エデン・ガーデン ~終わりのない願い~
2
事態が急変したのはそれから一週間後のことだった。
「トラスト王国の環境部の大臣が錯乱した護衛達によって殺害されました」
リンは複数の兵を率いてそうエデン城に報告しに来たのだ。
リンの服装は普段城に来るときと変わらない鎧姿。赤髪を一つに結い上げ、きりりとした瞳で前を見据えて立っている。
報告を受けるのはリンの前で悠然と佇むアルフェルド・エデンとその両脇に控えて立つティエルとケーイ・A・ヴィオ。
環境部とは氷河期から民を守るための対策をたて、魔物と人の住処を分けるための対策もとる部門だ。その第一責任者が殺害された、というのはトラスト王国にとって少なくない損害だった。
「政の乱れについてはこちらで後任を建てるなどして対応中です」
目の前のアルフェルドにリンが沈痛な面持ちで告げる。
「生き残ったものの証言によると、護衛していた者はまるで何かに操られたように、突然奇声を発しながら大臣に襲い掛かったそうです。その時の目は皆一様に虚ろで、ふらふらと絶え間なくふらついていたようです」
「して、その者達は?」
「大臣を殺害した者は全員、その後に自害しています」
アルフェルドの問いに淡々と答えていくリン。その言葉に場にいる全員が言葉を失くした。
しかし、リンだけは決して口を閉じることなかった。その口からさらなる衝撃を場にもたらす。
「自害、というのには少し語弊がありますね。彼らはお互いを斬り合って死んだんです」
「っ……!」
それにティエルは言葉を詰まらせた。
ケーイとリンがちらりと横目でティエルを見る。
「実は私達が調べたところ、二週間程前から様々な場所で同様の事件が起きているそうです。ただ、全国というわけではなくエデン城の近隣のみに」
リンはすぐに視線を戻すと横に控えていた兵から一枚の紙を受け取り、アルフェルドに差し出した。
「こちらをご覧ください」
受け取ったアルフェルドは紙を開いて目を見開いた。
そして後ろに控えるティエルとケーイに渡す。
その紙は世界地図だった。平面に描き出された世界の中にいくつもの赤いバツが書かれている。それを見たティエルとケーイも目を見開く。
「どうやら、犯行現場は徐々にですがエデン城に近づいているようなのです」
地図上に書かれた赤いバツ。それは場所や位置に法則性があるようには見えないが、それでも確かに、エデン城の方へと着実に近づいてきていた。
「先日、トラスト王国で起きた盗賊の凶行事件。あれは、もしかしたらこの一連の事件の一環だったのではないでしょうか」
そして、今回の事件も。
これで終わるとは思えない。そう言ったリンの言葉をティエルは思い出していた。
ティエルは思わず俯いて、一週間前にあった出来事を思い出す。あれは異常を通りこして不思議だった。何もかもが不思議で、奇妙。
そんなティエルを気に留めた様子もなく
「はっきりとは言えんな」
眉間に深く深く皺を寄せて、アルフェルドは低く唸った。
「その、同様の事件というものがどれほど似通っているのかもわからぬ上に、関係しているという証拠が掴めない以上は貴殿の憶測はやはり憶測の域を出ることはできない」
その言葉を待っていたかのようにリンはまた控えていた兵から新たな紙を受け取る。今度は紙束だった。
「こちらにその二週間の間に起きた事件についてまとめた物をご用意しました。三人分ございますのでそれぞれにお目を通しください」
それを三人で受け取る。紙にびっしりと事件のことが事細かに書かれていた。
「うへえ」
それを半分ぱらぱらと捲ったケーイが情けない声を上げる。
「本日はこれで失礼いたします。また後日、情報交換をしたいと考えておりますので、どうかご助力よろしくお願いいたします」
リンは最後にそう言うと深々と頭を下げ、謁見の間を後にした。
残された三人は重量感のあるその紙束をそれぞれの面持ちで見つめていた。
アルフェルドはまるで敵を睨むように。ティエルはまるで思いつめるように。ケーイは嫌なものを見るように。
「この資料は個々人で目を通すように」
アルフェルドはすでに紙を捲って目を通しながら言う。
「はい」
ティエルとケーイはそれに静かに頷いた。
その答えと同時に、アルフェルドがふと思い出したように顔を上げる。
「こちらでも似たような事件がなかったかどうかを調べろ。もしかしたら、何かあるかもしれん」
何か心当たりがあるのか、アルフェルドは紙から目を逸らさずにそう言った。
「はい」
「お任せを」
それにティエルとケーイは敬礼で答える。
「頼むぞ」
そうして二人は部屋を後にした。
「トラスト王国の環境部の大臣が錯乱した護衛達によって殺害されました」
リンは複数の兵を率いてそうエデン城に報告しに来たのだ。
リンの服装は普段城に来るときと変わらない鎧姿。赤髪を一つに結い上げ、きりりとした瞳で前を見据えて立っている。
報告を受けるのはリンの前で悠然と佇むアルフェルド・エデンとその両脇に控えて立つティエルとケーイ・A・ヴィオ。
環境部とは氷河期から民を守るための対策をたて、魔物と人の住処を分けるための対策もとる部門だ。その第一責任者が殺害された、というのはトラスト王国にとって少なくない損害だった。
「政の乱れについてはこちらで後任を建てるなどして対応中です」
目の前のアルフェルドにリンが沈痛な面持ちで告げる。
「生き残ったものの証言によると、護衛していた者はまるで何かに操られたように、突然奇声を発しながら大臣に襲い掛かったそうです。その時の目は皆一様に虚ろで、ふらふらと絶え間なくふらついていたようです」
「して、その者達は?」
「大臣を殺害した者は全員、その後に自害しています」
アルフェルドの問いに淡々と答えていくリン。その言葉に場にいる全員が言葉を失くした。
しかし、リンだけは決して口を閉じることなかった。その口からさらなる衝撃を場にもたらす。
「自害、というのには少し語弊がありますね。彼らはお互いを斬り合って死んだんです」
「っ……!」
それにティエルは言葉を詰まらせた。
ケーイとリンがちらりと横目でティエルを見る。
「実は私達が調べたところ、二週間程前から様々な場所で同様の事件が起きているそうです。ただ、全国というわけではなくエデン城の近隣のみに」
リンはすぐに視線を戻すと横に控えていた兵から一枚の紙を受け取り、アルフェルドに差し出した。
「こちらをご覧ください」
受け取ったアルフェルドは紙を開いて目を見開いた。
そして後ろに控えるティエルとケーイに渡す。
その紙は世界地図だった。平面に描き出された世界の中にいくつもの赤いバツが書かれている。それを見たティエルとケーイも目を見開く。
「どうやら、犯行現場は徐々にですがエデン城に近づいているようなのです」
地図上に書かれた赤いバツ。それは場所や位置に法則性があるようには見えないが、それでも確かに、エデン城の方へと着実に近づいてきていた。
「先日、トラスト王国で起きた盗賊の凶行事件。あれは、もしかしたらこの一連の事件の一環だったのではないでしょうか」
そして、今回の事件も。
これで終わるとは思えない。そう言ったリンの言葉をティエルは思い出していた。
ティエルは思わず俯いて、一週間前にあった出来事を思い出す。あれは異常を通りこして不思議だった。何もかもが不思議で、奇妙。
そんなティエルを気に留めた様子もなく
「はっきりとは言えんな」
眉間に深く深く皺を寄せて、アルフェルドは低く唸った。
「その、同様の事件というものがどれほど似通っているのかもわからぬ上に、関係しているという証拠が掴めない以上は貴殿の憶測はやはり憶測の域を出ることはできない」
その言葉を待っていたかのようにリンはまた控えていた兵から新たな紙を受け取る。今度は紙束だった。
「こちらにその二週間の間に起きた事件についてまとめた物をご用意しました。三人分ございますのでそれぞれにお目を通しください」
それを三人で受け取る。紙にびっしりと事件のことが事細かに書かれていた。
「うへえ」
それを半分ぱらぱらと捲ったケーイが情けない声を上げる。
「本日はこれで失礼いたします。また後日、情報交換をしたいと考えておりますので、どうかご助力よろしくお願いいたします」
リンは最後にそう言うと深々と頭を下げ、謁見の間を後にした。
残された三人は重量感のあるその紙束をそれぞれの面持ちで見つめていた。
アルフェルドはまるで敵を睨むように。ティエルはまるで思いつめるように。ケーイは嫌なものを見るように。
「この資料は個々人で目を通すように」
アルフェルドはすでに紙を捲って目を通しながら言う。
「はい」
ティエルとケーイはそれに静かに頷いた。
その答えと同時に、アルフェルドがふと思い出したように顔を上げる。
「こちらでも似たような事件がなかったかどうかを調べろ。もしかしたら、何かあるかもしれん」
何か心当たりがあるのか、アルフェルドは紙から目を逸らさずにそう言った。
「はい」
「お任せを」
それにティエルとケーイは敬礼で答える。
「頼むぞ」
そうして二人は部屋を後にした。
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