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何も変わっておりません、今も昔も。

斎藤こよみ

王国の騎士団長――01





王国騎士団長、ゼウラ・デラ・ファルマンは王国に所属する一介の騎士だ。
本来であれば、一介のなどと言える身ではないのだが本人はそう在りたいと思っているのは確かだった。


そんなゼウラ・デラ・ファルマンは現在後悔と怒りで身を震わせながら頭を抱えていた。


事の発端は昨日起こったエドワード王子殿下による婚約破棄騒動。
相手は御三家と呼ばれる王国に三つある公爵家の中でも一番歴史ある王家に最も近い血筋、ルヴィンド家に生まれたエリーゼ。


二人が生まれてすぐに結ばれたこの婚約はただの婚約ではなく、王家ひいては王国の行く末を決めるものでもあった。
ルヴィンド家は爵位こそ公爵ではあるが最も王家に近い・・・・・・・血筋であるが故に、エリーゼを娶ることが王位につくために必要なことであったのだ。
当時、第一王子は病弱でベッドから出られないことが多く、侍医による診断では長くはないと言われていた。
それ故に第二王子が誕生した際、エリーゼとの婚約が必然的に決まったのである。


だが、エドワードが王位につくためとも言える婚約が破棄された。
破棄されただけならともかくエドワード王子殿下・・・・は王位継承を握るエリーゼの"魔の森"への追放を決めてしまった。
まだ正式に王太子となっていなかったが、王位継承権に影響が出るのは必至だ。しかもエドワードは王子であり、その発言が及ぼす影響も大きい。


更には婚約破棄を申し渡した場も良くなかった。
国家主催の夜会には他国の要人が招待されていたのだ。
他国の要人たちは国に戻り次第、主に報告するだろう。
『妃になるべく育てられた公爵令嬢を男爵令嬢を虐げたと公的な場・・・・で、明確な証拠・・・・・も無く糾弾し追放した』。
『由緒正しい令嬢と婚約しておきながらたかが・・・男爵令嬢如き・・に籠絡された愚かな王子が王太子になるかもしれない』と。
そんなことになれば貴族たちの勢力バランスが崩れ、内乱になる可能性も低くはないのだ。
しかも第一王子は体が弱く、いつ喪に服すことになってもおかしくない状態にある。
他国へ今回の騒動が伝わった今、エドワードが後継として正式に王太子になった場合下手をすると戦争を仕掛けられてもおかしくない。王国はそんな状況に追いやられていた。
ゼウラは現状を正しく・・・理解していた。
言葉こそエドワードに遮られたがエリーゼは「やっていない・・・・・・」と断言した。
顔は知っていたが、それ以外知らないと。


エドワードの男爵令嬢に対する態度から見るに、エリーゼという婚約者がいながら他の女と近しい距離で平然としていることに問題がある。
故に、例えエリーゼが男爵令嬢を虐げたということが事実であっても何も問題ないのだ・・・・・・・・
むしろ、公爵令嬢の婚約者を誑かしたと噂されるのは男爵令嬢の方だが、それが分からない王子ではなかったはず。


何故……?とゼウラは思案すると同時に、エドワードと一緒になってエリーゼを糾弾していた愚息トーマスへと怒りが湧いてくる。




「トーマス!!どこにいる!!!」


夜会での騒動を耳にしたゼウラは怒りに身を任せて声を上げる。
使用人たちは滅多に見ないゼウラの激怒した姿に右往左往しながらも、ゼウラと一番付き合いの長い執事がトーマスを呼びに足早に向かった。


間もなく、執事に連れられてトーマスがやってきた。
騒動のあと、エドワードらと共に飲み明かしたのかにわかに酒の匂いが漂う。


「こんな朝早くから何だよ」
「貴様ッ、一体何をしたか解っておるのか?!!」
「はぁ?……あぁ、昨日のことを聞いたのか。ふん、あんな女よりアリス嬢がエドワードと結婚して王妃になった方がこの国にゃ良いだろうよ!エドワードだって、」


トーマスがそう言い放った瞬間、強烈な威圧感と殺気によって言葉を吐き出せなくなった。


「…………貴様らうつけ共にエリーゼ嬢の何がわかる……!!あの娘の苦労が……!!」


絞り出すように、湧き上がる怒りを押さえつけてゼウラは耐えながら呟く。


生まれて間もなく実の親に売り飛ばされるように王城へ召し上げられ、物心着いた時から妃教育が始まり、過酷な環境にもただひたすら耐えていたエリーゼ可哀想な娘


厳しい訓練ですら、弱音を吐かず努力を重ねて自分すら認める実力を身につけたエリーゼあの娘の、努力を、勤勉さを!
務めも果たさず遊び歩いていた貴様ら盆暗共にエリーゼの何が分かるというのか!!


「衛兵よ、彼奴を地下へ連れて行け!!お前は暫く謹慎しろ!面会も許さん!!」
「なっ!」


トーマスは反抗するが両脇についた衛兵に押さえつけられ地下へ連れて行かれた。
それを見送ったゼウラは近くにあった椅子に倒れ込むように座ると頭を抱えていると、申し訳なさげに執事が声をかける。


「旦那様、王宮より使者の方が参られて至急登城せよと仰せです」
「……今度はなんだというのだ、めんどうな……」
「心の声が漏れておりますよ、旦那様」


―――王も王だ。エリーゼ嬢にあのような無体な仕打ちを許すなどと愚かにも程ある!
口にすれば不敬罪で死刑確定なことを思いながら、ゼウラは仕方なしとばかりに重い腰を上げた。
執事は気の毒そうにゼウラを見遣りつつ、謁見用の服を取ってくるように近くにいた使用人に指示をして人払いをする。


「旦那様、エリーゼ様のことですが……」
「ああ、全くもって無念としか言えぬ。私がその場におったら叩き斬ってやったものを……」


解ってる、とばかりに返事をしたゼウラ。だが執事は、いえ、と首を横に振る。


「どうしたのだ?」
「あくまでも噂なのですが……」


そう前置きしてから執事は語る。


曰く、王城できな臭い動きがある。
曰く、預言が成された。
曰く、その預言はエリーゼ嬢に関する。


信じられない内容に、ゼウラは急ぎ支度をして邸を飛び出した。
出来る限り馬車を急がせて王城へ向かう。
早く、早くと気ばかりが急いて馬車がやけに遅く感じた。





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