私の主は魔法使い
7
蛇が不思議そうにその黒い瞳を空へ向けました。
抜けられそうもありませんが、締め付けるかかる力が僅かに弱くなります。
私はむせ返りながら蛇と同じように空を見上げました。
そこに居たのは、あまりにイレギュラーな存在。本来ならばここに居ないはずの生き物、ドラゴンでした。
蛇が舌を伸ばして威嚇のようにシューシューと音をたてます。しかし、それは咆哮に全てかき消されました。
地を這うような猛り狂った咆哮。
遠くからでもはっきりと見てとれる強靭な爪に鋭利な牙。
ドラゴンは急降下してくると、木々を薙ぎ倒しながら私ごと蛇を空高く持ち上げました。
「う……っ!」
衝撃と共に蛇にまた締め付けられます。それは、蛇の最後の抵抗だったのかもしれません。
あまりに一瞬。蛇は断末魔のような叫びをあげながらドラゴンの爪にその肉を切り裂かれ、動かなくなりました。
「っ……」
全身に掛かる蛇の血から顔を逸らします。咄嗟のことで声が出せませんでした。
しばらくして浮遊感に襲われます。ドラゴンが蛇の死骸と一緒に私を下ろしてくれたのです。
蛇の死骸は地に着くと同時に一瞬で黒い炭のように変質し、地面に溶けて消えてなくなりました。
全身に掛かった血すら跡形もなく消えています。
どうやらあの蛇は何者かが作り出した術の一種だったようです。
「大丈夫!?」
「大丈夫ー?」
地に座り込む私にお二人が飛んできてくださいました。
「はい。ありがとうございました、お二人とも」
私はお二人を抱きしめます。
「よ、よか、よか……っ!!」
腕の中でこわがりさんが大号泣しています。心配してくれたのでしょう。宥めるように背を撫でると少しずつ落ち着きを取り戻しました。
私はしばらくこわがりさんの背を指で軽く撫でたり叩いたりして、それから空を見上げました。
夢や幻想などではなく、そこには巨大なドラゴンが居ました。
「あなたは……」
私はそのドラゴンを知っています。
「久しいな、同胞よ」
ドラゴンは私を見定めてはっきりと言いました。
彼はエリネンス。その名に勇敢の意を持つドラゴンです。
彼は私と同じくひかるさんと契約を結んでいます。だからでしょう。私のことを同胞と呼んでくれます。
「どうして……」
「我は少女に聞きたい」
私がそう呟くとエリネンスは遮るように言いました。
「え……?」
咄嗟に反応が出来ず小さく首を傾げます。
「何故、我はここに居る?」
大袈裟かもしれませんが、一瞬、時が止まったような錯覚に襲われました。
それは私が聞きたかったことです。
「何故って、貴方の目的を果たすためでは……?」
「ああ、まさにその通りだ。
では、少女は何故ここに居る?」
意味のわからない応答に混乱しました。私の知る限り、エリネンスは聡明で無意味なことはしません。
しかし、今はよくわからない問答を私に対して投げ掛けています。
理解が出来ていないだけで意味があるのでしょうか。疑問に思いつつも口は動きます。
「このお二人に頼まれたんです。妖精の姫君を助けてくれと。それで、『目覚め草』をこの森の奥に取りに――」
と、そこまで言って私は違和感を憶えました。
それは一瞬で膨れ上がり、やがて無視できない大きさになります。
「……どうして私、ここに居るんでしょう?」
思わずそう呟いて腕の中で黙って話を聞いている二人に視線を向けました。
「どうして、私達はここに居る……いえ、居ることができるんですか?」
妖精達はゆっくりと顔を上げました。
抜けられそうもありませんが、締め付けるかかる力が僅かに弱くなります。
私はむせ返りながら蛇と同じように空を見上げました。
そこに居たのは、あまりにイレギュラーな存在。本来ならばここに居ないはずの生き物、ドラゴンでした。
蛇が舌を伸ばして威嚇のようにシューシューと音をたてます。しかし、それは咆哮に全てかき消されました。
地を這うような猛り狂った咆哮。
遠くからでもはっきりと見てとれる強靭な爪に鋭利な牙。
ドラゴンは急降下してくると、木々を薙ぎ倒しながら私ごと蛇を空高く持ち上げました。
「う……っ!」
衝撃と共に蛇にまた締め付けられます。それは、蛇の最後の抵抗だったのかもしれません。
あまりに一瞬。蛇は断末魔のような叫びをあげながらドラゴンの爪にその肉を切り裂かれ、動かなくなりました。
「っ……」
全身に掛かる蛇の血から顔を逸らします。咄嗟のことで声が出せませんでした。
しばらくして浮遊感に襲われます。ドラゴンが蛇の死骸と一緒に私を下ろしてくれたのです。
蛇の死骸は地に着くと同時に一瞬で黒い炭のように変質し、地面に溶けて消えてなくなりました。
全身に掛かった血すら跡形もなく消えています。
どうやらあの蛇は何者かが作り出した術の一種だったようです。
「大丈夫!?」
「大丈夫ー?」
地に座り込む私にお二人が飛んできてくださいました。
「はい。ありがとうございました、お二人とも」
私はお二人を抱きしめます。
「よ、よか、よか……っ!!」
腕の中でこわがりさんが大号泣しています。心配してくれたのでしょう。宥めるように背を撫でると少しずつ落ち着きを取り戻しました。
私はしばらくこわがりさんの背を指で軽く撫でたり叩いたりして、それから空を見上げました。
夢や幻想などではなく、そこには巨大なドラゴンが居ました。
「あなたは……」
私はそのドラゴンを知っています。
「久しいな、同胞よ」
ドラゴンは私を見定めてはっきりと言いました。
彼はエリネンス。その名に勇敢の意を持つドラゴンです。
彼は私と同じくひかるさんと契約を結んでいます。だからでしょう。私のことを同胞と呼んでくれます。
「どうして……」
「我は少女に聞きたい」
私がそう呟くとエリネンスは遮るように言いました。
「え……?」
咄嗟に反応が出来ず小さく首を傾げます。
「何故、我はここに居る?」
大袈裟かもしれませんが、一瞬、時が止まったような錯覚に襲われました。
それは私が聞きたかったことです。
「何故って、貴方の目的を果たすためでは……?」
「ああ、まさにその通りだ。
では、少女は何故ここに居る?」
意味のわからない応答に混乱しました。私の知る限り、エリネンスは聡明で無意味なことはしません。
しかし、今はよくわからない問答を私に対して投げ掛けています。
理解が出来ていないだけで意味があるのでしょうか。疑問に思いつつも口は動きます。
「このお二人に頼まれたんです。妖精の姫君を助けてくれと。それで、『目覚め草』をこの森の奥に取りに――」
と、そこまで言って私は違和感を憶えました。
それは一瞬で膨れ上がり、やがて無視できない大きさになります。
「……どうして私、ここに居るんでしょう?」
思わずそう呟いて腕の中で黙って話を聞いている二人に視線を向けました。
「どうして、私達はここに居る……いえ、居ることができるんですか?」
妖精達はゆっくりと顔を上げました。
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