エデン・ガーデン ~終わりのない願い~
3
『エデン・ガーデン』の中央にどっかりと居を構えるセントラル地帯。
あまりに広大すぎて全く調査の進んでいない場所であるが、そこにある竜が棲まうとされる『竜の森』の在処だけははっきりとしていた。
それはこの陸地の半分以上を占める領域のど真ん中。天を貫くように伸びる巨木の根本だ。
そこに向けて、地帯に足を踏み入れた二人は道なき道を歩いていた。
魔物の巣窟であるセントラル地帯で無暗に足音を立てるのは自殺行為に近い。だから出来る限り音を殺して歩を進めている。
その間にティエルはフェリカから聞いた『竜の父』についての説明をそっくりそのままリンに説明した。それを聞いたリンは
「つまり、竜の頭首ととらえれば良いのでしょうか?」
と呟く。
「いや、神って認識らしいぞ。竜の中では」
そこまで言ってふと頭に先日会った竜のことが浮かぶ。
彼が言っていた『我が父』という言葉。それには父親に向ける畏敬の念とはまた別の思いが込められているように感じた。
それが神に対する敬愛の念であるのだとすれば、そう考えるとあの言葉に込められた思いが少しだけわかる気がする。
「神……」
するとリンが不意に神妙な面持ちをした。
「…………」
しばらく二人、無言で足を進めていく。
すると
「止まってください」
声を潜めたリンが険しい顔をしてそう言った。
ティエルも無言で足を止める。
「十。多いです。走りますか?」
「地の利はあっちにある。走ったところで逃げ切れるか……」
いつの間にか二人の周囲に魔物が集まっていた。
きっと群れを成す個体のどれかだろう。縄張りを荒らされて殺気立っているらしい。魔力を持たないティエルにも相当数の魔物がいることがわかった。
「しかし戦っている間にさらに他の魔物が現れるという状況も望ましくありませんよ」
話している内に魔物がじりじりと距離を詰めてくる。
ティエルは腰の木剣の柄を握ると
「なら、他の魔物が集まってくる前にさっさと片付けて走る。殺すなよ」
と言った。
「行動不能にするより、いっそ殺してしまった方が野生の生き物のためであるとは思いますが……」
それにリンは冷めた声で応じる。彼女が柄を握った途端、剣から火花が迸った。
リンの剣、『サラマン』は魔獣サラマンダーの炎で打ったと伝えられる一品で、魔力を用いて炎を顕現させる特性を持つ。その剣と炎属性であるリンとの相性は想像の通り。
「ふっ」
リンはティエルに背を向けると短く息を吐くと剣を一気に鞘から引き抜いた。横に薙がれた剣の軌跡は炎となって森を駆け抜けた。
その炎は木々を燃やすことなく、飛びかかってきた四足歩行の魔物に当たって消失。複数の魔物がぼとりと音を立てて地面に落下した。
「リン」
「殺してはいません」
ティエルが焦った様子で声を上げる。それをリンは素早く遮った。
「そう、か」
ティエルはそれ以上何も言うことが出来なくなる。仕方なく剣を腰から抜いて前に飛び出した。
木陰を抜けると随分と後方に後退る数体の魔物の群れと出会う。突然現れた敵だったろうに、魔物の対応は迅速だった。
動じた様子もなく素早く爪を構えると容赦なくティエルに襲い掛かる。
それを一度真正面から受ける。そして弾き返しながら横合いから飛んできた魔物に一閃。
「キャウッ!」という悲鳴を聞いてから片足を後ろに下げて体を捻り、後ろから飛んできた敵を横に薙いだ剣で撃退。その勢いのままに再度襲い掛かってきた敵の横腹打つ。
その一瞬で三匹の魔物が地に伏した。もともと殺傷能力ゼロの木剣だから死んだということはないだろう。
しかし、三匹の仲間を返り討ちにしたティエルに恐れを成してか、残った魔物がじりじりと後退りを始めた。
ティエルはその様子を眺めながら片手に持った剣を軽く振って見せる。
すると、ただ後退りをするだけだった魔物達は一斉に後ろを向き、そして一目散に走り去って行った。
「ごめんな」
その姿にぽつりと零す。
当然ながら返事が来ることはない。
「ティエル様。お怪我はありませんか?」
ティエルは苦笑いを浮かべながら剣を腰に差し戻す。それと同時にリンが歩み寄ってきた。
「ああ。リンは?」
「問題ありません」
振り返る。言葉の通り、リンは怪我の一つもしていなかった。
「よかった」
それにティエルはほっと笑う。
するとリンは一瞬、何かを堪えるようにぐっと口を閉じた。しかしすぐに表情という表情を全て消し去った無表情になると
「……急ぎましょう。また囲まれたら面倒です」
そう言ってティエルの横を大股で通り過ぎた。
「? 了解?」
それにティエルは首を傾げながら、置いていかれないように小走りでその後ろ姿を追いかけた。
あまりに広大すぎて全く調査の進んでいない場所であるが、そこにある竜が棲まうとされる『竜の森』の在処だけははっきりとしていた。
それはこの陸地の半分以上を占める領域のど真ん中。天を貫くように伸びる巨木の根本だ。
そこに向けて、地帯に足を踏み入れた二人は道なき道を歩いていた。
魔物の巣窟であるセントラル地帯で無暗に足音を立てるのは自殺行為に近い。だから出来る限り音を殺して歩を進めている。
その間にティエルはフェリカから聞いた『竜の父』についての説明をそっくりそのままリンに説明した。それを聞いたリンは
「つまり、竜の頭首ととらえれば良いのでしょうか?」
と呟く。
「いや、神って認識らしいぞ。竜の中では」
そこまで言ってふと頭に先日会った竜のことが浮かぶ。
彼が言っていた『我が父』という言葉。それには父親に向ける畏敬の念とはまた別の思いが込められているように感じた。
それが神に対する敬愛の念であるのだとすれば、そう考えるとあの言葉に込められた思いが少しだけわかる気がする。
「神……」
するとリンが不意に神妙な面持ちをした。
「…………」
しばらく二人、無言で足を進めていく。
すると
「止まってください」
声を潜めたリンが険しい顔をしてそう言った。
ティエルも無言で足を止める。
「十。多いです。走りますか?」
「地の利はあっちにある。走ったところで逃げ切れるか……」
いつの間にか二人の周囲に魔物が集まっていた。
きっと群れを成す個体のどれかだろう。縄張りを荒らされて殺気立っているらしい。魔力を持たないティエルにも相当数の魔物がいることがわかった。
「しかし戦っている間にさらに他の魔物が現れるという状況も望ましくありませんよ」
話している内に魔物がじりじりと距離を詰めてくる。
ティエルは腰の木剣の柄を握ると
「なら、他の魔物が集まってくる前にさっさと片付けて走る。殺すなよ」
と言った。
「行動不能にするより、いっそ殺してしまった方が野生の生き物のためであるとは思いますが……」
それにリンは冷めた声で応じる。彼女が柄を握った途端、剣から火花が迸った。
リンの剣、『サラマン』は魔獣サラマンダーの炎で打ったと伝えられる一品で、魔力を用いて炎を顕現させる特性を持つ。その剣と炎属性であるリンとの相性は想像の通り。
「ふっ」
リンはティエルに背を向けると短く息を吐くと剣を一気に鞘から引き抜いた。横に薙がれた剣の軌跡は炎となって森を駆け抜けた。
その炎は木々を燃やすことなく、飛びかかってきた四足歩行の魔物に当たって消失。複数の魔物がぼとりと音を立てて地面に落下した。
「リン」
「殺してはいません」
ティエルが焦った様子で声を上げる。それをリンは素早く遮った。
「そう、か」
ティエルはそれ以上何も言うことが出来なくなる。仕方なく剣を腰から抜いて前に飛び出した。
木陰を抜けると随分と後方に後退る数体の魔物の群れと出会う。突然現れた敵だったろうに、魔物の対応は迅速だった。
動じた様子もなく素早く爪を構えると容赦なくティエルに襲い掛かる。
それを一度真正面から受ける。そして弾き返しながら横合いから飛んできた魔物に一閃。
「キャウッ!」という悲鳴を聞いてから片足を後ろに下げて体を捻り、後ろから飛んできた敵を横に薙いだ剣で撃退。その勢いのままに再度襲い掛かってきた敵の横腹打つ。
その一瞬で三匹の魔物が地に伏した。もともと殺傷能力ゼロの木剣だから死んだということはないだろう。
しかし、三匹の仲間を返り討ちにしたティエルに恐れを成してか、残った魔物がじりじりと後退りを始めた。
ティエルはその様子を眺めながら片手に持った剣を軽く振って見せる。
すると、ただ後退りをするだけだった魔物達は一斉に後ろを向き、そして一目散に走り去って行った。
「ごめんな」
その姿にぽつりと零す。
当然ながら返事が来ることはない。
「ティエル様。お怪我はありませんか?」
ティエルは苦笑いを浮かべながら剣を腰に差し戻す。それと同時にリンが歩み寄ってきた。
「ああ。リンは?」
「問題ありません」
振り返る。言葉の通り、リンは怪我の一つもしていなかった。
「よかった」
それにティエルはほっと笑う。
するとリンは一瞬、何かを堪えるようにぐっと口を閉じた。しかしすぐに表情という表情を全て消し去った無表情になると
「……急ぎましょう。また囲まれたら面倒です」
そう言ってティエルの横を大股で通り過ぎた。
「? 了解?」
それにティエルは首を傾げながら、置いていかれないように小走りでその後ろ姿を追いかけた。
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