あふたーびーと

百合乃 初絆

13話

「と、とにかく、他の生徒の迷惑になるので、その荷台はこちらで預かります!」

「そんな〜私の彼が先生に取られちゃった〜!」

「か、神楽坂さん!? 誤解を招くような発言はやめてください!」


 幸樹は、早くこの場を立ち去るために、さっさと要件だけを告げた。命は、それに必死に抗ったが、結局、幸樹に荷台を没収されてしまった。


「無慈悲だ〜!」

「ほら、泣かないの。姫嶋さんも居るんだし」


 風は、優しく命の頭を撫でながら言った。


「……お二人とも、これからどうするんですか?」

「そうだね……一旦、各々の教室に戻ろうか。朝礼も始まることだし」

「私の彼……ドラム・カイザー・ウインドウ・マウテン・花山を、このまま見捨てる気!?」

「そう言えば、命のドラムの名前、長かったね」

「そういうことじゃなくて〜!」

「早くしないと、置いてくよ」

「風のドライフラワー!」


 萌佳に、この後どうするか質問された風は、とりあえず教室に戻って、朝礼などを受けることにすると言った。命は、まだ荷台に積まれていたドラムのことを諦めておらず、最後の最後まで抵抗した。だが、風のドライ反応の末、強制的に諦めざるを得ない状況となってしまった。


 〜 〜 〜


 命と風は、教室に戻った。萌佳は隣りのクラスのため、2人は作戦会議が思う存分にできた。


「はぁ〜あとちょっとで着いてたのにな〜」

「しょうがないよ。まさか、目的地の近くで先生とばったり会うなんて思わなかったからね」

「これぞ、思わぬ伏兵が居た! ってやつだね」

「ごめん。何言ってるか分かんないや」

「ガーン」


 命と風は、反省会を開いていた。作戦は途中まで完璧だったが、幸樹の思わぬ登場により、作戦を妨げられたことについて話した。


「昼休み中に、先生のところに頭下げに行かなきゃ」

「諦めればいいのに。どうして、そこまで姫嶋さんにこだわるの?」

「そんなの決まっているよ……私が、姫嶋さんと同じステージで演奏したいと思ったからだよ!」

「うん、知ってた」

「もぉ〜さっきからなんなの〜!」


 風は、命がどれほどの思いを背負って挑戦しているのか、少し鎌をかけてみた。命の言葉には迷いなどは一切なく、ただ純粋な気持ちだけが一途に詰め込まれていることが分かった。


(命のその気持ち、私にも理解できたよ。作戦も、まだまだ達成できてないし、私も最後まで付き合う覚悟だよ)


 風は、命の気持ちを聞くと、少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべた。


「あれ、なんか嬉しいことでもあったの?」

「いや、ちょっと気持ちの整理ができただけ」

「へぇ〜」


 命は、自身の言葉の力について、まだ気がついていない様子であった。


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