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僕のお姫様

七島さなり

2.勇気

 一ノ瀬と話し合ったその日。堂抜は凉那と花楓を引き合わせることにした。
 浮ついた気分でいたせいか、一体今日なんの授業をしたのか全く覚えていない。
 気付けば放課後で、しかし手元のノートにはしっかりと内容が記述されている。
 普段からノートだけは真面目にとっておいて良かったとしみじみ感じていると、釈然としない顔の一ノ瀬が近づいてきた。
「なんか全然授業に集中できなかったわ」
 全く同じことを考えていたのだと思うと可笑しくて堂抜は思わず笑ってしまった。
「僕たちまで緊張するよね」
 今日のことは花楓には既に伝えてある。
「もう!?」と驚かれたがこういうことは急ぐに越した事はない。むしろ後になればなるほど行動は起こしにくくなるのだ。それを堂抜は良く知っている。
 凉那は話があるということで一ノ瀬に呼び出して貰っていた。
 時計を見た堂抜ははっとしたように席を立つ。
 下校に影響が出ないように終業後すぐの時間を指定していたので時間はあまり残されていない。
「姫が来る前に急がないと」
 堂抜は鞄を掴むと花楓が良く使う空き教室へと急いだ。
 着いてすぐに引き戸を開けると緊張した面持ちの花楓と目が合う。
 椅子に座っていた体がびくりと震えたのを堂抜は見てしまった。
 彼女は凉那じゃないとわかるとふうと息を漏らして肩を落とした。
「廊下は走らない」
 そしてぴしゃりとそう言い放つ。いついかなる時も風紀委員であろうとする花楓。
 堂抜は一歩中に入るといつもの情けない笑みを浮かべて見せた。
「良かった、思ったより大丈夫そうで」
「……そう見える?」
 不安げに揺れる瞳を見つめ返す。
「うん。もっとこう、思い詰めてるんじゃないかと思ってたから」
「今すぐ逃げたいぐらいには思い詰めてる」
 すると花楓はそっと視線を逸らした。
 よく見ると花楓の体は小刻みに震えている。椅子に座っているのはきっと立っていられなかったからだと遅れて気付いた。
「……宮間さんの思う通りにしたらいいよ」
 堂抜は言外に逃げても良いという思いを込めて言う。そうしないとわかっていたけれど。
「また、そんな甘い事言って」
 すると呆れた声と共に一ノ瀬が姿を現した。一ノ瀬は堂抜と違いゆっくり歩いてきたのだろう。息を荒げた様子もない。
 花楓にも一ノ瀬が来る事は伝えていたが、信じられない物を見るような顔をしていた。
「……一ノ瀬」
「こんにちは、宮間さん。聞いてると思うけど、協力……いいえ、償いをさせてもらいに来たわ」
 一ノ瀬は花楓の方を見ると力なく笑った。
 花楓は怪訝そうに眉を寄せる。
「償い?」
「ええ。あなたに辛い思いをさせた償い」
 真剣な声音に花楓は少し口を噤んだ。
「……別に、私はあんたに苦しめられたとは思ってない」
 しかししばらくすると言葉を探すように、辿々しい口調でそう言う。
「恨んだこともあったし、正直気に入らない部分もあるけど、でも、感謝してる部分もある」
 それからかなり渋々と言った様子で呟いた。
「協力してくれて、ありがとう」
 それに一ノ瀬は瞳を見開く。信じられない物を見るような目だった。
 それに耐えられなかったのか、花楓はついと顔を逸らす。
「い、言っとくけど、私が感謝するのは凉那のことだけだから! 後のことは許してないからね!」
 照れているのか僅かに頬が朱を帯びていた。
 堂抜と一ノ瀬は顔を見合わせるとふっと口端を持ち上げる。
「その調子で頑張ろう、宮間さん!」
 堂抜が声を掛けるとむっとした表情だった花楓は、横目でこちらを見遣ってから「……うん」と小さく頷いた。
「それで、どうするの?」
 そこで緩く腕を組んだ一ノ瀬が堂抜に向けて言う。
「呼び出したは良いけど、その後の事とか何も聞いてないわよ?」
「えっと、本当は僕とノセくんで事情を説明してから二人を引き合わせようかなって思ってたんだけど……」
 言いながら花楓を見る。
 花楓はぎこちない動きで二人の方を見ると、二、三度深呼吸をした。
「私が話すから、二人にはそれを見てて欲しい」
 そして意を決したようにそう告げる。
「……良いの? 聞かれたくないこともあるんじゃない?」
 一ノ瀬は驚いたように花楓を見つめる。堂抜はその話を昼休みの段階で聞いているから驚きはしない。
 だが一ノ瀬の気持ちもよくわかる。
 気遣う言葉に花楓は首を横に振った。
「ここで失敗するより怖いことなんてないから、私がちゃんと出来るように見張ってて」
 真っ直ぐにこちらを見据えてくる瞳。一ノ瀬は少し考えるような素振りを見せてから窺うように堂抜を見た。
「ということだから、そこの教壇の影から見てることにしようかなって」
 堂抜は教壇の方を指さしながら答える。
 一ノ瀬は困ったように眉尻を下げたが二人が譲らないとわかったのだろう。
「わかったわ」
 と静かに頷いた。
 ほっと花楓が息を吐く。
「ありがとう」
 小さく消え入りそうな声に二人は「がんばって」と声を揃えた。
「あ、そろそろ時間……! ノセくん、隠れないと!」
 そして時計を見た堂抜は慌てた声で言うと一ノ瀬の背中を押して隠れ場所まで行く。
 狭い教壇の影に二人が隠れると同時に静かな足音と引き戸の開く音がした。
「……花楓?」
 驚いた声は紛れもなく凉那の物で、花楓がゆっくりと椅子から立ち上がるのが見えた。

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