魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

5話 高熱圧縮空気弾

 やはりこうなったか。
 ゾンゲは簡単に僕の挑発に乗ったことから、後先を考えないその場の感情で動くタイプの人間なのだろう。
 あらかじめそう分析していたので、近づかずに距離を保って話して正解だったな。




「おおおおおおおおお!」




 裂帛の気合いと共に剣を頭上に振り上げるゾンゲ。
 そんな彼を冷静に視界に捉えながら魔法を放つ。




 パチン!




 今度の魔法はただ単に火を生み出すだけでも圧縮した空気を放つだけのものではない。
 それらを組み合わせた魔法だ。
 とは言っても複雑な魔法ではない。
 生み出した火によって一瞬にして周りの空気を暖め、その空気を圧縮して発射させただけだ。
 するとどうなるか。
 火によって温度が上げられた状態であることから、同じ体積あたりの圧力が上昇する。
 そしてそれをさらに圧縮して内部の圧力を上げ、空気弾を発射させたのだから当然威力が高くなるわけだ。
 つまるところ超高温の圧縮空気弾とでも思ってくれればいい。
 それをゾンゲの顔に発射させた。




「がっ」




 するとゾンゲは顔を後ろに仰け反らし、まるでラリアットを食らったかのように頭から地面に落っこちた。
 そしてピクリとも動かなくなるゾンゲ。
 胸は上下しているから少なくとも死んではいないな。
 なら気絶しているふりか? 
 しかし警戒して普通の圧力空気弾を放つも、動かない。
 どうやら本当に気絶しているようだ。
 今度は思った以上に威力が出たな。
 そして偶然とはいえ理想的な対人魔法が完成した。
 実は今のは次の攻撃の為に、怯ませる程度に放ったつもりだったんだけど……ま、いいか。
 それじゃあ遠慮なく武器を貰っていこう。




「おい! 本当にそれを持っていくのかよ!?」




「てめぇに良心はねぇのか!?」




 ゾンゲが持っていた剣と鞘を回収していると、ギャラリーがまた騒がしくなった。
 どうやらゾンゲの武器を僕が貰うことに反対みたいだ。
 だけどこれは僕らの間で事前にそう取り決められた勝負だ。
 誰の指図も受けるいわれはない。
 それにそもそも僕がこいつらの言うことを聞く理由もない。




「さっきから僕のことを死ねだの消えろだの言っていたやつらが何言ってんのさ」




 僕がギャラリーに向かって睨みながらそう言うと、ヤジを飛ばしていた奴らはさらに激しく反発しだした。
 なんでも魔法士の癖に生意気だ、口答えするな、さっさとギルドを辞めろとのこと。
 さすがの僕もここまで散々に言われると、ストレスが溜まってきた。
 奴らを黙らせるために指を鳴らす。




 パチン!




 ただの圧縮空気弾を奴らの足下の地面に向かって発射させた。
 すると先程まであれだけうるさかった奴らは、途端に水を打ったように静かになった。
 そこでさらに追い打ちをかけるように口を開く。




「まだ文句がある人は出てきて。一人ずつ相手になるよ。ただし僕に負けたらこいつと同じように全財産をいただくことになるけど」




 強気に出てそう言うと、今度こそ反発するものはいなくなった。
 それを確認し、僕は回収した剣とバッグを持ってギルドに戻る。
 そして受付でこの街に来るときに倒した魔物の魔石を売り払う。
 相手は当然先程僕のことを貶してきた受付嬢、ではなくその隣にいる赤髪の受付嬢だ。
 わざわざストレスを与えてくる受付嬢に相手をしてもらう必要はない。




「これはスライムの魔石ですね。大銅貨五枚、50ノアになります」




「ありがとうございます」




「ねえ、あんた。その剣はゾンゲのよね? なんであんたなんかが持ってんのよ」




 目の前の受付嬢から大銅貨五枚を受け取る。
 この人曰く、どうやらあの魔物はスライムというらしい。
 洗濯のりとホウ砂を混ぜて作るあのスライムとはまた別物みたいだ。
 そして魔物の中では最弱の部類に入るのだとか。
 どおりで覚えたての魔法だけでも倒せたわけだ。
 その代わり魔石の買い取り価格は非常に安いものだったが。
 まあ、今はお金にある程度の余裕があるため気にしなくても良いだろう。
 受付嬢に礼を言い、大銅貨を受け取る。
 隣の席にいる受付嬢が何か話しかけてくるが無視だ無視。




「ちょっと無視しないでよ! あんたがなんでゾンゲの剣を持ってるのかって聞いてんのよ!」




「ベラ、やめなさい! あなたがカズトさんに酷いことを言ったのだから、無視されてもおかしくないでしょ!」




「うっ、たしかにニーナの言う通りだけど……」




 すると僕が無視していたベラと呼ばれた受付嬢が目の前のニーナと呼ばれた受付嬢に怒られた。
 ベラはニーナさんの言うことに反論できないのか言葉を詰まらせると、何故かこちらを睨んでくる。
 なぜ僕が睨まれなければならないのか意味がわからん。
 まあ、それも無視するけど。
 すると今度はニーナさんが質問してきた。




「とは言っても私もカズトさんがなぜゾンゲさんの剣を持っているのか気になります。差し支えなければ教えていただけませんか?」




「構いませんよ。これは単にお互いの全財産をかけた勝負で得た戦利品です」




「戦利品、ですか? ということはカズトさんが勝ったのですか!?」




「ええ、そうです」




 ニーナさんには特に嫌なことはされていないため、彼女の質問に答える。
 するとその答えが予想外だったのか、ニーナさんは目を見開いて驚いた顔をした。
 そしてそれはベラも同様だったらしい。
 信じられないといった顔で突っかかってくる。




「嘘よ! ゾンゲはFランク冒険者なのよ!? それなのに魔法士のあんたなんかが勝てるわけないじゃない!」




 そんなことを言われても知らんし。
 というかこっちはほぼノータイムで魔法を放てるのに、魔法を使わなかったゾンゲが勝てるわけないじゃん。
 まあ、ベラの言葉に返すのは嫌なので引き続き無視を決め込むが。


 それから僕はニーナさんにおすすめの宿屋と武器屋を教えてもらい、冒険者ギルドを後にする。
 宿屋を教えてもらった理由は言うまでもなく今晩どこで寝るかを決めるためだ。
 ニーナさんはいくつかの候補をあげて、丁寧にそれらの宿の特徴とおすすめポイントを教えてくれた。
 その中でも僕は防犯設備が充実している《熊の手亭》という宿屋を利用することに決めた。
 そして武器屋を教えてもらった理由だが、それはこの邪魔にしかならないこの剣を売るためだ。
 なんて言ったって、僕は剣なんぞ今まで使ったことはおろか、触れたことすらないからね。
 正直なところ、僕も男なので剣に憧れがない訳ではないが……今はお金を稼いで安定した生活を送れることを目標にする。


 そうして僕はすぐさま武器屋に寄って剣を大銀貨四枚、4000ノアで売り払った。
 これが安いか高いかは知らないが、その武器屋で売っていた他の剣を見る限りでは妥当な値段だと思う。
 それと、武器屋で気になる物も発見した。
 杖や本、指輪といった、魔法士専用の武器だ。
 なんでも魔力制御の手助けをしてくれるらしい。
 魔力制御の手助けをしてくれるなら、魔法にこれまで以上の魔力を込めて威力の大きな魔法を放てるようになる。
 その代わり魔法の発動スピードが遅くなるみたいなので、使う場所を選ぶが。
 試しに一番安い短杖を一本買ってみたので、次に城壁の外に出た時にどんな感じなのか試してみようと思う。

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コメント

  • 鳳 鷹弥

    作品途中迄ですが、読ませていただきました!
    描写が秀逸でわかりやすく
    読みやすかったです。
    これから読み進めさせていただきますね!


    ついでですが良かったら私の作品もお願いします。
    お互い頑張りましょう!

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