どうやら主人公はお節介が過ぎるようだ

ミルクプリン

序章-1

    ヒヤリとした冷気が肌を刺す。暗い洞窟の奥底。地底地底、遥か地底。日も射さぬ地下帝国。

    そこに立つ中年の男はため息を漏らす。ここは男が知るなかで一番難易度の高い迷宮。そして、一番ドロップの価値がある迷宮。何でもあると言われた迷宮。その最奥部。しかし、男の望むものはなかった。

    男は絶望した。

    いくら邪神を倒した大賢者と呼ばれた男といえども薬がなければ女一人救えない。男は無力な自分に絶望し、悔しさと情けなさとにその身を心を苛まれた。

    タイムリミットは既に過ぎた。もう男が女にしてやれることはない。

    愛し合った女さえ救えない男。何が賢者だ。邪神を倒したと思ったら手のひらを返すように追い出す。何が救国だ。何が英雄だ。恐れ、罵り、剣を向け、石を投げる。それが恩人に対する態度か。男は怒った。女が死に、そして虚しさだけが残った。

    男は不意にドロップしたものを拾い上げる。男が持つのは一振りの杖。誰がいつどのようにして造り出したのかも分からない杖。

    分かっているのは鉄でできていると言うことだけ。絶対に壊れも曲がりもしない。ヒヤリとした杖の体温が手を伝う。

    この世には魔法がある。男は誰もが認める大賢者である。大賢者は魔法使いと呼ばれる職の最上位と言っても過言ではない職業だ。賢者と付くからには博識でなければならない。

    よって、知識を得る手段が必要になる。鑑定魔法や解析魔法と言った戦闘とは離れた魔法だ。

    男は求めていた物を探すために、魔物を倒しドロップを鑑定し続けた。その癖で鑑定し解析した。

    この杖は【異世界転生の杖】。

    現在の力を引き継いだ上で、魔力を注ぎ込んだ分だけ高位の存在となり得る体に転生する可能性を得るらしい。但し、代償コストとして、使用者は一度死に今まで殺してきた魂の数、蘇生の余地を得る。次に、生け贄として使用者と同種族の者を百以上指定し、指定されたものは自動的に殺される。

「もう いいや。」

    今世では己の無力を恨んだ。高位の魔法を使える?    賢者?    最強?    だからなんだ。何もできなかった。人一人救えない俺なんて無能だ。俺の人生なんて意味がなかった。

    せめて来世では救いたいと思える人を救えるようになろう。意味があったと思える人生を送ろう。

    自分が守ってきたものを犠牲にして次の人生を明るく楽しく生きようじゃないか。

    決意を新たに男は魔力を注ぎ込む。道中手に入れたMPを回復する薬をありったけ使った。なお命を削り魔力に変え込めた。どうせ一度死ぬのだ。どれだけ削ろうが関係がない。

    男の黒いローブが暴風にはためき、痩せ細った体が見える。なぜこれで立っていられるのか。なぜこれで歩けるのか。疑問は甚だ自分でも尽きない。

   幸せになって…デューク

    今になってデュークの助けられなかった女の声が耳に響く。手足は腐り落ち、呪いで痩せ細って尚、男を気遣う女だった。治癒の魔法に優れ、傷付いた人を見れば分け隔てなく力を注いだ。聖女とまで呼ばれた。

    そんな助けられた者達ですら最後は鼻を摘まむように態度を翻した。だから許さない。恩知らずの者共を。死んで詫びるべきだ。

    数刻の後、男の亡骸のみが洞窟の中に残った。

    人族の国では全ての国民が死ぬと言う事件が起こり周辺各国が情報収集に走った。後に【ヒューム災厄】と呼ばれる事件であった。


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