あふたーびーと

百合乃 初絆

37話

「誰か、屋上に来ている足音が聞こえる」

「どうしたんですか? 急に……」

「みんな、ベンチの裏に隠れて」

「わ、わかりました……!」


 風は、屋上に続く階段を、誰かが上る足音が聞こえたと3人に知らせた。萌佳は、そんな足音が聞こえていなかったようで、半信半疑であった。だが、風の隠れろという助言に従い、4人で座っていたベンチの裏に隠れることにした。


「やっぱり、屋上は落ち着く……」


 封鎖されていた屋上の鍵を、誰かが開けた。ベンチの僅かな隙間から、開けた人間を覗いて見た。すると、そこには幸樹の姿があった。


「あれって、先生じゃないかな?」

「どうして、こんなところに」

「あ、あの手に持っているものはお弁当じゃないですか……!」

「目的は、どうやらこの私たちと同じみたいね」


 4人は、ベンチの隙間から、幸樹がどのような目的を持って、屋上へ来たのか確認していた。すると、萌佳が幸樹の手に持っているものに気がついた。4人は、幸樹が自分たちと同じ目的であることを確認すると、少しホッとした。


「生徒たちに内緒で、たまにここに来てみているが、やっぱり誰も居なくて寂しいな。だけど、職員室で桃色話に花を咲かせている同期たちを見ているよりは、ずっと気が楽だよ……」


 幸樹は、まだ未婚であった。小中高大と、全て女子校であった幸樹には、他の女性教員たちの恋バナを聞くのが嫌になったようで、個人的に落ち着ける場所である屋上に来たようであった。


「先生、話がリアル過ぎて重いよ! てか、独り言の声量ヤバくないですか!」

「命も十分うるさいよ」

「やはり、独身だと独り言も増えるのでしょうか?」

「あわわわ……!?」


 4人は、幸樹に声が届いていないと思って、ベンチの裏で好き放題言っていた。


「独身で時間もあるし、そろそろ彼女たちに助け舟を出してあげようかな……」


 幸樹は、寂しそうな表情から、少し温もりを感じる表情へと変化した。


「話が変わったみたい!」

「彼女たちに助け舟……?」

「まるで意味がわりません」

「いや、なんとなく察しがついたかも」


 4人の中で、風だけはなんとなくだが、幸樹が指している人物について察しがついた。


「神楽坂さんたち、今頃何をしているのかしら。きっと、期日までに顧問を見つけようと、校内を駆け回っているのでしょうね」

「やっぱり」


 幸樹が、命の苗字を口にすると、風の脳内では、先程の言葉の意味が綺麗に理解できた。


「もしかしたら、先生は私たちの部活の顧問になってくれるのかもしれない」

「嘘!?」

「まだ断定はできないけど、言ってみる価値はありそうだよ」


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