笑って、お姫様
7
あの有志団体騒動から二ヶ月。毎日を忙しく過ごしている内に、いつの間にか文化祭一日目になっていた。
わたしは人の居ない道をゆっくりと歩き、ふぅと小さく息を吐いた。
今日は忙しくなるな、と目を伏せる。
「姫―!」
すると、遠くでわたしを呼ぶ声がした。
「……堂抜」
顔を上げて相手の名を呟く。
「はやいね」
走ってきたらしい彼は、肩で息をしながら人懐こそうな笑みを浮かべる。
「生徒会があるから」
「あ、じゃあノセ君も一緒?」
「そう」
堂抜の息が整うのを待って、二人で並んで歩く。あの日以来、堂抜とは親しくしてもらっている。
今思うと何故笑ったのかよくわからないが、何であれ、わたしを笑わせてくれたのだ。堂抜に感謝している。
「なんか、姫、嬉しそうだね」
ふと堂抜が言った。
「そう?」
「うん」
とんとんと前に堂抜が出てくる。
「ほら、笑ってる」
言われて自分の頬に触れてみた。特に何か変わっている様子はない。
「気のせいじゃない?」
わたしはその横を抜けて歩いていく。
「気のせいじゃないよ」
堂抜はすぐに追いついてきた。
そして、突然「えへへっ」と笑い出す。
「今日も楽しい一日が始まるね」
浮き足立っている彼に、わたしは小さく頷いた。
「そうね」
遠くで「二人とも!」と一ノ瀬が呼んでいるのが見えた。
「おはよう」
「おはようノセ君」
「おはよう。朝からラブラブ?」
「違う」
ニヤニヤと笑う顔を睨み、パンチをする。それは当たる直前で避けられた。
「あっぶないわねぇ」
「変なこと言うから」
今もまだ緩んでいるその顔を睨みつける。
「まあまあ」
それを堂抜が間に入って止めた。
「それより、二人は今日、文化祭どうする予定」
そして握り締めた手を一ノ瀬に近付ける。マイクのつもりだろうか。
「あたし? あたしはなんか土下座して頼まれたから後輩達と周るわ。クラスのもやらなきゃいけないし」
「姫は?」と言って、今度はそれがわたしに向けられる。
「わたしはずっと生徒会。でも篠と小笠と城崎君の漫才は見に行くつもり」
そっちは向かずに答えると、堂抜けは明らかに落ち込んだように眉を下げた。
「えー! それはつまんないよ!」
「別に……。去年もそうだったし」
堂抜の声が明るいせいか、自分の声が沈んで聞こえる。
もしかしたら、実際に沈んでいるのかもしれないが。
「あたし達も毎度言ってはいるんだけどね。せっかくの文化祭なんだからもっと楽しみなさいって。さっくんが良ければ、この子と一緒に回ってあげてくれない?」
それに気付いてか、一ノ瀬が言った。顔がにやついているのはなぜだろう。
「それ良いね! 姫、僕と回ってよ!」
一ノ瀬とは違う、邪気のない堂抜の笑顔。
悪意のないその頼みを断れるわけもなく、
「……ぜ、是非」
わたしは短くそう答えた。
「やった! 断られなかったよ、ノセ君!」
「良かったわねー」
そんなこと他愛のないことに反応して横でじゃれあう二人。
「変なの」
わたしは小さく笑みを零した。
「変かな?」
堂抜が首を傾げた。
「うん、変」
わたしが頷くと
「でも、楽しいでしょ?」
一ノ瀬が面白そうに言う。
わたしは一拍置いて
「ええ、そうね」
と言った。
わたしは人の居ない道をゆっくりと歩き、ふぅと小さく息を吐いた。
今日は忙しくなるな、と目を伏せる。
「姫―!」
すると、遠くでわたしを呼ぶ声がした。
「……堂抜」
顔を上げて相手の名を呟く。
「はやいね」
走ってきたらしい彼は、肩で息をしながら人懐こそうな笑みを浮かべる。
「生徒会があるから」
「あ、じゃあノセ君も一緒?」
「そう」
堂抜の息が整うのを待って、二人で並んで歩く。あの日以来、堂抜とは親しくしてもらっている。
今思うと何故笑ったのかよくわからないが、何であれ、わたしを笑わせてくれたのだ。堂抜に感謝している。
「なんか、姫、嬉しそうだね」
ふと堂抜が言った。
「そう?」
「うん」
とんとんと前に堂抜が出てくる。
「ほら、笑ってる」
言われて自分の頬に触れてみた。特に何か変わっている様子はない。
「気のせいじゃない?」
わたしはその横を抜けて歩いていく。
「気のせいじゃないよ」
堂抜はすぐに追いついてきた。
そして、突然「えへへっ」と笑い出す。
「今日も楽しい一日が始まるね」
浮き足立っている彼に、わたしは小さく頷いた。
「そうね」
遠くで「二人とも!」と一ノ瀬が呼んでいるのが見えた。
「おはよう」
「おはようノセ君」
「おはよう。朝からラブラブ?」
「違う」
ニヤニヤと笑う顔を睨み、パンチをする。それは当たる直前で避けられた。
「あっぶないわねぇ」
「変なこと言うから」
今もまだ緩んでいるその顔を睨みつける。
「まあまあ」
それを堂抜が間に入って止めた。
「それより、二人は今日、文化祭どうする予定」
そして握り締めた手を一ノ瀬に近付ける。マイクのつもりだろうか。
「あたし? あたしはなんか土下座して頼まれたから後輩達と周るわ。クラスのもやらなきゃいけないし」
「姫は?」と言って、今度はそれがわたしに向けられる。
「わたしはずっと生徒会。でも篠と小笠と城崎君の漫才は見に行くつもり」
そっちは向かずに答えると、堂抜けは明らかに落ち込んだように眉を下げた。
「えー! それはつまんないよ!」
「別に……。去年もそうだったし」
堂抜の声が明るいせいか、自分の声が沈んで聞こえる。
もしかしたら、実際に沈んでいるのかもしれないが。
「あたし達も毎度言ってはいるんだけどね。せっかくの文化祭なんだからもっと楽しみなさいって。さっくんが良ければ、この子と一緒に回ってあげてくれない?」
それに気付いてか、一ノ瀬が言った。顔がにやついているのはなぜだろう。
「それ良いね! 姫、僕と回ってよ!」
一ノ瀬とは違う、邪気のない堂抜の笑顔。
悪意のないその頼みを断れるわけもなく、
「……ぜ、是非」
わたしは短くそう答えた。
「やった! 断られなかったよ、ノセ君!」
「良かったわねー」
そんなこと他愛のないことに反応して横でじゃれあう二人。
「変なの」
わたしは小さく笑みを零した。
「変かな?」
堂抜が首を傾げた。
「うん、変」
わたしが頷くと
「でも、楽しいでしょ?」
一ノ瀬が面白そうに言う。
わたしは一拍置いて
「ええ、そうね」
と言った。
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