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僕のお姫様

七島さなり

3.意地

「だ、だって、それで終わらせたら、宮間さんはずっと間違ったままで、本当に一人になっちゃうじゃないか」


 花楓は堂抜もそれで引き下がると思っていたのだろう。思いも寄らない反撃を受けて面を食らっていた。


「そんなのあんたに関係ないでしょ! 大体、私は一人だって構わない!」


 しかしすぐにいつもの調子を取り戻して恫喝の声を上げる。


 堂抜も負けじと声を張った。


「嘘だよ! そんな人が、風紀委員長なんてやって、ずっと“悪い人”を追いかけたりするもんか!」


「……っ!」


 この一週間で堂抜は花楓のある花楓の特徴を見つけていた。


 彼女はいつも周囲に目を配っている。それは端から見れば厳しい風紀委員長が監視の目を光らせているだけに見えるだろう。


 けれどじっと観察しているとわかる。


 彼女は風紀を守っていない人間を見つけると、まず怒るのではなく、最初にほっと(・・・)するのだ。


 まるでそれが良い事であるかのように、心底、安堵した表情を浮かべるのだ。


 気付いた時はその意味が理解出来なかったが、今ならわかる。


「君は必要として欲しくて、風紀を守ってない悪い誰かを追い続けているんだ! そんな人が一人で大丈夫なわけないよ!」


 力の限りそう叫ぶ。


 花楓は顔を真っ赤にして体を震わせていた。


「っ、違う!」


 反射的に返ってきた声に堂抜もまた反射で返す。


「違わない!」


「違う!!」


 そうして散々叫び倒した後、二人は無言で睨み合った。


 交わした言葉は多くない。けれど二人とも必死だったせいか、息が上がっていた。


 やがて力なく椅子に腰を落とした花楓が蚊のなくような声で囁く。


「……どうしろって言うの……」


 それはようやく彼女から発せられた救難信号。堂抜は立ち上がると花楓の前に膝を着いた。


「逃げないこと。まずはそこから始めよう」


 そして諭すように言葉を重ねる。


「それから学んでいけばいいんだよ。これはだめとか、あれは良かったとか。僕らはそうやって前に進んでくんだよ」


 しかし花楓は駄々をこねる子どものように首を横に振った。


「そんなの嘘……! 一度間違えたらもう取り返しがつかない! どうやったって取り戻せない!」


「そんなことないよ。ちゃんと向き合っていけば、やり直せるものだってある」


「嘘! 綺麗事言うなっ!」


 そしてついにはしゃくりを上げて泣き始める。


 結局、後は花楓の心の問題。付き合いの短い堂抜に出来る事はあまり多くはないのだ。


「せめて、さ」


 それでも、どうしても堂抜には言わなければいけない事があった。


 ゆっくりと立ち上がって花楓の肩に手を置く。


 びくりと華奢な体が震えて、泣き腫らした瞳が堂抜を見た。


「姫と仲直りをしよう。僕も手伝うから」


 なるべく怯えさせないように、堂抜はいつもの情けない笑みを浮かべてみせる。


 その笑顔には毒気を抜かれると一ノ瀬はいつも言っていたから。


「……出来る、かな……」


 効果があったのかはわからない。けれど大粒の涙を溜めながら花楓はそう応えてくれた。


「うん、きっと」


 堂抜は笑みを深めて大きく頷く。


 わかり合えないと思っていた花楓のことも、少しだけ知る事が出来た。


 ならば、付き合いの長い友人同士が仲直りをするのだって、そう難しい事ではないはずだ。


「じゃあ、協力、お願い」


 そして顔を俯けた花楓は渋々、といった様子でそう呟く。


「うん!」


 断る理由など、あるはずもなかった。


 満面の笑みで頷く堂抜を見て、花楓もようやく口元を綻ばせた。


「ほんと、変なやつ……」


 そしてそう呟く。どうやらいつもの調子が戻ってきているようだ。


「よく言われる」


 堂抜も軽く笑って答える。


 そうして一度口を閉じるとややあって再び唇を開いた。


「答えたくないなら無理に聞かないけど、二人の間に何があったのか、聞かせて貰ってもいい?」


 そう問いかけると花楓は僅かに眉尻を下げた。


 俯けた瞳が左右に揺れ動き、やがて意を決したように堂抜へと向けられる。


「……別に、私と凉那の間に何かがあったというわけじゃないの」


 そして彼女はそう言ってゆっくりと話し始めた。

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