エデン・ガーデン ~終わりのない願い~
5
外に飛び出したティエル。拓けた視界の中、真っ先に捉えたのは巨大な竜の姿だった。
四足は巨木のように太く、背には大きな翼がある。
飛竜のような姿でありながら、しかし全身は水竜の特徴である輝く水色の鱗に覆われている。
さらに内から溢れる魔力が水となって鱗の上を包み込んでいた。
「グオオオオオオッッ!!」
空をつんざく咆哮。そして、その激しい叫びを具現化したような水砲が一人の少女に向かって襲いかかった。
「リン!!」
ティエルは思わず彼女に向けてそう叫ぶ。
すると、強力な炎を纏ったリンはティエルの方に見向きもせず、その手に握った大剣を思い切り振り上げた。
剣から炎が吹き出し、襲い来る水砲を飲み込む。
大量の水を突然蒸発させたせいで白い靄が二人を覆い隠した。
「っ!」
その靄は広がるとあっという間にティエルの元まで押し寄せてくる。
思わず両手で顔を庇う。
「うあっ!」
同時にリンの短い悲鳴と地面が崩れるような粉砕音が響いた。
それにティエルは前を向き、視界の全くきかない靄の中を走り出す。
しばらくすると、靄の中に二つの影が浮かび上がった。
しゃがみ込む人の姿と、巨大な竜の姿。
その両者の間に割って入る。
木剣を抜くと同時に丸太のような固く太い前足がティエルに向かって振り下ろされた。
「ぐっ……!」
その足を剣の面を上に向けることで防ぐ。剣を押さえる両腕が軋んで音を立てた。また、かなりの重量がある足はティエルの木剣に大きく罅を入れる。
「た、のむ……っ」
徐々に徐々に罅が広がっていく剣。ティエルは掠れた声でそう祈った。
すると
「はあああああああっ!」
ティエルの後ろから駆けてきたリンが押し潰そうとするフェリカに斬りかかった。
フェリカは翼を羽ばたかせ、少し空に舞ってそれを避ける。そして僅かに下がったところでまた再び地に降りた。
「悪い、遅くなった」
ティエルは木剣を再び構えると、前で敵を見据えるリンにそう言う。
「全くです」
リンは少し拗ねた様子でそう答えた。
そこでもう一度フェリカが動き出す。
「邪魔だああああっ‼」
絶叫。そして、彼女の後ろに複数の魔法陣が展開。そこから次々と巨大な水砲が放たれた。
「走れ、リン!!」
それにティエルはリンの手をとって駆け出す。
二人の居た場所に水砲が直撃する。
そこに立つ木々が轟音を立てながら粉砕した。
一つが当たっただけで、数十本の木がなぎ倒されていく。
あれが体に当たったら、そう思うとティエルは足を止めることは出来なかった。
「っ!」
しかし戦いの疲労が溜まっていたのか、足がもつれてリンが転倒する。
「リン!」
ティエルは咄嗟に庇うように前に飛び出す。
水砲は後ろにある城壁を粉々に粉砕しながら、二人に迫ってきた。
もう逃げ場などない。ティエルは襲いくる水砲を斬るように剣を前に構えた。
「しねええええええ!!」
気が狂ったかのようなフェリカの叫びが響く。
「おおおおおおおおおおおおッッ!!」
それをかき消すようにティエルもまた雄叫びを上げた。
そして木剣と水砲が激突する。
度重なる苦難に耐えてきた剣は、水砲の勢いを僅かに殺した。
しかしその威力に耐えることが出来ず、広がっていた罅をより一層広げると、無残にも散り散りに砕けた。
「っ――!!」
ティエルの目が見開かれる。
木剣が勢いを殺した水砲は、それでもまだティエルをなんなく殺せる勢いで迫ってきた。
死。その言葉が脳裏に過る。それに、ティエルの体が固まってしまった。
そして、水砲がその体を吹き飛ばさんと当たる直前。
胸で揺れていた首飾りが、淡い翡翠色の光を放った。
その瞬間、水砲が目の前で破裂する。
「!?」
突然のことでティエルは目を見開く。
しかし水砲が割れたと同時に聞こえたぱちんっという音がその動揺を全て吹き飛ばした。
まるで外と中を分けるように、ティエルの目の前に透明なガラスのようなものが現れる。
「これはあなたでも破れない最強の結界」
そしてどこかのんびりとした、でもはっきりとした怒りが伝わってくる声がした。
「同時に、あなたを逃がさない巨大な檻」
ティエルの横に、突然真っ白な少女が現れる。
髪も、服も、肌も、透き通るような白色。ただ、力強く輝く瞳だけが、深い空色。
「エ、ヴィ……?」
ティエルが呟くと、少女はにこりと微笑んで見せた。
そして、遥か先で荒く息を吐く竜を見据える
「さあ、フェリカ。そろそろ終わりにするの。あなたの苦しみも、世界の嘆きも」
高らかに宣言した白い少女、エヴィは振り返るとティエルに真剣な眼差しを向けた。
「そのためには、ティエル、手伝ってくれる?」
「……俺に、出来ることなら」
その空色の瞳を見つめ返してティエルは深く頷く。
「ありがとう」
その答えにエヴィは再び微笑んだ。
そして、鈍色に煌めく剣を差し出す。
「それ……」
「大丈夫。これはティエルのための剣だから」
それを受け取ることに躊躇ったティエルにエヴィは優しく言う。
「ティエルが守りたいものを守るために。私からのプレゼント」
その声に促されるように、ティエルは恐る恐る手を伸ばし、エヴィの手から剣を受け取った。
初めて手にしたはずの剣。それはまるで今までずっと使ってきたかのようにティエルの手に馴染んだ。
しかも、ティエルの体を脱力感が襲うこともない。
「魔力を使わない武器……?」
リンが呆然とその様子を見て呟く。
「失われた遺産。かつてはあった技術なの」
エヴィはしゃがみ込むリンに視線を向けると指を鳴らした。
その瞬間、白く淡い光がリンを包み込む。
それらはリンの体に合った擦り傷などを全て消した。
「リンにも手伝ってほしいの」
そうしてエヴィはくるりと回ると数歩前に出る。
「彼女を助けなきゃ」
その声にティエルと、立ち上がったリンは頷いた。
四足は巨木のように太く、背には大きな翼がある。
飛竜のような姿でありながら、しかし全身は水竜の特徴である輝く水色の鱗に覆われている。
さらに内から溢れる魔力が水となって鱗の上を包み込んでいた。
「グオオオオオオッッ!!」
空をつんざく咆哮。そして、その激しい叫びを具現化したような水砲が一人の少女に向かって襲いかかった。
「リン!!」
ティエルは思わず彼女に向けてそう叫ぶ。
すると、強力な炎を纏ったリンはティエルの方に見向きもせず、その手に握った大剣を思い切り振り上げた。
剣から炎が吹き出し、襲い来る水砲を飲み込む。
大量の水を突然蒸発させたせいで白い靄が二人を覆い隠した。
「っ!」
その靄は広がるとあっという間にティエルの元まで押し寄せてくる。
思わず両手で顔を庇う。
「うあっ!」
同時にリンの短い悲鳴と地面が崩れるような粉砕音が響いた。
それにティエルは前を向き、視界の全くきかない靄の中を走り出す。
しばらくすると、靄の中に二つの影が浮かび上がった。
しゃがみ込む人の姿と、巨大な竜の姿。
その両者の間に割って入る。
木剣を抜くと同時に丸太のような固く太い前足がティエルに向かって振り下ろされた。
「ぐっ……!」
その足を剣の面を上に向けることで防ぐ。剣を押さえる両腕が軋んで音を立てた。また、かなりの重量がある足はティエルの木剣に大きく罅を入れる。
「た、のむ……っ」
徐々に徐々に罅が広がっていく剣。ティエルは掠れた声でそう祈った。
すると
「はあああああああっ!」
ティエルの後ろから駆けてきたリンが押し潰そうとするフェリカに斬りかかった。
フェリカは翼を羽ばたかせ、少し空に舞ってそれを避ける。そして僅かに下がったところでまた再び地に降りた。
「悪い、遅くなった」
ティエルは木剣を再び構えると、前で敵を見据えるリンにそう言う。
「全くです」
リンは少し拗ねた様子でそう答えた。
そこでもう一度フェリカが動き出す。
「邪魔だああああっ‼」
絶叫。そして、彼女の後ろに複数の魔法陣が展開。そこから次々と巨大な水砲が放たれた。
「走れ、リン!!」
それにティエルはリンの手をとって駆け出す。
二人の居た場所に水砲が直撃する。
そこに立つ木々が轟音を立てながら粉砕した。
一つが当たっただけで、数十本の木がなぎ倒されていく。
あれが体に当たったら、そう思うとティエルは足を止めることは出来なかった。
「っ!」
しかし戦いの疲労が溜まっていたのか、足がもつれてリンが転倒する。
「リン!」
ティエルは咄嗟に庇うように前に飛び出す。
水砲は後ろにある城壁を粉々に粉砕しながら、二人に迫ってきた。
もう逃げ場などない。ティエルは襲いくる水砲を斬るように剣を前に構えた。
「しねええええええ!!」
気が狂ったかのようなフェリカの叫びが響く。
「おおおおおおおおおおおおッッ!!」
それをかき消すようにティエルもまた雄叫びを上げた。
そして木剣と水砲が激突する。
度重なる苦難に耐えてきた剣は、水砲の勢いを僅かに殺した。
しかしその威力に耐えることが出来ず、広がっていた罅をより一層広げると、無残にも散り散りに砕けた。
「っ――!!」
ティエルの目が見開かれる。
木剣が勢いを殺した水砲は、それでもまだティエルをなんなく殺せる勢いで迫ってきた。
死。その言葉が脳裏に過る。それに、ティエルの体が固まってしまった。
そして、水砲がその体を吹き飛ばさんと当たる直前。
胸で揺れていた首飾りが、淡い翡翠色の光を放った。
その瞬間、水砲が目の前で破裂する。
「!?」
突然のことでティエルは目を見開く。
しかし水砲が割れたと同時に聞こえたぱちんっという音がその動揺を全て吹き飛ばした。
まるで外と中を分けるように、ティエルの目の前に透明なガラスのようなものが現れる。
「これはあなたでも破れない最強の結界」
そしてどこかのんびりとした、でもはっきりとした怒りが伝わってくる声がした。
「同時に、あなたを逃がさない巨大な檻」
ティエルの横に、突然真っ白な少女が現れる。
髪も、服も、肌も、透き通るような白色。ただ、力強く輝く瞳だけが、深い空色。
「エ、ヴィ……?」
ティエルが呟くと、少女はにこりと微笑んで見せた。
そして、遥か先で荒く息を吐く竜を見据える
「さあ、フェリカ。そろそろ終わりにするの。あなたの苦しみも、世界の嘆きも」
高らかに宣言した白い少女、エヴィは振り返るとティエルに真剣な眼差しを向けた。
「そのためには、ティエル、手伝ってくれる?」
「……俺に、出来ることなら」
その空色の瞳を見つめ返してティエルは深く頷く。
「ありがとう」
その答えにエヴィは再び微笑んだ。
そして、鈍色に煌めく剣を差し出す。
「それ……」
「大丈夫。これはティエルのための剣だから」
それを受け取ることに躊躇ったティエルにエヴィは優しく言う。
「ティエルが守りたいものを守るために。私からのプレゼント」
その声に促されるように、ティエルは恐る恐る手を伸ばし、エヴィの手から剣を受け取った。
初めて手にしたはずの剣。それはまるで今までずっと使ってきたかのようにティエルの手に馴染んだ。
しかも、ティエルの体を脱力感が襲うこともない。
「魔力を使わない武器……?」
リンが呆然とその様子を見て呟く。
「失われた遺産。かつてはあった技術なの」
エヴィはしゃがみ込むリンに視線を向けると指を鳴らした。
その瞬間、白く淡い光がリンを包み込む。
それらはリンの体に合った擦り傷などを全て消した。
「リンにも手伝ってほしいの」
そうしてエヴィはくるりと回ると数歩前に出る。
「彼女を助けなきゃ」
その声にティエルと、立ち上がったリンは頷いた。
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