待ち下さい」


 そう言うと女性店員は再び店の奥へと入っていく。
 そしてしばらくするとその女性店員は髭が生えており、がっしりとした体つきをした小柄な男性、ドワーフの男を連れてきた。


「おう、それで作って欲しい物ってのはどんなやつだ?」

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