笑って、お姫様

七島さなり

5

 残り十五組はなかなかに見所のある物が多かった。


 インチキを売りにしている曲芸集団。会場から淡い笑いが漏れたので見所ありとして許可をした。


 ちょっと情熱的な演劇集団。演劇部に入ったのは良いものの理想と違って辞めたという人々の集まりらしい。笑いをとるのが難しいと言われるコメディーに挑戦していて、こちらも会場には大人気だった。だから許可をした。


 最終的に前半の一組と後半の四組が合格して文化祭有志団体選抜会は一応の終わりを見せた。


 生徒会役員以外は誰も居なくなった体育館で、わたしは大きく息を吐いた。そして椅子に深く腰掛ける。


 やっと終わった。特に問題もなく、今年もつつがなく文化祭を迎えられそうだ。


 舞台を照らす照明を見ながらそう思う。


 舞台袖から一ノ瀬が出てきてパンパンと手を叩いた。「さ、じゃあ会場の片付けするわよ」


 よく通る声が言う。


 すると上から篠と城崎君が降りてきて、野口ちゃんと道端君がマイクを片付け始めた。


 わたしも何か片付けよう、そう思って玉座から腰を浮かした――そのときだった。


「ちょ、押すな!」


「みんな落ち着いて!」


 突然、小笠と長澤さんの怒鳴り声が響いたのだ。


 舞台にいた全員がそちらに視線を向ける。


 すると


「大変です!」


 と扉の方から福原ちゃんが走りよってきた。


「何、どうしたの?」


「ぼ、暴動です!」


 福原ちゃんの悲鳴に近い声。そして、


「ちょっと……!」


「長澤危ねェ!」


 小笠の一際大きな声が聞こえ、二人の声が止んだ。


 その瞬間、体育館の中に大量の人がなだれ込んだきた。


 全員、見覚えがある。それは先程ご退場いただいた文化祭有志参加希望者達だった。


「何よ、あんた達!」


 舞台に詰め掛ける人々に一ノ瀬が怒鳴った。しかし、彼らは止まらない。


「納得いかねぇ!」「ふざけるな!」「なんでだよ!」「そもそも条件がおかしいだろ!」「そんな堅物笑わせられるか!」


 そんな叫び声が体育館を埋め尽くした。


 必死に押さえ込む生徒会の面々をわたしは眺める。


 なぜこうなる。そんな思いが過ぎった。


 参加者たちが不満を爆発させたのだ。確かに、暴動が起きた。


 わたしが笑わないから、怒っている。面白くなさそうにしているから、怒っている。


 でも仕方ないじゃないか。笑えないのだから。面白いと思えないのだから。


 笑う理由がわからない。笑えないことがおかしいと思えない。


 頭の中が混乱して、もうわけがわからなかった。考えなければ楽なのかもしれない。しかし、わたしの頭は考えるのをやめてくれない。


 必死に彼らが怒っている理由を考える。わたしが笑わないから、面白くないと言うから、以外の理由を。そうすれば解決法がわかると思ったから。


 しかし、理由がわからない。他の理由が思いつかない。


 わたしは動けないまま、必死になって考えていた。


「ちょっと、押さないで!」「何か言え!」「会長逃げてください!」「逃げんな!」


 そんな声が聞こえて不意に体を掴まれた。


 びくっと震える。


 見ると福原ちゃんと小笠がわたしの体を掴んで引きずるように舞台袖に連れて行こうとしていた。


 舞台袖の方には長澤さんも見える。


 二人とも無事だったようだ。


 福原ちゃんと小笠に引かれて袖に引き下がりながら、わたしは舞台にごった返す人びとを見た。


 考えがまとまらない。


 みんなが怒っている。


 わたしが悪いのだろうか。


 わたしはどうすればいいのだろうか。


 どうしたら正解だったんだろうか。


 どうすれば、良かったんだろうか。


 わたしは、わたしは――。

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