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僕のお姫様

七島さなり

4.過去

「私と凉那は小学校一年生の頃に知り合って、それからずっと同じクラスだった」


 きっかけは出席番号順で席が前後になった事。


「凉那は昔からあまり話す方じゃなかったから、私が話すのを聞いてるだけだったけどね。それにその時にはまだ他のクラスメイトとも遊んだりしてた」


 だからお互いに友達の中の一人という認識だったらしい。


 それが代わり始めたのは小学校五年生の頃。


「それ位になると、周囲の関係が少し複雑になるでしょ。私はそれに着いて行けなかったの。恋とか愛とかそういうのも……」


 過去に思いを馳せるように花楓は空を仰いだ。今挙げたその二つは複雑な人間関係の最たる物だろう。


 花楓も凉那も色めき立つ女子達に着いて行けず、段々とクラスメイト達と距離を置くようになっていった。


 それだけであればまだ良かっただろう。


 だがことはそれで済まなかった。


「クラスに女子達に褒めそやされてる男子がいたの」


 その男子生徒がある日、凉那に告白をしたのだ。しかも皆の前で放課後に呼び出すという目立つ方法で。


「ああいう噂ってすぐ広まる……。それもあって断るなんてあり得ないって雰囲気があった」


 その口振りだけで良い結果じゃなかったことはわかる。


 凉那は案の定、イエスとは言わなかったのだ。


 曰く「そういうのよくわからないから……」と、そう言ってやんわりと断ったらしい。


 そしてその日から凉那はクラスで孤立するようになった。


 告白をした男子生徒が周囲を扇動するような性格ではなかった事が幸いし、表面的な嫌がらせはなかったらしい。


 けれど誰もが凉那を避けるようなそんな雰囲気はあった。


「凉那は何も間違っていない。なのにそんな目に遭うのが許せなくて……、意地でも離れずに居たら結局二人揃ってはじき者にされた」


 そうしてクラスで浮いた存在になっていた二人。初めの内は花楓が凉那を守っているようなそういう関係だったらしい。


「そうやって二人の学校生活に慣れてきた頃に、私の姉さんの話が出てきた」


「お姉さんって……」


 思わず堂抜は声を上げた。


 二歳上の姉――宮間桜花さくらは花楓とは違う意味で目立つ人だった。


 否、彼女がいたからこそ、花楓はここまで目立っていると言っても差し支えないだろう。


「そう。まあ、今はだいぶ落ち着いたけど……」


 桜花は簡単に言えば問題児だった。


 真偽の程はわからないが、当時同学年だった男子生徒の全員が彼女と男女の関係を持った事があるとか、援助交際をしていたとか、とにかくそういう噂が絶えない人だったのだ。


「小学校六年生に上がってすぐ、姉さんが友達の彼氏を寝取ったとかで話題になったの。姉さんも否定しなかったし……。そこからが酷くて……」


 次から次へと上がる姉の問題行動。それによって周囲の花楓を見る目も変わっていったらしい。


 しかも近所の目から逃れるように共働きだった両親はより一層仕事に励むようになり、花楓は学校と家、双方で行き場を無くしてしまった。


「私の噂が広まると同時に凉那が孤立していた状況はほぼ解消されてた。けど、凉那が離れてしまったら私の傍には誰も居なくなる……。それが怖くて、私は凉那を縛り付けたの。他の人も遠ざけて、誰も凉那に近付けないようにした」


 中学では明確ないじめを受けることもあったという。


 二年生の時には学校に通えない時もあり、保健室登校なども。


「三年生になると受験があるから保健室登校じゃダメだと思って、授業に出るようになった。その頃には私は腫れ物扱いで誰も近付こうとしてなかったし、受験でそれどころじゃなかったから今までの二年間に比べて楽だった」


 そしてなんとか合格し、高校に入学した。


「凉那には頼んで一緒の高校に来て貰った。両親からはあまり遠くないところって言われてて、私の成績で入れる一番偏差値の高いところはここしかなかったら……」


 結果、花楓は姉の呪縛から逃れることができず、そこでも中学時代のような人間関係を築いていた。二人だけの世界で、他を排除するような関係を。


 そこまで聞いて堂抜は合点がいった。


 それを彼が放っておくわけがない。


「それで、入学して一ヶ月ぐらいだったと思う。一ノ瀬が凉那に構うようになって、あっという間に生徒会に引き込んじゃった」


 ――あの究極のお節介いちのせやまとが。


「それからほどなくして私は風紀委員に入って、今」


 ふ、と小さく息を吐いて花楓は堂抜を見た。


「凉那と離れるまで、私はわかってなかったの。凉那を孤立させてたのは私だって」


 その瞳から大粒の涙がいくつも溢れ落ちた。


 自分達の関係性を見つめ直して、花楓は自分を責めていた。離されてから、ずっと。


「…………」


 堂抜は何かを言いかけては口を閉じる。


「ごめん」


  そして意を決して静かにそう囁いた。


「ありがとう。辛い話なのに、教えてくれて」


 その一言に花楓は大きく瞳を見開く。それを隠すように顔を手で覆った。


 声を上げなかったのはせめてもの意地なのだろう。抑える事が出来なかった滴が隙間からしたたり落ちた。


 そうして堪えきれなくなってしゃくりを上げて泣くまでにそう時間は掛からなかった。


 今まで堪えていた分を全て吐き出すように泣いて泣いて泣き続ける。


 その間、堂抜はただ黙っていた。


 どれくらい泣いていただろう。


「こちらこそ、聞いてくれて、ありがとう」


 泣き止んだ花楓の静かな声に堂抜は「ううん」と情けない顔で笑って見せた。


 その手は硬く握り締められている。


 それは絶対に花楓と凉那を仲直りさせたいという確固たる決意の証だった。

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