魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
15話 話し合い
カズトは日本で生まれ、日本で育った。
そのため基本的に彼の好みの女性は自然と黒髪黒目であることが前提となる。
もちろん親しい女性が全く異なる色の髪と目をしていれば、そのような前提はいくらでも覆されることはあるだろう。
だが今の時点でそれはない。
なのでカズトから見てダイアナは綺麗な人だとは思うが、あくまでそれは外国人の女優を見ているような感覚であり見惚れるほどかと言われるとそうではない。
そういった理由で彼はダイアナを見ても過剰に反応することはなかった。
だがそのような理由を知らないダイアナにとってみれば、人生で初めて自分を見ても動じない男だ。
興味を惹かれない理由がない。
(……いや、今は仕事中だ)
しかしダイアナは興味心を意志の力で抑えた。
「なに、気にしなくていい。それよりも話しを進めよう。君、部屋へ案内してくれ」
「はい!」
カズトの謝罪の言葉を受け取ったダイアナはそう言うと、ニーナに部屋へと案内してもらうよう頼んだ。
ニーナはすぐさま受付から出て一行を部屋へと案内する。
カズトもまた、騎士に囲まれたダイアナの後ろをついていった。
ニーナが案内した部屋の扉を開ける。
すると中には白髪まじりの茶髪をした、大柄で厳つい顔をした男がいた。
彼は例に漏れなく部屋に入ってきたダイアナに目を奪われ、彼女らとカズトが皆部屋に入り終わってからようやく再起動した。
「じ、自分はこのマール支部のギルドマスターをしているミゲルと言います! よ、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
(うわぁ。大柄で厳つい顔をしたおじさんが顔を赤くしてあたふたしてるよ……)
ミゲルの反応はダイアナと向かい合った場合の正常な反応であったが、そうとは知らないカズトは挨拶を返しながらも心の中でドン引きしていた。
「次は私だな。既に二人は知っているだろうが私はこの国、ヘルテー王国第二王女ダイアナ=アン=ヘルテーだ。よろしく頼む」
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
ミゲルとダイアナの自己紹介が終わり、二人は次にカズトの方に顔を向けた。
カズトはギルドマスターと王女の偉い人二人に顔を向けられて変な緊張感を味わいながらも口を開く。
「僕はFランク冒険者のカズトです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「よろしく」
(ギルドマスターの態度がさっきまでと全然違うし)
ダイアナは変わらず挨拶を返してきたが、ミゲルの反応が劇的に変わったことに対してカズトは訝しげにそう思った。
まあ、顔を赤らめたおじさんが途端に渋くてかっこいいおじさんに変わったら誰でもそう思うだろうが。
ともかくこうして各々の自己紹介が終わり、本題に入る。
ミゲルは一つ咳払いをして完全に頭を仕事モードに切り替えた。
……なるべくダイアナの顔を視界に入れないようにしようとしているが。
「んんっ。それでは魔物の巨大個体について話しをさせていただきます」
それからミゲルによって巨大個体の出現場所とそれがどんな種類の魔物だったのかなどの説明が行われた。
「以上が十七件全ての発見、または討伐の情報となります」
「十七件? 報告では十六件と聞いているが」
「ええ。報告した時点では十六件だったのですが、昨日そこのカズト君がアームホーンゴリラの巨大個体を討伐したらしく、それで一件増えたのです」
「なるほど、そういうことか」
そう言ってカズトの方を向くミゲルとダイアナ。
そこで彼は未だに何故自分が呼び出されたのか説明を受けていなかったので、このタイミングで質問することにした。
「あの、何故自分が呼び出されたのでしょうか?」
「ああ、それはだな今回の調査に魔力の指針を使うから巨大個体が討伐された場所の中で一番新しい場所を正確に知りたかったからなのだ」
「魔力の指針?」
魔力の指針という聞き慣れない言葉を聞いたカズトは首を傾げる。
その様子を見てダイアナはカズトが魔力の指針について知らないのだと気づき、その説明を始めた。
「魔力の指針というのは魔力の痕跡を追うことができるマジックアイテムなんだ。今回のような魔物の調査や犯罪の捜査によく使われる。とは言ってもこれも万能ではない。二つ程欠点があるんだ」
そう言ってダイアナは人差し指を立てる。
「一つは魔力の痕跡は長い間残らないから、あまりにも時間が経つとこのマジックアイテムでも魔力の痕跡を辿ることが難しくなること」
次にダイアナは中指も立てる。
「そして二つ目は魔力の痕跡を見つけたとしても、対象がどちらからきてどちらに向かったかが分からないということだ」
しかしこの欠点に関してはある程度補うことができる。
なぜなら今回のように対象が動いていない、つまり死んでいればそこで魔力の痕跡が途切れているからだ。
そのためその痕跡を追っていけば対象がどのようなルートを通って来たのかが分かる。
「……なるほど。それで巨大個体を発見した場所を正確に知っている者かつ、巨大個体がどこから来たのかを調べるためにそれを討伐した者という条件を満たした僕を呼び出したのですね」
「そうだ。話しが早くて助かる。だから君には是非とも調査に協力してもらいたい。もちろん報酬は払おう。だから私達と一緒に同行してくれないだろうか」
「……そういうことなら、わかりました」
カズトの本心ではやはり厄介事だったか、という思いが強い。
なぜなら巨大個体は未発見のダンジョンから来たのではないかと言われているからだ。
アームホーンゴリラの巨大個体もそうである可能性が高く、今回の調査でそのダンジョンまでついていかなければならないことになる。
だがそれを理解しても第二王女のお願いという形の命令に逆らえばどうなるかは分からない。
既にダイアナからなんとかして逃げようとしたカズトからすれば、これ以上逃げればさらに厄介な事になるのは明白だった。
そのため彼はダイアナの申し出を渋々とだが受けた。
「そうか、助かるよ」
そう言ってフワリと笑うダイアナ。
その顔は万人の目を釘付けにし、決して放さない天使のような笑顔だった。
そしてそれはミゲルだけでなく普段彼女と行動を共にし、その美貌にある程度免疫がある親衛隊の騎士達であっても、思わず見とれてしまうほどのものであった。
しかし、ここに一人例外がいる。
「あ、はい。気にしないでください」
カズトである。
この男はダイアナの笑顔に見惚れるどころか照れる素振りすらせずに、即座にそう返答したのだ。
さらに言えばその表情は一見何も思っていないかのように見えるが、王女として数多の人間と会話し表情の裏を読むことができるダイアナから見れば、カズトが自分に関わりたくないと思っていることはすぐに見破ることができた。
ダイアナにとってこのような反応をされるのは当然初めてである。
そのためカズトの反応は、ダイアナの自分の容姿に対する絶対の自信に密かに罅を入れる事となった。
そのため基本的に彼の好みの女性は自然と黒髪黒目であることが前提となる。
もちろん親しい女性が全く異なる色の髪と目をしていれば、そのような前提はいくらでも覆されることはあるだろう。
だが今の時点でそれはない。
なのでカズトから見てダイアナは綺麗な人だとは思うが、あくまでそれは外国人の女優を見ているような感覚であり見惚れるほどかと言われるとそうではない。
そういった理由で彼はダイアナを見ても過剰に反応することはなかった。
だがそのような理由を知らないダイアナにとってみれば、人生で初めて自分を見ても動じない男だ。
興味を惹かれない理由がない。
(……いや、今は仕事中だ)
しかしダイアナは興味心を意志の力で抑えた。
「なに、気にしなくていい。それよりも話しを進めよう。君、部屋へ案内してくれ」
「はい!」
カズトの謝罪の言葉を受け取ったダイアナはそう言うと、ニーナに部屋へと案内してもらうよう頼んだ。
ニーナはすぐさま受付から出て一行を部屋へと案内する。
カズトもまた、騎士に囲まれたダイアナの後ろをついていった。
ニーナが案内した部屋の扉を開ける。
すると中には白髪まじりの茶髪をした、大柄で厳つい顔をした男がいた。
彼は例に漏れなく部屋に入ってきたダイアナに目を奪われ、彼女らとカズトが皆部屋に入り終わってからようやく再起動した。
「じ、自分はこのマール支部のギルドマスターをしているミゲルと言います! よ、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
(うわぁ。大柄で厳つい顔をしたおじさんが顔を赤くしてあたふたしてるよ……)
ミゲルの反応はダイアナと向かい合った場合の正常な反応であったが、そうとは知らないカズトは挨拶を返しながらも心の中でドン引きしていた。
「次は私だな。既に二人は知っているだろうが私はこの国、ヘルテー王国第二王女ダイアナ=アン=ヘルテーだ。よろしく頼む」
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
ミゲルとダイアナの自己紹介が終わり、二人は次にカズトの方に顔を向けた。
カズトはギルドマスターと王女の偉い人二人に顔を向けられて変な緊張感を味わいながらも口を開く。
「僕はFランク冒険者のカズトです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「よろしく」
(ギルドマスターの態度がさっきまでと全然違うし)
ダイアナは変わらず挨拶を返してきたが、ミゲルの反応が劇的に変わったことに対してカズトは訝しげにそう思った。
まあ、顔を赤らめたおじさんが途端に渋くてかっこいいおじさんに変わったら誰でもそう思うだろうが。
ともかくこうして各々の自己紹介が終わり、本題に入る。
ミゲルは一つ咳払いをして完全に頭を仕事モードに切り替えた。
……なるべくダイアナの顔を視界に入れないようにしようとしているが。
「んんっ。それでは魔物の巨大個体について話しをさせていただきます」
それからミゲルによって巨大個体の出現場所とそれがどんな種類の魔物だったのかなどの説明が行われた。
「以上が十七件全ての発見、または討伐の情報となります」
「十七件? 報告では十六件と聞いているが」
「ええ。報告した時点では十六件だったのですが、昨日そこのカズト君がアームホーンゴリラの巨大個体を討伐したらしく、それで一件増えたのです」
「なるほど、そういうことか」
そう言ってカズトの方を向くミゲルとダイアナ。
そこで彼は未だに何故自分が呼び出されたのか説明を受けていなかったので、このタイミングで質問することにした。
「あの、何故自分が呼び出されたのでしょうか?」
「ああ、それはだな今回の調査に魔力の指針を使うから巨大個体が討伐された場所の中で一番新しい場所を正確に知りたかったからなのだ」
「魔力の指針?」
魔力の指針という聞き慣れない言葉を聞いたカズトは首を傾げる。
その様子を見てダイアナはカズトが魔力の指針について知らないのだと気づき、その説明を始めた。
「魔力の指針というのは魔力の痕跡を追うことができるマジックアイテムなんだ。今回のような魔物の調査や犯罪の捜査によく使われる。とは言ってもこれも万能ではない。二つ程欠点があるんだ」
そう言ってダイアナは人差し指を立てる。
「一つは魔力の痕跡は長い間残らないから、あまりにも時間が経つとこのマジックアイテムでも魔力の痕跡を辿ることが難しくなること」
次にダイアナは中指も立てる。
「そして二つ目は魔力の痕跡を見つけたとしても、対象がどちらからきてどちらに向かったかが分からないということだ」
しかしこの欠点に関してはある程度補うことができる。
なぜなら今回のように対象が動いていない、つまり死んでいればそこで魔力の痕跡が途切れているからだ。
そのためその痕跡を追っていけば対象がどのようなルートを通って来たのかが分かる。
「……なるほど。それで巨大個体を発見した場所を正確に知っている者かつ、巨大個体がどこから来たのかを調べるためにそれを討伐した者という条件を満たした僕を呼び出したのですね」
「そうだ。話しが早くて助かる。だから君には是非とも調査に協力してもらいたい。もちろん報酬は払おう。だから私達と一緒に同行してくれないだろうか」
「……そういうことなら、わかりました」
カズトの本心ではやはり厄介事だったか、という思いが強い。
なぜなら巨大個体は未発見のダンジョンから来たのではないかと言われているからだ。
アームホーンゴリラの巨大個体もそうである可能性が高く、今回の調査でそのダンジョンまでついていかなければならないことになる。
だがそれを理解しても第二王女のお願いという形の命令に逆らえばどうなるかは分からない。
既にダイアナからなんとかして逃げようとしたカズトからすれば、これ以上逃げればさらに厄介な事になるのは明白だった。
そのため彼はダイアナの申し出を渋々とだが受けた。
「そうか、助かるよ」
そう言ってフワリと笑うダイアナ。
その顔は万人の目を釘付けにし、決して放さない天使のような笑顔だった。
そしてそれはミゲルだけでなく普段彼女と行動を共にし、その美貌にある程度免疫がある親衛隊の騎士達であっても、思わず見とれてしまうほどのものであった。
しかし、ここに一人例外がいる。
「あ、はい。気にしないでください」
カズトである。
この男はダイアナの笑顔に見惚れるどころか照れる素振りすらせずに、即座にそう返答したのだ。
さらに言えばその表情は一見何も思っていないかのように見えるが、王女として数多の人間と会話し表情の裏を読むことができるダイアナから見れば、カズトが自分に関わりたくないと思っていることはすぐに見破ることができた。
ダイアナにとってこのような反応をされるのは当然初めてである。
そのためカズトの反応は、ダイアナの自分の容姿に対する絶対の自信に密かに罅を入れる事となった。
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