魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

1話 始まり

 神様からオーランドという世界に転生するよう頼まれた。
 当然人間である僕は神様なんかに逆らう事なんてできないので答えはイエスである。
 理由は人間である僕には言えないそうだが、なにやら厄介な問題が起こったらしい。
 その問題も僕がオーランドに転生すれば解決するから、気にしなくていいと言われた。
 ちなみにオーランドには魔法があるらしい。
 僕はファンタジーに疎いので、魔法といえば魔女が不気味な大釜を火にかけているイメージしかない。
 なので神様からその説明を受ける。
 その説明を一通り受けると、神様が僕の保有魔力量を測りだした。
 なんでも魔力とは全ての生物の体内に存在し、魔法現象を発生させるためのエネルギーのようなものなのだとか。
 神様が僕の頭に手をかざす。
 するとその手のひらが淡く光った。
 これも魔法なのだろうか?
 そんなことを思っていると神様が再び口を開いた。




「ふーむ。まさか魔法が発達しておらん地球でこれだけ莫大な魔力を持って生まれたとは。皮肉なことじゃのう……。もし地球で魔法が発達しておったら、努力次第では歴史に名を残す程の大魔法士になっておったじゃろうに」




「神様、それほど僕の魔力は凄いのですか?」




「うむ。まあ、そんな世界に生まれたのも運命じゃ。こればかりは諦めるしかないの」




「それもそうですね」




 今更地球にいたときの話しをしても仕方がない。
 なら神様が言った通りスッパリと諦めるのが一番だ。
 特に地球に未練もないしね。




「それで一通り説明したわけじゃが、何か質問はあるかの?」




「いえ、特にありません」




「そうかの。それじゃあ、転生させるぞい。元気での」




 神様はそう言うと、再び僕に手をかざした。
 そこから先ほどとは比べものにならないほどの光が溢れ、やがて僕の視界を真っ白に染めた。




◇◆◇◆◇◆




「う、うぅん……」




 真っ白に染まっていた視界に目がくらみ、思わず閉じていた目を開ける。
 するとそこは広大な草原だった。
 そして遠くの方に目を向ければ城壁がある。
 神様はこの世界の文明は地球でいう中世ヨーロッパのようなものだと言っていたので、あの城壁の中はきっと街だろう。
 とりあえずあの街を目指すことにし、一歩を踏み出す。




「ん?」




 するとカサリという音をたてて、足が何かにぶつかった。
 見下ろしてみると、そこには麻袋のバッグが転がっている。
 巾着袋のような形をした大きめのバッグだ。
 それを拾って中を開けてみると、紙とお金、そして一通の手紙が入っていた。
 手紙にはこう書かれている。




『カズト君へ。
 この世界で一般的な魔法の使い方を書いた紙と少しのお金を入れておいた。分からないことが沢山あるだろうけど、がんばりなさい』




「おぉ……ありがとうございます、神様!」




 まさかそんなものをくれるだなんて思ってなかった。
 特にお金。お金を稼ぐ手段は考えていたが、まさか最初から支給してくれるとは!
 これは感謝せねばならない。
 早速お金がいくら入っているのか確認する。




「え、大銅貨一枚だけなの……」




 入っていたのはたったのそれだけだった。
 いや、金貨とかそんな大金を望んでいたわけじゃないけど、まさか大銅貨だけしかくれないのは予想していなかった。
 これではパン一つも買えやしない。
 まあ、ないよりはあった方がましだから文句は言わないけど……なんだか釈然としないな。
 ちなみにこの世界の貨幣は価値が低い順に銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨となっている。
 そしてお金の単位はノア。
 銅貨が一ノアで、硬貨の価値が大きくなるごとに十倍になっていく。


 次に一般的な魔法の使い方が書かれた紙を見る。
 そこには詳しく魔法の使い方が載っていたのだが……。




「全部神様に説明してもらったことじゃん……」




 つい先程魔法について説明されたことがそのまま書かれていただけである。
 まあ、忘れないように気を利かせてくれたんだろうけど……やっぱりなんだか釈然としないな。
 これで支給された物は実質バッグ一つと大銅貨一枚だけだ。
 最先不安だが……なんとかするしかあるまい。


 紙とお金をバッグに入れて、それを担ぐ。




「さて、とりあえずはあの街に行ってみますか」




 先程から遠くに見えている城壁に向かってジョギング程度の速さで走る。 
 なぜ走っているのかといえば、この世界には魔物と言って人間を襲ってくる生物がいるらしいからだ。
 今の僕はそれらから身を守る武器すらも持っていないので、早く安全な街の中に逃げ込まなければならない。
 とは言っても僕の体力はそれほど多くないので、配分を考えてジョギング程度の速さで走っているのだが。


 だがいくら危険があるとはいえ、何も変化のない景色を視界に納めながらずっと走っていると退屈になってくる。




「……暇だ。魔法の練習でもしようかな」




 魔法の使い方は既に神様から教わっている。
 とは言っても神様しか知らないような真理といったものではなく、この世界で一般的に知られていることを教えてもらっただけだ。
 それでもこうして走りながらでも練習することはできるので、早速魔法を使ってみる。




 パチン!




 ボッ!




 指ぱっちんをして魔法を発現させる。
 あれ、イメージしていたより火が小さいな。


 魔法を発現させるにはイメージを具体的に、そして多角的にするのがコツらしい。
 そのために言葉を発してイメージを固めやすくする詠唱というテクニックがある。
 だが火くらいなら料理をするときにコンロを使って嫌という程見たことがあるので、詠唱などせずとも簡単にできると思った。
 結果はできたのだが……思っていたより火が小さい。
 もっと魔力を込めれば大きな火にできるんだろうけど、魔力を込めれば込めるほど、魔法の制御が難しくなるらしいからなあ。
 今の実力じゃあこれ以上魔力を込めるのは危険だろう。
 魔法は、いかに少ない魔力で大きな威力を出せるかが肝心なのだ。


 ちなみに指ぱっちんをしたのは気分である。特に意味はない。
 ただ、強いて言えばこの行動をすれば魔法の発動タイミングを決めやすくなるのでこうしているのだ。
 アニメでいう技名を叫ぶのを指ぱっちんで代用する感じといえば分かるだろうか。


 さて話しは戻って、この炎を出す魔法を同じ量の魔力でいかに威力が大きな魔法にするかだけど……。
 具体的なイメージはこれ以上ないくらい具体的なものだと思う。
 それならば他に多角的なイメージが重要になるのだから、もっと火に関する別のイメージを考えてみようか。


 火といえば、最初に思いつくことは酸素が必要だということだ。
 ならば酸素を多く供給するイメージをしてみよう。


 他にパッと思いつくのは原子の熱運動か。
 原子は基本じっとしているのではなくて動いており、温度が高ければ高いほどその動きは激しくなる。
 逆に言えば原子の動きを加速させて激しくさせてやれば、温度が上がるということだ。
 この二つのイメージを加えてもう一度火を生み出す魔法を使ってみよう。




 パチン!




 ボゥッ!




「うお!?」




 指ぱっちんをしたと同時に目の前に自分の顔程もある巨大な火が生まれた。
 走っている状態で目の前に巨大な火が立ち上がったから、突っ込んでしまうかとヒヤッとしたが、そんなことにはならなかった。
 もしかしたら魔法にも慣性の法則みたいなものが働いているのかもしれない。


 それにしても、さっきとは比べものにならないほどの火を生み出すことに成功したな。

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