どうやら主人公はお節介が過ぎるようだ

ミルクプリン

1章 お告げ

    あー、腹減った。

    ヘリベルト家の若い夫婦が寝付いた頃。寝かしつかされていた俺(0歳児)は目を覚ました。一重に腹が減ったからだ。

    普通の赤ん坊なら泣き散らして親を呼ぶことだろう。そんなこと俺のプライドが許せなかった。【空間魔法】の収納に前世で入れておいた【メガカウのミルク(殺菌済み)】を取り出す。

    学者によればこの牛の乳は人間の母乳をそのまま濃くしたようなものらしい。依頼の報酬でこれでもかってくらい貰ったから時間経過のない空間魔法の中にしまっておいたのだ。

    あまりミルクは好きじゃないから、最初はまさか自分から進んで飲むことになるとは思わなかった。

    部屋の横っちょにある哺乳瓶に魔法で入れて飲む。

    チュプ、チュプ、チュプ。

   程好いほどよいコクとほのかな甘味。スッキリした後味。もっともっとと体が欲しているのがわかる。しかし、飲みづらい。やっと首が据わってきた赤子が一人で飲むのは辛すぎる。

    スケルトンを【召喚魔法】で呼び出して背中をさすってもらって、「ゲプ」はい。終了。

    あ、最初からやらせればよかったのか。ともかく、召喚魔法でスケルトンを送還。

    さて、腹もふくれたことだし面倒なことは早くやるに限る。

【魔法合成】!【夢の囁きドリームウィスプ

   声が出ないから心で呟く。

【夢の囁き】は、寝ている相手の夢に入って伝えたいことを伝える魔法だ。起きてもその夢の内容を忘れない工夫が施されている。ついでに【疲労回復促進】【超疲労回復促進】【疲労回復超促進】【超疲労回復超促進】【魔力回復促進】【超魔力回復促進】【魔力回復超促進】【治癒力上昇】【超治癒力上昇】【治癒力超上昇】【超治癒力超上昇】【継続力上昇】【忍耐上昇】【経験値小上昇】【HP増加促進】【HP増加超促進】【HP超増加促進】【HP超増加超促進】【MP増加促進】【MP増加超促進】【MP超増加促進】【MP超増加超促進】【ステータス成長促進】【ステータス成長超促進】などの術者が解こうとしなければ永遠に解けない永久付与魔法をかけていった(自分にも)。これもいくつかの魔法を合成したものだ。二十万八千くらいMPを使った。

    もうひとつついでに前世で手に入れたアクセサリーを元手になるようにおいておく。何をするにも資本金が必要なんだ。これを売れば道具代くらいにはなるだろう。何せ迷宮産だ。死ぬ前に手に入れたものの一つだった。




ハイネマンの場合

    いつもと変わらない屋敷。カビ臭い部屋。埃が隅に残る廊下。クモの巣の張った天井。軋む床。

    立て付けの悪いドア。を正面にしつつ、負債の書類に目を通す。

何枚も。

    何枚も。

何枚も。

    減らそうとしても、負債の紙が増えていくばかり。妻と子にも逃げられ、紙の山に埋もれてく。逃げても逃げてもついてくる。嫌だ。嫌だ。嫌だー。

    逃げ出した両親や兄の家庭が嘲笑い見下すように見てくる。

    僕は嫌だ。

    一日二食朝と夜だけ。固いパン一枚を半分に分ける。朝から晩まで、こき遣われて壊れていく人生なんだ。

「うわぁーー」

    泣き叫んだ。悔しさを、惨めさを吐き出し当たり散らした。

   喚けわめど叫べどくらいヘドロのなかに足を掴まれて沈んでく。辺りは真っ暗だ。

    ん、なんだ?    急に光が差してくる。温かい。

「汝の才を示す。家族を想うなら心して聞け。」

    光の声は暗闇に浮かぶ僕に囁きかけてくる。

「汝の才は、鍛冶師と鉱夫。解体と短剣の二刀流。そして、斥候と領主だ。人の技をよく見て盗み・・・・・・自らの技として昇華させ、妻子を幸せにしてみせよ。」


    それだけ聞こえると光は消え行き、目が醒めた。藁の上にシーツを被せただけのベットに熱が籠っている。

「朝か…。」

    なぜか、夢の中の声が言った言葉は一字一句覚えている。

「よし。エイナに僕と一緒に来てもらえないか相談しよう。」

    身だしなみを整えて部屋を出た。状況は何も変わってないのに、昨日とは全く別の感情を胸に秘めて。



    エイナの場合

「お母さん。お母さん。」

    子供が私を呼んでいる。狭くてくらいバラック小屋のなかでわたしエイナハイネマンとの間に出来た子だ。顔立ちは食べるものがないせいで痩せこけているが彼を思わせる優しい目をしてる。

    この子は病気を貰ってきてもう歩くこともできない。お金があればお薬を買えるのだけれど私たちにはお金になるものなんて何もない。

    ケホケホ。

    さずがにこの子のことがあるから奴隷にはなれなくて、お金を稼ごうとヤってしまった売春。その人が持っていたのか私も風邪・・を引いてしまった。最近は咳に混じって血が出てくる。私も長くないのね。

    ハイネマンとの生活が懐かしい。

    貧乏貴族と笑われていたあの頃だけれど、それでも、戻れるなら戻りたい。あの人ハイネマンは元気かしら。もう一度あの人の笑顔を見たい。

「お母さん。お母さん。お母さん……。」

    私を呼ぶこの子の声が徐々に弱くなっていく。私は骨と皮ばかりになった手でそっとこの子の頬を撫でる。

「ごめんね。こんなお母さんで。ごめんね。美味しいご飯をいっぱい食べさせてあげれなくて。ごめんね。こんなお母さんでごめんね。」

    私は泣いた。少しずつ冷たくなっていく息子になにもしてやれない自分が悔しくて、情けなくて、悲しくて、辛くて、もっともっと申し訳無いくて、うまく形にできない熱くてドロドロしていてズキズキするそれが私を追いたてる。

    私も冷たくなったこの子の隣で動けなくなった。バラックの天井の一点をぼんやりと見る。

「どこで間違っちゃったのかな。」

    あの時、彼(ハイネマン)をおいて屋敷を出たとこ?    この子を産んだとこ?    彼に恋して嫁いだとこ?    彼と出会ったとこ?    舞踏会に行ったとこ?    ねえ、どこ?

「どこなの?」

    だんだん頭もぼんやりしてきた。少し寝よう。真っ黒い沼に足をと引き摺られるように沈んでいく。暗くて、じめじめしてて、それでいて生ぬるくて、心地いい。

   ああ、このまま沈むのかな。

   ああ、惨めな終わり方だな。

   ああ、この子を幸せにしてあげられなかったな。

    ああ。真っ暗だ。



                  だ れ か た す け て よ



      誰か助けてよ。


    光が差した。花の種くらいの光がだんだん強くなってくる。温かかった。いい匂いがした。暖かくて心地いいおひさまの匂いだ。体にこびりついていた黒いなにかが消えた。

「汝の才を示す。子を想う心があるなら心して聞け。」


    声がした。囁くような中性的な声だった。【子を想う心?】あるに決まってる。私が産んで育て子だ。何よりも大事だし、何にも代えがたい。


「汝の才は、薬師だ。商売を始めるのもいい。自ら見極め自分で薬草を採り調合して売るのだ。護身用に才があるとはいえないが弓を使え。休日には料理を振る舞ってやるのもいいだろう。魔物くらい自分で捌けるようになれ。生き物を使役するのもいいかもな。さあ、幸せな家庭を守り、作り上げろ。」


    光はだんだんと消えていった。

    何だったんだろうか。

    私の意識も薄れてく。今度は穏やかなものだった。

「ん、」

    眩しい。新しい朝が来た。昨日色々あったのになぜか今日は体が軽い。シーツの上に首飾りがおいてあった。金と何かを混ぜて作られたティアラに星屑が如く宝石が散りばめられている。これを売れば元手になるかもしれない。

    頭には夢で言われた言葉が気持ち悪い程にはっきり残っている。

「彼(ハイネマン)と話をしなくちゃね。女の私が働くことを許してくれるかしら。」

    世間体を気にして……とかありそうだけど、今更ね。【ゴブリンの顔洗い】ってやつだわ。

「んー。んんん。」

    あ、ルーヴェルトが起きたわ。早くお乳をあげてご飯の準備をしなくちゃ。初めてだけどうまくできるかしら。新しい一日が始まった。

「あ、ルーヴェルトが笑った気がする。」

いい一日になるといいわね。

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