笑って、お姫様

七島さなり

3

前にやってきたのは筋肉隆々の三年生四人。確か、今年で廃部になったボディービル部の人達だったはずだ。


 廃部になった理由はご覧の通り、人数がぎりぎり足りずに部活を存続させることが出来なかったから。多分、三年生最後の文化祭を楽しむべく、参加したのだろう。


 横一列に並んだ四人の内、わたしから見て右手側に居る一人が言った。


「僕達は、この筋肉を生かした組体操を文化祭に来てくださった人々に見てもらいたいと思っています!」


 四人が同時に動き出す。


 言葉もなく、一斉に倒立が始まった。支えもなしに四人がまっすぐ止まって微動だにしない姿は圧巻だ。


 鍛え上げられた筋肉もあいまって、見る人によって一種の芸術のように感じられるかもしれない。


 でも、だからどうした。


「……次」


 正直言ってこれを文化祭でやる意味があるのか。答えはノーだろう。頭の中で考え、わたしは小さく言った。


「何まだ始まったばかりじゃないか」


 なんて声には、無視を決め込む。


 会場外に追いやられる彼らから「横暴だ!」という声が聞こえた。わたしはそれも、無視をした。


 横暴でも構わない。わたしは平和な文化祭のためにわたしの仕事を果たすまでだ。


「エントリーナンバー二番!」


 次に現れたのは全員が眼鏡をかけた大人しそうな集団五人だった。文芸部の生徒が何人か見受けられる。


「わ、私達『文章の集い』はみんなで同人誌を作ろうと思っています。これ、去年趣味で作ったものです」


 九冊の雑誌ぐらいの大きさの冊子が渡された。どうやら生徒会全員分あるらしい。


 ぱら、と一ページを捲る。アニメチックな絵が先頭に現れ、その後に文が続いている。


 判断基準である面白い面白くないは置いといて、これは出しても問題なさそうだ。時々、首を傾げたくなる内容のものもあるが。


 ざっくり目を通して冊子を閉じる。その瞬間、数人がびくっと震えたのが見えた。


 本を閉じただけでそこまで怖がられると逆にショックだ。


「『文章の集い』、でしたっけ?」


「ひゃ、ひゃい!」


 そこまで緊張しなくても、というほどにがちがちに固まっている彼ら。なぜが数人の目にはすでに涙が浮かんでいた。


「文化祭の参加を認めます。ただし、作品は著作権に触れないよう全オリジナルに限ります。後、節度のある文を書くようにしてください」


 わたしが言い放つと、五人はまるで石像のように動かなくなってしまった。


「次」


 わたしが言うと同時に一ノ瀬が「さ、ずれて」と促す。五人はまだ呆然とした様子で扉の方へ歩いて行った。


 しかし会場の外に出ていくところで全員が泣き崩れたのが見えた。


 そこまで嬉しかったのだろうか。


 わたしにはよくわからなかった。

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