エデン・ガーデン ~終わりのない願い~
3
微笑むフェリカにティエルは息を呑んだ。
いざ血に塗れたその姿を見ても彼女が事件を引き起こしたのだとはにわかに信じがたい。
ティエルが再び口を開くとフェリカは身を翻してとガラスを突き破って外へ飛び出した。
「待て!!」
その後をリンが追う。
二人が外へ消えると、部屋にしんと静寂が下りた。
その中でティエルは呆然と立ち尽くす。
「ー―嘘だろ……。だって、こんなの……」
今すぐに二人を追いかけないといけないのに体が動かず、困惑ばかりが口をつく。
「なんでだ、なんで……、なんで?」
溢れる疑問が解消出来ずに頭を掻き乱す。
そんな混濁した意識を現実に引き戻したのは何かが崩れるような音だった。
驚いて前を向く。
そこでようやく傷だらけのケーイ・A・ヴィオがそれでも懸命に起き上がろうとしている姿が目に入った。
彼女が腕に力を込める度に瓦礫の山が崩れて音を立てる。
「ケーイ……っ!」
それを見た瞬間、今まで考えていた何もかもが吹き飛び、ティエルは駆け出していた。
「ケーイ!!」
力尽きたように倒れ込むその体を抱きかかえる。
「ティエル、さま……」
ケーイは薄く目を開けると途切れ途切れに呟いた。
「ごめん。まもれ、なかった……」
「なんでケーイが謝るんだよ! 謝るのは俺の方だろ……」
その姿にティエルは声を荒げる。しかし、それはすぐに小さくなって消えた。
「……待ってろ、すぐ手当を――」
そうしてケーイを床にゆっくりと下そうとした時、ティエルの服をケーイが掴んだ。
「ケーイ?」
「へい、き……」
「そんなわけないだろ!」
消え入りそうな声で言うケーイにティエルはまた大声を上げた。
「へいき、だよ」
だが、ケーイは静かに応じる。そして、はっきりとティエルの目を見た。
「おいらのことは、大丈夫だから……、フェリカ、様を……」
全身に傷を負った彼女。確かに目立った外傷はない。
けれど苦しげな息遣いからどこかを負傷してるのは間違いなかった。
そんな彼女を放っておく事はできない。
「でも……」
「しん、じて」
ティエルが言い募るとケーイは力なく、だけどしっかりと微笑んで見せた。
ティエルの両の頬に冷たい手が添えられる。
「じぶん、を……」
そして、ケーイはそっとティエルを引き寄せた。
その瞬間、二人の唇が静かに重ねられる。
「!」
ティエルが目を見開く。
やがて、硬直した体に『歌』が響いた。
優しい歌。ティエルは知らない、魔法の歌。
「い、け、ティエル」
歌い切ったケーイは頬から手を離し、それだけ言うと力尽きたように動かなくなった。
「ケーイ……!」
小さな口からは細い息遣いが感じられ、胸が微かに上下している。どうやら気を失っただけのようだ。
いつの間にかティエルの手に翠の石が付いた首飾りが握られている。
「…………っ」
ティエルの体にはまだ歌が響いていた。ケーイの言葉が響いていた。
ティエルはぎゅっと一度だけケーイの体を強く抱く。
そしてその体をゆっくりと床へ下ろすと袖口で涙を拭った。
「行ってくる」
受け取った首飾りを掛けて前を見据えるその目に、もう、迷いはない。
いざ血に塗れたその姿を見ても彼女が事件を引き起こしたのだとはにわかに信じがたい。
ティエルが再び口を開くとフェリカは身を翻してとガラスを突き破って外へ飛び出した。
「待て!!」
その後をリンが追う。
二人が外へ消えると、部屋にしんと静寂が下りた。
その中でティエルは呆然と立ち尽くす。
「ー―嘘だろ……。だって、こんなの……」
今すぐに二人を追いかけないといけないのに体が動かず、困惑ばかりが口をつく。
「なんでだ、なんで……、なんで?」
溢れる疑問が解消出来ずに頭を掻き乱す。
そんな混濁した意識を現実に引き戻したのは何かが崩れるような音だった。
驚いて前を向く。
そこでようやく傷だらけのケーイ・A・ヴィオがそれでも懸命に起き上がろうとしている姿が目に入った。
彼女が腕に力を込める度に瓦礫の山が崩れて音を立てる。
「ケーイ……っ!」
それを見た瞬間、今まで考えていた何もかもが吹き飛び、ティエルは駆け出していた。
「ケーイ!!」
力尽きたように倒れ込むその体を抱きかかえる。
「ティエル、さま……」
ケーイは薄く目を開けると途切れ途切れに呟いた。
「ごめん。まもれ、なかった……」
「なんでケーイが謝るんだよ! 謝るのは俺の方だろ……」
その姿にティエルは声を荒げる。しかし、それはすぐに小さくなって消えた。
「……待ってろ、すぐ手当を――」
そうしてケーイを床にゆっくりと下そうとした時、ティエルの服をケーイが掴んだ。
「ケーイ?」
「へい、き……」
「そんなわけないだろ!」
消え入りそうな声で言うケーイにティエルはまた大声を上げた。
「へいき、だよ」
だが、ケーイは静かに応じる。そして、はっきりとティエルの目を見た。
「おいらのことは、大丈夫だから……、フェリカ、様を……」
全身に傷を負った彼女。確かに目立った外傷はない。
けれど苦しげな息遣いからどこかを負傷してるのは間違いなかった。
そんな彼女を放っておく事はできない。
「でも……」
「しん、じて」
ティエルが言い募るとケーイは力なく、だけどしっかりと微笑んで見せた。
ティエルの両の頬に冷たい手が添えられる。
「じぶん、を……」
そして、ケーイはそっとティエルを引き寄せた。
その瞬間、二人の唇が静かに重ねられる。
「!」
ティエルが目を見開く。
やがて、硬直した体に『歌』が響いた。
優しい歌。ティエルは知らない、魔法の歌。
「い、け、ティエル」
歌い切ったケーイは頬から手を離し、それだけ言うと力尽きたように動かなくなった。
「ケーイ……!」
小さな口からは細い息遣いが感じられ、胸が微かに上下している。どうやら気を失っただけのようだ。
いつの間にかティエルの手に翠の石が付いた首飾りが握られている。
「…………っ」
ティエルの体にはまだ歌が響いていた。ケーイの言葉が響いていた。
ティエルはぎゅっと一度だけケーイの体を強く抱く。
そしてその体をゆっくりと床へ下ろすと袖口で涙を拭った。
「行ってくる」
受け取った首飾りを掛けて前を見据えるその目に、もう、迷いはない。
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