スキルメイカー

にこ

その4 冒険者1

冒険者登録を終えた俺たちは、受付の横にある依頼掲示板で初依頼を決めていた。
「ククル、最初の依頼は何がいいと思うか?」
「そうですね……やはり最初は採取の依頼や街中での依頼がいいでしょう。街やその周辺の地理を覚えるのにもいいですし、住民の方との関係を作ることもできます」
そういって勧めてきたのはぺリル草の採取依頼だった。
「ぺリル草はやけどや擦り傷などの浅いけがに効く塗り薬の原料です。採取場所も王都を出てすぐの森なのでそこまで危険もないでしょう」


と、いうことで俺たちはさっそくギルドを出ると王都を南にまっすぐ進み南門に向かった。
門番さんに冒険者カードを見せるとすんなりと通ることができた。
森まで数十分ほどかかる間に、俺は少し気になることがあったのでククルに近づいた。
「そういえば少し気になってたんだがククルは冒険者に本名で登録してるのか?」
「いえ、王女として外に出るとき以外はククリの名前を使っていますのでカードもククリで登録しましたよ。でも、おそらくですがギルドの方や私と関わっていた方には気づかれていたと思います。今みたいに姿まではごまかせませんから」
「そうか、みんな分かっていながら知らないふりをしていてくれたんだな」
「そうですね、おそらく騎士の方などを通じてお父様は私の行動をある程度監視してはいたでしょうが、今回は見つかることもないですね」
「そうだな……ん? 見つかる?」
「あ、いえ。なんでもないですよ」
そういうと、ククルはこの話を中断させるためか正太に話しかけた。


「ショウタさんは先ほど結界師とおっしゃられていましたね。戦い方は魔法が主体ですか?」
「あ、ううん。僕は魔法が≪結界魔法≫しかないから基本はこの剣かな。最近スキルを手に入れたばかりだからそんなに役に立てないかも」
正太は≪結界魔法≫だけでは役に立てないと、剣術も勇也に教えてもらっていた。
そのため攻撃手段を1つ手に入れたわけだが、やはり≪結界魔法≫のことが気になるようで自嘲的になっていた。
ククリもあまり触れていけない話だと気づいたのか、ワタワタとしていた。
「そ、それよりも僕はどうして竜馬君のお誘いを受けたのか気になるな」
正太自身も空気が重くなったと感じたのか話を変えてきた。


「それはですね、実はリョウマさんから誘われたのではなく私がお願いしたんですよ」
「えっ! そうだったの? それならどうやって竜馬君と出会ったの?」
「私が道を歩いていたら人さらいの人たちに捕まりそうになったんです。それで逃げている最中にリョウマさんとぶつかってしまって……なんやかんやあって助けてもらったんです」
実際は俺を探していたククルにたまたま俺がぶつかってしまっただけなのだが、よくもまあ、そんな作り話がすらすらと出てくるのかとあきれを通り越して感心しているとククルが急に俺の方に振り返ってニコッと笑った。
「そうですよね、リョウマさん」
「あ、ああ。確かそんな感じだったな」
今の返しがあっていたのかは分からないがククルはうんうん、とうなずいた。


即興で話を作り上げたのはすごいとは思うが、さすがにこんな話は信じないだろうと思って正太を見ると、キラキラッという効果音が出てきそうなほど目を輝かしていた。
「そうだったんだ! さすが竜馬君だねっ」
正太から見た俺は正義感があって、しかも人さらいを撃退できるだけの力があるらしい。


その後は正太がククルに、俺が正太を神山達から助けた(大声を出しただけ)話を美化して話していた。
そんな恥ずかしい話は聞きたくないため少し前に出て意識を無にして歩いていること数十分、ようやく森の入り口にたどり着いた。
「ここか」
「はい。ここがヴァターニャの森です。獣王国のある大森林に比べたらそれほど大きくはないですが、王都周辺では一番の森ですね。魔物や動物が多数生息していますが奥にまで入らなければ出会うこともないでしょう」
そういわれても初めて魔物に出会うかもしれないと考えたら少し体に力が入ってしまう。
正太も無意識にか剣に手を置いていた。


……森に入ってから約1時間。回収用に持ってきたかばんにはぺリル草が詰まっていた。
「……本当に何も出なかったな」
「だから言ったじゃないですか。奥に入らなければ出会うこともないって」
「僕、怖くて無駄に周りを警戒しちゃったよ」
この1時間ぺリル草を採取するために入り口から少し入ったところで歩き回っていたが、魔物はおろか動物さえ鳥しか見ていない。
「ショウタさん。周りを警戒することは無駄ではないですよ。この辺りだって絶対に出会わないというわけでもないですし、何よりずっと安全な依頼を受けるわけではないので森の奥や他の魔物が出る地域では常にまらりを注意することは大切です」
確かにククルの言う通りだ。
魔物にも知性はある。大きな音を出しながらやってくる魔物などほとんどいないだろう。
俺と正太は深くうなずいた。


その後俺たちは、王都に入りそのままギルドに向かった。
ぺリル草の採取依頼は10本で100ニール、俺たちはちょうど100本採取したので1000ニールだ。
1000円と考えるとかなり少なく感じるがぺリル草自体どこでも手に入るそうなのでこんなものらしい。ちょうど夕食の時間だったので、ついでに初依頼達成とパーティ結成を祝って少し豪華な夕食にすることにした俺たちは報酬を貰って、そのままギルド2階の酒場に行った。


「それでは、俺たちのパーティ結成と初依頼達成を祝って乾杯!!」
「「乾杯!!」」
この世界では18歳から成人らしいので俺と正太はお酒を飲むことができるが、俺も正太もお酒には興味がなく未成年も1人いるため、全員クチの実という赤くてブドウのような味のジュースを飲んでいる。
料理はどれも肉が中心で男料理って感じのものが多かったが味はとても良かった。


「リョウマさん。今後の予定とかって決めてます?」
食事もあらかた済んだ時、ククルが質問してきた。
「一応はな。とりあえずダンジョンの許可が下りる7級権利だっけ? そこまでは王都で地道に上げようかと思ってる。それが達成したら王都を出て西のダンジョンに向かおうかと考えている」
「西……“霧の迷宮”ですか」
「えっと、“霧の迷宮”って何ですか?」
正太は知らなかったみたいだ。
「王都の周りには初心者ダンジョンと呼ばれる4つのダンジョンがあります。“霧の迷宮”は西の初心者ダンジョン、この4つのダンジョンでは最も難しいダンジョンですね」
“霧の迷宮”、このダンジョンは敵の強さ自体は4つの中で最も弱い。しかし、このダンジョンは1つ他とは大きく違うところがある。
名前である程度予想もできるかもしれないがこのダンジョン全体には霧がかかっている。
しかもこの霧は幻惑を見せるおまけつきだ。熟練の冒険者なら耐性のある装備を着けたり敵自体は弱いため時間をかければ制覇はできるだろう。
しかし多くの新入り冒険者はろくな準備もせずに入ってしまうため、その幻惑にかかり進む方向も戻る方向さえも分からなくなってしまうらしい。


「ククリにはもう見せたけど俺のスキルに幻を見せることができるものがあるんだ。で、そのスキルの所有者は幻術系の完全耐性のおまけつきなんだ」
正太はまだ理解しきれていない感じだが、ククルは理解できたようだ。
「確かにリョウマさんのスキルとはとても相性がいいですね。ですが、それでスト私たちは幻惑にかかってしまいますよ」
「それも考えがある」
実は≪幽幻≫スキルは発動時のみではなく映している間も使用している扱いらしく少し前にレベルが2に上がっていた。そしてレベルが2に上がったことによりできることが増えていたのだ。


≪幽幻≫
この世とあの世をつなげるスキル使用時に精神力を削る
Lv1:対象に幻を映す
Lv2:対象に幻を見せる


説明としては単純だが、これで1つに対してすべての幻を、すべてに対して1つの幻を見せることができるようになった。
これを使えば2人に見える幻惑を現実の景色という幻を見せることができるだろう。
そのことを伝えたが、まだまだ先のことであるし、実際その時になったら、ということになった。
「まぁ、とりあえずはもっと強くならないとな」
「3人で頑張りましょう」
「がんばろ~」


それは、改めて明日からの気合も入ったということで宿屋に戻ろうとした時だった。
席を立って外に出ようとした正太が夕食を食べに来たらしいパーティの1人とぶつかってしまった。
「す、すみません」
「いってぇなぁ、あ? おぉ! 正太じゃねえか!」
正太の体がピクリと震えた。
俺が視線を相手に向けるとそこには神山大吾画立っていた。



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