魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
36話 別れ
「カズトさん、お待たせしました。こちらがカズトさんの新しいギルドカードになります」
「へー、緑色なんですね。ありがとうございます」
そう言ってカズトはニーナから新しくなった緑色のギルドカードを受け取る。
ダイアナがミゲルに調査の報告をし終えた後。
彼女達とロビーで別れたカズトは先にランクアップの手続きなどをしてもらうことにした。
というのも、ダイアナによってカズトの実力が今のランクに相応しくないということが証明されたためである。
そのため彼の冒険者ランクは例の特例によってEランクへと上がった。
ちなみにカズトの人柄もまたダイアナによって問題ないと証明されたので、彼の冒険者ランクをDランク以上に上げようという話しもあった。
しかしカズトは冒険者としての経験がまだまだ浅いため、結局Eランクに落ち着くこととなったのだった。
「そしてこれが今回の依頼の報酬です」
「ありがとうございます」
ニーナが硬貨が入った小さな袋をカズトに差し出すと、彼は礼を言ってそれを受け止った。
その中には金貨が三枚、つまり三万ノアが入っている。
一度の依頼で稼いだ額がこれまでで一番多いので、カズトは思わずその頬が緩んでしまうのを避けられない。
それから彼はにやけたまま、調査の間ちょこちょこと採取してきた薬草も売り払った。
その際、彼の様子を見てニーナがドン引きしていたのは言うまでもない。
そして翌日。
カズトは駆け足で正門に向かう。
(ヤバいヤバいヤバい。ダイアナ達が帰る時は必ず見送りに行くって約束したのに、完全に寝坊した!)
昨日カズトは《熊の手亭》に帰ってから晩御飯も食べずにすぐに眠ってしまった。
それもそのはずで、オーランドに来てまだ数日しか経っていないのにも関わらず、命のやりとりや野宿を経験したのだ。
そのため彼が想像している以上に疲れがその体に溜まっていた。
なのでベッドに入ると同時に泥のように眠ってしまったのだ。
そして起きてみれば太陽はとっくに登っており、ダイアナ達が出発する時間を大きく過ぎていた。
それに気づいたカズトは大慌てで《熊の手亭》を飛び出して今に至る。
「はあはあはあ」
走る、走る、走る。
それはもうセリオに追いかけられた時とは比べものにならない速さで走る。
それもそのはずで、カズトは魔人討伐を成し遂げたおかげで身体能力の強化現象が起こったのだ。
そのため彼の走るスピードはセリオに追いかけられた時とは違い、明らかに速くなっているのである。
だがそれでも過ぎた時間は取り戻せない。
彼が例えどれだけ速く走れるようになっても、ダイアナ達が出発する時間を大きく過ぎてしまったのなら意味はない。
だがそれでもカズトは諦めずに走る。
するとようやく正門が見えてきた。
(頼む! まだいてくれ!)
その思いと共に正門の周りに目を向ける。
しかし、そこには馬車の一つもない。
それどころかダイアナの親衛隊が着ていた青色の鎧を着た人間さえいない。
頭をガンと殴られたかのようだ。
忙しく動かしていた足を止め、もう一度当たりを見渡す。
しかし、何度探してもダイアナ達の姿はない。
するとその時、カズトの頭の中で電流が走ったかのような閃きがあった。
「外は!?」
急いで門の外に出て、辺りを見渡す。
するとちょうど門の中からは見えない場所に馬車が一台止まっていた。
カズトの心に安堵感が広がる。
そしてその馬車の下へ行くーーが、その足が止まった。
なぜなら馬車の中から知らない男が出てきたからだ。
その男はカズトに気づいた様子もなく門の中に入るための手続きをする。
(違う、あれじゃない。ダイアナはあそこにいない……)
安堵感で満たされてかけていた心の中に暗い絶望が広がる。
もう、ここにはダイアナはいない。
彼女達は既にこの街を出て出発してしまったのだ。
そう理解すると同時に、彼の中で後悔の念が沸き上がってきた。
「はあ……。やってしまったな……」
大樹の下で共に喋りながら夜を過ごした時、カズトとダイアナの仲は普通の友達では収まらない程深まった。
それは親友であり、ほんのちょっぴりの恋心を抱く相手でもある。
カズトは元々黒髪黒目の女性が好きだったのだが、ダイアナと一晩喋る内にそれも関係無くなっていた。
もっとも、ぴったりと肌が触れ合うほどの距離で座りその状態で何時間も喋り通したのだから、カズトにとってみれば意識するなという方が無理である。
そんな思いもあったのでカズトがダイアナを見送れなかったことは、彼の心に深い傷をつけた。
次にいつ会えるか分からない。
いや、もう会えないかもしれない。
そもそも相手は王女なのだから、自分のような根無し草がこのような思いを抱くのは間違いだ。
そのような思いが彼の心の中をジワジワと侵略していく。
それはとても苦しいものであり、とても切ないものでもあった。
そうやってしばらくの間絶望の中で苦しんでいると、ポンポンと肩を叩かれた。
ゆっくりと顔を上げる。
するとそこには門兵の姿をした髭面のおじさんの顔があった。
そのおじさんが口を開く
「君がカズト君かい?」
「はい、そうですけど……」
ダイアナ達を見送れなかった事があまりにもショックで目を虚ろにさせながらそう答えるカズト。
そんな彼の様子を見てやや驚きながらも、おじさんはカズトに伝えなければならないことを伝える。
「第二王女殿下からの伝言だ。『冒険者ギルドに君に渡すものを預けてある。それを受け取ったら連絡してくれ』とのことだ。確かに伝えたぞ!」
門兵のおじさんは早口にそう言うと、すぐさまカズトから離れた。
どうやら虚ろな目をしているカズトにあまり近づきたくなかったらしい。
一方、門兵のおじさんからそんな事を思われたカズトは虚ろな目にだんだんと光を宿していく。
(僕に渡すもの? それに連絡? 手紙でも書けばいいのか? とりあえず行ってみるか)
その伝言の内容に疑問は尽きないが、彼は駆け足で冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドの扉を開ける。
するとカズトの姿を発見したニーナが彼に向かって手を招いている。
彼女がダイアナが預けたと言っていた物を預かっているのだろう。
そう予想したカズトは早足で彼女の下に向かった。
「カズトさん! 第二王女殿下からの預かり物がありますよ!」
「はい。僕も門兵の人からその伝言を聞いてやってきました」
「そうでしたか。ではこちらがその預かり物になります。どうぞ」
ニーナはそう言ってカウンターの下から丈夫な袋に入った何かを取り出し、それをそのままカズトに差し出した。
それをカズトは礼を言って受け取る。
そして殆ど席が埋まっていない酒場の席について、その袋を開けた。
すると中には一枚の紙切れと腕輪、そして何やら見慣れない紋章が掘られた懐中時計が入っていた。
カズトは早速その紙切れに書かれている文を読む。
そして読み終わった後、すぐさま立ち上がった。
「急いで宿に帰るか」
「へー、緑色なんですね。ありがとうございます」
そう言ってカズトはニーナから新しくなった緑色のギルドカードを受け取る。
ダイアナがミゲルに調査の報告をし終えた後。
彼女達とロビーで別れたカズトは先にランクアップの手続きなどをしてもらうことにした。
というのも、ダイアナによってカズトの実力が今のランクに相応しくないということが証明されたためである。
そのため彼の冒険者ランクは例の特例によってEランクへと上がった。
ちなみにカズトの人柄もまたダイアナによって問題ないと証明されたので、彼の冒険者ランクをDランク以上に上げようという話しもあった。
しかしカズトは冒険者としての経験がまだまだ浅いため、結局Eランクに落ち着くこととなったのだった。
「そしてこれが今回の依頼の報酬です」
「ありがとうございます」
ニーナが硬貨が入った小さな袋をカズトに差し出すと、彼は礼を言ってそれを受け止った。
その中には金貨が三枚、つまり三万ノアが入っている。
一度の依頼で稼いだ額がこれまでで一番多いので、カズトは思わずその頬が緩んでしまうのを避けられない。
それから彼はにやけたまま、調査の間ちょこちょこと採取してきた薬草も売り払った。
その際、彼の様子を見てニーナがドン引きしていたのは言うまでもない。
そして翌日。
カズトは駆け足で正門に向かう。
(ヤバいヤバいヤバい。ダイアナ達が帰る時は必ず見送りに行くって約束したのに、完全に寝坊した!)
昨日カズトは《熊の手亭》に帰ってから晩御飯も食べずにすぐに眠ってしまった。
それもそのはずで、オーランドに来てまだ数日しか経っていないのにも関わらず、命のやりとりや野宿を経験したのだ。
そのため彼が想像している以上に疲れがその体に溜まっていた。
なのでベッドに入ると同時に泥のように眠ってしまったのだ。
そして起きてみれば太陽はとっくに登っており、ダイアナ達が出発する時間を大きく過ぎていた。
それに気づいたカズトは大慌てで《熊の手亭》を飛び出して今に至る。
「はあはあはあ」
走る、走る、走る。
それはもうセリオに追いかけられた時とは比べものにならない速さで走る。
それもそのはずで、カズトは魔人討伐を成し遂げたおかげで身体能力の強化現象が起こったのだ。
そのため彼の走るスピードはセリオに追いかけられた時とは違い、明らかに速くなっているのである。
だがそれでも過ぎた時間は取り戻せない。
彼が例えどれだけ速く走れるようになっても、ダイアナ達が出発する時間を大きく過ぎてしまったのなら意味はない。
だがそれでもカズトは諦めずに走る。
するとようやく正門が見えてきた。
(頼む! まだいてくれ!)
その思いと共に正門の周りに目を向ける。
しかし、そこには馬車の一つもない。
それどころかダイアナの親衛隊が着ていた青色の鎧を着た人間さえいない。
頭をガンと殴られたかのようだ。
忙しく動かしていた足を止め、もう一度当たりを見渡す。
しかし、何度探してもダイアナ達の姿はない。
するとその時、カズトの頭の中で電流が走ったかのような閃きがあった。
「外は!?」
急いで門の外に出て、辺りを見渡す。
するとちょうど門の中からは見えない場所に馬車が一台止まっていた。
カズトの心に安堵感が広がる。
そしてその馬車の下へ行くーーが、その足が止まった。
なぜなら馬車の中から知らない男が出てきたからだ。
その男はカズトに気づいた様子もなく門の中に入るための手続きをする。
(違う、あれじゃない。ダイアナはあそこにいない……)
安堵感で満たされてかけていた心の中に暗い絶望が広がる。
もう、ここにはダイアナはいない。
彼女達は既にこの街を出て出発してしまったのだ。
そう理解すると同時に、彼の中で後悔の念が沸き上がってきた。
「はあ……。やってしまったな……」
大樹の下で共に喋りながら夜を過ごした時、カズトとダイアナの仲は普通の友達では収まらない程深まった。
それは親友であり、ほんのちょっぴりの恋心を抱く相手でもある。
カズトは元々黒髪黒目の女性が好きだったのだが、ダイアナと一晩喋る内にそれも関係無くなっていた。
もっとも、ぴったりと肌が触れ合うほどの距離で座りその状態で何時間も喋り通したのだから、カズトにとってみれば意識するなという方が無理である。
そんな思いもあったのでカズトがダイアナを見送れなかったことは、彼の心に深い傷をつけた。
次にいつ会えるか分からない。
いや、もう会えないかもしれない。
そもそも相手は王女なのだから、自分のような根無し草がこのような思いを抱くのは間違いだ。
そのような思いが彼の心の中をジワジワと侵略していく。
それはとても苦しいものであり、とても切ないものでもあった。
そうやってしばらくの間絶望の中で苦しんでいると、ポンポンと肩を叩かれた。
ゆっくりと顔を上げる。
するとそこには門兵の姿をした髭面のおじさんの顔があった。
そのおじさんが口を開く
「君がカズト君かい?」
「はい、そうですけど……」
ダイアナ達を見送れなかった事があまりにもショックで目を虚ろにさせながらそう答えるカズト。
そんな彼の様子を見てやや驚きながらも、おじさんはカズトに伝えなければならないことを伝える。
「第二王女殿下からの伝言だ。『冒険者ギルドに君に渡すものを預けてある。それを受け取ったら連絡してくれ』とのことだ。確かに伝えたぞ!」
門兵のおじさんは早口にそう言うと、すぐさまカズトから離れた。
どうやら虚ろな目をしているカズトにあまり近づきたくなかったらしい。
一方、門兵のおじさんからそんな事を思われたカズトは虚ろな目にだんだんと光を宿していく。
(僕に渡すもの? それに連絡? 手紙でも書けばいいのか? とりあえず行ってみるか)
その伝言の内容に疑問は尽きないが、彼は駆け足で冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドの扉を開ける。
するとカズトの姿を発見したニーナが彼に向かって手を招いている。
彼女がダイアナが預けたと言っていた物を預かっているのだろう。
そう予想したカズトは早足で彼女の下に向かった。
「カズトさん! 第二王女殿下からの預かり物がありますよ!」
「はい。僕も門兵の人からその伝言を聞いてやってきました」
「そうでしたか。ではこちらがその預かり物になります。どうぞ」
ニーナはそう言ってカウンターの下から丈夫な袋に入った何かを取り出し、それをそのままカズトに差し出した。
それをカズトは礼を言って受け取る。
そして殆ど席が埋まっていない酒場の席について、その袋を開けた。
すると中には一枚の紙切れと腕輪、そして何やら見慣れない紋章が掘られた懐中時計が入っていた。
カズトは早速その紙切れに書かれている文を読む。
そして読み終わった後、すぐさま立ち上がった。
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