魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
38話 初めての市場
「それで、そのダンジョン都市ってどこにあるの?」
「なんだ、知らなかったのか? マールの街からベスシル山脈に沿ってずっと北へ行ったところにロットの街があるだろ? そこがダンジョン都市だ」
「あ、あー、あそこね! 思い出したよ! うん、もちろん知ってたよ!」
あるだろ? とダイアナにさも当然のように言われても、カズトはまだこの世界のことは愚か、この国のことも全然知らない。
しかしダイアナがあまりにも知っていて当然といった態度で説明するので、カズトは物知らずという恥を隠すためにあたかも知っていた風を装ってそう言った。
だがダイアナは王女であり、これまでカズトとは比べ物にならないほどあまたの人間と会話してきたのだ。
そのなかで相手の感情の裏を読むというスキルを獲得した彼女に、カズトの嘘を見破れないわけがなかった。
半眼でジットリとした呆れの視線をカズトに送る。
「……カズト、まさか知らなかったのか?」
「うっ」
「眼が泳いでるぞ」
「……知りませんでした」
あっさりと嘘を見破られ、潔く諦めたカズトはそう言って頭を下げた。
その様子を見て思わずダイアナはクスリと笑う。
「ふふ。正直でよろしい」
ダイアナのその笑顔はカズトでさえも見惚れてしまう程美しいものだったが、同時に物知らずということが好きな人にばれてしまったので、恥ずかしくて顔を背けたくなった。
それをごまかすためにも若干拗ねたように口を開く。
「……ダイアナのそのスキル、ズルいよね。隠し事とかしてもすぐにバレるじゃん」
「なんだ? カズトは私に隠し事をするつもりなのか?」
「……いや、まあ、隠したいことの一つや二つくらい誰にでもあるでしょ」
「む、たしかにそうだが……」
カズトの場合は地球での事を喋るわけにはいかないため、一つ二つどころではないのだが。
しかし彼の言う通り、誰にでも隠したい事の一つや二つはあるだろう。
それはダイアナも同じなので同意する。
が、感情では納得しておらず、カズトが自分に隠し事をしていると考えただけでもやもやしてしまう。
そのため合間な返事のようになってしまった。
するとその合間さに何か違和感を覚えたのか、今度はカズトがダイアナに質問する。
「逆にダイアナは僕に隠したいこととか無いの?」
「いや、あるにはあるが……。カズトだったら別に話しても構わないぞ?」
「なにそれ、恋人みたいじゃん」
予想外の返答に目を丸くして、思わずそう突っ込むカズト。
「そ、そうだな」
すると恋人というワードに敏感に反応したダイアナはそう言って僅かに頬を染めた。
対してカズトは即座に否定されるか嫌がられるなどの反応が帰ってくると思っていたので、予想外の事態に戸惑ってしまう。
そして訪れる沈黙。
(うっ、気まずくなってしまった)
カズトは野宿で見張りをしていたときと同様に何か話題がないか目をキョロキョロさせて探す。
しかしそう都合良く何かが見つかることはなかった。
そしてそれはダイアナも同様だったのか、諦めたように小さくため息をつく。
「ふぅ。カズト、今回はここまでにしようか。カズトも昨日の疲れが残っているだろうし、あまり長々と話すのも、な」
「うん。そうだね。それじゃあ、また今夜寝る前に話そうか」
「ああ、そうしよう。また後でな」
「うん、また後で」
そう言ってどちらからともなく対話の腕輪に魔力を流すのを止めた。
ホログラムの画面が静かに虚空に消える。
カズトはそれを確認した後、ベッドにゴロンと上半身を預けた。
そして天井をボーッと眺めながらダイアナとの会話の余韻に浸る。
しばらくの間そうしていると、やがて余韻から覚めたカズトは懐中時計を取り出し時間を見る。
「まだ昼か。これなら昼食を食べてから、ダンジョン都市に行くために必要なものを買いに行こうかな」
時刻は十一時を回った頃。
ちょうどお昼時だ。
そのためそう決めたカズトはひとまず階下に降りて、この宿の食堂で昼食を取ることにした。
そうして昼ご飯にサンドイッチを食べたカズトは《熊の手亭》を出てこの街の市場に向かう。
(最低限必要なのは寝袋と保存食くらいか。後は攻撃のレパートリーを増やすために塩とか炭とかを適当に買っておこうかな)
そんな風にして何を買うか頭の中で考えながら歩いていると、やがて人々の賑わう声と共にずらりと店が並んだ通りへとやってきた。
カズトは初めて訪れたオーランドの市場にワクワクとした表情を隠しもしないで足を踏み入れる。
すると威勢のいい掛け声が道の端から次々とかけられる。
「おう、兄ちゃん! これ買っていかねぇか!? 一つまけてやるぜ!?」
「ちょっとそこのお兄さん! うちで売っている服をみていかないかい? 丁度お兄さんに似合いそうな服があるんだよ!」
「兄ちゃん! そんなもんより肉を食え! うちが扱っているホーンボアの肉は上手いぞぉ!」
(やばい。どれもこれも目移りしてしまう……)
左右から漂ってくる美味しそうな臭いや威勢のいい呼びかけについつい反応してしまい、そのたびに足を止めそうになる。
しかしカズトはそこをグッと我慢して、まずは最低限必要な寝袋と保存食を扱っている店を先に探すことにした。
たくさんの人でにぎわっている市場の奥へとズンズン進む。
(果物屋に服屋、それに本屋なんてのもあるのか。いろんな店が集まっているんだなぁ。あれは……へぇ、錬金術屋か。そんなのもあるのか。興味あるな。後で寄ってみよう)
キョロキョロと道の端に並んでいる店を見ながら、カズトはいくつか興味を惹かれた店の場所を覚えておく。
そうして市場の中を進んでいると、冒険者らしき人が頻繁に出入りする店を見つけた。
(ちょっと覗いてみるか)
冒険者が出入りしているということは、依頼をこなす上で必要な物を扱っている可能性が高い。
そのためもし自分が持っていない必需品などがあれば購入しておこうと考えたのだ。
カズトはその店に足を踏み入れる。
するとそこにはポーションと呼ばれる即効性の回復薬や解体ナイフ、そしてカズトが求めていた寝袋と保存食までもが売られていた。
(お、一度に見つかるとはラッキーだな)
余計な労力と時間を割かずに済んだことを喜びながら、カズトは寝袋と保存食を選ぶ。
(できれば一昨日ダイアナが貸してくれたような寝袋がいいけど、さすがにそれはないか。あれだけ寝心地が良かったから高いだろうし。でも、最初に渡された薄っぺらい寝袋よりは遥かにましだな。後は保存食だけど……干し肉と乾パンしか無いのか。どっちも美味しくなさそうだけど、こればかりは諦めるしかないか)
そうしてカズトは購入するものを一通り選び、会計を済ませる。
ちなみにこの二種類の買い物で金貨一枚が旅立っていった。
それからカズトはその店を出て、ここに来るまでに気になっていた店に足を向ける。
「なんだ、知らなかったのか? マールの街からベスシル山脈に沿ってずっと北へ行ったところにロットの街があるだろ? そこがダンジョン都市だ」
「あ、あー、あそこね! 思い出したよ! うん、もちろん知ってたよ!」
あるだろ? とダイアナにさも当然のように言われても、カズトはまだこの世界のことは愚か、この国のことも全然知らない。
しかしダイアナがあまりにも知っていて当然といった態度で説明するので、カズトは物知らずという恥を隠すためにあたかも知っていた風を装ってそう言った。
だがダイアナは王女であり、これまでカズトとは比べ物にならないほどあまたの人間と会話してきたのだ。
そのなかで相手の感情の裏を読むというスキルを獲得した彼女に、カズトの嘘を見破れないわけがなかった。
半眼でジットリとした呆れの視線をカズトに送る。
「……カズト、まさか知らなかったのか?」
「うっ」
「眼が泳いでるぞ」
「……知りませんでした」
あっさりと嘘を見破られ、潔く諦めたカズトはそう言って頭を下げた。
その様子を見て思わずダイアナはクスリと笑う。
「ふふ。正直でよろしい」
ダイアナのその笑顔はカズトでさえも見惚れてしまう程美しいものだったが、同時に物知らずということが好きな人にばれてしまったので、恥ずかしくて顔を背けたくなった。
それをごまかすためにも若干拗ねたように口を開く。
「……ダイアナのそのスキル、ズルいよね。隠し事とかしてもすぐにバレるじゃん」
「なんだ? カズトは私に隠し事をするつもりなのか?」
「……いや、まあ、隠したいことの一つや二つくらい誰にでもあるでしょ」
「む、たしかにそうだが……」
カズトの場合は地球での事を喋るわけにはいかないため、一つ二つどころではないのだが。
しかし彼の言う通り、誰にでも隠したい事の一つや二つはあるだろう。
それはダイアナも同じなので同意する。
が、感情では納得しておらず、カズトが自分に隠し事をしていると考えただけでもやもやしてしまう。
そのため合間な返事のようになってしまった。
するとその合間さに何か違和感を覚えたのか、今度はカズトがダイアナに質問する。
「逆にダイアナは僕に隠したいこととか無いの?」
「いや、あるにはあるが……。カズトだったら別に話しても構わないぞ?」
「なにそれ、恋人みたいじゃん」
予想外の返答に目を丸くして、思わずそう突っ込むカズト。
「そ、そうだな」
すると恋人というワードに敏感に反応したダイアナはそう言って僅かに頬を染めた。
対してカズトは即座に否定されるか嫌がられるなどの反応が帰ってくると思っていたので、予想外の事態に戸惑ってしまう。
そして訪れる沈黙。
(うっ、気まずくなってしまった)
カズトは野宿で見張りをしていたときと同様に何か話題がないか目をキョロキョロさせて探す。
しかしそう都合良く何かが見つかることはなかった。
そしてそれはダイアナも同様だったのか、諦めたように小さくため息をつく。
「ふぅ。カズト、今回はここまでにしようか。カズトも昨日の疲れが残っているだろうし、あまり長々と話すのも、な」
「うん。そうだね。それじゃあ、また今夜寝る前に話そうか」
「ああ、そうしよう。また後でな」
「うん、また後で」
そう言ってどちらからともなく対話の腕輪に魔力を流すのを止めた。
ホログラムの画面が静かに虚空に消える。
カズトはそれを確認した後、ベッドにゴロンと上半身を預けた。
そして天井をボーッと眺めながらダイアナとの会話の余韻に浸る。
しばらくの間そうしていると、やがて余韻から覚めたカズトは懐中時計を取り出し時間を見る。
「まだ昼か。これなら昼食を食べてから、ダンジョン都市に行くために必要なものを買いに行こうかな」
時刻は十一時を回った頃。
ちょうどお昼時だ。
そのためそう決めたカズトはひとまず階下に降りて、この宿の食堂で昼食を取ることにした。
そうして昼ご飯にサンドイッチを食べたカズトは《熊の手亭》を出てこの街の市場に向かう。
(最低限必要なのは寝袋と保存食くらいか。後は攻撃のレパートリーを増やすために塩とか炭とかを適当に買っておこうかな)
そんな風にして何を買うか頭の中で考えながら歩いていると、やがて人々の賑わう声と共にずらりと店が並んだ通りへとやってきた。
カズトは初めて訪れたオーランドの市場にワクワクとした表情を隠しもしないで足を踏み入れる。
すると威勢のいい掛け声が道の端から次々とかけられる。
「おう、兄ちゃん! これ買っていかねぇか!? 一つまけてやるぜ!?」
「ちょっとそこのお兄さん! うちで売っている服をみていかないかい? 丁度お兄さんに似合いそうな服があるんだよ!」
「兄ちゃん! そんなもんより肉を食え! うちが扱っているホーンボアの肉は上手いぞぉ!」
(やばい。どれもこれも目移りしてしまう……)
左右から漂ってくる美味しそうな臭いや威勢のいい呼びかけについつい反応してしまい、そのたびに足を止めそうになる。
しかしカズトはそこをグッと我慢して、まずは最低限必要な寝袋と保存食を扱っている店を先に探すことにした。
たくさんの人でにぎわっている市場の奥へとズンズン進む。
(果物屋に服屋、それに本屋なんてのもあるのか。いろんな店が集まっているんだなぁ。あれは……へぇ、錬金術屋か。そんなのもあるのか。興味あるな。後で寄ってみよう)
キョロキョロと道の端に並んでいる店を見ながら、カズトはいくつか興味を惹かれた店の場所を覚えておく。
そうして市場の中を進んでいると、冒険者らしき人が頻繁に出入りする店を見つけた。
(ちょっと覗いてみるか)
冒険者が出入りしているということは、依頼をこなす上で必要な物を扱っている可能性が高い。
そのためもし自分が持っていない必需品などがあれば購入しておこうと考えたのだ。
カズトはその店に足を踏み入れる。
するとそこにはポーションと呼ばれる即効性の回復薬や解体ナイフ、そしてカズトが求めていた寝袋と保存食までもが売られていた。
(お、一度に見つかるとはラッキーだな)
余計な労力と時間を割かずに済んだことを喜びながら、カズトは寝袋と保存食を選ぶ。
(できれば一昨日ダイアナが貸してくれたような寝袋がいいけど、さすがにそれはないか。あれだけ寝心地が良かったから高いだろうし。でも、最初に渡された薄っぺらい寝袋よりは遥かにましだな。後は保存食だけど……干し肉と乾パンしか無いのか。どっちも美味しくなさそうだけど、こればかりは諦めるしかないか)
そうしてカズトは購入するものを一通り選び、会計を済ませる。
ちなみにこの二種類の買い物で金貨一枚が旅立っていった。
それからカズトはその店を出て、ここに来るまでに気になっていた店に足を向ける。
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