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僕のお姫様

七島さなり

2.一歩

「……喧嘩の原因は?」


 話が終わったと思ったのだろう。今度は花楓がそう聞いてきた。


「え? えっと……」


 まさか掘り下げられるとは思っていなかったので、堂抜は答えに窮してしまう。


 まして元を辿っていけば原因は花楓と言えなくもない。それを本人に直接告げるのは憚られた。


 なんて伝えようかと普段はあまり考えない頭をフル動員する。


「姫と、僕のこと」


 そうして迷いに迷った末にぽつりとそう零した。


「逃げるなって怒られちゃった」


「……そんなの、あいつにどうこう口出しされることじゃない」


 すると花楓が苦しげにそう呟く。


 つい最近同じようなフレーズを一ノ瀬の口から聞いた。


「ノセくんとおんなじこと言うんだね」


 もしかしたら二人は気が合うのかもしれない。そう思って堂抜は少し笑った。


 花楓はまた苦々しく顔をしかめて黙り込む。


 機嫌を損ねてしまったかと肝を冷やしたが、しばらくしてから彼女は再び静かに口を開いた。


「あんたは、変」


 そして言うと同時に書類にホッチキスを叩きつけて机の上へと放る。


 堂抜はいきなり罵倒された理由がわからず目を瞬かせた。


 花楓はひたすらに手を動かしながら言う。


「この前、科学部に行ってきた。あの瓶の出処はあそこでしょ」


「え」


「調べたらすぐわかった。部長の話も聞いて、あんたがいらないって言ってたことも知ってる」


 花楓はこの一週間の間、あの惚れ薬についての調査を続けていたらしい。そして堂抜の交友関係から科学部に行き着き、部長に接触を果たしたのだという。


 そして話を聞いて惚れ薬はすべて回収したとのことだった。


 落胆した部長の様子がありありと目に浮かんだ。


「そっかー……」


 堂抜は天井を仰ぐと深く息を吐く。遅かれ早かれ隠しきれないことはわかっていた。


 だからそう言われても別段驚く事はない。


 ただ花楓の行動力に感服した。


 そもそもいつそんな暇があったのだろう。一週間の間、花楓はほとんど堂抜の側を離れなかった。


「どうしていらないものを、持っていたの」


 そんな困惑はよそに花楓は問う。そこに責めるような様子はなく、ただ見定めるような気配だけがあった。


「……迷ってたんだ」


 言ってから堂抜はどうして花楓に逆らえなかったのか、そして一ノ瀬の怒りの本当の原因に気づいた。


 それは全て、堂抜の後ろめたさにあったのだろう。


 惚れ薬を姫野凉那に使うつもりなど微塵もなかった。


 けれど使ってしまおうかと、一瞬でも考えた自分に対する罪悪感はずっと胸のどこかにあって。知らず知らずの内に堂抜は凉那を遠ざけようとしていた。


 一ノ瀬はそれに気づいていたのだろう。そうやって目を背けて、凉那から逃げようとしている堂抜に一ノ瀬は怒ったのだ。


「使うつもりは本当になかったよ。でも考えなかったかと言われれば嘘になる」


 正直に打ち明けると花楓は「そう……」と静かな声で呟いた。


「私は、そういう人間を凉那に近づけたくなかった」


 そして険しい表情でそう続ける。


 それ自体は当然のことだ。そんな人間を誰が“大事な友人”に近づけたいと思うというのか。


 そこで堂抜にふと疑問が浮かんだ。


「宮間さんはどうしてそんなに姫のことを……?」


 そもそも二人の間に何があったのかを堂抜はよく知らない。


 知っている情報と言えば、一ノ瀬から簡単に聞いた花楓が凉那を“束縛していた”ということだけ。


「凉那は、私の宝物だった」


「たからもの?」


 花楓の口から出たその言葉に堂抜は二人の歪んだ関係を垣間見た気がした。


「おかしいのはわかってる。でも、それくらいしかなかったの。私が大事に出来るものは」


 花楓はまるで胸の内を吐き出すようにそう言って、やがてこう吐き捨てた。


「大事にする方法も、知らないくせに」


 ばちんと一際大きくホッチキスの針を綴じる音が響く。


「みやま、さん……?」


 堂抜はなんと声を掛ければ良いものかと考えあぐねて彼女を呼んだ。


 すると花楓ははっと我に返ったように瞳を見開いた。大きな瞳が困惑に揺らいで項垂れる。


「もう、いい」


 そして低くそう呟いた。


「え?」


「あんたのことは、もう許す。惚れ薬も回収出来たし、これで解決」


 花楓は乱暴に紙束を集めると立ち上がって堂抜の手からも奪い取る。


「それで、あんたも良いでしょ」


 そしてひどく泣きそうな顔でそう言った。


 堂抜は思わず息を呑む。


 その姿は普段の花楓からは想像が出来ないほど弱々しい。だから、だから余計に、


「……良くは、ないよ」


 そんな彼女を放っておく事など、堂抜には出来ない。


「は?」


 すると花楓は高圧的な態度でこちらを見下ろしてきた。


 そうすることで彼女は自分を守ろうとしている。攻撃的な性格はそうやって出来上がったのだ。


 それに気付いたからと言って恐怖がなくなるわけではない。


 でも堂抜は臆してしまいそうになる心を奮い立たせて花楓と向き直った。

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